ブラック・ブレット〜赤目の神喰人(ゴッドイーター)〜   作:緋悠梨

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※木更さんはヒロインじゃありません。



8.崩れそうな心と暗黒物質(ダークマター)

ーーーside悠梨ーーー

 

 

当てもなく、街灯もまばらな夜道を歩く。サングラスは一応かけてきたので、赤目がバレることはないだろう。

 

・・・・神機を置いてきちゃったけど、あれだけ言ったから大丈夫だと信じたい。

 

1人になることで、ようやく考えることが出来た。

 

「・・・・ブラッドの皆、どうなったかなぁ・・・・」

 

終末捕食は止まったのだろうか。

ナナは、ギルは、シエルは、ユノは、生還したのだろうか。

極東支部の皆も、生き残っただろうか。

 

そして、

 

(ジュリウスは、まだ生きてるんだろうか・・・・)

 

あの謎の空間に残ったジュリウス。あれだけのアラガミを相手にしていたんだ、生半可なことではない。

 

それに、ジュリウスに託されたんだ。

 

「任されたのに・・・・守る、って約束したのに・・・・」

 

今度こそ、皆を守ってみせる、って誓ったのに・・・・!!

 

もう・・・・それが出来ないかもしれない・・・・。

 

皆にも、会えないかもしれない・・・・。

 

その事実が、心を折らんと襲ってくる。

 

•・・・・ごめんね、皆。肝心な時に役に立たない隊長で・・・・・・。

 

寂しさが募る。

 

歩みが更に重くなった。

 

ーーーーーー

 

天童民間警備会社の入口まで戻ってきたのは、もう夜もふけてきた頃だった。

 

当然電気も消えている。誰もいないのだろう。月明かりもここは差さない分、余計暗く思える。

 

まぁ公園とかで寝ようか・・・・そう思った時、ドアの脇に張り紙があるのに気付いた。しかも僕宛だ。

 

『悠梨へ

鍵は開けてあるから入ってくれていいぞ。

木更さんにも許可はとってある。

寝るならソファーくらいしかないが、使ってくれ。

あと冷蔵庫に少しだけ食えるもん入れといた。いいもんじゃないが、必要だったら食ってくれ』

 

「・・・・里見さん・・・・」

 

頬を一粒の雫が伝う。

 

この世界にきて、初めて、涙を流した。

 

なんで、今日出会ったばっかりの僕にここまで気を使ってくれるのだろう。なんで、話を全部信じてくれたのだろう。なんで・・・・なんで・・・・。

 

・・・・でも、今はその優しさが本当にありがたい。今は、この優しさに甘えさせてもらうとしよう。

 

・・・・いつか、この分は、必ず返さないとね。

 

涙を拭う。寂しさが幾分か和らいでいた。

 

ぐぅぅー・・・・

 

「・・・・あははっ」

 

なんとも現金なものだ。少し安心した途端、空腹が気になるとは。

 

(まぁ、こっちに来てから何も食べてないし当然か・・・・)

 

何日経っているかも分からないが。食べ物も、ありがたく貰っておこう。

 

扉を開けて事務所に入る。電気は・・・・すぐ寝るし、いいか。今は暗くしときたい気分だし。

 

「えっと、冷蔵庫は・・・・」

 

あ、あった。ドアを開けて中を見ると、サンドイッチとゼリーがあった。

 

「・・・・いただきます」

 

やっぱり、空腹は最高の調味料だね。あっという間に食べてしまった。

 

「ご馳走様でした。明日、ちゃんとお礼を言わないとね・・・・ふわぁ・・・・」

 

あ、いけない、瞼が落ちてきた。

 

時間は・・・・午前2時か。眠くなるよね、そりゃ。

 

ソファを拝借する。すぐに激しい眠気が襲ってきて、眠りに落ちることができた。

 

夢は、特に見なかったと思う。

 

ーーーーーー

 

朝チュn((ry

 

物音が耳に入り、目が覚めた。

 

「ん・・・・?」

 

「あ、起きたのね悠梨君」

 

他人の声がして咄嗟に身構えそうになる。見ると、奥のほうから天童さんが顔を出していた。

 

「おはようございます、天童さん。昨日は色々とありがとうございました」

 

「やったのはほとんど里見くんよ。お礼なら彼に言ってちょうだい」

 

「いえ、それでも、ここを提供してくださったのは天童さんですから」

 

「・・・・そう、なら受け取っておくわ。あと」

 

天童さんは一回言葉を切り、

 

「私ね、私的な関係で天童って呼ばれるのが嫌いなの。だから悠梨君も、木更、って呼んでちょうだい」

 

「え、でも・・・・」

 

「わ・か・っ・た・わ・ね・?」

 

謎のプレッシャー。

 

「・・・・はい、分かりました木更さん」

 

満足そうに頷き、引っ込む天童さん・・・・もとい木更さん。一体何をしているのだろうか?

