雪の軌跡   作:玻璃

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代償はある。
だけど、支配力は?

では、どうぞ。


暗示の代償

昇降機でワイスマンの下へと、向かう。

「…いた!」

駆け付けたアルシェムを見て、ワイスマンの顔が驚愕で歪む。

「…バカな…暗示が効いていないだと…!?」

「いや、効いてたけど?」

まあ、少しくらいはまだ残っていた、というのが本当のところだ。

「ならば何故正気でいられる…!?」

「さー。性格ねじ曲がってるんじゃねーの?」

ワイスマンと同じように。

「バカな…っ!ならば…!」

「何する気!?」

くわっと目を見開いて、気合十分にヨシュアを呼びつけた。

「おいで、ヨシュア…!」

「…薔薇な人?」

「アルさん、頼みますから黙っててください…」

笑い事でもなんでもない。

ヨシュアは、まだ操られたままだったのだから。

「ヨシュア…!?ちょっと…あんた、ヨシュアに何してんのよ…!?」

「ふふ…フハハハハハっ…!さあ、ヨシュア。エステル君をその手で葬りたまえ…!」

「ヨシュア、しっかりしてよ…あたしが分かんないの…?」

返事はない。

ただの人形のようだ。

「…分かった。あたしがヨシュアを止めるんだから…!」

「ヘッ、エステルだけに任せられるか!」

「私も手伝います!」

意気込みしたメンツに、気持ち悪い笑みを浮かべたワイスマンが言葉を放った。

 

「無粋な真似は止めたまえ。」

 

そうして。

魔眼で、エステル以外が縛られた。

「…っ!」

「ぐっ…」

「…魔眼かー…バッカじゃねーの…?わたしが…この、わたしがッ!何の対策もしてないとでも思ってた!?」

気合で、魔眼を破って。

それが、唯一の隙となってしまった。

「アル!」

「エステル!よそ見してる場合じゃ…」

「…っ!」

その隙に、ヨシュアはエステルを押し倒した。

「ヨシュア。目を…覚まして。」

返事は、ない。

「…ヨシュア…ごめん…一緒に歩くって…約束、したのに…」

「さあ、やりたまえ。」

「…ヨシュア…悲しまないでね…」

辞世の句を読んでるっぽいエステルは気付いていない。

ヨシュアの瞳に、光が戻ったことに。

「ちぇすとぉぉ。」

「へぶっ!?」

やすやすと操られたヨシュアに活を入れて。

そして…

「ちょ、アル!?」

「ゴー!」

ヨシュアとアルシェムは、ワイスマンに突撃した。

「…やっぱりダメか。」

「はっは、一発で殺せたら凄すぎるでしょーに。」

腐っても、《面白》でも、彼は使徒なのだ。

「な、何故だ…何故暗示が…っ!」

ヨシュアの暗示が完全にキレてしまったせいで。

…アルシェムの暗示が、強まった。

「…ヨシュア…止めてね?」

「え…」

「暗示…切れてない…から…っ!」

アルシェムの目が虚ろになる。

そして…

「アル…!?」

アルシェムは、あらぬ方向に発砲した。

「…避けて…」

「…くっ!」

それすらも、最後のあがきだったのに。

「く…クックック…効いていないはずがないのだ…!さあシエル…君の家族を君の手で葬りたまえ!」

ワイスマンは、馬鹿なことを言った。

 

それではアルシェムは動かない。

 

「な…何故動かない…!」

「それは簡単よ。」

ワイスマンの混乱に、答える者がいた。

「お、お前は…」

「ヒーナさん?」

ヒーナ・クヴィッテ。

またの名を、カリン・アストレイ。

『エル』の家族を知り、『シエル』の家族を知り、『アルシェム』の家族を知るもの。

「アルシェム・シエルにとっての家族は、ここにはいないから。」

「どういう事だ…!」

それが、真実だった。

 

「言葉通りの意味よ。アルシェム・シエルはアルシェム・ブライトではない。つまりはエステルさんの家族ではない。アルシェム・シエルはシエル・アストレイではない。…つまりは、ヨシュア・アストレイの家族でもない。アガットさんも、王太女殿下も、アルシェム・シエルの家族ではない。…分かりましたか?《面白》のワイスマン。」

 

エステル・ブライト並びにカシウス・ブライト。

ブライト籍を抜けたときに、家族というくくりからは外した。

 

ヨシュア・アストレイ並びにカリン・アストレイ。

《ハーメル》から追放されたときに、家族というくくりからは外した。

 

他に、アルシェムの『家族』はいない。

 

例えいたのだとしても、その人物は既に…

「…な…」

「ああそれと。アルシェムはブライトに引き取られた際にアルテリアに護送されています。その際に貴男の小細工に手を加えさせていただきました。」

「ば、バカな…!?」

動揺したことで、魔眼が完全に解けた。

ついでに暗示も完全に解けた。

「か、金縛りが解けただと…!?」

「や、確かにそれはバカな、だけどさー。」

「何故だ…何故…!?」

ワイスマンは、知っていて言ったのだろうか。

アルシェムの、『家族』について。

「ね、ワイスマン。知ってる…?わたしの両親。」

「知るわけがないだろう!お前は盟主から…」

「ならさ、盟主なら知ってるかな?」

知っているのか、否か。

それだけが知りたかった。

知っている人物がいるかもしれない、というのは、少しだけ希望になった。

「仮に知っていたとして…っ!?」

「あっそ。じゃあ、もう良いや。消えてよ、ワイスマン。」

何処までも空虚な笑みを浮かべるアルシェムに、ワイスマンは戦慄した。

「何だ…お前は…お前は何なんだ!?」

これが、年端もいかぬはずの少女が出来る顔なのかと。

あの時のヨシュアでさえ、もっと感情のある顔をしていたというのに。

「あはっ…滑稽だね、ワイスマン?小娘如きに怯えてさ…?」

「くっ…か、かくなる上は…っ!」

その、恐怖で。

ワイスマンは、やる予定のなかったことをやらかした。

それが、自らの破滅につながるとも思わずに。




チート万歳。

では、また。

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