雪の軌跡 作:玻璃
では、どうぞ。
探索に出た4人が帰ってくるのに、さして時間はかからなかった。
「ええっと…ごめん、メンバー変更や。」
ケビンは、申し訳なさそうにアルシェムを見た。
「また扉みたいなのがあったの?」
何かが、あったに違いない。
「ああ、そうや。えっと…まずクローディア殿下。あとアガットさんにレンちゃんに…ごめん、もっかいメルちゃん。」
バレた時点で覚悟はしていたことだ。
だが、手を打つのが早すぎる。
アガットが、ケビン達の様子を見てこう疑問をもらした。
「さっきから気になってたんだが…このシスター達も星杯騎士なのか?」
その言葉で、一気にケビンの顔が緑色になった。
それは、まさに…
「あ、ネギ。」
「やかましいわ!じゃなくて…ええ、そうですわ。腕は確かなんで、信用したって下さい。」
これで、重要な機密が若干バレた。
だが、肝心な部分はまだバレてはいない。
まだ、大丈夫。
アルシェムは、内心冷や汗を流しながらそう思った。
「あと…これは多分、人数には入れられへんと思うんやけど…アルちゃん、来てくれるか?」
冷や汗をかきながら考え込んでいたアルシェムは、突然の指名に驚いた。
指名されたことに、ではない。
指名されたタイミングに、だ。
「…何でそんな謎メンツになるのか教えてくんねー?」
「…かいつまんで話は聞かせてもろた。『白き翼』と言えばクローディア殿下やし、『重き鉄塊を振り翳す者』と言えばアガットさんやし…云々あるけど、『全てに通ずる銀色の鍵』ゆうたらアンタしかおらんやろ。」
また、謎だ。
このメンツで、何が起きるのか。
今は何も、分からなかった。
「うふふ、楽しみね♪」
「シェラさんじゃねーもんね。じゃ、いこーか。」
転移門を使い、蒼耀石の石碑の前まで来る。
「…では、行きましょう。」
クローディアが石碑に触れ、転移させられる。
「…これは…」
その場は、懐かしのルーアン。
ジェニス王立学園だった。
…モノクロの。
「成程。無色の学び舎、ですね…これだけの人数を集められたんですし、手分けして進める場所を探しましょう。流石に1人1か所は厳しいでしょうから、ツーマンセルで動いた方が良いのではないですか?」
クローディアの提案に、ケビンが首肯する。
「ああ、そうですな…じゃあ、オレとレンちゃん、殿下とアガットさん、メルちゃんとアルちゃんでどうや?」
その提案に、良い顔をしなかった者達がいた。
まずは、レン。
「えー、レン、シエルと一緒が良いな。」
レンとアルシェムが組むと、レンの監視にならない。
それに、残りのメンツには前衛がアガットしかいない。
そう、ケビンは暗に示していたのだが。
そして、アガットもまた異論を唱えた。
「いやいや、それよりアルシェムとシスターの組み合わせで大丈夫か?前衛がいないだろ?」
「まずレン。この組み合わせじゃないと色々とマズい。アガット、わたしは剣使えるから問題ねー。」
レンとクローディアとか、その組み合わせになるのだけは避けたい。
それに、メルはアーツ特化なので前衛は出来ない。
故に、この組み合わせ。
「むー、分かったわよ…あ、じゃあ、あの赤い甲冑さんだけ倒すことにしない?法則がありそうじゃない♪」
レンの推測は、当たっているだろう。
このモノクロの中での違和感を払拭したかった。
「まあ、確かにそやな…ええと、まずオレらは本校舎にまわる。アルちゃん達は女子寮と講堂、殿下達は男子寮とクラブハウスをお願いします。旧校舎は何か嫌な予感がするんで後回しにしましょ。」
「はい。」
そして、探索に出かける。
女子寮に入った瞬間、メルが物凄い目でアルシェムを睨んでいるのに気付いた。
「…アルシェム。」
「…う…何?メル。」
アルシェムにも、心当たりがあった。
あの時に、目の前で怒れなかったが故の怒りだろう。
「鉄拳制裁です。」
それが、分かっていたから。
だから、アルシェムは甘んじてメルの拳骨を受けた。
「…ごめん。」
「…あんなこと…二度と、しないで下さい…肝が、冷えました…」
「うん…」
首肯はするが、分かったとは言わない。
今後また、アルシェムはそう言ったことをやらかすのだと。
自分で分かっていたから。
アルシェムは、剣を取り出しあたりを警戒する。
だが、剣を振るうよりも前にメルが《LAYLA》を駆動させた。
「焔舞!」
「…うーわ、メル、えげつねー…」
メルは赤い甲冑だけをアーツで狙い撃った。
そのアーツは…
一撃で甲冑を燃やし尽くした。
それと同時に、アルシェムは気配を探った。
「…ん、見つけた。後は2階だけだね。」
2階に上がり、速攻で切り伏せる。
「やっぱよえー。」
講堂にも向かったが、そこにもやはり雑魚しかいなかった。
「…終わりかー。」