 

「何をしてるんですか?」

 

「貴方の朝食を作ってるのよ。もう少し待ってなさい」

 

「・・・・わざわざそこまでしていただかなくても」

 

朝食までもらってしまったらもうなんかホントに・・・・

 

ズキッ!

 

「痛ッ!?」

 

なんか突然頭痛が襲ってきた。なんだろう、何か大切な事を忘れているのに、それを思い出してはいけない気がする。

 

「そんなこと言わないの。ほら、出来たわよ・・・・どうかしたの?」

 

「いえ、何でも。すいません、本当にありがとうございます」

 

頭痛をなんとか誤魔化す。

 

運ばれてきたのは、パンとスクランブルエッグだ。すごい美味しそうだ。

 

せっかくここまでしてもらったのを、拒否するのは逆に悪いだろう。

 

「いただきます!」

 

早速、スクランブルエッグを口にする。

 

ふむ・・・・表面はドロドロ、中はザラザラ。甘くなく、しょっぱ過ぎる味わいが••••お?

 

・・・・・・うん?

 

・・・・・・・・・え?マジ?

 

体が、動かない。

 

(なんで!?)

 

一体何が入ってるっていうんだ、このスクランブルエッグに!?

 

「ど、どう・・・・?口に合えばいいのだけど・・・・」

 

すみません木更さん、それどころじゃないです。

 

なんだ!?一体僕に何が起こってるんだ!?

 

そこで、ふと、気付く。

 

この縛られた感じ。

 

これは、まさか、

 

(まさか・・・・ホールドトラップ・・・・!?)

 

なんでこの世界にあるの!?

 

「き、きさ•・・・・ら、さ・・・・」

 

それだけを発するのが限界だった。

 

体が前のめりに倒れ、頭を打ち付けた。意識が遠のく。木更さんが何かを言っているが、全く耳に入ってこない。

 

完全に落ちる直前、思い出してしまった。

 

(そうだ、あれはナナの・・・・)

 

そこまで考えて気を失った。

 

ーーーーーー

 

「おーい悠梨ー!!こっちだこっちー!!!早く来いよーー!!」

 

ロミオ先輩が川の向こうから僕を呼んでる。早く行かなきゃ。

 

「でも、どうやって渡ればいいんだろう?」

 

目の前に横たわる川は、泳ごうにもけっこう流れは早い。

 

さてと、どうしたものか。

 

その前に、ここでの一番の問題は・・・・と。

 

 

 

 

・・・・ロミオ先輩が、既に死んでる、ってことだよな。

 

(まずいッ・・・・!!)

 

僕はロミオ先輩に背を向けて全力で走り始めた!!

 

ーーーーーー

 

「僕は・・・・僕は死なないっ!!」

 

飛び起きた。ソファーの上だ。

 

「うおっ!?」「きゃっ!?」「おおっ!?」

 

3人の驚く声が聞こえた。見ると、里見さんと延珠ちゃんが何時の間にか来ていた。そして何故か、木更さんが正座している。

 

「あ、おはようございます、里見さん、延珠ちゃん」

 

「おはようなのだ悠梨!」

 

「よぅ、悠梨。・・・・じゃなくて!!お前大丈夫か!?」

 

大丈夫、とはどういうことだろうか?

 

「お前さっきまで呼吸してなかったんだぞ!!」

 

「えっ」

 

何で僕はそんな事になってたの!?

