雪の軌跡 作:玻璃
崩れ去るものは、決してなくなるわけではないのだ。
では、どうぞ。
全力で、動き続けて。
そして、ヒーナの法術で止めを刺された巨大ワイスマン。
「はぁはぁ…」
「や、やりましたか…?」
それでも、追い打ちをかける。
そうでもしないと、気が済まなかったから。
「いや、殿下。それフラグだから。…ヨシュア。」
「何だい、アル?」
「最後に、見たくないもの見せるよ。…ごめんね。」
双剣を、抜く。
これを抜くのは、純粋に『アルシェム』として殺すときだけだと決めたから。
「あ…」
「さあ…終わらせるよ、ワイスマン。」
巨大ワイスマンの首を飛ばすと、ワイスマンは人間に戻った。
「バカな…まだ…まだ負けてはいない…!」
錯乱しながら、ワイスマンは逃走した。
「…!逃げた!?」
「追うぞ、ヒーナ!」
「はい、レーヴェ!」
相思相愛なこって。
「…え…?な、何がどうなってそうなってんの!?」
弁明も面倒だったので、アルシェムも後を追うことにした。
どうせ《輝く環》はまだ確保できてはいないのだから。
ヒーナ達と合流し、ワイスマンを探す。
「…いたね。」
見つけた場所には、既に《外法狩り》とリオがいた。
はえーよネギ。
「…塩の杭、やっぱ1つしかないか…」
「…リオ…」
不意打ちでケビンが塩の杭を撃ち込み。
そして…
「…クク…こんな不意打ちで私がどうにかなるとでも…!?」
リオが、法剣を振りかぶる。
「え、まだ終わってへんねんけど…?」
「何っ…」
「インフィニティ・ホーク!」
巨大な金属片がワイスマンを蹂躙した。
「がふっ…ま、まさか…」
「いやー、油断って怖いよね、ネギ上司♪」
正確には上司ではない。
だが、上の立場なのに変わりはなかった。
「誰がネギやねん、誰が!」
「ケビン神父。」
「ぐはっ…かなり傷付くんやけど…」
そんなコントを繰り広げる隣で。
崩れる体を見て戦慄するワイスマンが叫んだ。
「これは…塩の杭、だと…っ!?バカな…この私が従騎士如きに…!」
「あー、」
「かさたなはまやらわ。お黙りネギ上司。」
ナイス、リオ。
何いきなり立場をばらそうとしているんだ。
『ワイスマンは従騎士如きにやられました』で、良いじゃないか。
正体を明かす必要が何処にある。
そこに、不審者が近づきつつあるというのに。
「なあ、どっちが上司なん今の状態!?」
「いやいや、気を抜いたらダメなんだって。…七耀の鉄槌を受けてっ!セレスティ・ホーク!」
リオが、いきなりクラフトを発動させた。
「いきなり何しとんの…って、あんたは…!」
そこにいたのは…
「いきなり酷いじゃないか!?何するのさ。」
執行者No.0《道化師》カンパネルラ。
通称、UMA。
冗談です。
目くばせで、レオンハルトを接近させる。
ついでにアルシェムも隠形で接近する。
「ヨシュア君と同等くらいって言うから倒せるかと思ったけど…幻術だよね、それ。」
「よく分かったじゃないか。でも…今はお使いの途中なんだよね♪」
そう、カンパネルラが言った瞬間。
「…黙れUMA。鬼炎斬…!」
レオンハルトがクラフトを発動させ。
それに紛れてアルシェムが《輝く環》を確保した。
「な…れ、レーヴェ…!?」
「フン。不甲斐ないな、ネギ。」
「だから何でネギなん!?ちょい酷ないか!?」
塩を大量に掛けた後のシナシナの青菜にしてやろうか。
そこで、カンパネルラが気付いた。
…気付かなければよかったのに。
「…っ!?い、いつの間に…」
「…光が、消えとる。」
って、ネギ。
あんたも分かってなかったのかい。
「…うふふ…あははははっ!こういうのを骨折り損のボキボキ儲けっていうんだっけ!?」
それ、死ぬから。
何にも儲けてないから。
「骨折り損の草臥れ儲け、だよね?」
「…ま、まあ良いや。うふふ…それではまたの機会に。」
「好きにせいや。次は滅したる…」
消えていくカンパネルラに対して独白するケビン。
「うーわ、痛い人。」
「何かさっきからオレの扱い酷ないか!?」
事実である。
「え、だってネギだし?」
「しくしく…」
コントはそのくらいにしてもらって。
「ネギ、確保出来てるよ♪」
「…って、アルちゃん!?」
どっから!?
と言わないだけマシか。
予測は出来てるだろうから。
「《輝く環》、確保したよ。」
「…そうか。んじゃ、後は脱出やな。」
「早くアルセイユ組と合流しないと…」
この人数で合流するのは流石に目立つ。
なので、行方不明になっていて欲しい人間とそうでない人間にわけることにした。
「…カリン姉とレオン兄、リオはメルと一緒に脱出ね。ケビンとわたしは一緒にアルセイユで。」
「了解っ!」
カリンとレオンハルト、リオはメルカバのもとへと駆けて行った。
早いなオイ。
そんな彼らを尻目に、ケビンとアルシェムはアルセイユ組と合流した。
暫くは駆けていても大丈夫だったのだが…
流石に、崩れる中で分断されない、というのは有り得なかった。
ケビンは先に行った。
だが、アルシェムはまだそこまで速く走ることは出来なかった。
だから、しんがりを務めていた。
バランスを崩したヨシュアの速度が落ちて…
そして。
「…っ!崩れる…!」
「走ってエステルっ!」
「え…」
通路が、崩れる。
前の集団に追いつくことは出来なくて。
「うわー…何でまた取り残されちゃうかなぁ…」
「エステル、大丈夫!?」
「うん、何とか。」
分断、されてしまった。
「皆ー。迂回道探すから、先行ってて。」
「…ちゃんと帰ってくるのよ!」
「あったりまえよ!行くわよ、ヨシュア、アル!」
「うん。」
迂回道を探して、走る。
ヨシュアは少し遅れるだけで済んでいたが、アルシェムはそうではなかった。
「…って、これ…」
「どうかした?」
崩れるスピードが上がってしまっている。
ここに、《輝く環》があるというのに。
「本格的にヤバいかな。急ぐよ…!」
「うん!」
だが、もう…
ダメだった。
エステル達が駆け抜けた橋が…
落ちる。
「…ヨシュア、エステルのこと…頼んだからね。」
「…アル?」
遅れ気味だったヨシュアを突き飛ばして。
「…うわっ!?何するのさアル…っ!?」
アルシェムは、空中都市のど真ん中に取り残された。
「…あは、流石にこれは…生き残れないんじゃないかな…わたし…」
最早、道はない。
道があったとしても…
アルシェムは、もう立てなかった。
「アルっ!?ちょっと、しっかりしなさいよ!どこかに道は…!」
「…ダメなの。」
言ってもきっと分かってもらえない。
だけど、諦めてくれるような人間じゃないから。
「…行ってよ、エステル、ヨシュア。」
だから、こう言うしかない。
「アル…」
「…最後まで、足掻くからさ…だから…だから、行ってよ…お願い。」
生き残ってくれなくては、流石にカシウスにぶっ殺される。
「…諦めないでよ…!?」
「分かってるよ。大丈夫。だから、行って…!」
「約束なんだからね…!」
そう言って、エステル達は走り去った。
え、死ぬの?
そんなわけないじゃない。
では、また。