雪の軌跡 作:玻璃
では、どうぞ。
【七耀暦1198年、カルバード共和国、アルタイル市】
シエルは、あれから色々と情報を集めてあの地獄の場所を割り出した。
シエルがいた、あの地獄を。
そして、今そこまで来ている。
「…何で…今更。」
そこには、三人の男がいた。
シエルは、某変態仮面張りの仮面で顔を隠して彼らに近づいた。
「…ここに、入るの?」
背後から声を掛ければ…
「誰だっ!?」
驚いたような顔で、長髪の男が振り返った。
「静かにしなよ。バレる。…人に正体を聞くときは、自分から明かすのがれーぎじゃねーの?」
それを聞いて、馬鹿正直に答えるとはシエルは思っていなかった。
「済まねえな。俺はガイ・バニングス。クロスベル警察の刑事だ。」
…思っていなかった。
まさか、ここまで間抜けだとは。
「ガイっ!」
「良いじゃねえか、アリオス。今の所は敵対しようとしてるわけでもなさそうだし。てーか、どう見ても子供だろ?」
…舐められている?
そう、思ったのもつかの間。
「…アリオス・マクレインだ。」
「俺はセルゲイ・ロウだ。…お前さんは?」
何故か名乗られてしまった。
なので、シエルも名乗りかえすことにした。
「…《銀の吹雪》。」
3人の顔に驚愕が走る。
「まさか、それが名前とか言うんじゃねえだろうな?」
だが、求めていた答えとは全く違った。
「そのよーなもの。…それとも、ⅩⅥとでも名乗って欲しかった?」
「いや、呼びにくいじゃねえか。」
…こいつの脳みそは死んでいるんだろうか。
一瞬、そんな考えが脳裏によぎる。
これだけヒントを与えているのに、まだシエルの正体が分かっていない。
「そーゆー問題?…まあ、いっか。…エルって呼んで。特別サービスよ?」
「オーケー、エル。こんな所に何をしに来たんだ?」
一歩も引かないガイは、誇り高い狼のようだった。
「…この中にね、友達がいるの。もう生きてないかも知れない。もう、原形さえもとどめてないのかも知れない。それでも…探したい。そう、わたしは、探しに来たの…」
途端に、ガイの顔が引き締まる。
「何でそんなこと知ってんだ?」
それを知っているのは、限られた人間だけ。
「何故?…言うつもりはないよ。けど、おもしれーあんたに免じて一つだけ。…ここに入るのなら、地獄を見る覚悟はあるかどうか、もう一度確認した方が良い。…わたしは行く。」
シエルはその中に…
アルタイル・ロッジの中に侵入した。
次々と襲いかかってくる魔物を槍を使って一掃していく。
「おい、待てよ!」
どうやら、ガイ達も来たようだ。
ガイはトンファーを振り回しながら。
アリオスは刀を操りながら。
セルゲイは、ショットガンを撃ちながら…
「へえ、八葉一刀流か…」
「…何故知っている。」
アリオスの警戒が一瞬だけシエルに向いた。
だから、シエルは教えてやった。
「確かリベールの凄い遊撃士が昔八葉一刀流の使い手だったらしーってのはきーたことがある。」
アリオスは顔を顰めて言った。
「カシウスさんはもう、刀を使わない。」
「ふーん。カシウスさん、ね…」
カシウス・ブライト。
凄腕の遊撃士。
「どうして…もっと早くに動けなかったんだろう。」
「何だと?」
少なくとも、あの時にはもう動き始めていた。
なのに。
なのに、今更。
「…《剣聖》がいる。《不動》がいる。《隻眼》だっている…なのに、どうして…」
どうして、今なのだろうか。
そんなことを考えるシエルに、ガイが独り言を呟いた。
「どっかから情報が洩れてんのか…?」
「いーや、わたしが動かした。《紅毛》だって、《飛燕紅児》だって、動かすつもりでいた。…本当に必要なら、《紅耀石》だって、《千の腕》だって動かすつもりだった。でも…動けなかった。」
セルゲイが煙草を咥えつつ呟く。
「…弱みを握られてた、か。」
そうでなければ、動けたはずだろう。
「それにしたって、よくあそこまで集めたな…」
集めなければ、教団を壊滅させることなど出来ない。
