学校。俺は外のベストプレイスで飯を食う。神裂はイギリスに帰ってしまったので、コンビニでテキトーに買った物を食う。教室だといずらいからここで食うしかない。
しかしアレだ。やっぱり飯は一人で食うに限る。誰かと一緒にペチャクチャ話しながら物を食べるなんて間違ってる。「みんなで食べると美味しい」などとうわ言がこの世界にはあるが、決してそんなことはない。むしろ一人で食う飯こそが至高。ようやく食べ終わって、食後のMAXコーヒーに手を伸ばす。
「はぁ……」
不意にそんなため息が漏れた。そのため息の意図する所は俺にも分からない。なんか嫌な予感でもしてんのかな…。とりあえず立ち上がって教室に戻る。心なしか肩と腰がダルい。考えて見れば、授業はあと二時間だが、その後には風紀委員の仕事がある。あぁ…仕事疲れからのため息だったのか…。
「はぁ……」
またため息が漏れた。どんだけ疲れてんだよ俺。
「なにため息なんてついてんの?」
声をかけられ、振り返ると麦野と滝壺が立っている。
「はぁ……」
「殺すぞ」
「ごめんなさい」
ため息ついただけで殺すとか最近の女の子は怖いわ。
「なんか用か?」
「毎回あんたと飯食おうと思ってんのにまた先に食っちゃったわけ?」
「悪いか」
「私の能力追跡でもたまに引っかからないからひきがやを探すのは疲れる」
おい、なんでだよ。一応、能力開発受けてるだろ俺。能力を超える存在感のなさとか実は俺がレベル5なんじゃないだろうか。
「まぁいいわ。あんた、私達が食べ終わるまでここにいなさい」
「いやなんでだよ」
「ここで女子が二人で食べてたらなんか変でしょ」
「そこに俺がいても変だろ。てかだったら教室戻れよ」
「大丈夫、そんな暇潰しの道具にされてるひきがやを私は応援してる」
「いや応援されても困るんだけどな」
二人は俺の横に座り、麦野はシャケ弁、滝壺はおそらく手作りであろう弁当を広げた。そのまま二人でクラスの様子だの勉強のことだのを話してる中、俺は特にすることがないので携帯を弄りつつ、音楽を聞いていた。……これ俺いらなくね?もしかしたらこっそりフェードアウト出来るかもしれん。やってみよう。
「比企谷〜どこ行く気かにゃーん?」
無理でした。やっぱり真横は辛かったか…。その後、結局ぱしらされたりなんかからかわれたりで昼休みは終わった。
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放課後、風紀委員の支部へ向かう。その途中で初春から電話が来た。
「もしもし?」
『あ、比企谷さんですか?お疲れ様です』
「おう。で、なんか用?」
『あの、まだ支部にも来てないのに申し訳ないんですけど地下街エリアセールの出口A03付近に行ってもらえますか?』
おい、出口A03ってなんだよ。出口いくつあんだよ。
「なんで?」
『白井さんがそこでなんか怪しい組織を追ってるんですけど…ほら、そういうのって人数は多い方がいいじゃないですか』
「あー分かった分かったよ」
『了解です!』
初春に言われるがまま、俺は白井の居場所を追跡。と、言ってもタクシーで移動してるだけなんですけどね。
「あ、すいません。ありがとございます」
お礼だけ言ってタクシーを降りるが、それらしい人影はない。と、思ったらなんか喧嘩っぽい音がする。あの路地裏か…。そこに入ると、すでに戦闘が終わっていたようで、白井がぶっ倒れていて、その前には赤い髪の女がキャリーケースの上に座っていた。最近、赤髪の女多くね?流行ってんの?言っとくけどね、髪の毛を赤くしたってシャンクスにもシャア専用にもなれないよ。
「さよなら白井さん。また会えたら…」
「おい」
あからさまに帰ろうとするその子に俺が声を掛けた。いきなり声を掛けられたのにビビったのか、それとも後ろにいたことにビビったのか、人生に絶望したような顔で驚いていた。
「風紀委員なんだけど、その荷物見してもらえるか?」
「……!……!」
「あの、まだ驚いてる?ちょっと落ち着いて。深呼吸してみようか」
そのままスーハースーハーと呼吸する赤い髪の子。あーもしかしたら灼眼に憧れてるのかな。
「落ち着いた?」
「え、えぇ。ごめんなさいね取り乱しちゃって」
「いやいや、それよりそのキャリーケースなに?」
「あっ!あなた風紀委員ね!?」
や、今更ですか…。
「悪いけど、教えるわけには行かないわね。力ずくっていうなら闘るわよ」
