雪の軌跡 作:玻璃
では、どうぞ。
東方人街で、アーティファクトが発見されたという報告を受けた。
アルシェムとリオはメルカバにメルを残し、地上に降りて来ていた。
まあ、他にも色々と仕込みをしているのだが。
「…何故にこんなことに…?」
「アタシだって知りたいんだけど…」
赤い星座と黒月がにらみ合っている。
しかも、どちらも本気のメンバーだ。
勘弁してほしい。
「よくも邪魔してくれたなァ…?」
そう言ったのは、《闘神》バルデル・オルランド。
雰囲気がほぼ人間をやめている。
「それはこちらのセリフですよ。このアーティファクトは私共が見つけたもの。それをいきなり分捕ろうなどと…」
返したのは、ツァオ・リー。
切れ者らしいが、どうでも良い。
「生憎だが、売約済みだ。なァ…?」
「ひっ…!?」
怯える商人。
無理もないだろう。
「おやおや、穏やかではありませんね…」
流石に、民間人に手を出させるのはマズイ。
それに、言質はとった。
「…リオ、行って。」
「あいあい!」
リオは、器用にアーティファクトを法剣で絡め取って回収した。
「…何ですか!?」
「…ほう?」
「アーティファクトって言われちゃ、出て来るしかないよねぇ…全くもう…」
ぼやくな。
それが今回の仕事なんだから。
「ということは、貴女は…」
ツァオが何か言おうとするが、言わせないようにリオは遮った。
「と、言うわけだから貰ってくよ?」
上手い。
「待て。それだと強盗になるよなァ…?」
「強盗?アタシは七耀教会に所属する人間として動いたんだけど…?それは七耀教会に喧嘩を売ってるって解釈で良いのかな?」
「仮にも他人のもんだろうがよ?」
他人のものだろうが、何だろうが。
この世全てのアーティファクトは七耀教会のもの。
それは、どの国家でも自治州でも共通認識だ。
「知らなかったのならご愁傷様、だけどね。知ってて隠してたんなら…ねぇ?」
リオは、大剣型の法剣を構えて見せた。
「ほう…?」
「この人数に張り合う積もりですか?たった1人で…?」
それを見たバルデルとツァオも構えを取る。
「やってみても良いけどね。別にアーティファクトを悪用したわけでもないみたいだし…見逃してあげるよ。」
こらこら、火に油を注ぐな。
「…それはまた。」
「随分とナメた真似してくれるじゃねぇか…?」
まあ、一回叩き潰しておくのも良いかも知れない。
「引いてくれるつもりは…なさそうだね。あーあ、面倒。」
「んだと?」
面倒だけど。
「赤い星座と黒月如きに、手間取ると上が煩いんだよねぇ。」
「…舐めてくれますね。」
「まー、手数は足りないし…手伝って貰おっかな。」
とっっっっても、面倒な状況になってるけど。
「…何?」
出ないわけにはいかない。
まあ、変装済みだが。
「…あっれー?何っでこんなカオス状況で呼ばれるハメになってるのかな?」
「…これはまた、怪しい方を呼びましたね…?」
「仮面たァ、舐めてくれるじゃねぇか…」
変態紳士呼んで来い。
「割ってみたい?」
「…ククク…クハハハハハッ!」
「随分と舐めてくれますね…!」
舐めてないけどね。
この格好だと、手加減する必要がないから楽だ。
「そんなにペロペロしてないけど…ま、やるっきゃないよねぇ。」
「じゃ、やりますかぁ!」
アルシェムは、黒月と赤い星座の出鼻をくじくことにした。
「にっこにっこ、してーいますかぁーっ!」
「「ブハッ!?」」
いきなりのことに彼らが吹いた瞬間。
「喰らえ、インフィニティ・ホーク!」
リオが、クラフトをかました。
「「グハッ!?」」
「赤い星座は任せて!アンタは黒月を!」
「りょーかいっ!はあああああああっ!」
「な…あれは…」
麒麟功です。
が、言わせない。
「にっこにーっ!」
「ブハッ!?」
「ちょっ、真面目にやってよ!」
真面目に呼吸を乱してるだけだよ。
「ストレス発散させてよ!わたしと契約して、ま…」
「言わせません…!」
「間違った。わたしと契約して、魔人化しようよっ!」
してもなれないが。
出来たら外法認定されるから。
「却下です!というか、言い直した意味ありましたか!?」
「あるわけナイチンゲール。」
「や、ヤバい…壊れた…」
失礼な。
呼吸を乱してるだけだ。
「余所見してる暇があるのかァ!」
「あるよ。取り敢えず、七耀の鉄槌を受けといて。…セレスティ・ホーク!」
取り敢えずで出来るモノでもないクラフトを一気にかましてくれちゃいました。
「し、洒落になんねぇぞ…!」
「OHANASHI、しよう?」