 

(確か木更さんが来て、呼び方の話をして・・・・・・あれ)

 

その後の記憶がない。おかしいな・・・・?そもそも何故寝てたのかすら分からない。

 

僕の疑問を汲み取ったのか、里見さんが告げてくる。

 

「お前記憶飛んでるな・・・・?いいか?お前は木更さんが作った料理を食べてぶっ倒れたんだ」

 

・・・・・・・・・・あ。

 

「・・・・そうだ、なんかホールドトラップにかかったみたいな感じになったんだ」

 

「どんなんだよ、それ・・・・」

 

それ以外に形容の仕様がない。

 

あと、「気絶する前に思い出した事」も思い出した。ナナが作った独自のレーションの味見をいくつもさせられたことだ。スタミナが減ったり、ヴェノムが治ったり、なんかよくわかんない効果ばっかだったけど。

 

・・・・それでも、気絶はしなかったけどね、うん。どうなってるんだ木更さんの料理。もはや兵器じゃない?ガストレアもホールドできたりして。

 

「ごめんなさい、悠梨君。まさかここまでなるなんて・・・・」

 

「だ、大丈夫ですよ木更さん!!気にしないで下さい!!好意でやってくれたのは分かってますから」

 

「そうだが、お前が死にかけた事に変わりはないんだぞ・・・・いいのか?」

 

里見さんが聞いてくる。まぁ当然の心配だろう。

 

「ホントに大丈夫ですよ。木更さんも、もう気にしないで下さい」

 

「うん・・・・、ありがとう悠梨君」

 

「ま、本人達がいいならいーか。でも木更さん、しばらく料理作んなよ?前より破壊力が増してr・・・・」

 

「わ、分かったわよ !!分かったからそれ以上言わないで!!」

 

今更止めても無駄だと思うのは僕だけかな?

 

閑話休題。

 

木更さんが立ち上がり、仕切り直す。話題がガストレアに移る。とりあえず黙って聞いていよう。

 

「んんっ・・・・ところで里見君、あの後感染源ガストレアの目撃情報は聞いたかしら?」

 

「いや、何も聞いてないな」

 

「やっぱり。私もネットで調べてみたのだけど、全く目撃情報がないのよ」

 

「・・・・流石におかしいな、一件もないなんてのは・・・・まさかとは思うが、光学迷彩みたいなのは」

 

「そうだったら今頃、東京エリアは大混乱に陥ってるでしょうね」

 

「だよなぁ・・・・カメレオンみたいなのが出てないだけ幸いなこったな」

 

そんなものらしい。

 

「っとまぁ、情報上がったら連絡いれてくれ。俺は悠梨を先生のとこに連れてくわ。悠梨、延珠、行くぞ」

 

どうやら今度は僕が動く番だ。神機を持ち上げる。

 

「了解です。いってきますね、木更さん」

 

「行ってくるぞ木更!」

 

「ええ、いってらっしゃい」

 

木更さんに見送られ、事務所を出る。

 

・・・・・・あ、

 

「やっばいサングラスと拳銃・・・・」

 

行く理由を忘れるとこだった。

 

ーーーーーー

 

道中。

 

「里見さん、遅くなりましたが、昨日は色々ありがとうございました」

 

「ん?ああ、別に気にすんな。お前身寄りも何もねぇんだしよ」

 

事実だ。苦笑いしてしまう。

 

「あの子は、どうなりましたか?」

 

「・・・・ああ、しっかり連れてったよ」

 

「・・・・お手間をおかけしました」

 

「いいって。まぁちょっと大変だったけどな」

 

だよねぇ・・・・あんなに泣いてたもんなぁ。あの子が無事に生き続けることを願うばかりだ。

 

「・・・・ところで延珠ちゃん、さっきからなんでこっちをニヤニヤしながら見てるの?」

 

そうなのだ。なんか延珠ちゃんがすごい見てくる。

 

「んふふ、なんでもないぞ♪」

 

なんかすごい楽しそうだ。

 

「気になるなぁ・・・・」

 

「秘密なのだ♪」

 

「えぇ〜・・・・」

 

「そ、そういやお前、何時の間に木更さんのこと下の名前で呼ぶようになったんだ?」

 

里見さんが割って入ってきた。明らかに不自然だが、話してくれなさそうだし、まぁいいか。

 

「えっとですね、気を失う前にそうしろって言われたんです。『天童、って呼ばれるのが嫌だから』って言ってましたけど」

 

「あー、やっぱそんなとこだったか」

 

「やっぱ、というと?」

 

