雪の軌跡   作:玻璃

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フラグが立ちました。
え、何のフラグかって?

実生活の崩壊フラグですよこんちくしょー。

では、どうぞ。


~守護者の試練~
銀の娘


女性は、こう言った。

「貴女は…まさか…でも…本当に?本当に、生きているのですか…?《銀の娘》…」

それで、最早アルシェムの希望はついえたのだ。

「へ…」

「だ、誰のことですか…?」

誰が何と言おうと、それが指す人間はたった1人しかいなかった。

たった独りで、その場に佇んでいた。

「銀っていえばシェラ姉かアルくらいだけど…」

「あたしには心当たりなんてないわよ!?」

無論、シェラザードではない。

アルシェムは、自らの運命を呪った。

その口から、吐息のような呟きを吐き出して。

「…何を今更…」

アルシェム・シエル。

かつて…

かつて、セレストとその友人が掬い出した《銀の娘》。

それこそが、アルシェムだった。

「アル…?」

「ねー、セレスト。知ってるなら教えてよ。」

これほど、空虚な気持ちになったことはなかった。

どうして、今更出て来るのだろう。

どうして、今なんだろう。

何故、独りの時ではなかったのか。

アルシェムは、その運命を、激しく呪った。

「…わたしの親って、誰。」

それを、聞いたところで分かるはずもないのに。

「…ごめんなさい。貴女は、《輝く環》が何処かから預かって来た子ですから…分かりません。」

一縷の希望は、またしても潰えた。

「ちょ、ちょっと待って!どういうこと!?アルが何だって言ったの今!?」

エステルが混乱している。

皆、如何して良いか分からなくて戸惑っている。

「そう。…じゃあ、ユーリィって人がどうして死んだか教えてよ。」

それで良かった。

今は、誰にも邪魔をされたくはなかった。

「それも…ごめんなさい。『私』は『影』…それも、貴女を連れ出す前に分化された『影』ですから…」

そして、すべての希望が、潰えた。

 

「…使えない。…もう良いや。…もう、どうでも良いや。」

 

アルシェムの瞳から、ついに光が消えた。

「アル!?ちょっと…落ち着いて!?」

何かを叫ぶエステルの声も、遠い。

もう、何もかもがどうでも良かった。

どうせ、何も分からない。

出られなくたって構わない。

むしろ、アルシェムだけがここに残れば良いと、本気で思った。

この場で封印されてしまえば…

もう、アルシェムのせいで死ぬ人間はいなくなるはずだから。

だから、アルシェムの身体はふらふらと奈落へと向かった。

 

「シエル!そっちは…危ないです!」

ティオが、制止してくる。

 

泣きそうな顔で。

「知ってる。」

だけど、それをアルシェムは拒否する。

 

「アルシェムさん!落ちちゃいますよ!」

ティータが、制止してくる。

 

何が何だかわからないような顔をして、叫ぶ。

「知ってる。」

だけど、アルシェムはそれを拒否する。

 

「どうする気なんだ、エル!?そのままだと…」

ヨシュアが、今にも飛び出しかねない格好で制止してくる。

 

何かをこらえるような、そんな顔をして。

「知ってる。」

だけど、アルシェムはそれを拒否する。

 

「戻ってきなさい、エル!どうして…そんなことをしているの!?」

カリンが、泣きながら引き留めてくる。

 

もう、失いたくないのだと暗に告げている。

「…ごめん、カリン姉。」

だけど、その懇願すらアルシェムは拒否する。

 

「もう、何にも分かんないの…何が、わたしなのかも…どうして、生きてるのかも…分かんないの…」

 

誰か教えて。

 

「ねぇ…わたし…わたしって…一体何なの…?」

 

その問いに、答えられる人物などいないと分かっていて、問う。

アルシェムは、ただの卑怯者だった。

 

皆が一様に黙る中、ただ1人動く者がいた。

 

「何言ってるのよ!シエルはシエルでしょう!?シエルのパパとママはここにいるわよ!」

 

