雪の軌跡 作:玻璃
悪い癖です。
では、どうぞ。
アルシェムの思考を一刀両断したオリヴァルトは、こういった。
「…取り敢えず、一段落ついたところで、この場所が何なのか教えて貰えるかい?セレスト殿。」
それが、良かったのか、そうでないのか。
アルシェムには、判断のつかないままに。
「…ええ。すみません、まず説明しようと思っていたのですが…その、どうしても気になってしまったもので…」
「どうでも良いからさ、とっとと始めようよ。アタシ、そろそろ暴れたい。」
それはどうかと思うが。
リオは、大剣を振り回しながら駄々をこねる。
「大人しくしていなさい、リオ。」
リースに窘められたリオは、つまらなさそうに唇を尖らせた。
「はあーい。」
そして、セレストはこの場所…
《影の国》について説明を始めた。
多様な可能世界を実現すべく自己組織化する世界。
虚構世界ではあるが、それは現実を反映しつつ独自の法則で動く影絵の世界。
そして…
これは、《輝く環》と表裏一体のシステムであること。
「ちょ、ちょっと待ってください…!《輝く環》って何ですか…?」
そこまで話が進んだところで、ティオが抗議の声を上げた。
無理もない。
ティオは、何も知らないのだから。
「あ、ティオちゃんは知らないんだっけ…」
「リベールの異変を引き起こしたやつのことだ。」
簡潔にアガットがまとめてみた。
「あう…アガットさん、ちょっと簡潔すぎますよ…」
「う…」
が、ティータとしては説明不足であると感じたのだろう。
他にもっと説明出来きそうな人間を目で探している。
それに応えたのは…
「《七の至宝》の1つよ。空の至宝…それの名前が、《
シェラザードだった。
少しだけ詳しくティオに教えたが、これ以上は話せないと思ったのだろう。
説明を、それだけでとどめた。
だから、ティオはそれを察した。
「話が進みませんし、後にしませんか?説明していただいたのに、申し訳ないですけど…」
「…そうね。」
シェラザードが、やりにくそうな顔をして俯いた。
それに、ジンが助け舟を出した。
「お前さんが謝ることじゃない。後でキッチリ誰かが説明してくれるさ。」
まあ、誤爆したが。
「自分でする気はねーんだね。流石《不動》。」
自ら動く気はないと。
流石は、子供達を見殺しにした《不動》のジン。
誰よりも、その重さを知っているアルシェムにはそう映っている。
今も、昔も。
「えっと…続けますね。」
その場の空気に耐えかねて、セレストが説明を再開する。
封印機構が、《輝く環》の呪縛から抜け出すために直接《影の国》に干渉出来る《レクルスの方石》を作り上げたこと。
そして、《環》の処理能力を削ぐために《影の国》にセレストの人格を潜り込ませ、機能不全に陥らせたこと。
その際…
1人の、赤ん坊を見つけてしまったこと。
「それが…アルさん、ですか?」
分かり切ったことを、クローディアは問うた。
「ああ、今はそのような名で生きているのですね…」
そんなことを問うても、意味がないのに。
「正確には、アルシェム・シエルだけどね。」
軽く訂正だけを聞いて、セレストは説明を続けた。
セレスト達は計画通りにいけばアルシェムを連れ出して《環》を封印する手はずだったこと。
結果、どうなったかはわからないが《環》は封印されたこと。
後世のために《方石》と一緒に眠りについたこと。
それを、ただ淡々と語った。
「そして…私と《影の国》は緩やかな消滅を迎えるはずでした。ですが、そこに《影の王》が現れたのです。」
時系列が一気に飛んでいる気もするが、気にしてはいけない。
「…成程。」
「…あのふざけた輩か…」
《影の王》。
まだ、アルシェムは見たことがない。
だが…
推測は、ついていた。
「彼の者は、前触れなく現れて私の力を奪い…そして、《影の国》を好きなように作り変えてしまったのです。」
それほどまでの力を持ち。
これほどまでに他人を巻き込んで。
「それが星層、だね…」
だからこそ、それができる人間は限られている。
その中に、自分が含まれていることを理解していて。
アルシェムは、歯噛みした。
「ふむ…しかし、そうなると彼の正体は貴女も知らないということかね?」
リシャールの推測通り、そういうことになる。
…ん?
リシャール?
