リリカルなのはW.C.C   作:さわZ

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コメント一つでここまで書いちゃった。
我ながらチョロい。
珍しく邪神様は自発的には馬鹿していません。



IF運命の人 第二話

幼馴染との間に出来ちゃったことが発覚して三ヶ月が経過した。

この時点で邪神である裕は暇さえあれば頭を抱えていた。いや、悩んでいる時以外で日常生活を過ごしているだけにしか過ぎない。

それは彼が通っている文月学園と呼ばれる高等学校。学業成績で学ぶ環境が左右され、学業成績を持って特殊な制度がある場所でも彼は悩んでいた。

 

出来ちゃった子どもをどうするか。

 

一般的な高校生なら堕胎が選ばれるだろう。

母体への危険から、経済面や世間体。将来の事を考えれば子どもには悪いが堕胎してしまうのが邪神にも幼馴染にも良案だと思われる。

 

だが、問題がある。

それは幼馴染の出生が普通じゃない事にある。

 

彼女は出来ちゃったではなく、作っちゃった。しかも愛情を持って生まれたのではなく、とある理由で冷遇された環境で生まれてしまった人物である。

そして、心優しい女性でもある。

自分と似たような状況で生じた命をどうして切り捨てることが出来ようというのか。

それに彼女も邪神の事を悪く思ってはいない。むしろ好感が持てている相手だ。

だからこそ、彼女はこう言ったのだ。

 

産みたいと。

 

そして、邪神もまた彼女の内情をよく知る人間として、無下にできるものではなかった。

彼女の想いを踏みにじる事も、まだ生まれていない小さな命を切り捨てることも出来ない。

幸いなことに邪神も幼馴染も自活どころか数人なら養っていけるだけの人脈・生活力を備えていた。

幼馴染は既に社会人。邪神は高校生だけどその人脈は広く、高校生と言う若輩ながらも接客業から肉体労働までこなせるうえ、時空をまたにかける組織や別の幼馴染の稼業である遺跡発掘というビッグプロジェクトにも手を伸ばせるだけの邪神の能力がある。

 

ここまでなら普通にお前ら結婚しろよ。と、茶化せるのだろうが問題がある。

 

この邪神、別の幼馴染から好意を長年受け続けてきたにもかかわらず、彼女たち以外の女性との間に子どもをもうけてしまったことである。しかも皆が皆美少女で将来を約束されたキャリア持ち。そんな彼女たちの好意を裏切ったに他ならないのだ。

 

ああ…。俺はあの時、なんで酒もどきなんか作り出してしまったのだろうか。

どうして、男子学生の必需品である避妊具を用意していなかったのかと悔やんでも悔やみきれない。

 

日に日に少しずつだが大きくなっていく彼女の胎。今は太り気味かな?とごまかしているがもうそろそろばれる頃合いだ。

ばれた時、どうすればいい?

 

そんな悩んでも、考えても、答えが見えない思考の袋小路で邪神が廊下を歩きながら悩んでいると廊下の角から出てきたとある男子学生とぶつかった。

 

「うおっとごめん。って、田神君」

 

「っと、すまん。って、吉井か」

 

邪神とぶつかったのはこの学園に入学してすぐに交友関係になった吉井。成績が残念過ぎてFクラスという最下位のクラスで、邪神とは別のクラスではあるが二年生になり、上位の成績を収め、Aクラスという最高クラス。

クラスの格差はあっても何かと波長の合った二人の交友は続いている。

まあ、邪神以外にもFクラスに何かと接触したがる人間は数人いる。

 

「…どうしたの田神君。ここ最近ぼーっとしているのが多いよね。インフル?」

 

邪神は今抱えていることをふと思い出しては考え事にふけるというのが日課になってきており、それは違うクラスの友人にも感じ取れるほど深刻だった。

勿論、吉井少年は気になって声をかけてきた。彼だけではない。同じAクラスの久保君や木下さんなどにも声をかけて来られたが、誰かに相談できることではないと今まで拒んできたがもう本当にどうすればいいのかわからなかった。

だから馬鹿にも縋る。違う。藁にすがるつもりで吉井少年に縋ってしまった。

 

「…吉井。放課後、飯おごるから相談に乗ってくれないか?」

 

「奢りっ!うんうん、何でも言って!どんなことでも相談に乗るよ!」

 

