もしかしたら彼女やμ'sのメンバーの口調や対応に違和感を感じるかも知れませんが、ご了承ください。
……今更ですけどっ!
Maki side
これは、いつも通り『μ's』としての練習をしていた際のこと。
毎日飽きずに彼女の勧誘に行っていた穂乃果先輩から、「今日は玲奈ちゃん休みで勧誘出来なかったよ~」なんて台詞が飛び出したものだから心配で家にでも訪ねようと思ったけど、今は『μ's』としての活動を優先しようと練習をしていた。
そして、一旦休憩となった際に、自分の携帯に連絡が入っていたことに気付き、メッセージアプリを起動する。
そこに書いてあったのは、つい先ほどまで噂になっていた玲奈――ではなく、蓮からのメッセージだった。
『今から俺は生放送をする。自惚れではないけど、かなりの番組で取り上げられるかも知れないから問題はないかも知れないが、君の仲間に伝えておいてくれ。絶対に見ること』
どれだけ自信過剰なのよ。とツッコミを入れたくもなったけれど、今の彼にはそれほどの知名度がある。
会わなかったほんの数年間で、彼は遥か高みまで上り詰めていった。今やトップアイドルと言っても差し支えないだろう。
そんな彼が『μ's』に対して、何かを行おうとしている。
昔っから悪戯っ子だった彼が、真面目に生放送を行うわけがない。心の片隅で彼の行動に警戒心を抱きながら、私は口を開く。
「ねぇ、皆。ちょっと話を聞いて欲しいのだけど」
「どうしたの、真姫ちゃん?」
「……えっとね。今、蓮から『今日の生放送を絶対に見ること』っていう連絡があったのだけど」
携帯片手に言葉を発する私の姿を見て、それが本当のことだと信じたのか口を挟む人はいなかった。……と思っていたのだけど。
「ちょ、ちょっと待って。あ、アンタ、蓮って……。もしかして、あの『REN』のこと!?」
「え、えぇーーっ!? ま、真姫ちゃん、『REN』さんと知り合いだったのぉっ!?」
最近、『μ's』に入ってきた……というか、入れた三年生の先輩。にこ先輩と花陽には効果覿面だったみたい。
そういえば、彼女達は根っからのアイドルオタクだったわね。
彼からの連絡で驚き過ぎたせいで、面倒なことを引き起こすキッカケを作ってしまったわ。
「ま、まぁ、それは置いといて。……真姫ちゃん。その『REN』さんからの連絡ってそれだけ?」
「ええ。もう少ししてから生放送をするから、それを『μ's』の全員で見ろって」
簡略化して伝えたけれども、何も問題はないわよね。
かなりの番組で取り上げられると思うから問題はないはずだけど、なんて伝えても意味はないでしょうし。
「……おそらく、あの蓮のことだから。何かしらのアクションをしてくるわよ。それでも見る?」
「穂乃果ちゃん……」
「穂乃果……」
もしかしたら、今の『μ's』の空気がなくなるかも知れない。
その一言を付け加えなくて本当に良かったと安堵する。
今の穂乃果先輩達の様子を見ていて、そう確信を持って思った。彼女達は今、最初のライブのことを考えていたのかも知れない。
今の自分達と彼の地位や知名度の違い。そして、そんな彼から何かしらのアクションが行われる。それが何かなんて想像は付かない。けれど、嫌な予感しかしない。
そんな私の心境が彼女らにも伝わってしまったのかも知れない。
「見るよ」
「……穂乃果先輩」
「だって、あの『REN』さんから直接指名があったんだよ? もしかしたら、真姫ちゃんの言う通り何かしらの行動があるかも知れない。けど、今は見ないといけない気がするの」
「それは……何故?」
私は何故、そうしなければいけないのか気になった。
今の『μ's』の良い雰囲気がなくなる可能性があるのならば、それは絶対に避けるべきだと。
「今の私じゃあ、何を言っても彼女に何も届かない気がするの。だから、彼女のお兄さんでもある『REN』さんの行動を見届けることが彼女ときちんと話をするキッカケになるんじゃないかって」
自分でもなんでそう思ってるのかはわからないんだけどね。
なんておどけた一言を付け加える穂乃果先輩だけど、当たってる気がする。
彼はその行動を私達に見せ付けた後、玲奈として姿を現して、決断をするのではないだろうか。『μ's』に深く関わるのか否かを。
おそらく、その行動に掛けられたものは『μ's』解散の危機。
