雪の軌跡 作:玻璃
いいえ、偏愛でしょうか。
とにかく、この人です。
では、どうぞ。
やはり、レオンハルトだった。
「…いたね。」
「いるわね…」
「ドラギオンは…ま、いーか。」
排除しなくても、味方にしてしまえば良い。
レオンハルトを説得できれば、それで良いのだから。
「…え?」
だから、アルシェムはカリンの手を引いてレオンハルトの前に出た。
「レオン兄。」
「…早かったな。誰を連れて…何?」
「どうかした?」
早い。
ヨシュアとは違って、気付くのも早い。
やはり、追い続けていたのはカリンそのものだったのだ。
「…バカげたことは止めろ。幻術で惑わすつもりなのだろうが、そうはいかない…!」
「あら、勝手に幻術にしちゃうの、レーヴェ。残念ながら、本人なんだけど…」
そもそも、アルシェムには幻術は使えないのだが。
「バカな。生きているはずがない…!」
「酷いわ、本当に。いつ誰が私を殺したと思っているの?」
「カリンはそこの女が殺したはずだ…!」
ケルンバイターの切っ先を、アルシェムに向けて。
幻影だろうが、カリンに剣を向けることは出来ないようだ。
「…ふーん?」
「え、ちょ、カリン姉?」
「やっぱり私に縛られてたのね、このおバカは。」
「わ、だ、ダメだって…!」
お願いだからその針っぽい法剣抜くの止めて!
知覚できない速度で振られると影すら見えなくて危険すぎるから!
「…ねぇ、レーヴェ?何なら今からエルすら知らないレーヴェの弱点バラすわよ?良いのかしら…?」
「お前になど分かるわけがない。」
自信満々に言い切るが、それは悪手だ。
彼女こそが、カリン・アストレイなのだから。
「…脇腹。」
「…(ピクッ)」
口の端が、わずかに動く。
「実は全力でこそばいのが苦手。」
「…(ビクッ)」
剣の切っ先が、揺れる。
そして…
「実は幼なじみ束縛系の官能小説を大量に…」
「おい、何故知っている!?」
え、そんなの持ってたんだ。
「誰がレーヴェの部屋を掃除していたと思って?」
「むぐぅ…」
アルシェムすら知らないことを、カリンは言った。
レオンハルトにも、通じれば良いが…
「…ぶっ…あ、あはははは…」
「何故笑う!?」
「い、いや、可愛い…あはははは!」
まさか真面目そうな顔をしてそんな…
ねえ?
「可愛い言うな!」
「…後は、一冊だけおと…」
「言わせん!言わせんぞ!」
おと…
何だろうか。
「…信じたかしら?」
「…ああ。…済まなかった…」
どうやら、信じてくれたようだ。
「何で謝るの?」
「…お前を、守れなかった…シエルなんぞに任せてしまって…エルならば救いは…」
その言葉に、カリンが切れた。
「…レーヴェ、正座。」
「…は?」
「正座っ!」
「はい、喜んで!」
わーお、尻に敷かれてる。
10年ぶりだというのに。
「…空の女神の名において聖別されし七耀、ここに在り。識の銀耀、時の黒耀、その相克をもって彼の者に打ち込まれし楔、ここに抜き取らん…」
って、ちょっと待てぇ。
「…な…に…?」
「…え、マジでやっちゃった?」
「私、怒ってますから。」
いや、怒ってるとかじゃなくて。
「いやいやいや…そういう問題じゃねーから…」
確証もなくやるなっての。
「バカな…じゃあ…エルは…エルは…っ!」
「ほら、錯乱したじゃねーの…」
「レーヴェにじゃないわ。そこにいるんでしょう、《面白》のワイスマン!」
面白。
いや、《白面》ですから。
柱の陰から、《白面》が現れた。
スタンバイ、お疲れ様でーす。
「《白面》のワイスマンだ…」
「突っ込まなくていーから。」
心の中では突っ込んだけれども。
「クックックックック…」
「コケコッコ?」
「フハハハハハっ!」
疲れでどうも頭がイッちまっているらしい。
「壊れたよこの人。」
「…まさか、生きていたとは思わなかったよ…カリン・アストレイ。」
「軽々しく名前を口にしないで下さいこの変態。土に還りなさい。」
酷ぇ。
まあ、変態であることに代わりはないが。
「フフ…さて、シエル。戻ってくる気になったのかな…?」
「…誰が、戻ると思う?…カリン姉、そこのおバカと一緒に下がって…!」
兎に角、ぶん殴りたい。
何が何でも…!
そう、思っていたのに。
「…クク…戻って来ざるを得ないさ…!」
「…これ…は…っ!」
アルシェムの瞳から、光が消えた。
そして、一気にレオンハルト達から距離を取る。
「エルっ!?」
「教授…」
「…君を組み上げたのは私だ。滑稽な玩具だよ全く。」
ワイスマンはアルシェムの髪を撫でた。
アルシェムは、微動だにしない。
そんな『命令』は受けていないから。
それに…
「…教授…貴様っ!」
「レーヴェ、落ち着いて。」
「しかし、カリン…!」
アルシェムの行動は、縛られているわけではない。
だから、無駄なのだ。
「エルを変態から引き離して。そうしたら、何とかするから…!」
「…分かった。…おおっ!」
「シエル。カリンを殺し、レーヴェを殺せ。」
こんな命令をされたとしても。
「ワイスマンっ…!」
ワイスマンは、そのまま去って行った。
あるいは、ヨシュアに姿を見せないためだったのかもしれない。
エステル達が、駆けつけていたのだから。
「アルっ!?」
「エステルさん…!」
「一体、どうなってるの?」
ワイスマンの気配が結構離れたことを確認して。
アルシェムは、溜息を吐いた。
「…どーもなってないよ?」
「…は?」
「いやー、マジでバカだね、ワイスマン。ぬっ殺してきていー?」
割と本気で。
「ダメですよ、アルシェムさん。」
「えー。」
まあ、最後はネギ氏に任せるけども。
「れ、レーヴェ…」
「どうした、ヨシュア。」
「レーヴェは…まだ、戦う気なの…?」
不安そうな目で、ヨシュアがレオンハルトに問いかける。
「今のところお前とは戦う気はないな。」
「え…?」
「取り敢えず教授を何とかしてからだ。」
その後ならば、いくらでも時間があると信じて。
「じゃあ、これからは一緒にいられる…?」
「そこまでは保証出来ないな。流石に甘やかしすぎたか?」
「え…」
地味に傷ついた目すんな。
このブラコンめ。
「いーかげん、義兄離れしろっての。」
「…そうだね。」
捨てられた犬じゃないんだから。
「さて、俺は先に進むが…お前達はどうする?」
「この先に、ワイスマンはいるのよね?」
「そうだ。」
今更なことを、言わなくても良いのに。
「…進むわよ、勿論ね。」
「…ほう?」
「乙女の純情を弄びまくったツケを払わせてやるわっ!」
…え。
「…乙女?純情?似合わねー…」
まあ、女子らしくなったといえばそうなのだが。
「う、うるさいわよそこっ!?」
決戦前の空気は、少しだけ和らいでいた。
フラグ。
クラゲ、じゃなかった。フラゲ。
どんな毛なんだ…(意味深
では、また。