雪の軌跡   作:玻璃

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前回更新から5日ほど空きました。

ああ、近くに大文字が見える…(遠い目)

では、どうぞ。


パーゼル農園の魔獣退治

家から出ると、時間帯もあってか完全に暗くなっていた。

「うわ~、流石に暗いわね。ねぇヨシュア。どういう風に見回れば良いと思う?」

「そうだね…一通り回ってみようか。」

「じゃあわたしは畑で張ってるよ。ぞろぞろ行っても仕方ねーし。」

というか、目立つと寄ってこない気がする…

「慎重にね。」

「そっちもね。」

そしてアルシェムは畑で張り込み始めた。

暫くして、魔獣の気配が近づいてくる。

「…来た。」

と同時に、エステル達の気配も近づいてくる。

「待ちなさいよ、こらあっ!」

丁度挟み撃ちになる位置にいたので、すぐさま捕まえる。

「捕まえたよー!」

すぐにエステル達は魔獣を攻撃できる態勢を整えた。

「ナイス、アル!後は懲らしめてやるだけね!」

「気を抜かないようにね!」

「てーか、野菜を出来るだけ踏まねーようにね…」

一応、商品なのである。

「はっ!」

「せいっ!」

「…動かないでねー?」

出来る限り傷つけないように、アーツなどを使ってダメにしないように慎重に通常攻撃だけで仕留め、野菜の被害は最小限に留めた。

被害は天晴ニンジン三本。

後で弁償しよう…

魔獣を捕まえた旨をパーゼル家の面々に伝えると、外に出てきた。

「みゃあお~っ…」

「みゅう~っ…」

…泣き声だけは可愛いもんである。

「いやはや、流石遊撃士だ。このすばしっこい連中を見事捕まえてしまうとはね。」

「えへへ、それほどでも。ところでコイツら、どうしよう?」

「ふつーは駆除だけど?」

ま、エステルの言いたいことは分からないでもないけど…

そこまでの責任は持てない。

「そうだよエステル。情けをかけてどうするのさ。僕達は魔獣退治に来たんだよ?」

「で、でも…」

「それに、今の僕達は父さんの代理でもある。次に同じ被害があったら、父さんにどう弁解するつもりだい?」

「うう…そうなんだけどさぁ…」

やっぱり可哀想だとは思うようだ。

ヨシュアはそうは思っていないようだが。

すると、そこでパーゼル家の面々がエステルに助け舟を出した。

「…ま、被害に遭ったのはうちの野菜だけなんだし…見逃しても良いんじゃない?とはおもうけど。」

「そうだねぇ。これだけ痛い目に遭ったら流石に懲りるだろう。むしろやりすぎ…」

「ティオ、ハンナおばさん…」

「ですが…」

尚も言い募ろうとするヨシュアに、おじさんがダメ押しをした。

「…私も殺すのは反対だ。彼らも同じ土地で暮らしている存在だからね。折り合いをつける必要はあると思うよ。ヨシュア君、今回は見逃してくれないかな?」

はあ、と溜め息を吐きたいのを堪えてヨシュアに言う。

「依頼人がこー言ってるんだし、仕方ねーんじゃねーかな。」

「…分かりました。被害に遭われた皆さんがそう仰るのなら。」

「すまないね、折角来てもらったのに。」

申し訳なさそうにしているが、同時にホッとしているようでもあった。

「それじゃ決まりね。…そういうことだから、皆に感謝しなさいよ?今度やったらギタギタのパーにするからねっ!」

エステルの脅しに、ついでに凍るような笑みをプラスしておいてやる。

すると、

「み、み、み、みぎゃああああああっ!?」

と、死ぬほど怯えて魔獣は去って行った。

ごめん魔獣。

怖がらせすぎた。

「さて、これで一件落着だ。今夜はもう遅いから寝るとしよう。君達も是非泊まっていってくれ。」

「はーい。」

「お世話になります。」

「何か済みません…」

ティオの部屋に泊まっても良かったのだが、アルシェムの定位置は屋根裏部屋なのでそこを借りる。

服を緩めて寝ようとすると、真下にいるのかエステル達の声が聞こえた。

「正しいわけじゃない。…ただ、冷たいだけさ。今だって、追いかけて狩るべきだと思ってる。君達と違って、可哀想だとは思わないんだ。…こういう時、自分がたまらなく嫌になる。…人として不完全じゃないかって。はは、心のどこかが壊れてるのかも知れないな…」

そんな告白が、聞こえた。

「ヨシュアのバカっ!勝手に自分のこと決め付けんじゃないわよっ!」

「エ、エステル?」

「この5年間、あたしはヨシュアをずっと見てきた!良いとこも悪いとこも誰よりも知ってる自信がある!多分、ヨシュアよりもね!そのあたしを差し置いて壊れてるなんてふざけたこと絶対言わせないんだからね!」

「…ごめん、バカなこと言った。」

…それが、本音か。

本当は、うすうす気付いているのかも知れない。

でも、認めたくはなかった。

…本当に、ヨシュアが壊されているなんて。

 