「ええ。でも…やはり、旧校舎の方が怪しいですね。」
そして、一番乗りで旧校舎に続く道の前まで来る。
「あら、レン達が一番乗りだと思ったのに…早かったのね?」
一番先に来たのは、やはりレン達だった。
まあ、堅気の人間ではないからだろうが。
心なしかケビンの顔が複雑な顔をしている。
「ん、まあね。あ、殿下達も来たよ。」
「ごめんなさい、待ちましたか?」
それは待ったのだが。
それでも、ケビンはこう答えた。
「いや、今来たとこですし。…鍵が、開いたみたいですわ。」
待ち合わせか。
そんな突っ込みを呑みこみつつ。
門を開け、ゆっくりと旧校舎に向かおうとすると…
「へへっ、やっと来やがったか…」
そこに、何故か《レイヴン》がいた。
道をふさぐ形で。
「アガット、アレ、ぶちのめしていー?」
そこで、漸くアガットにも把握出来たのだろう。
「お、お前ら…!?」
「へへ、思った通りだ。豆鳩が鉄砲くらったような顔してやがる。」
違うから。
鳩が豆鉄砲だから。
豆鳩って何だ。
鉄砲喰らったら死んでるから。
諸々のツッコミを呑みこんで、アルシェムはメルに問いかけた。
「…メルせんせ、分かる?」
「ええ…所謂影でしょう?どれだけぶちのめして差し上げても、現実には傷つかない。前の借りをここで返させてもらいましょうかね。」
メルがいつになく好戦的だった。
「って…あの時のシスター!?」
「覚悟なさいね?あなた達…」
どうも、前にナンパされた時のことを覚えているのだろう。
「ひっ!?」
笑顔が黒いことに気付かずに、メルは《レイヴン》を威圧し続ける。
「お、落ち着け!一応俺達は『偽物』なんだ!構うこたあねえ!」
偽物が偽物と自覚してなおその形を保っていられるのは何故か。
それは、きっと…
「遠慮なく暴れようぜ!その赤毛野郎にさんざん扱かれた借りを返してやる…!」
そう、アガットへの恨み…
ではなく。
アルシェムは、自分の知らなかった情報をここで1つ得た。
《レイヴン》の胸に、燦然と輝くバッヂ。
それは、かつてアルシェムも身に着けたことがあるバッヂだ。
「あ、準遊撃士になったんだ。へー、ほー、ふーん。…甘い。力量差くらい、見極められるよーになったら?」
そこで、レイヴン達は襲いかかってきた。
「おらあっ!」
自分達がどんな目に遭うかも知らずに。
「メルちゃん、アレはアカンで!」
ケビンに窘められたメルは、オーブメントをしまった。
そして…
「分かっています!…受けよ、七耀の裁き!…虚無の弾丸!」
法術を叩き込んだ。
「え、ちょっ…」
その弾丸はロッコに当たり、何故かロッコが麻痺している。
法術、
ありとあらゆる状態異常を、ランダムに付与する魔のクラフト。
それを、メルは躊躇なく使った。
「き、気をつけろ!」
警戒するレイヴンに、今度はレンが嫌がらせをする。
「死んじゃえ!」
「うわ、レイス!?…ちょ、嬢ちゃん冗談だろ!?」
レイスがレンのクラフトで一撃死したところでディンが焦り出す。
「だ、ダラダラしてんじゃねえよ!」
そう言いながら、味方を回復するが…
「あー。ネギ神父。手、出さなくていーかも。」
最早、決着は目前だった。
「あ、やっぱり…?あ、アガットさん!アカンて!」
ケビンの制止もむなしく…
「らああああああああ、だあああああああっ!食らいやがれ、ドラゴーンっ、ダーイブっ!」
「ちょ、洒落になんねぇよおおおおおおっ!?」
やはり一撃で、レイヴンの連中は沈んだ。
「へっ、オレに勝とうなんざ十年早えんだよ。」
誰がどう見てもやりすぎである。
「くぅ~…」
「へっ…これが正遊撃士の実力って奴か…」
「いや、絶対に別のよーそが入ってるから。これでこんだけ保ったらじゅーぶんじゃねーの?」
星杯騎士2人に、執行者に、正遊撃士である。
これに勝とうと思ったら…
まあ、カシウスならば倒してしまうのかもしれないが。
結構難しい話である。
「ま、試験の時にも言ったが後は経験と心構え次第だな。」
まあ、アガットが言えばそれなりの言葉に聞こえる。
「え、偉そうに…」
「ま、いずれにせよこれで俺たちの役目は終わりみたいだな…」
レイヴンの体が透け始める。
「まー、また逢う機会があったらよろしくねん。」
「言っておくが…この先の奴は、格が違う。せいぜい気を付けるんだな。」
そして、消えた。
妙な警告だけを残して。
「へっ…言いたいことだけ言って消えやがって…」
「クスクス…お人好しさん達ね。」
「しかし、この先か…」
何となく、読めた…
この、喰えない気配を発する人間は少ない。
「やっばー…うん、努力とこんじょーあるのみ、かな…」
この先は、ヤバげなおじさまが待っているはずだ…
そう、感じながら。
一行は、旧校舎へと急いだ。
過去編≒3rd。
そういう解釈をしています。
では、また。