「………」
どうするかな…白井をここまでズタボロにした奴と白井を守りながらタイマン張れるとは思えねぇし…なにより白井の怪我がヤバイ。
「いいよ、今回は見逃してやる」
「あら、話がわかる人ね。どっかの誰かさんと違って」
そう言うと、白井に目を向ける。なんだ、なんか因縁でもあんのか?そのままそいつはどっかに行ってしまった。俺は白井の所に向かう。
「大丈夫か?」
「あ、あなた…なにしに来たんです?…みすみす今回のターゲットを見逃すなんて…」
「人命には変えられねぇだろ。ほら寮まで送ってやるから、立てるか?」
「結構ですわ」
「は?」
「こんな姿を…お姉様に見られるわけにはいきませんの…」
…すごい根性だな最近の子は。俺ならその日は仕事サボって怪我を口実に一週間はそのままサボってそのまま仕事やめる自信があるぞ。
「でもだからってこのままにもできないだろ。そういうプライド?的な物は命の次に考えろって」
無理矢理、白井をおんぶする。
「ちょっ!なにするんですの!?」
「まともに歩けねぇんだろ。いいから黙ってろ」
「……比企谷さんの癖に…」
「なんか言ったか?」
「い、言ってませんわ!いいからさっさと出発ですの!」
「へぇへぇ」
と、言っても行きのタクシーで俺の金は霧散した。仕方ないのでトラックの上に飛び乗って移動という荒技に出る。
「…これは無賃乗車と変わらないのでは?」
「バレなきゃいいんだよ」
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常盤台寮の前。
「じゃ、ここで待っててやるから早くしろよ」
「は?なんで、です?」
「お前、あいつの所に仕返しに行くんだろ?」
言うと、白井はピクッと反応する。
「なら俺も行くよ。働きたくはないが知り合いに傷付かれるのはもっと嫌だ」
「で、でもあの女はかなり危険な…!無能力者のあなたでは…」
「いいからさっさとしろ、お前のお姉さまの為にもさっさと終わらせろよ」
「…分かりましたの」
そう言って白井はテレポートした。ハッキリ言えば、たぶん相手は暗部の奴だろう。だから、白井一人では荷が重いハズだ。
「あれ?あんたなんでこんな所にいるの?」
「御坂」
「ストーカー?うちの寮監怖いからやめた方がいいよ」
「おい、お前冗談でもそういうこというのやめろ。夏休みに、ただの付き添いなのにストーカーと間違われたこと思い出すだろうが」
「う、うん…なんかごめん」
「…で、お前は今帰りか?」
「うん、ちょっとね…」
あーこいつのこういう顔、見たことあるぞ。
「…あんま白井に心配かけさせるなよ」
「…分かってる。分かってるけど」
「そういうことになるから俺は友達なんて作らないんだ。友達さえいなければ心配されないから多少無茶しても自己責任で済む」
「あんた…言ってて悲しくないの?」
「これしきの悲しみ…とうの昔に乗り越えている」
……たぶん。
「そ、じゃあ私はそろそろ部屋に戻るね」
「あぁ、またな」
御坂は寮の中へ消えて行った。それから数分、いつまで経っても白井が来ない。え、なにこれいじめられてんの?てか御坂また出てきたんだけど…今度は話しかけて来なかったし…。
いや、諦めるのはまだ早い。初春に聞こう。
「もしもしはつはる?」
『駆逐艦じゃありません!ういはるです!どうしました?』
「白井そっちにいない?あいつに寮の前で待っててって言われてから30分経つんだけどまったく出てこない」
『へ?一緒じゃないんですか?白井さんならさっき私と結標のことについて電話しててそのまま切っちゃいましたけど…』
結標?あの赤い髪のやつか…いや、そんな場合じゃない。
「あのバカ…悪い切る」
あの野郎…先に行きやがったな。手に持った携帯をそのまま別のやつに掛け直す。
「滝壺か?今平気か?」
『珍しいね、ひきがやから電話くれるなんて』
「悪いけど急いでるんだ。どっかで空間移動の能力者が暴れてたりしないか?」
『うーん…ちょっと待ってね…………あ、あった。南南西かな?そこで二つの空間移動が暴れてる』
「悪い、サンキュー」
そのまま電話を切ると、俺は南南西に向かって走り出す。そして、明らかに誰かが暴れた跡みたいな建物からSFっぽい音がする。俺はその中に入り、ぶっ倒れてる白井に向けている銃を掴んだ。
その銃は、さっきの赤い髪の女ー結標に握られている。
「風紀委員だ。お前を拘束する」