「俺と木更さんは、天童の家を出奔してきている。ある理由があってな。・・・・悪いがそれは伏せさせてくれ」

 

「別に気にしませんよ。でも、なんで里見さんは苗字が天童じゃないんですか?」

 

「俺は天童の生まれじゃないからな」

 

何やら複雑そうな。

 

「・・・・俺は所謂戦災孤児ってやつでな。両親をガストレアに殺されて、死にかけてた所を天童に拾われたんだ」

 

「・・・・そうなんですか・・・・」

 

「もう気にしてねぇから大丈夫だ。・・・・で、その俺を拾ったのが・・・・っと、タイミングいいな。あれ見てみろ」

 

そう言って指したのは、電気屋の店先に置いてあるテレビだ。見てみると、

 

「うわ、白っ!?」

 

「そっちかよ!・・・・まぁ白いけどよ」

 

建物も真っ白だったし、映ってる2人の服装も真っ白だったんだもん。っていうか女性の方は肌まで白い気が。

 

「どんだけ白好きなんだ・・・・」

 

「いや違うからな。神聖なイメージ持たせてるんだよ」

 

なるほどそういうことか。・・・・だけど、女の人は美しいなぁ・・・・木更さんも相当だと思うが、その上を行く美貌だ。

 

「痛ぇっ!?」

 

「?」

 

なんか里見さんが延珠ちゃんに足を踏まれていた。

 

「・・・・蓮太郎がみとれてる・・・・!」

 

「ねぇから!!つかさっさと足をどけろ!!マジで痛ぇ!!」

 

延珠ちゃんはやっと足をどかした。まだむくれてるっぽいけど。

 

「痛っつぅ・・・・んで、さっきの続きな。座ってる女性がこの東京エリアの最高権力者、聖天子様だ。んで、横にいるのがその補佐官にして、俺を拾った人物、天童菊ノ氶だ」

 

「えっ、天童ってことは!?」

 

「そう、天童のトップで木更さんのじーさんだな。俺も世話になった」

 

なんと2人とも国家の重要人物だった。しかしそれ以上に、

 

「里見さんの経歴すごいですね・・・・」

 

「まぁな。あそこにいる間に天童式戦闘術も学べたし、それはな。・・・・政治の勉強はめんど臭かったが」

 

「元政治家の卵ですか」

 

「今の蓮太郎にそんなそぶりは全くないぞ」

 

「当たり前だ、なってたまるかあんなもん」

 

なればいいのに。蓮太郎さんなら似合・・・・わないか。というより想像できない。今のほうがあってそう。

 

「今度その戦闘術見せて下さいね」

 

「分かったよ、あんま派手じゃないけどな。つか、俺より木更さんの方がすげぇよ。戦い方は違うが、天童式抜刀術皆伝だからな」

 

「あの人が!?」

 

人は見かけによらないなぁ・・・・。

 

「木更さんが戦ったりはしないんですか?」

 

「ああ、あの人腎臓を患っててな・・・・長時間は厳しいな」

 

そうだったのか。まぁ外見で判断は出来ないしね。

 

「んじゃ、そろそろいくか」

 

蓮太郎さんの言葉に頷く。まぁ聖天子様やらと関わり合いになることはないだろうし、演説聞いてもしょうがない。

 

また、歩き出す

 

 

 

 

「・・・・悠梨、もうひとつ。なんで俺だけ呼び方が苗字なんだ?」

 

「え、最初からの流れですし、まだいいとも言われてなかったので」

 

「別に俺も蓮太郎でいいって」

 

「了解です、蓮太郎さん。・・・・あ、やっぱ蓮さんでもいいですか?なんか長いんで」

 

「理由がぬるっとしてんな!別にいいけど」

 

「よかったー。んじゃ改めてお願いします、蓮さん」

 

・・・・こんなやり取りも、あったりなかったり。

 




ロミオ・レオーニ(享年19…KIA〈戦闘行動中死亡〉)
『ブラッド』の隊員で、悠梨の先輩。尊敬されてたかどうかは微妙。アイテムの鬼。
ミッション『ウィジャボード』にて民間人救出の為出撃し、多数のガルム神族と戦闘。『血の力』を発現させこれらを追い払うも、直前に受けた傷が元となり、ジュリウスに看取られながら死亡。最終階級は少尉。


※木更さんはヒロインじゃありません(2回目)

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