肉体言語で。
「断固拒否します!」
「解せぬ。」
「本当に落ち着いてよっ!?」
落ち着いてるよ。
「餅、ついてます。」
実際には、
「ギャアアアアア!?」
「それ違う!餅違うからぁ!」
そんな混沌な状況でも、きっちり敵は排除されていた。
「ふー…」
「あ、有り得ない…この短時間で、しかもここまでふざけた奴に我々がやられるとは…」
「ストレス解消っと。そっちはー?」
まあ、ストレス解消というかなんというか、だが。
「もう終わるよ。」
「んじゃ、任せた。」
黒月は捕縛済みだ。
単純にふざけていただけではないのである。
まあ、リオもそうだが。
「さーて、と。虚無の砲弾!」
「酷ぇぇぇぇぇ!?」
そうして。
赤い星座はぶっ飛ばされましたとさ。
「YES!撤収!」
「あんたもテンションおかしいよね…」
そう、ぼやいていたとき。
「一体…こりゃあ、何の騒ぎだ?」
分かってはいたが、そこに有り得ない人物がいた。
「…げっ、《猟兵王》!?」
「ほう…《闘神》か。ザマぁねぇな。」
「何このカオス。帰っていーかな…」
というか帰りたい。
ここまで来たら、罠にかかったも同然だから。
「ダメだよ。アレもアーティファクト持ちだから。」
「…星杯騎士か。一体何が起きてやがる?」
「アーティファクトの回収だよ。ってわけでアンタも出しなよ。今なら狩らないであげるし。」
「断る。」
即答だった。
まあ、当然だろうが。
「ふーん。断っちゃうんだぁ…」
「出来れば断らないで欲しかったんだけどな、ルドガー・クラウゼル。」
断られたからには仕方がない。
「…ふむ。お前は…」
「あんたの持ってるアーティファクト、結構危険だよ?死んで悪魔に魂を売り飛ばしたいってーなら別だけど。」
「…何?」
実力行使は好みではないのだが。
「出任せなんて言ってないからね。」
「…これを手放すわけにはいかない。」
「奥様が収納されているから、だよね。アタシなら開けられるかも知れないって言っても?」
口から出任せを言ってでも、避けたかったのに。
「かも知れない、ではダメだ。」
「あっそ。んじゃあ、仕方ないか。」
まあでも、戦わない方法はいくらだってある。
リオに合図を出させると…
同時に黒い匣が展開し、リオとアルシェム以外が取り込まれた。
「…へーえ、そうなってんだ…」
そうして、木陰から1人の男が出て来た。
「ありがとうございます。」
「よお、初めまして、だな。」
一応は初めまして、だ。
「…初めまして。わたしは第四位《雪弾》です。以後宜しく。」
それでも、連携はしなくてはならない。
「俺は第二位《匣使い》だ。以後宜しく頼むな。それで…そっちから帝国に人員を回すって聞いたんだが。」
「あー…目立たない方が良いですね?」
「ああ、まぁな。」
彼は、トールズ士官学院の教官をやっているそうだ。
つまりは、その付近への潜入となる。
「え、それってアタシは居残り…」
「そゆこと。こっちからはメルを出すよ。今オーブメント改造してるところだから、通信機能もつけるつもりだけど…」
通信機能に、出来ればもうちょっと欲張って何かを付け加えたい。
オーバルカメラとか、映写機とかどうだろう。
「それ、俺のにも通信機能ってつくのか?暗号化技術付きで?」
「総長がやるってーなら、そーなるんじゃないですか?」
まあ、十中八九そうなるだろうが。
「想定範囲は?」
「ゼムリアの端から端まで?」
「…っはー、やるねぇ。早めに頼むな、嬢ちゃん!」
いや、こっちも仕事があるんで。
「勿論。で…見るのは初めてなんだけど…アレ、中の人達大丈夫なの?」
「あー、暫くしたら出すさ。《猟兵王》のアーティファクトの回収は任せな。」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせて貰いますね。」
押し付けてやる。
その代わり、もうちょっと早めに仕上げてやろうかな。
「なぁに、これで貸し借りなしだ。誰にもマークされてない娘を貸してくれるんだからな。」
「あー…でも、もしかしたらオリヴァルト皇子は推測つけてるかも。そこまで接点は作らせてないけど…」
「ま、そこら辺はうまくやるだろ。んじゃあな!」
そこで、第二位こと、トマス・ライサンダー卿は去っていった。
「はぁ…疲れた。」
「あははは…」
疲れた、というよりもこれから疲れるのだが。
その後一週間はオーブメント開発にかかりきりだったと明記しておく。
大佐は出ません。
タマネギはでません。
では、また。