「いたの大佐?影薄いから気付かなかった。ごめん。」
キャラクターは濃いくせに、やたらと忘れてしまう存在。
カノーネさえいれば、もっと濃い人間なのだが。
「…アルシェム君…私はもう大佐ではないのだが…」
そんなリシャールのぼやきを、聞き流して。
「あっはっは。さ、続ききこーか?」
アルシェムは、続きを促した。
「1つ、言えるとしたら…彼の者は、《第七星層》と呼ばれる場所にいるのではないかと思います。」
「え、何で分かんのさ?」
ジョゼットがそれを問う。
最初にいたような気はするが、最早何故ここにいるのが分からない。
「彼の者が最初に作った場所がそこだからです。どのような場所であるかは見通せないため分かりませんが…尋常ならざる想念がその場所から行きわたっているのを感じます。」
想念が、ねえ。
アルシェムは、暫し黙考した。
想念が行きわたっている。
けれど、誰も想念に押しつぶされそうにはなっていない。
ティオも感じている様子はない。
ということは、何らかのフィルターがあるのか…
そこで、アネラスに思考をぶった切られた。
「七ってことは…次の次だったよね、エステルちゃん。」
最早いたのか、レベルである。
「そうだったわね。」
「フッ、終わりは近いということか…」
自己陶酔したオリヴァルトに、ミュラーが拳骨を閃かせた。
「お前は少し黙ってろ。」
「ミュラー君、イタイ…」
無駄にオリヴァルトが格好つけているが、突っ込む気にもなれない…
ミュラーがいてくれることだけが救いだ。
「後は、《影の王》の目的だよねー。…こらネギ!起きてんならさっさとせつめーしたらどーなの?」
背後まで、ケビンが接近してきていたから。
それが、分かっていたから、アルシェムはそう言った。
「ええっと…アルちゃん、そこまで喰いついてこんでもええんとちゃう…?」
そこに、妙にすっきりした様子のケビンが立っていた。
無性にむかついたので…
「うっせーのよ!おらあ!」
アルシェムは、兎にも角にも全力でケビンをぶん殴った。
「ぐはっ!?ちょ、何すんねん!こっちは病み上がりやぞ!?」
抗議の声すらも、鬱陶しい。
だから、何度も殴る。
「病み上がり上等!ほんっと、良い迷惑!ぼっこぼこにして捨てても良いんだけど…」
因みに、本気では殴っていない。
そんなことをしたら本気で死ぬから。
「か、勘弁してや…何でそんなに怒ってんの!?」
まあ、事情を説明する気にもなれないのでもう一発殴る。
ケビン・グラハムには一生アルシェム・シエルの気持ちなど分かりはしないのだから。
「これで勘弁しとくから、さっさとせつめーしてよ。けんとーくらいはついてんでしょ?」
ジト目でアルシェムが睨みつければ、ケビンは弱弱しく応えた。
「…はは、何で分かったんや?」
見ればわかるし、何よりも…
「…もー一発、殴られてーの?」
「スミマセンデシタ…」
コントが終わったところで、ケビンが説明を始める。
「まあ、《影の国》は兎も角、《影の王》は何となく心当たりがありますわ。こんな真似するヤツなんて正直、他にはおらんですし。」
そこで、一同がざわめく。
まあ、無理もないだろう。
「え…」
「そ、それって…ケビンさんの知り合いなの!?」
知り合い…
というよりも、むしろこの場合は別の表現が正しいような…
たとえば、腐れ縁、とか。
アルシェムはそんなことを考えていた。
「はは…知り合いというか。ただ、1つ言えるんは…相当性質の悪いヤツってことやな。狡賢くて傲慢で、命を何とも思わん冷血漢…ま、そんなロクデナシかな。」
「な、何かとんでもないヤツだね…」
「ふむ…ズバリ聞くが、それは誰だい?参考までに聞いてみたいのだが。」
オリヴァルトが、核心をついた。
それは簡単。
自分自身のことは、一番分かる。
だから、ケビンはそんな表現をしたのだ。
「あー…その、結論を出すんはもうちょい待ってもらえませんやろか。イマイチ決め手に欠けまして…多分、次の星層で確実なことが言えると思いますし。」
答えを先延ばしにするケビンに、アルシェムはイラついた。
「…うわー、ムカツク。もっかい殴っていー?てか殴る。」
「ちょ、待ってや!?何でそうなるねん!?」
だって、それは。
分かり切ったことだから。
なのに、確実性という言い訳で逃げるのだ。
だから、アルシェムはケビンに事実を突き付けた。
「しょーじきに『心の準備が済んでませんもーちょっと待ってー』って言えばいーのに。」
「ぐ…そ、その…整理がついたら、絶対にお話しさして貰います。
ケビンは特に否定的な意見が出なかったので、話を進めた。
「…おおきに。これから先は、またオレが先導さして貰います。改めて、よろしゅう頼んますわ。」
そして、リースの方に居直って言った。
「…リース。色々と心配かけて済まん。けど…ここから先は、オレに任せてくれへんか?…頼む…」
リースは、少し考えて…
そして、結論を出した。
「…1つだけ、約束して。…無茶しないで、なんて言わない。でも…でも、姉様を悲しませることだけは…絶対にしないって…」
「…はは…相変わらず痛いとこ、突いてくるなあ…」
どうあっても、何をしても、ルフィナは悲しむのだ。
なのに、約束など出来ない。
「…約束…出来る…?」
それに、ケビンはまっすぐリースの目を見て応えた。
「…ああ、約束する。女神でも、星杯でもなく…姉さんの名に賭けて。」
それでも、ケビンは約束してみせた。
狡賢くて傲慢で、命を何とも思わない冷血漢。
この時点で、ルフィナが哀しむことは分かり切っているのに。
その甘ったる空気を払拭すべく、リオ達が冷やかした。
「うわー…あっつあつ。メル、あれ凄いと思わない?」
「あたしに聞かないで下さいね?リオ。」
「そこ、茶化さないの。」
一段落ついたところで、探索に行くメンバーを決めることになった。
「えー、まずオレやろ、リースに…って、何でアンタらおるんです!?」
ケビンがリオとメルを見て驚愕していた。
まあ、いるはずのない人間だからなのだが。
「今更じゃないですか、グラハム卿?」
「ほんっと。今更過ぎますって。」
気付かなかったのか。
こんなに星杯騎士団色が強いメンツなのに…
「えーい、んじゃあアンタらの修行の成果見せてみい!メルちゃんとリオちゃんで決定や!」
そうして、ケビン、リースにメル、リオは探索に出かけた。
追加で文章を付け加えてたら知らないうちに倍増してた。
何故に。
では、また。