ふらり、と庭園の端から墜落しかけたアルシェムを救ったのは…

「…パテル=マテル…?…ど…して…?」

紅い機械人形…《パテル=マテル》だった。

ばつの悪そうな顔をして、レンが呟いた。

「…まだ、シエルはパテル=マテルに認められてるのよ。」

その呟きは、微かにアルシェムを揺らした。

「だって…アカウント、破棄してって言ったのに…どうして…?」

認められている。

なんと、甘美な響きなのだろうか。

それを、認めたくなかったから切り離したのに。

「それはシエルが勝手に言ったんでしょう。パテル=マテルが嫌がったのよ。…どうしても、シエルと繋がっていたいんだって。」

どうして。

アルシェムには、もう分からなかった。

「わたしは…でも…」

迷うアルシェムに、声をかけるのはいつだってレンだった。

「シエルってば、本当にお馬鹿さんね。…レン達のパパとママよ?偽物ならいざ知らず、レン達のことを見捨てるわけないじゃない。」

そう、自信満々に告げるレン。

本当の両親であるわけがない。

機械からは、人間が産まれることはない。

だけど。

だけど、レンにはそんなこと関係なかった。

「レン…でも、パテル=マテルは…」

バテル=マテルは人ではない。

 

「…分かってるわよ。何を言ってるのかくらい。」

 

ぽそりと、けれど響く声でレンが漏らす。

 

「だけど…レン達のパパとママはパテル=マテルしかいないの。誰が何と言ったって…パテル=マテルはレン達のパパとママなのよ。それは変わらない事実なの。」

 

全力で、レンは主張する。

自分自身のために。

何よりも…

姉と慕ったアルシェムのために。

レンは、叫ぶ。

 

「誰にも…シエルにだって、否定なんかさせないんだからぁっ!」

 

静まり返った庭園に、レンの声が響いた。

その声は、確かにアルシェムを動かした。

その反響が消えたころ…

アルシェムが口を開いた。

「…流石に…さ、レン。パテル=マテルからレンが産まれてくるのには無理がないかな?」

「…う、うるさいわね。そんなの分かってるわよ。気持ちの問題なの!」

顔を真っ赤にして、抗弁するレン。

そこまでわかっているのならば、時間の問題だろう。

本当の両親の気持ちも、分かるはずだ。

「あはは…そう、だよね。…レン、ありがと。目が覚めた。」

「今度何か奢ってくれたら帳消しにしてあげても良いわよ。」

アルシェムと、レンが笑い合って。

そして、皆に怒られて。

その中で、アルシェムは気付いてしまった。

…気付いて、しまった。

「もう…驚かせてくれちゃって。」

どうでも良いが、棒術具で脅しながら笑顔で怒るのは止めたほうが良いと思う。

危険だから。

「…ごめん、エステル。」

「あの時もそうだったじゃないの!いきなり家族じゃなくなりましたって言われた時のこっちの気持ちも考えなさいよ!」

それは今関係ないだろう。

だけど、エステルがアルシェムを気遣ってくれているのだということくらいは分かった。

「あれは…だって、けじめをつけねーといけなかったから。」

「言っとくけど。…父さんも、あたしも、ヨシュアも。いつか帰ってくるのなら、待ってるんだからね。」

待っていてくれても、きっと帰れない。

 

全てが終わったその後に、アルシェムという存在が残っているかどうかなんて誰にもわからないのだから。

 

「残念。多分、そっちには帰らない。何だか、やんなくちゃなんないことがまだ残ってるみたいだから。」

その後に、生きていられるかどうかは別にして。

 

…《輝く環》が、子供を預かるとして。

その子供が、一般人の子供であるわけがないのだ。

至宝クラスの、何かが関わっている。

有り得るのは、やはりあそこの…

 

しかし、まとまる前にオリヴァルトの声によって考え事は中断されてしまった。




こっちのフラグも立ちましたけどね。

では、また。

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