雪の軌跡 作:玻璃
では、どうぞ。
影の迷宮の中で佇むパテル=マテルの前から、リース達は2つの封印石を手に入れた。
一つ目はレン。
そして、もう一つ。
銀色の光に包まれて、現れた少女。
「…どうすればこのじょーきょーを作り出せるのか、切に説明を求めるわー…おいこらそこのシスター!目を逸らさねーの!」
「何のことですか?」
白々しく言う桃色の髪の女性。
「あんた以外に誰がいるってーの?」
その女性に対して半眼で物申すのは…
アルシェム・シエル。
今はそう名乗る少女だった。
彼女を見てその場にいたエステルが叫ぶ。
「あ、アル!?」
驚いているエステルを前に、いつもと変わりなく手を振るアルシェム。
「久しぶり、エステル。どう見ても幻術の類じゃないことだけは分かるんだけど…ここどこ?」
そんな呑気なアルシェムに、エステルは激昂した。
「久しぶり、じゃないでしょ!?あたし達がどれだけ…」
「ごめん。でも、静かにね?何でか分かんねーけど、横でレンが寝てるから。」
エステルの怒りの声を遮って。
アルシェムは、慈しむような眼をレンに向けた。
すやすやと、安らかに眠るレン。
だが、見ている夢は安らかではないようだった。
「…パパ…ママ…」
それだけで、何の夢を見ているのかを察したアルシェムは、レンをゆすり起こした。
「やっぱ訂正。起きて、レン。」
アルシェムの反応が、何に基づくものなのか。
「…っ…」
「レン…」
それを正確に知っているものは、いない。
レンが起き上がり、あたりを見回す。
「おはよう、レン。」
だから、アルシェムはレンを安心させるために笑顔で迎えた。
「…シエル?…そっか、夢…」
「夢じゃないんだけどな…」
まだ寝ぼけているレンを見て、感極まったのだろうか。
「エステル…それにヨシュアに、ティータまで…うふふ、何だか都合の良い夢ね…」
「レン…!」
エステルが、駆け寄ってくる。
だが、近づかせはしない。
「ごめんエステル。それ以上近づかねーでね?」
導力銃を取り出して、威嚇する。
本当は、こんなことしなくても止まってくれると知っていたけれど。
「アル!?何で…」
それでも。
「わたしはどっちも守りたいから。ほら、レン。寝ぼけてないでしっかりして。」
「…え…」
そして、レンは完全に目を覚ました。
その瞬間、レンは鎌を取り出して飛び退った。
「な…!?何でエステルがこんなところに…!?ううん、違う…何でレンがこんな変な場所にいるの!?」
状況理解は早い。
だから、混乱している。
「れ、レン、落ち着いて聞いて。これには…」
エステルが迂闊にもレンに近づこうとする。
それを見たレンは、一層鎌を強く握りしめた。
「近寄らないで!シエルもよ!それ以上近づいたら殺すわ!」
「分かった。ほら、エステル…ヨシュアも、下がって?じゃないと…普通に殲滅されるよ?」
ヨシュアは、一瞬だけ悔しそうな顔をして下がった。
「…っ…」
こうしないと、レンが誰かを傷つけてしまうかもしれなかった。
それだけは避けたかった。
それを見たレンが、かすれた声で呟いた。
「…何で…シエルはそんなに優しいの…」
優しいわけではない。
ただ、誰にも傷ついてほしくないだけだから。
「可愛い妹分にちょっくら説明出来ないことばっかだから、ちょっと気が動転してるのかも。どう考えてもおかしなメンツばっかだし。何なのこのカオス。」
いつも通りに振る舞って見せれば。
「…うふふ、相変わらずね?」
レンも、落ち着いてくれた。
「だって考えてもみて?こんなクレイジーな場所に星杯騎士に遊撃士、民間人、一国の皇子や王太女までいるよ?どんなクレイジー状況なわけ?説明してくれる?そこのやたらルフィナに似てる人。」
まあ、事実である。
星杯騎士であろう桃色の髪の女性。
遊撃士であるエステル、ヨシュア、シェラザードに、アガット。
更にはジンにアネラスまでいる。
何故かジョゼットにティータもいるし…
オリヴァルトとそのお付きのヴァンダール、クローディアとジークに、ユリアまで。
リシャールもいるようだ。
「ええっと…s」
「あー。じこしょーかいが先か。わたしはアルシェム・シエル。アルでもアルシェムでも好きに呼んでよ。」
ここでストレイ卿、と呼ばれてはかなわないので先に釘を刺しておく。
「…リース・アルジェントです。ルフィナは私の姉になります。…とりあえず、説明しておきますね。」
リースは、アルシェムにかいつまんで説明してくれた。
ここは《影の国》で、何故か取り込まれたこと。
そして、帰る方法がわからないことを。
「…はは…そっか…」
ここが、《影の国》。
この場所が…
「シエル?どうかしたの?」
「…バカみたい。まさか、ここがそうだなんてね。」
何もかもが、バカバカしかった。
どう考えても、ここは…
「《輝く環》は、とっくに回収されてるよ。つまり、まだ生きてる。」
事実を呟けば、エステルが大仰に叫ぶ。
「あ、あんですってー!?」
「アルさん…あなたは一体…!?」
本当に、バカバカしかった。
何故、アルシェムがここまで出てこれなかったのか。
理由は簡単だ。
「これは《輝く環》のサブシステムで、《レクルスの方石》を端末とするシステムの中。誰?こんなバカげた奴に取り込まれる切欠を作った奴。あー、やっぱネギしかいねーか。」
「え?」
「ケビンが…?」
もう、見たくなかった。
ここは、夢の中で嫌というほど見ていたから。
「…どうして、そう思うのですか?」
ここを支えられるだけのエネルギー…
もとい、思念を持った者は少ない。
限られている、と言っても過言ではない。
この中で該当しそうなのは…
「これだけの容量を満たせる奴はネギしかいねーから。で…肝心のネギはどこ?リース。」
「…人事不省中です。」
ということは、聖痕を使わざるを得ない状況になったのだろう。
本当に、バカだ。
「…ヘタレめ。仕方ねーか…先に進むんじゃねーの?連れてってよ。」
「ええ。その…アルさんでないと開けられない扉があるみたいで…こちらからお願いしようと思っていたところです。」
何故にお前が仕切る、クローディア。
「…ふーん…人選、してもいー?」
「え?はい…」
少し考え、そして結論を出す。
「まずリース。わたし、レン。それに…クローディア殿下?」
「何故疑問形なのか聞かせていただきたいところですが…」
「却下。」
このメンツならば、何がばれても大丈夫か。
「…やっぱりですか…」
そして、影の迷宮まで行くと…
そこに、扉があった。
その扉には、文字が記されていた。
「この扉か…まさか、ね。」
そして、アルシェム達は扉を開いた。
その瞬間、アルシェムの視界に映像が広がった。
強いて言うならば、レン・コンプレックス。
そして、本質から外れていく推理と真実。
では、また。