雪の軌跡 作:玻璃
な回です。
では、どうぞ。
ちょっと間抜けかもしれないね。
アルセイユにて。
エステルが、溜息を吐いていた。
「はぁ~…」
「どうかしたのかい、エステル?」
「いや、あたし何にも役に立たなかったな、って。」
一応、時間稼ぎには貢献したのでそうでもないのだが。
「そんなことはありません、エステルさん。援護して下さって、ありがとうございました。」
「あはは…何か照れくさいわね。でも、あたしじゃなくてさ、オリビエとかヒーナさんとかの方が凄かった。何て言うか…悔しいなぁ。」
悔しがるエステルの隣で、ヨシュアが考え事をしていた。
「…ヒーナさん、か。」
「どうかしたかい、ヨシュア君。何ならボクの胸で…」
「いえ…一体、彼女は何者なのかなって…」
機密はもうバラしても良いけど。
今はまだ、止めておいた方が良いだろう。
「あ、そういえばヨシュアに似てる気がするのよね、あの人。」
「いや、似てねーかな。」
「そうかな?なーんか、似てる気がするけど…」
似てますとも。
「だって、中身が全然違うじゃねーの。あんな強かな人じゃねーし。」
「うん…やっぱり、気のせいだよね。姉さんが、生きてるわけないんだし…」
「ヨシュア…」
こっちをチラ見して言うのはやめて下さい。
「さて、このままアレに向かう?」
「え、うん、そのつもりだけど…」
「そっか。」
このまま向かうのはまあ流石に危険すぎる。
アルシェムは操縦室に向かった。
「ね、シュバルツ中尉?」
「何だ、アルシェム君。」
「多分グロリアスが追ってくるからさ、頑張ってって伝えに来ただけだよ。そんな怖い色しねーでくんねー?」
烈火のごとく怒っていらっしゃる。
解せぬ。
「色…?」
「あー、気にしねーで、癖だから。」
「…言っておくが…殿下に危害を加えたら、抹殺するからな。」
抹殺って。
流石に裁判は…
ないか。
「や、加える気はねーけど…ま、有り得るか。」
「貴様っ…!」
「その時は斬る前にちょっとだけ待ってほしーかな。」
うわあ、火に油。
ヤバい。
「何が目的だ…」
「目的…か。そーだね…敵を油断させるため。」
「油断…?」
怒っているところ悪いが、もうすぐグロリアスが…
というか、何かもっとヤバいのが来る。
「多分、まだアレはわたしを操りきれると思ってる。油断させて、叩かねーと勝ち目はねーからね。」
「アレ、というのは…」
「!グロリアス、来たよ。」
レーダーではなく、目視での確認。
紅いから目立つことこの上ない。
「総員戦闘配置!全力で逃げ切れ!」
それに、まだ来る…!
「…ち、何であんなバケモノまで出すかな…!甲板に出させて!」
「あ、おい、アルシェム君っ!?」
ユリアを振り切って、甲板へと出る。
そこには、やはり…
「…希望の翼を失った時…果たして…」
「ブツブツ言ってんじゃねーよ、レオン兄?」
「…!?お前はっ…!」
ドラゴラムだかドラギオンだかに乗っているレオンハルトがいた。
「退路を断たなくたって、わたし達は戦いを終わらせるよ。レオン兄が亡霊を探し続けてる間にね。」
「亡霊などではない…!…俺は、ただ可能性を見たいだけだ。」
可能性、ねえ。
まず、カリンは生きているのだが。
「ふーん。ばっかじゃねーの?」
「なっ…!」
「カリン姉のような人間がいるかって可能性を見たい?それって、ただカリン姉が死んだのを信じたくないだけでしょ?ただ1人としていないよ、カリン姉みたいな人は。だってレオン兄が追ってるのはカリン姉だもん。いるわけがない。」
カリンは1人しかいない。
他の誰だって、代わりにはなれないのだ。
だから、否定する。
「黙れ…!」
「もし生きてても、レオン兄はそれをカリン姉だなんて認めない。だって、レオン兄が探してるのはレオン兄が知っているカリン姉だから。それが分かっててやってるんなら…ただの自殺願望者だよ。世界と一緒に心中でも何でもすると良い。わたしは、そんな阿呆なレオン兄なんていらないから。」
「誰が阿呆だ…!カリンを追い求めて何が悪い…!」
黙れこのストーカーが。
「悪いよ。だってさ、今を生きてるかも知れないカリン姉にとっても失礼だよ。」
「しらばっくれる気か…貴様がカリンを殺したのだろうが!」
いや、だから殺してませんって。
「わたしが殺したのは猟兵だけだよ。何でわたしがカリン姉を殺さなくちゃいけないの?」
「ほざけ、《ハーメルの首狩り》が…!カリンを返せ…!」
「わたしはカリン姉を殺してないけど…ねぇ。もし消息を知ってても今のレオン兄には教えないよ。」
時間稼ぎは上々。
もう、アルセイユは《輝く環》に到着する。
「何だと…!」
「だって、足止め頼まれてるはずなのに止められてねーし?もう着いちゃったもん。そんな間抜けに教えても逃げられるだけじゃねーの?」
「…あ…」
気付いてなかったんかい。
そこで、艦内からヨシュアが飛び出してくる。
「レーヴェっ…!」
「…ヨシュアか。まあ良い…アクシスピラーの上で待つ。」
「待ってよ、レーヴェっ!」
レオンハルトはドラギオンごと天辺へと飛んで行った。
航空力学って何さ。
「レーヴェ…」
「元気だしてよ、ヨシュア。レオン兄もバカじゃねーから。」
「…そう、だね…」
いや、正真正銘のバカなのだが。
「…《白面》の聖痕は?」
「今からケビン神父に頼むよ。」
「そ…ま、そんなに時間は掛けねーでよ?」
「分かってるよ。これごと落とされたら大変だからね…」
いや、《輝く環》ごと落とされたら負けなんだけど。
お話に夢中で剣を振ることすらできなかったレーヴェ氏です。
うん、なかなかに面白い人デスネ。
では、また。