雪の軌跡   作:玻璃

101 / 269
乗り込め!
な回です。

では、どうぞ。


~《輝く環》~
ちょっと間抜けかもしれないね。


アルセイユにて。

エステルが、溜息を吐いていた。

「はぁ~…」

「どうかしたのかい、エステル?」

「いや、あたし何にも役に立たなかったな、って。」

一応、時間稼ぎには貢献したのでそうでもないのだが。

「そんなことはありません、エステルさん。援護して下さって、ありがとうございました。」

「あはは…何か照れくさいわね。でも、あたしじゃなくてさ、オリビエとかヒーナさんとかの方が凄かった。何て言うか…悔しいなぁ。」

悔しがるエステルの隣で、ヨシュアが考え事をしていた。

「…ヒーナさん、か。」

「どうかしたかい、ヨシュア君。何ならボクの胸で…」

「いえ…一体、彼女は何者なのかなって…」

機密はもうバラしても良いけど。

今はまだ、止めておいた方が良いだろう。

「あ、そういえばヨシュアに似てる気がするのよね、あの人。」

「いや、似てねーかな。」

「そうかな?なーんか、似てる気がするけど…」

似てますとも。

「だって、中身が全然違うじゃねーの。あんな強かな人じゃねーし。」

「うん…やっぱり、気のせいだよね。姉さんが、生きてるわけないんだし…」

「ヨシュア…」

こっちをチラ見して言うのはやめて下さい。

「さて、このままアレに向かう?」

「え、うん、そのつもりだけど…」

「そっか。」

このまま向かうのはまあ流石に危険すぎる。

アルシェムは操縦室に向かった。

「ね、シュバルツ中尉?」

「何だ、アルシェム君。」

「多分グロリアスが追ってくるからさ、頑張ってって伝えに来ただけだよ。そんな怖い色しねーでくんねー?」

烈火のごとく怒っていらっしゃる。

解せぬ。

「色…?」

「あー、気にしねーで、癖だから。」

「…言っておくが…殿下に危害を加えたら、抹殺するからな。」

抹殺って。

流石に裁判は…

ないか。

「や、加える気はねーけど…ま、有り得るか。」

「貴様っ…!」

「その時は斬る前にちょっとだけ待ってほしーかな。」

うわあ、火に油。

ヤバい。

「何が目的だ…」

「目的…か。そーだね…敵を油断させるため。」

「油断…?」

怒っているところ悪いが、もうすぐグロリアスが…

というか、何かもっとヤバいのが来る。

「多分、まだアレはわたしを操りきれると思ってる。油断させて、叩かねーと勝ち目はねーからね。」

「アレ、というのは…」

「!グロリアス、来たよ。」

レーダーではなく、目視での確認。

紅いから目立つことこの上ない。

「総員戦闘配置!全力で逃げ切れ!」

それに、まだ来る…!

「…ち、何であんなバケモノまで出すかな…!甲板に出させて!」

「あ、おい、アルシェム君っ!?」

ユリアを振り切って、甲板へと出る。

そこには、やはり…

「…希望の翼を失った時…果たして…」

「ブツブツ言ってんじゃねーよ、レオン兄?」

「…!?お前はっ…!」

ドラゴラムだかドラギオンだかに乗っているレオンハルトがいた。

「退路を断たなくたって、わたし達は戦いを終わらせるよ。レオン兄が亡霊を探し続けてる間にね。」

「亡霊などではない…!…俺は、ただ可能性を見たいだけだ。」

可能性、ねえ。

まず、カリンは生きているのだが。

「ふーん。ばっかじゃねーの?」

「なっ…!」

「カリン姉のような人間がいるかって可能性を見たい?それって、ただカリン姉が死んだのを信じたくないだけでしょ?ただ1人としていないよ、カリン姉みたいな人は。だってレオン兄が追ってるのはカリン姉だもん。いるわけがない。」

カリンは1人しかいない。

他の誰だって、代わりにはなれないのだ。

だから、否定する。

「黙れ…!」

「もし生きてても、レオン兄はそれをカリン姉だなんて認めない。だって、レオン兄が探してるのはレオン兄が知っているカリン姉だから。それが分かっててやってるんなら…ただの自殺願望者だよ。世界と一緒に心中でも何でもすると良い。わたしは、そんな阿呆なレオン兄なんていらないから。」

「誰が阿呆だ…!カリンを追い求めて何が悪い…!」

黙れこのストーカーが。

「悪いよ。だってさ、今を生きてるかも知れないカリン姉にとっても失礼だよ。」

「しらばっくれる気か…貴様がカリンを殺したのだろうが!」

いや、だから殺してませんって。

「わたしが殺したのは猟兵だけだよ。何でわたしがカリン姉を殺さなくちゃいけないの?」

「ほざけ、《ハーメルの首狩り》が…!カリンを返せ…!」

「わたしはカリン姉を殺してないけど…ねぇ。もし消息を知ってても今のレオン兄には教えないよ。」

時間稼ぎは上々。

もう、アルセイユは《輝く環》に到着する。

「何だと…!」

「だって、足止め頼まれてるはずなのに止められてねーし?もう着いちゃったもん。そんな間抜けに教えても逃げられるだけじゃねーの?」

「…あ…」

気付いてなかったんかい。

そこで、艦内からヨシュアが飛び出してくる。

「レーヴェっ…!」

「…ヨシュアか。まあ良い…アクシスピラーの上で待つ。」

「待ってよ、レーヴェっ!」

レオンハルトはドラギオンごと天辺へと飛んで行った。

航空力学って何さ。

「レーヴェ…」

「元気だしてよ、ヨシュア。レオン兄もバカじゃねーから。」

「…そう、だね…」

いや、正真正銘のバカなのだが。

「…《白面》の聖痕は?」

「今からケビン神父に頼むよ。」

「そ…ま、そんなに時間は掛けねーでよ?」

「分かってるよ。これごと落とされたら大変だからね…」

いや、《輝く環》ごと落とされたら負けなんだけど。




お話に夢中で剣を振ることすらできなかったレーヴェ氏です。
うん、なかなかに面白い人デスネ。

では、また。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。