雪の軌跡   作:玻璃

124 / 269
副題として、『エル』とつけておきましょう。

では、どうぞ。


星の扉:銀色の吹雪、天使を殲滅せし者、金色の暴走姫。そして、水色の喪服の少女を引き連れよ。

【七耀暦1198年、カルバード共和国、アルタイル市】

 

シエルは、あれから色々と情報を集めてあの地獄の場所を割り出した。

シエルがいた、あの地獄を。

そして、今そこまで来ている。

「…何で…今更。」

そこには、三人の男がいた。

シエルは、某変態仮面張りの仮面で顔を隠して彼らに近づいた。

「…ここに、入るの?」

背後から声を掛ければ…

「誰だっ!?」

驚いたような顔で、長髪の男が振り返った。

「静かにしなよ。バレる。…人に正体を聞くときは、自分から明かすのがれーぎじゃねーの?」

それを聞いて、馬鹿正直に答えるとはシエルは思っていなかった。

「済まねえな。俺はガイ・バニングス。クロスベル警察の刑事だ。」

…思っていなかった。

まさか、ここまで間抜けだとは。

「ガイっ!」

「良いじゃねえか、アリオス。今の所は敵対しようとしてるわけでもなさそうだし。てーか、どう見ても子供だろ?」

…舐められている?

そう、思ったのもつかの間。

「…アリオス・マクレインだ。」

「俺はセルゲイ・ロウだ。…お前さんは?」

何故か名乗られてしまった。

なので、シエルも名乗りかえすことにした。

「…《銀の吹雪》。」

3人の顔に驚愕が走る。

「まさか、それが名前とか言うんじゃねえだろうな?」

だが、求めていた答えとは全く違った。

「そのよーなもの。…それとも、ⅩⅥとでも名乗って欲しかった?」

「いや、呼びにくいじゃねえか。」

…こいつの脳みそは死んでいるんだろうか。

一瞬、そんな考えが脳裏によぎる。

これだけヒントを与えているのに、まだシエルの正体が分かっていない。

「そーゆー問題?…まあ、いっか。…エルって呼んで。特別サービスよ?」

「オーケー、エル。こんな所に何をしに来たんだ?」

一歩も引かないガイは、誇り高い狼のようだった。

「…この中にね、友達がいるの。もう生きてないかも知れない。もう、原形さえもとどめてないのかも知れない。それでも…探したい。そう、わたしは、探しに来たの…」

途端に、ガイの顔が引き締まる。

「何でそんなこと知ってんだ?」

それを知っているのは、限られた人間だけ。

「何故?…言うつもりはないよ。けど、おもしれーあんたに免じて一つだけ。…ここに入るのなら、地獄を見る覚悟はあるかどうか、もう一度確認した方が良い。…わたしは行く。」

シエルはその中に…

アルタイル・ロッジの中に侵入した。

次々と襲いかかってくる魔物を槍を使って一掃していく。

「おい、待てよ!」

どうやら、ガイ達も来たようだ。

ガイはトンファーを振り回しながら。

アリオスは刀を操りながら。

セルゲイは、ショットガンを撃ちながら…

「へえ、八葉一刀流か…」

「…何故知っている。」

アリオスの警戒が一瞬だけシエルに向いた。

だから、シエルは教えてやった。

「確かリベールの凄い遊撃士が昔八葉一刀流の使い手だったらしーってのはきーたことがある。」

アリオスは顔を顰めて言った。

「カシウスさんはもう、刀を使わない。」

「ふーん。カシウスさん、ね…」

カシウス・ブライト。

凄腕の遊撃士。

「どうして…もっと早くに動けなかったんだろう。」

「何だと?」

少なくとも、あの時にはもう動き始めていた。

なのに。

なのに、今更。

「…《剣聖》がいる。《不動》がいる。《隻眼》だっている…なのに、どうして…」

どうして、今なのだろうか。

そんなことを考えるシエルに、ガイが独り言を呟いた。

「どっかから情報が洩れてんのか…?」

「いーや、わたしが動かした。《紅毛》だって、《飛燕紅児》だって、動かすつもりでいた。…本当に必要なら、《紅耀石》だって、《千の腕》だって動かすつもりだった。でも…動けなかった。」