ちなみにこの吉井少年。高校生にしては珍しい一人暮らし。

両親と姉は外国におり、自由を満喫する暮らしを送っていたが、ゲームやムッツリ商会という所から美少女の写真の購入しており、金欠状態が多い。むしろ、そうじゃない時が少ないくらいだ。

決して奢りのご飯につられて相談に乗るのではない。三割くらいは当てはまるが。

 

「これは、…俺の友人の話なんだが」

 

邪神は一拍子おいて自分自身じゃなくて友人の事なんだと前置きをしておく。

確かに彼の友人は、下は幼稚園。上は社会人。老人会のお爺ちゃんたちと年齢の幅は広い。

これも幼少期に彼が作り出した幼馴染をストーカーから守るための組織イエーガーズ。幼馴染一年半前に次元世界を跨いだ場所に15歳という若さで就職をしたこと。ストーカーも追うようにそっちへ行ってしまった。

地球に滞在することを選んだ邪神の手の届かないところに彼女達が行ってしまった。彼女たちの事は元イエーガーズの団員である少年に警護を任せた。

これを機に一度解体。再結集した時邪神と団員の目にかなった人物たちを無差別に招集。新たに再結成された組織の名は、

 

恋愛支援団体ラブラビッツ

 

主に恋愛に悩む若者から熟年者の悩み事を解消するボランティア団体。全身黒タイツでうさ耳をつけた変態紳士の集団である。

活動内容は肉体改造から服のセンス磨き。更には就職先の斡旋等。自分磨きを助ける団体へと変貌。その実績は確かなもので年末までには邪神の地元である海鳴を超えて県外まで組織は成長する見込みだ。

 

話を戻す。

そんな幅広い人脈を持つ邪神の悩み事を聴いている吉井少年は学問面では馬鹿だが、なぜかこういったことには聡い少年だった。

 

うんうん。

これは友人の話とか言っているけど田神君本人の悩みだな。

昨日のテレビでも言っていた。これは、真剣に答えなきゃ。

 

そして、邪神はこういった時に限って運が味方してくれない。

 

「出来ちゃった婚って、どう思う?」

 

…これは、目の前の少年は大人になったという事だね。

騙したねっ!純粋に心配した僕の純情を騙したね!

許さないっ!絶対に許さないぞ!この似非非モテ男め!じわじわどころか確実に仕留めてくれる!

 

「YUDAが出たぞぉおおおおおおっ!!!」

 

「うおおおおっ?!も、もちつけ吉井っ!」

 

そう叫びながら吉井少年は邪神に殴りかかった。しかも血涙を流しながら。

邪神は幼少期から体を鍛えており、そこらの不良やヤンキー。暴走族やヤクザまで相手しても逃げ切れるスペックを持つ。そんな彼だが、吉井の攻撃をかわすことは出来ずにクロスアームブロックで何とかしのぐしかないほどまで鋭く重い物だった。思わず邪神の口調も慌てたものになる。

それだけではない。文月学園のあちこちから獣のような呻き声が鳴り響く。そして、それらは確実に自分に向かってきているのだと感じ取れる。

 

「吉井ぃいっ!YUDAは、そいつかっ!!」

「って、そいつは俺らの救世主でありながら裏切り者の田神じゃないか!!」

「こいつ、いろいろ否定していたけど俺らの黒髪アイドルのも森下さんとヤル事やっていたという事くぅあっ!!」

 

続々と黒い頭巾をかぶったカルト集団のような男子学生達が表れる。

彼らの名前はFFF団。主にこの文月学園二年。成績最下位クラスのFクラスの男子生徒で構成されているある意味、邪神が組織しているラブラビッツに似た団体だ。

その活動内容はモテる男への粛清。

鞭打ち。石抱き。張り付け。火あぶり。引きずり回し。と、魔女裁判もどきの事をしでかす団体である。

だが、その中の殆どがモテたいがためラブラビッツに接触していることもある。その度にモテる知識をもらっているのだが、残念ながら彼等は馬鹿なのでそれを生かし切れていない。

彼らの残念さは運動面にも表れるのだが、なぜか粛清の時は必ずと言っていいほど身体能力が倍増する。

ちょうど邪神を殴ろうと拳の連打をする吉井のように。

その形相は我が子を奪われた鬼の如く歪み、力強いラッシュが繰り出されていた。

そのラッシュもなんとかさばきながら邪神は自己弁護を開始した。

 

「待て待て待て待てっ!誤解があるぞ!ちーちゃんとはまだ何もないっ!」

 

