雪の軌跡 作:玻璃
では、どうぞ。
驚愕から先に復活したのは、意外にもクローディアだった。
「な…貴男は…」
「…ベルガー少尉!?」
そう言えば、陛下は知らなかったのだった。
ロランス・ベルガーの正体が、レオンハルトであったと。
「…一応補足しておくが、名はレオンハルト・アストレイ。わたしの部下であり、ヒーナの夫でもある。」
「お、夫!?」
正式に結婚式を挙げたわけでもないから、夫というのは語弊があるのだが。
まあ、近いうちにそうなるだろう。
先にしても良かったのだが…
エステルとヨシュアにバレるまでは、挙げられない。
一応、死んだことになっているから。
「あ、あの…レーヴェさん?吹っ切れたんですか…?というか、どうやって生き延びたんですか!?」
まあ、『ヒーナ』がカリンであると気付いていない人もいるが。
考えれば、分かるはずなのだ。
『ヒーナ・クヴィッテ』。
これは、果実の名。
分かりやすく言うならば、『カリン』である。
「企業秘密、とさせていただく。」
メルカバに乗って脱出しました、とは言えない。
どうやってメルカバを動かしたのかを言うわけにもいかなかったから。
「そう…ですか…」
方法が分かれば、他にも生き延びている可能性があるとでも思ったのだろうか。
だから、答えを与えてやることにした。
「…ああ、そうだ殿下。1つ伝言を預かっている。」
「伝言…?」
「探さねーで、生きてるから。だ、そうだ。銀髪の少女からだ、といえば通じるか?」
気にしていることが丸わかりだ。
別に、気にしてくれなくても良いのに。
かつて自らの命を狙った人間を心配するとはこれいかに。
「…っ!ありがとうございます…アルさん…生きてるんですね…!」
「リベールには暫く近付かないそうだから、追わない方が良いだろうな。それで…如何なさる、陛下。」
「…こちらのメリットは、不慮の事態に対応出来る存在がいる、ということにしかなりません。」
分かっていないな。
落ち着いて考えればわかるはずだ。
「…帝国への切り札にはなる。何せ、《ハーメル》の生き証人だ。それに…各国への弱味も握っている。あげればキリがないが?」
カリン・アストレイは《ハーメル》の生き残りである。
そして、アルシェム付きになる前はアイン付きとして色々な事件に関わった…
らしい。
レオンハルト・アストレイは《ハーメル》の生き残りである。
執行者時代に、色々と国の裏側を見て来た。
特に、あの時のものならば各国を脅す材料にはなる。
まあ、あの時の件の適任はメルとアルシェムなのだが。
「…では、そちらには何の得が?」
「リベールの新鮮な情報が手に入ること、だな。特にカシウス・ブライトの情報が手に入るのが旨かった…のだが。カシウス氏は暫くは軍属のようだから、ブライト家が動く情報なども魅力だ。他は…そうだな。私情を挟んでいるのかも知れん。」
…少しだけ、本音が出てしまった。
誤魔化す必要がありそうだ。
「…やはり、あなたは…」
「陛下。わたしは陛下の考えている人間ではないよ。」
アルシェム・シエルではないと。
そう、宣言して。
「…そうですか…」
納得は、していないようだが。
納得させなければならない。
「個人的に、リベールの雰囲気は好きだから、それだけだな。」
「ふふ、ありがとうございます。」
「で、どうかな?」
受け入れてはくれるだろう。
受け入れない理由がないのだから。
「…彼らを特殊部隊として、受け入れます。」
「そうか…不甲斐ないところもあるだろうが、宜しく頼む。」
「ああ、そうそう…1つ、相談に乗っていただけます?」
そう言って、アリシア女王はいたずらを思いついたような顔をした。
「役に立てることは少ないが…」
「特殊部隊の名前を、一緒に考えて欲しいんです。」
「…ふむ。東方の諺に、天に住まわば比翼の鳥となり、地に住まわば連理の枝となるという諺がある。そうありたいものだな。」
リベールとの関係も。
そして…
カリンと、レオンハルトの関係も。
「切っても切れないもの、運命共同体、ですか…」
「わたしは、比翼の鳥を押すが。」
地に根差す枝よりは…
空を舞う、鳥であれ。
そう、思った。
「そうですね。そうしましょう。…ありがとうございます。これからお願いいたしますね?」
「宜しく頼む。…くれぐれも、粗相の無いようにな?」
「委細承知。」
暫く雇用条件などを詰めて、正式に契約は終わった。
アルシェムは、1人でメルカバに戻った。
その後。
「…あ、忘れてた。」
ルシオラを叩き起こし、司法取引したうえでクロスベルにでも放り込んでおくことにした。
まあ、どうでも良いので割愛させて貰う。
おけました。
ここで、SC編は終了です。
だがしかしBut。
空白期のお話を入れようと思います。
では、また。