次の日、自室でダラダラしてたら白井が目の前に現れる。え、なんで…は?え?
「なにを呑気にサボっておりますの」
「や、お前どーやって俺ん家…てかサボるって…あ、俺風紀委員だったっけ…」
「行きますわよ」
「ち、ちょっと待てまだ着替えてない」
「40秒でしたくしてください」
で、バタバタ着替えて家を出る。ていうかいきなり人の家に、それも異性の部屋に突撃してくるとかマジなに考えてんの。
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支部に着くと、なにやら音楽をダウンロードしていた。
「なにやってんの?」
俺が聞くと初春が答える。
「レベルアッパーのダウンロードです」
は?いまなんつったこの子。
「昨日、白井さんがスキルアウト相手にレベルアッパーの入手方法を吐かせてきたんです」
「初春、その言い方は少し語弊がありますわよ?」
「で、レベルアッパーって結局実体はなんだったんだ?」
「音楽、みたいなんです。と、言ってもまだ実体が分かっただけで仕組みは分からないんですけど…」
音楽、か…。あれ?佐天さん確かiPod持ってたよな…。
「白井、初春。もしかしたら佐天さんがレベルアッパー持ってるかもしれないぞ」
「「え?」」
俺の台詞に二人が反応する。
「どこにそんな根拠が?」
「初春、昨日佐天さんと一緒にいた理由はなんだ?」
「見せたい物があるって言って…あっ!まさか、あれが…」
「あぁ、あの後俺は一人で佐天さんと話したんだが、問い詰めると持ってないの一点張りで逃げられちまった」
「た、確か佐天さんは無能力者でしたわね」
「わ、私今から電話してみます!」
初春が電話を掛けるが、顔色が悪い。
「だ、ダメです!繋がりません!」
「比企谷さん、急いで探しますわよ!」
「えー俺も行くのー」
「内臓に金属の矢をぶち込んでもいいんですよ?」
「ほら早く探さないとみつからねぇぞ!使ってからじゃ遅いんだよ!」
俺が言うと、二人はゴミを見る目で俺を見る。で、俺と白井は出発した。初春はまだやることがあるので留守番。
「俺はあっち行くから」
「了解ですの」
さて、帰るか…とは流石にならない。だって怒られたくないもん。走ること数十分、余りにも人がいなさすぎる。人祓いのルーンでも貼られてるのか?そう思って少し先へ進むと、神裂と俺と同じ高校の制服の奴がタイマン張っていた。てか一方的にボコボコにしてた。
「あんまりいじめるなよ神裂」
「比企谷…土御門と一緒ではないのですか?」
「いつも一緒なわけねぇだろ。てか学校だと俺ボッチだし」
「必要悪の協会でもあなたは友達いないでしょう」
うわー酷いなーこの人。
「そもそも、情報を持ってくるのはいつも土御門だけであなたはなにもしてないじゃないですか。なんのためにあなたと土御門をスパイとして送り込んだと…」
「俺は専業主婦志望だからな。働かない。働いたら負けだ」
「まだ言ってるんですか…それよりなにか用があってここに来たのでは?」
「あーまず一つ、そいつ離してやってくれ。一応同じ高校だし、お前のこと学校側にチクられたら面倒だ」
俺が言うと、スッと神裂は離す。すでにそいつは気絶してるようで、そのままばったり倒れた。
「それと、もし俺がここの奴に魔術師ってバレたらまずい?」
「はぁ…?」
「あー今さ、風紀委員に入ってるんだけど…近いうちに戦うハメになりそうなんだわ。その時に足手まといになるのはゴメンなんだよ」
「っていうか、魔術を使えるのですか?そんな状態で」
「や、試したことないから分からん」
「まぁ、魔術だとバレなければ大丈夫だとは思いますが…」
「そうか、サンキューな」
それだけ言うと俺は神裂の前から消える。さて、佐天さんを探さないと…。俺は走って色んなところを回る。そこで、メキャッていう音とガラスが割れる音がした。そこに向かうと、白井が変なの相手に戦っていた。
「比企谷さん!?」
佐天さんがこっちを向いて驚く。あとなんかキモいデブも。
「なんだぁ?また処刑希望者かぁ?」
あ、デブがもう一人いた。
「佐天さんとそこの、逃げろ。あとついでに警備員呼んで来て」
「あ、あなたは?」
「白井がボコられてんだろ。ほっとけるかよ」
そのまま俺はいかにもスキルアウトって感じのする奴の前へ行く。
「お前も風紀委員か?そこのチビみたいにボコボコにしてやってもいいんだぜ?」
「比企谷さん!逃げて下さいまし!無能力者のあなたではその男は…」
「へぇ、無能力者なのかお前。なら能力使うまでもねぇな!」
その方が俺にとってはありがたい。一応、これでも必要悪の教会所属なのだ。ある程度殴り合いは出来る。殴り掛かって来るが、それをかわして顎にアッパーをぶち込む。そのままボディブローを一発かました。
「ぐはっ…」
それだけで倒れるスキルアウト。あとは白井の仕事だな。