 

次の日。

「ありがとう、今回は本当に助かったよ。…悪かったね。中途半端な結果にしてしまって。」

「気にしないで下さい。色々と勉強になりました。また困ったことがあったら遊撃士協会(ギルド)に連絡して下さい。」

にっこり笑ってヨシュアが言う。

昨夜の動揺はもう綺麗に拭い去られていた。

「是非、そうさせてもらうよ。」

「3人共、今度は遊びに来てね。」

「また泊まりがけでおいでよ。ご馳走するからさ。」

御馳走だけは勘弁です。

とは言えずに、無難に言う。

「ありがと、ティオ、おばさん。」

「必ずお邪魔させてもらいます。」

「じゃー、また来ますね。」

そのままエステル達と一緒にミルヒ街道に出た。

「さてと、ギルドに戻ろうか。報告してから次の仕事を紹介して貰おう。」

「おう、合点だ。次もこの調子で行くわよ~っ!」

「わたしもほーこくに行かないとね。」

魔獣を狩りつつロレント市に戻った。

アルシェムにとっては、魔獣はかなり弱い存在になっていた。

一発で仕留められる。

が、エステルはまだまだそういう訳にはいかないようだ。

ヨシュアはエステルに合わせているだけだが。

「あ、メルダースさんのとこ寄っても良いかな?」

「良いわよ。」

「気にしねー。」

何か用があるのか、ヨシュアがそう言うのでメルダース工房に寄る。

「や、新米ブレイサー達。早速活躍してるみたいだね。あちこちで噂を聞くよ。」

「えへへ、そうでもないわよ。」

フライディが、何かを思い出したように言った。

「ああ、丁度良かった。今から依頼を出しに行こうと思ってたんだ。」

「へ?」

「ミルヒ街道のオーブメント灯の交換なんだけど…」

「あ、わたし受けるよ。慣れてるし…良い?エステル、ヨシュア。」

というか、エステルにはちんぷんかんぷんだろう。

アルシェムは一年ほどツァイスに留学していたのでかなり詳しい方だが。

「構わないわよ。」

「そうだね。」

「ありがとう、助かるよ。」

本当に困っていたようで、ホッとした顔をしている。

すると、メルダースがエステル達に声をかけた。

「エステル、ヨシュア。こっちでスロットでも開けてやろうか?」

「あ、お願いします。」

どうやら、エステル達はセピスが溜まったからついでにスロットを開封しに来たようだ。

それにはお構いなくフライディが話す。

「うっかり忘れててさ、本当に今日で期限ギリギリなんだ。ミルヒ街道の第6街道灯をこのオーブメント灯に交換して欲しい。第6ってのは、ロレントから数えてだよ。」

「りょーかいです。」

「ああ、整備パネルの解錠コードは『544818』だからね。魔獣に気を付けて。」

魔獣程度、アルシェムにとっては敵ではないのだが取り敢えず頷いておく。

「りょーかいです。じゃあ、ギルドに寄ってから行きますね。」

「よろしく頼むよ。」

メルダースの方も話が終わったようだ。

エステルが話しかけてきた。

「あ、話終わった?」

「うん、ギルドに行こっか?」

メルダース工房を出てギルドに入る。

すると、アイナが出迎えてくれた。

「ご苦労様。仕事はどうだった?」

「うん、色々あったけど…」

「報告しておきます。」

エステル達はパーゼル農園で起きた出来事について報告した。

アルシェムはしなかったが。

あくまでサポートしかしていないので、報告のしようがないからである。

「成程、魔獣を逃がしたのね。甘いとは思うけど…ま、不問にしておきましょう。」

「え、良いの?」

「遊撃士の使命は人を守り、正義を貫くこと…守り方も正義も星の数だけあるわ。それを見極めるのも仕事よ。」

…正義、ねえ。

正義という大義の名のもとに、何が行われたか知らない人間だけが使う表現だ。

…そんなもの、ありはしないのに。

「成程、随分奥が深いんですね。」

「まあ、魔獣退治だけじゃなく国家間の争いも調停する組織だから。高ランクの遊撃士だと戦闘力以上に総合的な判断力や柔軟な問題解決能力が要求されるのよ。」

「判断力に問題解決能力、かー…」

判断を間違ったら人が死ぬこともある。

問題を解決するのにも、色々な方法がある。

それの最適解を導けるようになれば良いということか…

「ひょえ~…一流への道は険しそうね。」

「ふふ、日々精進あるのみよ。」

そういってアイナは笑った。




遊撃士って、なかなかフリーダムですよね。
お金さえあればいつでも好きな時に好きな依頼が受けられる…

なんだか、生計を立てられるのかが心配です。
まさかそれで人手不足なんじゃ…

そろそろ、ストックをため始めていこうと思います。
時間があれば、ね。

ご意見感想お待ちしています。
要望に応えられるかどうかは別ですが(笑)

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