雪の軌跡   作:玻璃

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この会話はなかなか好きですよ。

では、どうぞ。


レンとリース

次の石碑には、こう書かれていた。

『剣聖の後継者、漆黒を支えし者、太陽を支えし者、鎌もてし少女、赤毛の男、銀の鍵を引き連れよ。』

それを全員に伝えると、エステルとヨシュア、レンはすぐに準備を始めた。

まあ、アガットの扱いがひどいとか言ってはいけない。

「…剣聖の後継者…ていうたら…」

「…私のことのようだな。」

苦虫をかみつぶしたかのような顔でリシャールが言う。

「リシャールさん…」

後継者…

にしては、不甲斐ない気もするが。

「ええっと…この支えし者ってのはもしかしてあたし達のことなのかな?」

「きっとそうやろ。でも、このメンツって…何かヤバい気ぃするわー…」

嫌な予感しかしない。

一体どうしろと。

「まあ、良いじゃねえか。行ってみてからのお楽しみって奴だろ?」

「うふふ、どんな敵さんがいるのかしらね♪」

楽しむな、とは言わない。

「皆さんやる気満々ですやん…」

頭を抱えたケビンのもとに、険しい顔をしたリースがやってきた。

「どうした、リース?」

「今ケビンには用はない。」

「ぐはっ…」

ネギを一撃でノックアウトしたリースは、レンに向きなおった。

「ずっと気になっているのですが…貴女、少し不謹慎ではありませんか…?」

「不謹慎…?」

スッ、と、レンの目が細くなる。

「これまでのやり口から見ても、《影の王》は紛れもなく我々の敵です。人格だけとはいえ、利用されている方々もいるのですよ。この事態を、あたかも子供のままごとのように語るのは少々不謹慎ではありませんか?」

そう、一息にまくし立てて。

だから、落ち着かせるためにもアルシェムは口を挟んだ。

「…シスター・リース。落ち着いたらどー?」

「シエルの言う通りよ。…どうして怒ってるの?」

何かを分析するかのように、レンの目はリースを探っていた。

「…別に、怒っているわけではありません。ただ、彼の者が敵であるという共通認識はあるはずです。アレを肯定するかのような発言は認めるわけには…」

「シスター・リース・アルジェント。」

全てを言い終わる前に、アルシェムはリースを止めた。

落ち着いてもらわなければならなかった。

「…はい。」

「八つ当たりはやめたら?今のあんたはイラつきをレンで解消してるように見える。」

レンを侮辱させたくない。

それが、アルシェムの感情だから。

「ですが、s…」

「シスター・リースッ!」

言わせてはならない。

例え何人かにばれていたとしても、言わせるわけにはいかない。

「…済みません。ですが、これは遊びではないとこの子に言い聞かせておかなくてはいけないと思ったのです。いくら天才だからとはいえ、万事が思い通りに行くことなどありえないのですから。」

「はいはい、落ち着いて、皆。」

エステルが、水を差す。

それのどれだけありがたいことか。

「その辺でやめときなさいよね。まずアル。もう少しオブラートに包みなさいよ。」

「分かってるんだけどねー…」

「口答えしないの。」

アルシェムからレンに向きなおり、エステルがレンを諭す。

「レンも。リースさんたちにもいろいろ事情があるんだからあんまり煽らないの。」

「むー…」

「むー、じゃないの。」

そして、最後にリースに向き直って、言った。

「リースさんもよ。天才っていうけど、レンだってあくまで普通の女の子なんだからね?」

「…え…」

レンが、どこが普通なの?という顔をしてエステルを凝視している。

「仰っている意味がよく分かりませんが。」

リースも同様だ。

だから、その目がアルシェムには嫌だった。

「あのね、リースさん。確かにレンはあたしより遥かに頭良いし、とんでもないけど…だからと言って、普通の女の子なのは変わりないと思うの。」

だから、エステルの目線が羨ましかった。

何も知らないで、語れるのだから。

「わがままな気分屋で、ませてて、こまっしゃくれてて、何でも面白がる癖があって…でもね、そんな面だけじゃない。」

アルシェムは、レンがどうやって生きて来たかエステルよりも知っている。

到底、普通だとは言えない。

「意外と面倒見がいいし、他人を気遣うことだって出来るのよ。…ね、日曜学校に通ってるごく普通の女の子だと思わない?」

だけど、アルシェムはそれをレンには言わない。

それは、レンの闇を肯定してしまうことになるから。

「エステル…」

「だからね、レンは特別なんだって頭から決めつけないでほしいの。レンは普通の子供だって考えて、それでも文句があるようには見えなかったから。」

「…そう、ですね…確かに、一方的な見方をしていたのかもしれません…ごめんなさい、レンさん。」

レンの闇は、肯定してしまってはいけないから。

否定してしまっても、いけないから。

…だから。

「あら…お姉さん、意外と素直なのね。でも、まだレンに色々と言いたいことがあるみたいだけど。」

「それは当然です。道理を知らない子供を諭すのは年長者の役割ですからね。」

レンの闇を、受け入れる。

まるごと、全部。

「あ、それはあたしも同感。こんな状況なんだし、レンの保護者はあたし達なんだから。」

「ふ、ふん…勝手に言ってれば良いわ。…ところでエステル。レンのこと、どう思おうが勝手だけど…1つだけ訂正させて貰うわ。」

「…へ?」

そして、レンは爆弾発言をぶちかました。

 

「レンは教わる方じゃなくて教える側よ。だって、博士号を3つも持っているんだもの。」

 

その発言に、慄く一同。

「え…」

「な…」

「あ、やっぱり?分野はやっぱり化学に情報理論に数学?」

まあ、レンならやりかねない。

「正解よ。定期的に論文だって発表してるんだから!…まあ、面倒だから代理人を立ててるけど。」

「いや、きっとこれだろうなってのに心当たりがあって…」

「流石はシエルね。」

いや、半分ヤマ勘ですけども。

呆れ顔のリースを置いて、一行は探索に出かけた。




複雑な事情だけど、それをあえて軽く語ってるんですよ、この時点では。
重い話なんて聞きたくないだろうから。

では、また。

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