ちなみに森下さんと言うのはイエーガーズの時から邪神のサポートをしてくれていた少女で、邪神や元イエーガーズの団員たちからはちーちゃんの愛称で慕われている大和撫子な美少女。しかも高校生にしては大人顔負けのスタイルであり、特にバストは幼少期からバストアップの体操をしていたので学生の中ではトップ3に入るほどの巨乳だ。

そして、邪神に思いを寄せ続けている少女でもある。その勢いは衰えることなく続いており、Aクラス。学年主席の霧島少女。同じくAクラスの工藤少女と共に三大肉食獣と呼ばれるほど邪神にアタックし続けている美少女である。

 

そのため、邪神はFFF団から目の敵にされており、吉井少年もそれを憎らしいと思う程である。普段は友達想いの彼だが、女性関係が浮き彫りになるとそれが豹変する。

しかもそれだけではない。邪神の交友関係の中には彼女レベルの美少女が何人もいるのだ。

 

「とは!?まだ!?田神君、君はやっぱり森下さんと関係を持ちたいと思っていたんだね!このムッツリーニ以上のムッツリめ!しかもその様子だと森下さん以外の人と関係を持ったんだね!!」

 

「なんでこんな時に限って察しがいいんだよ!ニュータイプか!」

 

言葉の端々から邪神の交友関係を察する吉井少年。

今の彼は怒りによって肉体のリミッターが外れていた。彼だけではない。FFF団の連中も黒頭巾をかぶっているとは思えないほどの俊敏な動きと連携で邪神を追い詰めていく。

 

暗号名YUDA。

それはFFF団関係の人間が自分達に何も伝えずに彼女を作ったという裏切り者に振られる禁忌ワードである。

 

特に彼等を裏切ったわけではないのだが、状況的言えば何も否定できないのが今の邪神だ。

彼等と邪神の身体能力は明確な差があるというのに確実に追い詰められ始めている。

 

「貴様ぁああああっ!!誰とだ!誰と一緒に大人の階段を上ったんだ!ちーちゃんか!?ケーキ屋の子か!?お嬢様学校の誰かか?!それともロボット研究所の子かぁあああっ!?」

 

「ち、ちちげぇしっ!」

 

大振りながらもスピードが乗っている。その上、長年付き合ってきた戦友のように連携を取る吉井少年を含めたFFF団の連続攻撃に邪神は内心怖気づきながらも、核心をついてきた吉井の言葉に動揺した。

ちなみに邪神からムッツリ商会経由で吉井少年もFFF団も彼の幼馴染の事を知っている。何せ、金持ちで、美少女で、誰もがナイスバディーだ。とある写真集にも取り上げられたこともある。

そして、その動揺を敏感に察したFFF団は血の涙を流しながら更なる猛攻を浴びせ続ける。

 

「「「「「あのグラマラス金髪美少女と大人の階段を上ったんだな!!!」」」」」

 

「だから何でそんなに察しがいいの?!お前ら自分のステータスを全部粛清に振っているのかっ!」

 

普段の邪神ならこんなことは口走らないが、今は精神的にも肉体的にも追い詰められている。と、首筋に冷たい感触を覚えた邪神はFFF団の攻撃から何とか逃げながらも、急に感じられたすぐ後ろの気配に目を向けると、そこにはムッツリ商会の主が横たわっていた。

 

「…はぁはぁ。…金髪、グラマラス美少女?」

 

「これ以上、興奮するなムッツリーニ!一度、撤退をするのじゃっ」

 

「…取り消せよ。今の言葉。…退けるかよ。…ここで退けば、俺は一生後悔するっ!」

 

一見地味で細身な男子学生である土屋少年。ムッツリーニと呼ばれている通り、エロへの探求が物凄いどころではない誇り高きエロへの行動力とそれに通じる高い身体能力を持った少年であるが、同時にピュアな少年である。

彼は本来、邪神の意識外からの奇襲で彼を仕留めようとしたFFF団の一人でもある。その奇襲は途中まで、攻撃が邪神に当たる寸前まで成功していた。だが、吉井少年達の邪神を責める言葉に過剰に反応。

何度も盗撮。もとい撮影したこともあるからわかる。金髪グラマラス少女ことフェイトの事を知っているムッツリーニはその言葉を聞いた瞬間にフラッシュバックの如くフェイトのあられもない姿を想像し、興奮のあまり鼻血を噴出した。その血しぶきが邪神の首筋に当たり、自分の存在を知らせてしまった。