だけど、教会すら動けないなんて…
「お、おい、ちょっとペース落とせよ。」
シエルのペースは、かなり早かった。
瞬く間に半分ほどを制圧するほどに。
「…どこに待つひつよーがあるっての?やっとここまでこれたんだから…今日、ここは壊滅させる。わたしは、そのつもりでここに来た。早くしないと…手遅れになる。」
「何が手遅れになるってんだ!」
こいつは…
まだ、分かっていないのか。
どこまで重要なのか、まだ。
「馬鹿。
「…っ!そんな事が赦されて良いのか!」
義憤に駆られたガイが叫ぶが、そんなものは今は必要ない。
必要だったのは、もっと昔なのだから。
「実際にあるんだから仕方ないじゃねーの。…だから、壊滅させるんじゃねーの。」
寄ってくる魔物を殺す。
思わずガイも戦うが、その顔は冴えないままだ。
「ま、待て…この魔物達が子供達なんてことは…」
決然としていた表情は、既に揺らいでいる。
だから、答えをくれてやった。
「ないよ。ここは…感応力を上げる実験しかしてないから。それに、もし子供達なら戻す術はないよ。」
何故知っている、など言わせない。
話しながらどんどん奥へと進む。
「酷すぎる…こんな…」
「…っ!…あ…」
その場にうずくまる。
未だに慣れない、感情のナイフ。
脳みそを引っ掻き回すように、脳内で悲鳴が響き渡る。
知らず、シエルは蹲っていた。
「おい、どうした!?」
…今、断末魔が聞こえた。
感じられる気配は…
あと、1つ。
だから、頭を押さえながらシエルは駆けた。
「はあ…っ…お願い…生きてて…」
「どこに行く!」
自らの直感を信じて。
感じる。
この先に…
1人、いる。
急がないと…
急がないと、死んでしまう。
「生きててよ…お願い…!」
そして。
そこに、彼女はいた。
「生き…てる…」
ぺたり、とシエルはへたり込んだ。
「お、おい…」
「大丈夫か!?しっかりしろ、助けに来たぞ!」
そこに、水色の髪の少女がいた。
ずっとずっと求めていた、友達が。
偶然なんて信じない。
だけど、今だけは信じても良いと思った。
「…ぁ…」
「もう、大丈夫だからな!」
そのまま、少女は気絶した。
「…もう殲滅は終わってる。…ガイ。わたしは、その子には会いたくねーの。…その子のこと…よろしくね。」
今のシエルは見せられない。
だって、もう…
会えないから。
「待ってくれ、エル。知り合いなんだろ?…せめて、目を醒ますまでは…」
「…ほんっと、女心の分からねー男。…その子は、レミフェリア出身よ。名前は、ティオ・プラトー。でも…親元には返さねーほうがいーかも知れねーわよ。」
そこまで言って、完全に気配を絶つ。
「お、おい…!?」
そのまま、シエルは身喰らう蛇に戻った。
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映像が終わった後も、ティオは呆けていた。
「…え。」
「あら…楽しいことしてたのね?レンも呼んでくれたら良かったのに。」
呼べるわけがない。
心の傷は、癒えてはいないはずだったから。
だから、アルシェムは1人で突っ込んだのだから。
「…兎に角、何とかネギともごーりゅー出来たし…」
「誰がネギやねん!?」
そう叫ぶケビンを放置して。
「帰ろーか。」
そして、アルシェム達は次の試練の扉を探しに行った。
それは、すぐに見つかった。
「『剣の乙女、不動なる空気、輝く娘、狩られず残った双剣、銀色の露出狂、全てに通ずる銀の鍵を携えよ。さらば扉は開かれん…』」
「何かこれ…」
物凄く悪意を感じた。
「ケンカ売ってる…特にジンさんとか、シェラさんとか…ぶふっ!」
残念すぎることこの上ない。
兎に角庭園に戻り、人員を集める。
「…何よこの扱いの差は!?」
「全くだぜ…」
そうぼやく人を宥めつつ、ケビン達は石碑に向かった。
何やってんの?
という突込みはなしでお願いします。
時系列的には可能な話なので。
では、また。