雪の軌跡 作:玻璃
次への布石ともいう。
では、どうぞ。
フィリップが消えて、一同はその場にへたり込んだ。
「やれやれ…とんでもないお人でしたな。」
「あ、あははは…」
そう、愚痴を零しあっている中で。
「…!あーあ。そーゆーこと?やだわー…」
アルシェムは、それに気付いてしまった。
ここは、フィリップで終わりではない…!
「どうしたんや、アルちゃん?」
アルシェムが見つけたもの。
それは、扉だった。
「扉だよ。『銀色の吹雪、天使を殲滅せし者、金色の暴走姫。そして、水色の喪服の少女を引き連れよ。さらば道は開かれん…』」
「…一回戻る必要がありそうやな…」
拠点に戻り、クローディアとアガットをパーティから外す。
そして…
「ティオちゃん、やっけ。」
「はい。…どうかしましたか?」
ティータと話が盛り上がっていたティオに、戦いに行ってほしいと願うのは聊か気が引けるけれど。
そういう顔をしながら、ケビンはティオにお願いをした。
「その…探索に行ってほしいんやけど。」
申し訳ないなんて、微塵も思っていない。
それを感じてしまって、少しだけ蒼い顔になったけれど。
それでも、ティオは受け入れてくれた。
「…わたしが必要になりましたか。分かりました。」
ティオは、魔導杖を握って立ち上がった。
「…ごめんなさい、ティータさん。また、お話を聞かせて下さいね。」
「あ、はいっ!」
そして、扉の前に転移した。
扉の前に立っているのは、ケビンとレン、メル、ティオ。
そして、アルシェム。
「…じゃあ、行きますよ…!」
メルが扉を開く。
その扉の中には…
ケビンを除くパーティーメンバーが吸い込まれた。
「何で俺だけ置いてけぼりなんやー!?」
という絶叫が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。
「さて…何が出るのかしら?」
レンが、そう嘯く中で。
「…レン。気付いてる…?この組み合わせは…」
アルシェムは、気付いてしまっていた。
「…分かってるわ。でも、一体『ダレ』が出て来るのか見ものじゃない♪」
「はー…」
そして、出て来たのは…
他でもない、ヤバい奴だった。
「…む?お前たちは一体…」
長髪の、刀持ち。
コイツは…
「…ダレだっけ?」
アルシェムがとぼけて。
「知りませんね。」
メルが同調し。
「同じくです。」
ティオが被せて。
「うふふ、まさか雑魚じゃないわよね?」
レンが好戦的に目を光らせた。
誰にも縁がないわけではない。
強いて言うのならば、レンが若干縁が薄いくらいか。
久しぶりに、棒術具を取り出す。
「まず…自己紹介からしません?そこの人。」
「ああ…私は、アリオス・マクレインという。今は遊撃士だ。」
それで、ティオ以外が反応した。
「実質S級の、《風の剣聖》ですって…!?」
その驚愕の中で、アルシェムは小声でメルに指示を出した。
「…メル、一般人のふりしてて。頼む。」
「…はい。戦闘にも参加しません。」
こちら側からも自己紹介する。
「えっと…あたしは、メルと申します。」
「アル。」
「レンよ。」
「ティオです。」
割と不真面目に。
情報が漏れると困るから。
アリオスの額に若干青筋が浮かぶ。
「兎に角、来たものを排除せねばならんのだが…」
「まー、そーだよね。…ティオ、後方支援。メルを守って。レン。わたしと一緒にアレに特攻。」
どうせ、刀持ちに遠距離は…
まあ、八葉一刀流なら出来ないこともないのだろうが。
「はい。」
「うふふ…楽しくなりそうね♪」
そして、アルシェムとレンは特攻した。
「そー…れっと♪」
レンが鎌を投げて、牽制する。
「…!?弐の型、疾風!」
それに反応したアリオスがクラフトを発動させるが…
「させると思う?はちよーの剣士。…風華無双!」
アルシェムが、疾風で前に出ようとしたアリオスを数の暴力で押し返す。
「くっ…裏疾風!」