(――けど、不思議と安心出来るものね。穂乃果先輩の言葉には)
「そうね。じゃあ、今日のところはこれで切り上げて、私の家に来る? 皆で生放送見れるぐらいのスペースはあるけど」
「真姫ちゃんの家に!? 行くよ。行くったら行く!」
「行く。絶対に行くにゃーっ!」
「穂乃果!?」
「凛ちゃんっ!?」
私の一言を聞き終えた瞬間に帰り支度を始めた穂乃果先輩と凛を止めることが出来なかった海未先輩と花陽は申し訳なさげに私の方を向く。
「すみません。穂乃果を止め切れませんでした」
「ごめんね。真姫ちゃん」
「別にいいわよ。それに、いつかは皆を呼ぶつもりだったし。それが少し早くなっただけ」
自分がそんなに気にしてないという言葉を言うと、安心したかのように海未先輩に花陽。それに、ことり先輩も先に走っていった彼女らを追い掛ける。
そんな彼女らに急かされるように私も着替えようと荷物を持って、部室へ向かおうとした際。にこ先輩に引き留められた。
「……ねぇ。一つ聞いてもいい?」
「何よ。蓮の連絡先なら教えないわよ?」
「そ、そんなんじゃないわよ。い、いや、欲しいか欲しくないかなら、間違いなく欲しいって選ぶけど」
一拍置いて、彼女は口を開いた。
「……片やトップアイドル。片やまだまだ底辺レベルのスクールアイドルなのに、彼は何を考えているのだろうって。アンタなら知っているんじゃないの?」
「私も確証はないわ。ただ、穂乃果先輩が最近熱心に勧誘している女の子知ってるでしょ?」
「え、えぇ。知ってるけど」
「あの子が『REN』の義理の妹なのよ。あ、養子って意味じゃないわよ。私も少し聞いたぐらいなんだけど、本家の娘があの子で、分家の息子が『REN』なんだって」
これらはすべて蓮の口から聞いた物語。
実際はそんなことない。初めてこの話を蓮本人から聞いた際には、思わずドラマやアニメじゃないんだし、こんな話を信じてくれるかしら。なんて言葉が出てしまったが、音ノ木坂学院の生徒会長に会った際にそう口走ってしまったらしく、今さら別の理由を言っても矛盾点しか見つからないから、多少不自然に思われようと通すしかないんだ。と言われてしまった。既に生徒会長と接点があったことにも驚きだが、彼女がこんな与太話を信じたことにビックリした。
「大方、彼女から話でも聞いたんじゃない。それで、こんな試験みたいなことを実行したんだと思う」
私の話を聞いたにこ先輩は、考え込む仕草をした後、「まぁ、いいわ。本当のことなんて、彼以外にはわからないだろうし」とお礼を言い放ち、部室へと戻る。
そう、彼が本当に実行した理由はわからない。こんな突拍子もないことを考え付くのは彼が異色な人間であり、尚且つ、彼が実行出来る地位についているから。
犯罪でない以上は、周囲の人達がどうにかしてくれそうな立場に彼は立っている彼の考えることを、スクールアイドルである自分達が一生懸命に思考を凝らしても理解出来るはずがない。
それだけ彼が、既存のアイドルとは一線を超えた異彩を放っていることを現している。
(だからこそ、彼が人気になった。とも取れるけど)
この地位にたどり着くまでにどんな経験をしたのだろうか。
今までと同じ――オーソドックスでない者らがどんな扱いをされるのかは、考えがつく。異色を放つということは、他の誰とも思考回路が似ていない。つまり、孤立するということ。
「……おつかれさま。とだけでも言ってあげようかしら」
この学院に転入してから『REN』がテレビやイベントに現れることはなくなった。要するに、彼はここへ転入すると同時にアイドル活動を一時的に休止するつもりなのだろう。
その結果、何かしらのアクションだけは起こしておかなければいけないからこその生放送での発表。
だから、私は今まで苦労してきた蓮に「おつかれさま」と一言掛けてあげよう。その前に『μ's』のメンバーをどうやって励ますかを考えながら、部室への道程をゆっくりと歩く。
――が、私のフォローはきっといらない。と思い至った。
何故なら、皆の想いがこれぐらいの障害で挫けないと思ったから。
誰か一人でも挫けそうな人がいたら、他のメンバーが支える。ほぼ全員が挫けそうになっても、絶対に諦めない無邪気なリーダーもいるから。だから、平気。
(このグループはあなたが思っている以上に、強いわよ。蓮)