雪の軌跡 作:玻璃
あしからず。
では、どうぞ。
「…違うんですよね、アルシェム。」
メルの一言が、やけに響いた。
「…メル?」
「正直に言ってあげて下さい。アルシェム・シエルはカリン・アストレイを危険な目に遭わせたくないんだって。」
…それは。
「…それ、は…」
「そうなんでしょう?」
気付いていた。
分かっていた。
だけど、見て見ぬふりをした。
だから、決めた。
「…違うよ。もう、わたしに縛られて欲しくないんだ。例え少しでも、わたしから解放されるなら…」
それで、良い。
そう、思ったのに。
「…全く。ここにいる誰もエルに縛られているなんて考えていないわよ。そりゃあ、任務はいきなりだし、無茶振りもあるけれど…貴女は間違ってなんかいないんだから。」
間違っていないのだと、言われて。
少しだけ、泣きそうになった。
「カリン姉…」
「だから、私に気を遣わなくたって良いの。」
優しい優しいカリン。
だけど、それを受け入れられるような人間じゃないから。
「…いや、気を遣ったんじゃないんだ。消去法だよ。…レオン兄を任せられるのは、カリン姉しかいないんだ。」
「…そうね。」
あの大馬鹿者は、手におえないだろうから。
「それに、言い方は悪いけど、《ハーメル》を追及しやすいのはリベールだ。伏兵ってのもある。…分かって欲しい。」
「あー、はいはい。分かったわよ。あの馬鹿を捕まえに行かないといけないわね。」
「そ。多分ゴスペルが鍵なんだろうけど…もしかしたら、フリーパスかも。兎に角、行こ。リオは別ルートね。」
メルカバから出て、道をガン無視して進む。
リオは既に別の方向から中央の塔へと向かっていた。
進むうちに、紅い飛空艇を見つけてしまった。
「あ、グロリアス。」
「落とすの?」
気配を探り、色々と仕掛けられるかどうかを確かめる。
…いけそうだ。
「…執行者はゼロか。うん落とす。ただし、民間人が乗ってるみてーだから降ろしてからね。」
「…どうやって落とすのかしら、これ。」
「ん?爆破。」
「…ぶ、物騒過ぎない…?」
失礼な。
爆破以外でどうやってこれを処分すれば良いのさ。
そうこうしている間に、設置が終わる。
そこに早くもエステル達が到着したようだ。
「…エル。エステルさん達が…」
「早いね。…仕方ない、救出が終わるまで外で待機かな。」
エステル達が民間人を…
って、カプア一家か。
何してるんだか。
「よし、んじゃ始めるよ。」
「ええ…」
爆発音とともに、グロリアスが墜落し始めていく。
壮観だ。
「楽勝♪」
「あ、あははは…」
「進むよー。」
「む、無茶苦茶ね…」
中枢にある塔まで来たが、どうも中は危険がいっぱいのようだ。
「登るのは辛そうね…」
だから、別の意味でのぼることにした。
「あ、出入り口発見。」
「え、ここ以外のを見つけたの?」
「ほら、アレ。」
アルシェムが指差す先は、塔の天辺。
「…あ、アレ、ですか…」
最早出入り口ですらない。
「あっちはダメだから…よし、ここから。」
アルシェムの手から、鋼糸が放たれる。
上手く頂上付近に引っかかるのも不思議だが。
「む、無理よ…」
「無理とか、無茶とか、言ってる場合じゃねーからね。はい、掴まってー。」
「は、はあ…」
アルシェムに捕まるカリン。
若干怯えたカリンに、アルシェムはこう言い放った。
「声出さずに、舌噛まないでね。」
「え、ちょっ…」
「よいしょっと。」
鋼糸を引くと、急上昇を始めた。
「~~~~~~っ!?」
どんどんとアルシェムの手元に巻き取られていく鋼糸。
だが…
この道は、間違いだったようだ。
「あ、しまった。」
「え!?」
通りすがりに、パテル=マテルに撃ち落とされた。
「きゃあああっ!?」
「あ、ありがと、パテル=マテル。」
まあ、撃ち落とした割りに受け止めてもくれたのだが。
「あら、シエルだったの。」
「分かってて撃ち落としたんじゃないの?」
レンの指示で。
だが、違うようだ。
「まさか飛んでくるとは思ってなかったけど…どうしてシスターさんと一緒なの?」
「色々あってね。利害関係の一致って奴だよ。」
「ふーん。」
仕事仲間なのだが、そこは伏せておく。
「あ、疑ってるね?」
「当たり前よ!」
「そ、そう?」
そんなに疑う要素あったっけ。
「シエルってば、全くもう…」
「…ね、レン。レンはこれからどうするの?」
「どうって…そんなの、レンにも分からないわ。」
分からない、か。
なら、勧誘でもしてみようかな?
「そっか。…一緒に、来ない?」
「…今は、遠慮しておくわ。」
今は、ということは脈アリだ。
「今は、ね。ありがとう。」
「な、何でお礼を言われるの!?」
「だって、前向きに考えてくれるんでしょ?」
それは、とてもありがたいことで。
「…し、シエルのバカ!さっさと行っちゃいなさいよ!」
照れ隠しにそっぽを向くレンが、愛おしく感じた。
「ありがとう。行こう、シスターさん?」
「そうね。」
レンの厚意に甘えて、そのまま上へと登る。
その先に待つのは…
誰でしょう。
いや、1人しかいませんがね。
どうでもいいけど最近まともに戦っていない。
では、また。