「…っ!月光朧!」
「何…!?」
カウンターを合わせられ、そして消えたアルシェムを追って剣先が揺らぐ。
それを好機と見たレンが鎌を振りかぶって…
「死んじゃえ♪」
「舐めるな!」
レンとアリオスは一瞬で鎌と刀を合わせ、下がる。
「…情報を入手しました。」
「!?」
いきなり聞こえたか細い声に反応し、動揺する。
正直、サポートは期待していなかっただけにこの隙は大きい。
そこに合わせて…
「レン!」
アルシェムは、レンと一緒に特攻した。
「そうね♪…もう、逃がさない…!」
レンはクラフトを発動させながらだったが。
「ぐっ…」
レンの大技が。
「不破・雪牢。逃がさねーよ、どーあってもね…!」
アルシェムのクラフトによって足止めされたアリオスに突き刺さる。
「うふふっ、死んじゃえーっ♪」
袈裟懸けに切り裂かれたアリオス。
「う、おおおおおおっ!」
だが、倒れることはない。
実質S級は伊達ではないのだ。
いつ転向したかは知らないが…
かなりの実力者なのは確かだろう。
「まだ、ダメかー。んじゃ、どーすっかね…」
そこで、ティオが援護をくれる。
「…行きます…!ダイアモンドダスト!」
「まだまだ!」
凍りつくこともなく、鬼気迫る表情で刀を振るうアリオス。
心ここにあらずで、アルシェムはそれを受け止めていた。
「アクアブリード。…カオスブランド。」
ティオのアーツを通るように調節しながら、アルシェムは棒術具を叩きつけていく。
「ふん、はあっ!」
「…まー、出鱈目だね。仕方ねーか。」
まだ、詰みではない。
手札はまだ残っていた。
それはそれは豊富に。
「シュトゥルムランツァー!」
アルシェムがクラフトを発動させる。
それをアリオスが受け止めるが…
「これしき…っ!?」
そんなアリオスに、背後から攻撃を加えるレン。
「うふふ、よそ見しちゃダメじゃない。やあっ!」
《殲滅天使》と《銀の吹雪》に挟まれて。
アリオスは動くに動けない。
「くっ…!」
大分削られたところで、ガシャンと音が聞こえた。
「…ガンナーモード起動。…行きます!」
背筋がぞわっとしたので、レンもアルシェムも飛び退る。
残されたアリオスに…
「エーテル、バスター!」
エネルギーの奔流が殺到した。
「やばー…アレ、面白そー♪後でいじらせてもらおっと。」
「魔導杖ね…面白いオモチャじゃない♪」
そんな軽口を叩きあえる程度には、レンもアルシェムも余力を残していた。
絶賛吹き飛ばされたアリオス。
だが、それでも…
まだ、アリオスは立っていた。
「タフすぎるね。邪魔。」
「同意見よ。…仕方がないわね。あんまり見せたくはなかったけど…」
そう言いながら、集中するレン。
「え?」
レンは人を食ったような笑みを浮かべ、そして…
「やる気満々じゃないの。」
アルシェムのぼやきは、彼が証明してくれた。
「来て、パテル=マテルっ!」
それを見て驚愕するアリオス。
「な…!?」
「紅い…機械人形…!?何て大きさ…!」
「あ、あははは…」
防御姿勢など、意味がない。
これは、全てを薙ぎ払う究極の攻撃。
「薙ぎ払いなさいっ、ダブルバスターキャノン!」
エネルギーの奔流に薙ぎ払われたアリオスは、吹き飛んだ。
「ぐわあああああああ!?」
ああ、無念。
というよりも、無残。
全身黒こげになりつつも、立っているのが不思議だった…
「うふふ、ありがと。」
そして、それは完全なる隙だった。
「…ごめんね?」
粉塵が舞う。
その視界が効かない中で…
アルシェムは、アリオスの首を落とした。
「がっ…」
そして、消えていく。
粉塵が消えるまでに、アリオスは消滅していた。
「お終いね♪」
「な、何だか…とても疲れましたね…」
ティオが、そう言って。
「…鬼が出るか蛇が出るか…何かなー?」
アルシェムのその言葉とともに、目前に映像が浮かび上がった。
何でこの人か。
それはね、次回の布石なんです。
では、また。