雪の軌跡   作:玻璃

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脱出できるの?
しますから。

では、どうぞ。


脱出と陰謀

エステル達を見送って。

最早動かない身体を、必死に鞭打って。

「…本格的にヤバいかな…」

そう、独白した。

もう、気力が尽きかけていたから。

だから、気付かなかった。

「なら、最初からメルカバで脱出しろ。」

「…レオン兄?何で…」

そこに、いるはずがないのに。

そこに、レオンハルトがいた。

「具合が悪そうだったからな。無理を言って迎えに来た。」

「…ありがと。それは良いんだけど…何でルシオラ?」

「落ちていたからな。」

そういう問題でもない気がする。

アルシェムは、レオンハルトに抱えられてメルカバで脱出した。

ルシオラに三日は目の覚めない睡眠薬と栄養を入れる意味でも点滴を施し、操縦室で会議をする。

「さてと…カリン姉、レオン兄。アルテリアに行ってから王城に向かうよ。」

「…暫くのお別れね…」

「話が読めないんだが。」

読めよ。

「レオン兄には、わたしの指揮下に入って貰うの。リベールに罪滅ぼし、してよね?」

「…何?」

「リベールに貸しを作るんだよ。カリン姉に、レオン兄っていう最高の戦力付きでね。」

《ハーメル》の生き証人。

エレボニアにとっては、脅威。

だからこそ、リベールに託す。

リベールならば酷使しないだろうと信じて。

「…成る程。切り札、というわけか…」

「事後承諾で悪いね、レオン兄。」

「…いや、犯罪者として自首するつもりだったからな…有り難い。」

する気だったのか。

律儀な。

「そー言ってくれると有り難いよ。というわけでメル、通信繋いで。」

「はい。」

通信がつながると、不敵な笑みを浮かべたアインが映し出された。

「…シエルか。」

「今はエル・ストレイだよアイン。…見ての通り、《剣帝》は確保した。」

こんな言い方になるのは赦してほしい。

だけど、これ以外に言い方がない。

「よくやった。さて、《剣帝》ドノ?」

「…レオンハルトだ。」

「ではレーヴェ。貴殿を守護騎士第四位《雪弾》エル・ストレイの従騎士に任じる。略式ではあるが、これは正式な任命だ。」

いきなりレーヴェ呼ばわりですかい。

「…謹んで、拝命する。」

そう言ったレオンハルトに対して…

アインは、爆弾発言をかました。

「ああ、これからはレオンハルト・アストレイと名乗るが良い。」

「はっ!?」

「ちょ、ちょっと総長?」

顔を真っ赤にして動揺するカリンとレオンハルト。

落ち着けよ。

「何なら、レオンハルト・セルナートでも構わないが…」

「語呂悪いよ…」

韻を踏んでいるつもりなのだろうが、何だかしっくりこない。

「まあ、可愛い後輩の番を取るほど腐っちゃいないさ。」

「…カリンが、赦してくれるなら…」

「あら、レーヴェは私と結婚したくないの?」

小悪魔な笑みを浮かべて、カリンはにっこりと笑った。

「っ!?」

それに、レオンハルトはあっさりと堕ちた。

それで良いのか。

「あんまり苛めてやんないでよ、カリン姉?」

「分かってるわよ。」

カリンが、まあでも暫くは苛めるかもしれないけど、と心の中で付け加えていたのはさておき。

「兎に角、ありがとー、アイン。後、《輝く環》だけど…」

「確保できたのか?」

「もち。今から届けに行くよ。」

メルカバでアルテリアへと向かう。

あまり時間もかからず、かつ立てるようになったところで到着した。

「アイン。」

出迎えに来ていたアインに《輝く環》を手渡す。

「よくやった、エル。後はリベールだな。」

「うん。今からやろうかなって。」

「そうか…くれぐれも、正体をバラさないようにな。」

…まだダメか。

「変装するよ、全く…」

面倒だが、仕方がない。

今度は、髪を少し短くして男のように。

『シエル』として使っていたものとは違う仮面を用意して。

いつものプリーツキュロットから、男用の法衣に着替える。

「…何で男用なの?」

「流石に『アルシェム』だと気付かせないようにしないといけないしね。」

「まあ、違和感はありませんよね…」

「何か言った、メル?」

胸を見ながら言うな。

流石に傷つくから。

そうこうしているうちに、女王宮上空へと戻ってきた。

アルシェム、レオンハルト、カリンが静かに降下し、中の様子をうかがう。

「…そうですか…アルシェムさんが…」

「まだ見つかったという報告は来ていません…」

悔しそうに、報告するユリア。

どっちの意味で悔しいのかはさておき。

彼女がいると流石に話が面倒だ。

「…分かりました。以降も捜索を続けて下さい。」

「はっ。では、失礼致します。」

ユリアが去ったところで…

侵入することにした。

「…ふう…」

「…おばあ様…アルさんは、見つかりますよね…?」

「まだ、分かりません。」

「…そう、ですよね…」

落ち込むクローディアの背後に立って、カリンがこう零した。

「全くですよ、もう…」

カリンの背後には、帽子をかぶせられたレオンハルトと変装アルシェムが佇む。

「…え?」

「貴女は…」

驚かなかっただけマシか。

「申し訳ありません、陛下。少しばかり内密の用事がありまして…不法侵入させていただきました。」

「…ヒーナ、さん?」

「…用事とは、何ですか?」

交渉は、まずカリンから。

どうも、ルフィナに仕込まれたらしい。

「…《輝く環》は当方が確保し、封印処理をさせていただきました。」

「え…」

「…そうですか。ありがとうございます。」

ここからが本題。

「ですが、完全に全てを回収しきるのは不可能かと存じます。」

「あの巨大な建造物を全て回収するのは無謀ですものね…それと、後ろの方々とはどのようなご関係が?」

「…それについては、私の上司から説明申し上げます。」

そこで、カリンが話をアルシェムに譲った。

だから、アルシェムは普段絶対にしない口調と声色を使ってゆっくりと話し始めた。

「…お初にお目にかかる、アリシア女王陛下。クローディア王太女殿下。故あって名と顔は明かせないが、ヒーナの上司だ。」

「初めまして、ヒーナさんの上司の方。私は…」

「そちらの紹介の必要はない。今日は提案があって来た。早速本題に入りたいのだが…宜しいかな?」

モデルは、真面目なオリヴァルト。

分かりやすい。

「…ええ。どのようなご提案ですか?」

「不慮の事態に備え、我が部下達をリベールに滞在させる許可が欲しい。」

「それは…」

内政干渉になる、そう言いたいのだろう。

だが、こちらは内政に干渉するつもりはない。

「無理に、とは言わないが…そうだな、要人の護衛などには向いているのではないかな。」

「…その、部下の方は…どなたです?」

「…そこにいるヒーナ・クヴィッテ。そして、この男だ。」

アルシェムの合図で、ばつの悪そうな顔をしたレオンハルトが帽子を脱いだ。

その場に、沈黙の帳が下りた。




犯罪者に寛大すぎるリベールだからこそできること。
そして、未来への布石。
軌跡がどう続くのかによって、変えざるを得ない一滴のしずく。
運命を、変えるために。

では、また。

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