セルゲイが煙草を咥えつつ呟く。

「…弱みを握られてた、か。」

そうでなければ、動けたはずだろう。

「それにしたって、よくあそこまで集めたな…」

集めなければ、教団を壊滅させることなど出来ない。

だけど、教会すら動けないなんて…

「お、おい、ちょっとペース落とせよ。」

シエルのペースは、かなり早かった。

瞬く間に半分ほどを制圧するほどに。

「…どこに待つひつよーがあるっての?やっとここまでこれたんだから…今日、ここは壊滅させる。わたしは、そのつもりでここに来た。早くしないと…手遅れになる。」

「何が手遅れになるってんだ!」

こいつは…

まだ、分かっていないのか。

どこまで重要なのか、まだ。

「馬鹿。狂信的な悪魔崇拝の教団(馬鹿共)が、子供達を誘拐して何に使うと思ってたの?…生贄、実験、使い捨ての道具。それ以外にも…有力者を取り込むために使ったり、ね。ここは違ったはずだけど。」

「…っ!そんな事が赦されて良いのか!」

義憤に駆られたガイが叫ぶが、そんなものは今は必要ない。

必要だったのは、もっと昔なのだから。

「実際にあるんだから仕方ないじゃねーの。…だから、壊滅させるんじゃねーの。」

寄ってくる魔物を殺す。

思わずガイも戦うが、その顔は冴えないままだ。

「ま、待て…この魔物達が子供達なんてことは…」

決然としていた表情は、既に揺らいでいる。

だから、答えをくれてやった。

「ないよ。ここは…感応力を上げる実験しかしてないから。それに、もし子供達なら戻す術はないよ。」

何故知っている、など言わせない。

話しながらどんどん奥へと進む。

「酷すぎる…こんな…」

「…っ!…あ…」

その場にうずくまる。

未だに慣れない、感情のナイフ。

脳みそを引っ掻き回すように、脳内で悲鳴が響き渡る。

知らず、シエルは蹲っていた。

「おい、どうした!?」

…今、断末魔が聞こえた。

感じられる気配は…

あと、1つ。

だから、頭を押さえながらシエルは駆けた。

「はあ…っ…お願い…生きてて…」

「どこに行く!」

自らの直感を信じて。

感じる。

この先に…

1人、いる。

急がないと…

急がないと、死んでしまう。

「生きててよ…お願い…!」

そして。

そこに、彼女はいた。

「生き…てる…」

ぺたり、とシエルはへたり込んだ。

「お、おい…」

「大丈夫か!?しっかりしろ、助けに来たぞ!」

そこに、水色の髪の少女がいた。

ずっとずっと求めていた、友達が。

偶然なんて信じない。

だけど、今だけは信じても良いと思った。

「…ぁ…」

「もう、大丈夫だからな!」

そのまま、少女は気絶した。

「…もう殲滅は終わってる。…ガイ。わたしは、その子には会いたくねーの。…その子のこと…よろしくね。」

今のシエルは見せられない。

だって、もう…

会えないから。

「待ってくれ、エル。知り合いなんだろ?…せめて、目を醒ますまでは…」

「…ほんっと、女心の分からねー男。…その子は、レミフェリア出身よ。名前は、ティオ・プラトー。でも…親元には返さねーほうがいーかも知れねーわよ。」

そこまで言って、完全に気配を絶つ。

「お、おい…!?」

そのまま、シエルは身喰らう蛇に戻った。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

映像が終わった後も、ティオは呆けていた。

「…え。」

「あら…楽しいことしてたのね?レンも呼んでくれたら良かったのに。」

呼べるわけがない。

心の傷は、癒えてはいないはずだったから。

だから、アルシェムは1人で突っ込んだのだから。

「…兎に角、何とかネギともごーりゅー出来たし…」

「誰がネギやねん!?」

そう叫ぶケビンを放置して。

「帰ろーか。」

そして、アルシェム達は次の試練の扉を探しに行った。

それは、すぐに見つかった。

「『剣の乙女、不動なる空気、輝く娘、狩られず残った双剣、銀色の露出狂、全てに通ずる銀の鍵を携えよ。さらば扉は開かれん…』」

「何かこれ…」

物凄く悪意を感じた。

「ケンカ売ってる…特にジンさんとか、シェラさんとか…ぶふっ!」

残念すぎることこの上ない。

兎に角庭園に戻り、人員を集める。

「…何よこの扱いの差は!?」

「全くだぜ…」

そうぼやく人を宥めつつ、ケビン達は石碑に向かった。




何やってんの?
という突込みはなしでお願いします。

時系列的には可能な話なので。

では、また。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。