雪の軌跡 作:玻璃
では、どうぞ。
シエルは、執行者として珍しい任務に就いていた。
カイエン公邸の仮面舞踏会の護衛だ。
しかも、出来るだけ苦戦しているように見せかけて欲しいと言われた。
何故護衛なのかは甚だ謎だが、取り敢えず貴族に招かれた良家の子女として潜入していた。
武器類は没収されるのだが、護衛として紛れるために片手剣をこっそり持ち込んでいた。
「やあ、可愛らしい御嬢さん。ボクと一曲踊ってくれるかい?」
「初めまして、見知らぬ方。こんなオチビで良ければ喜んで。」
金髪の貴公子然とした男に話しかけられた。
曲が丁度始まったので頑張って合わせてみる。
出来ないことはなかったが、かなり神経を使った。
流石に足を踏むわけにもいかないし…
「流れるように波打つ銀髪に、冷たく煌めく蒼穹の…まるで澄みきった空のような瞳。可愛らしい君がそんな事を言ってはいけないよ。」
…背筋がぞくっとした。
誰だこいつ。
色んな意味で危ない奴だ。
「ボクの事は是非お兄ちゃんと…」
「呼びません。調子に乗らないでいただけます?」
にしても、この顔…
どこかで見たことあるような…
「おや、ボクの顔に何かついているかな?」
「勿論仮面が付いてますが。」
というか、仮面を着けてなければ仮面舞踏会じゃないだろう。
「激しいツッコミだね…でもそんなところも」
「…足を踏まれるのと平手打ちされるの、どちらがお好みですか?」
「シクシク…」
こいつ、幾つだ…
脱力した瞬間、外にいるはずの警備の気配が消えた。
「…!」
「?どうしたんだい?」
「いえ、何だか…嫌な予感がして。」
どうしよう。
こいつを撒けるだろうか…?
いや、無理な気がする。
どうする…
「それはいけないな。きっと君もお忍びで来てるんだろう?」
「ええ。そのようなものですわ。あなたも…?」
お忍び。
金髪。
それに、仮面の隙間から見えるこの顔…
まさか。
「ああ。ここだけの話だが、ボクは皇族なんだ。」
「ふふ、おかしな方ね。」
アルノールの…
だが、こんな愉快な性格をした皇族がいるという情報は聞いていない。
なら、庶子とか…?
そこで、考え事は中断された。
いきなりホールの扉がぶち破られ、銃を持った10人の男達が乱入してきたからだ。
悲鳴と共に逃げ出す招待客達。
それに紛れてその愉快な男からわざと離れた。
「む…余興が始まったかな。」
行かなければ。
抜け道からホールを脱出し、髪を纏めて動きやすい服に着替えて仮面を変える。
出来れば目立つのは避けたいけど、護衛なのだからしっかり守らなければならない。
「動くなァ!」
「いや、この状況で動かねー奴はいねーと思うんだよね。」
喧騒の中で、シエルはそう嘯いた。
「何だお前は!」
何だって、ねえ?
「何だと思う?①不審者、②護衛、③どちらでもない。10秒以内に答えてね。はいじゅー、きゅー、はーち、なーな…」
「ふざけるなよガキが!」
銃をこちらに向けて乱射して来るが、狙いが悪い。
当たる訳がない。
「いーち、はい、時間切れー。残念。正解は①でしたー。」
そのふざけた言葉と共に片手剣を抜く。
「武器、捨てよーか?」
「どこまで我らを虚仮にすれば気が済むのだ!」
この辺りで招待客は徐々に逃げ始めていた。
気付かれないように。
「はい、どーん。」
一気に間を詰めて敵を吹き飛ばす。
「な…!」
「もいっちょ、どーん。」
言葉とは裏腹に、2人吹き飛ばす。
敵もそろそろ慣れて来たのか、徐々に体を起こす。
「く…殺せ!」
「やなこった。殺されてたまるか。」
今度は無言で4人吹き飛ばした。
だが、倒れたのは5人だった。
「…誰かな?お楽しみを邪魔してくれちゃったのは。」
返事はない。
その代わり、黒髪の青年が剣を携えてこちらに歩いてきた。
「や、不審者さんでーす。あっちの人達の方が危険だから先に倒したほーがいーんじゃねーかな?」
流石に、この状況で三つ巴は避けたい。
「…邪魔をするものはすべて排除する。だが…招待客が逃げる時間稼ぎはしてくれたようだな。それだけは感謝する。」
「んじゃ、危ねー人達を排除しましょーか。」
そこから先は、一方的だった。
黒髪の青年がかなり強かったというのもあるが…
正直言って、執行者候補にすらなれないような奴らの集まりだったので敵が弱かったのだ。
「…終わったか。」
「そーね。」
「…次はお前だ。」
だが、その青年は動き始められなかった。
「ちょっと待ってくれるかい?ミュラー。」
「…オリビエ…お前という奴は…仮面の意味が分かってないのか?」
ミュラーにオリビエか…
さっきの金髪がオリビエで黒髪がミュラーのようだ。
まあ確かに仮面の意味はない。
「いやん、ミュラーったら。こんな仮面ごときでボクの麗しさが隠れるわけがないだろう?」
「黙れ。」
「コントはいーから。何で止めんの?不審者はいっそーしたほーがいーんじゃねーの?」
正直、聞いてる方が疲れる。
「なに、キミは誰に雇われたのか教えて欲しいと思ってね。」
「上からの指示で動いてるだけだから、誰が雇い主とか知らねーよ。アルノールのご子息殿?」
揶揄するように言えば、ミュラーが殺気を迸らせた。
つまりは、正解ということだろう。
「…オリビエ、斬るぞ。」
「待ちたまえ、ミュラー。ここで人死にを出すわけにはいかない。」
あら、お優しいことで。
「誰かに言うつもりはねーよ。…ああ、そうそう。エレボニアの皇族なんだし知っといたほーが良い事…教えてあげよーか?」
「ほう、何だい?」
「…《ハーメル》。」
途端に、2人の顔が怪訝そうなものに変わる。
その隙にその場から逃げだした。
…知らないのか。
エレボニアの皇族ともあろうものが。
ハーメルであったことを知らないのか…っ!?
混乱しながら、シエルは帰投した。
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映像が終わった後、オリヴァルトはゆっくりとこう告げた。
「…成程ね。やはりキミがあの時の子だったわけだ。」
「…分かってたくせにゆーの?」
「いや、方々に手を尽くして探したのだがねえ…」
探すな気持ち悪い。
そう思いながら、睨みつける。
「さて、神父殿も待ちぼうけているだろう。さっさと帰るぞ。」
「ハイ。」
そして、ケビンと合流したのちに拠点へと帰りついた。
という出会い方をしていたので、FCではあんな毒舌だったわけです。
では、また。