「なぁおい、手錠かなんかないのか?このまんまじゃ逃げられるぞ」
「ま、まだですの!」
起き上がって攻撃してくるスキルアウト。ギリギリでかわす。
「危ねぇな」
「決定だ!てめぇは殺す!」
「あっ、なにあれ」
「え?」
こいつバカだろ。そんな手に引っかかるなよ。今度は気絶するくらいの強さで顔面をぶん殴った。メコッと音がして吹っ飛ぶスキルアウト。なんだ、この程度なら魔術なんて必要ないじゃん。能力者大したことねぇー。
「終わったぞ白井」
「…あなた、何者ですの?」
「いや、なんか向こうが能力使わずに来たからボコっただけだけど…」
その後、警備員が来て俺と白井は事情だけ話し、支部への帰り道。
「そういえば白井、レベルアッパーは回収したのか?」
「げっ、忘れておりましたの…」
「ならお前は戻ってろよ。俺が佐天さん探すから」
「い、いえ…私もこれくらいで休むわけには…」
「仕事ってのは休める時に休んどけ。有休なんて最近は取れない人のが多いんだから。俺なんて有休取らなくても仕事は休むぞ」
「それはサボりというのでは…」
そこで白井はクスッと笑う。
「分かりましたの。では私は支部に戻ります」
「あぁ。またな」
さて、俺の仕事は佐天さんを探すだけだ。しばらく歩き回ること数分、公園でおぉーっ!という声がする。見ると、佐天さんと数人のお友達が歓声を上げていて、ベンチにはiPodが置いてあった。
「佐天さん」
「あ、比企谷さん!見てくださいよ!私、能力者に…」
「まさか、レベルアッパーを使ったのか?」
「え、はい」
まるで、当然とでも言うように肯定する佐天。
「レベルアッパーを使って意識を失った人がいると言ったはずなんだけど」
「いいじゃないですか!死んだわけじゃないんでしょ?」
「死ななきゃいいってことじゃないだろ。今だに意識が戻ってないんだぞ」
俺がそう言うと、佐天のお友達は心配そうにざわつく。
「そ、そんなこと前には言わなかったじゃないですか!」
「そういう問題じゃないだろ。お前は俺の忠告を無視して危ない橋を渡ったんだ。しかも周りを巻き込んで」
「……」
「とにかく、そのレベルアッパーは回収するぞ。まだ一回使った程度なら問題ないかもしれない」
俺はベンチに置いてあるiPodに手を伸ばす。だが、その俺の手を佐天が掴む。
「ダメです…せっかく、せっかく能力者になったのに…」
「自分の体も大切に出来ない奴が能力者になんてなれるわけないだろ。このiPodは無理矢理にでも回収させてもらうぞ」
「だ、ダメです!分かった!自分で使うつもりなんでしょ!能力者になった私が羨ましくて!」
はぁ?なに言ってんだこいつ。頭にうじでも湧いてんのかよ。
「そうじゃなくて…こんな危ないもん回収しないわけにいかないだろ」
「う、うるさい!私の邪魔をするなぁっ!」
その瞬間、佐天の周りから風が起こる。これは軽くレベル4くらいはありそうだ。嘘だろ…一回聞くだけでここまで上がるのかよ…それとも元々の佐天の才能か?とりあえず、一時的に退避した方がよさそうだ。
俺は公園から出て佐天から離れる。だが、まさか追撃してくるとは思わなかった。俺の腹に空気の弾みたいなのが直撃し、俺は壁に叩き付けられる。
………クソッタレが…。
まさか、これほど成長が早いと思わなかった。一旦、支部に帰って事情を話した方がよさそうだ。てなわけで、俺はボロボロの体をひきづりながら支部へ戻った。
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支部に入ると、白井が上半身裸で包帯を巻いてる最中だった。その瞬間、金属矢が飛んでくる。俺は慌てて外へ出た。
数分後にノックする。
「……………どうぞ」
ドアを開くと、顔を真っ赤にしてる白井と苦笑いしてる初春がいた。
「あの…その、なんつーか…悪かった」
「……次はありませんの」
「ていうか比企谷さん!ボロボロじゃないですか!どうしたんですか!?」
「佐天の能力が開花した。それも男子高校生を吹っ飛ばせるほどの威力だ」
「え?じゃあ佐天さんは…」
「レベルアッパーを使った」
俺がそう言うと、初春は膝を床に着く。
「とにかく、今のあいつになにを言っても無駄だ。おとなしくぶっ倒れるまで待った方がいいな」
「そ、そんな…」
初春の目には涙が溜まってる。その初春の肩に白井が手を乗せる。
「大丈夫ですわ初春。まだ死者が出たわけではないんですから」
「……はい」
しかし、意識不明の状態が続いてる以上はあまりいい状態とは言えまい。むしろ、人数が増え続けてる以上は状況は悪化している。困ったもんだ。
「じゃ、俺帰るわ。今日はもう疲れた」
「そ、そうですか…お疲れ様でしたー」
「さっさと帰りやがれですの覗き魔!」
まだそのこと引きづってんのかよ…さっき許したんじゃねぇのかよ…。心底面倒だと思いながらも俺は帰った。