かなりの量を吹き出し、今もなお流し続けている出血量で、ムッツリーニは意識を保っているのが精いっぱいだ。

そんな彼を介抱する美少女。に見間違うほどかわいらしい顔つきの人物。木下。性別:秀吉がムッツリーニの様態を心配していた。

二人ともFクラスであり、FFF団の一員だ。吉井少年の招集に飛びだしてきたのだろう。

 

「これはムッツリーニの血か?!てか、持っている物が危ないな本当に?!」

 

ムッツリーニが手にしているのはバーベキューで使われる鉄串、シュラスコである。あれで首筋を刺されていたら邪神と言えど、人の子だ。ただでは済まない。

既に瀕死状態のムッツリーニ。彼が万全の状態であったとしたらいくら邪神でも逃げ出すのは難しいだろう。

と、とうとう廊下の最奥。行き止まりに邪神が追い詰められた。

 

「よーしっ。お前らよくここまでうまくあいつを追い込めたな。後は任せろ」

 

FFF団のかぶっている黒頭巾。その集団の中で一回りは大きい体格の少年がマスクを取りながら、邪神の前に一歩出た。

 

「さ、坂本。お前まで来ていたというのか…」

 

「まぁな。屋上でのんびりしていたらバカの叫ぶ声がしたんで、何があったのかと思えばこんな面白い事になっているじゃないか」

 

坂本と呼ばれた少年は、吉井少年やFFF団の所属するFクラスのリーダーを務める統率力、行動力、戦闘力から話術まで兼ね備えた、少し昔では神童とまで称された少年だ。

粗っぽい口調や喧嘩の腕っぷしもあり、地元の不良に絡まれることもあり、そこを通りかかった邪神と共に不良を叩きのめしたこともあり、ある意味吉井少年達よりも長い付き合いの彼だが、邪神の美少女が多い交友関係に文句を何度も言ってきた人間でもある。

 

「お前は何かと首を突っ込むのに争いごとを避けがちだよな」

 

「な、ならわかってくれるよな。坂本」

 

邪神の言葉に納得したかのように一度、息を吐いた坂本少年。次に彼が見せた表情は罠にかかった獲物を見て笑っている猟師のような顔だった。

 

「ああ…。大義は我にあり!これで心置きなくお前をぶちのめせる!」

 

「おまっ、お前にだって霧島さんと言う女性がいるだろう!」

 

「それが今のお前と俺に関係があるのか?」

 

坂本少年は既にやる気満々のようだ。

もう出し惜しみしているわけにもいかない。

 

「ならば、…こっちも!こぉおおおおおいっ!ラァアアブッラビィイイイイイッツ!!」

 

邪神が指を鳴らすとFFF団の人垣をかき分けて黒ずくめのうさ耳集団が飛び出して邪神を守るかのように立ちふさがる。

 

「「「ラヴィッ!」」」

 

FFF団と対抗するには少なすぎるが数人のラブラビッツのメンバーがやってきてくれた。

全身黒づくめだから性別は判断しづらいが恐らく男女ともに3人ほどいるのだろう。女性らしい丸みを帯びた胸部の持ち主もいる。

 

「…ボディラインが、ピッタリフィット。…戦闘能力はDランク。…ぷはっ」

 

FFF団の数人がラブラビッツ女性団員の一人の格好に前かがみになり、再びムッツリーニが地に沈んだ。

フー、フー。とパリピのような掛け声をかけながらその場で踊りだしているような動きを見せるラブラビッツのメンバー。彼等はこの文月学園に通うメンバーであり、団長でもある邪神の命令を第三に考えている。

 

第一は恋愛に悩んでいるメンバーの力になるために。第二は自分磨きのためを考えている。

 

なぜ、邪神がこのようになっているかは不明だが助けを求めているのは明白なため、とりあえず仲間になってくれているようだ。

そしてこのメンバーも一般時と言うには色々とステータスが上回っている。

邪神の悪ふざけに付き合ってきたからか、身体能力と学力はFFF団の1.5~2倍のステータスだ。早々に負けるはずがない。いわばエリート戦士だ。

 

「どうだっ。これで少しはこっちに勝ち目が出たぞ!坂本!」

 

「ど、どうするの。雄二。田神君や男子学生ならいざ知らず女子は殴れないよ」

 

吉井少年は邪神を守るラブラビッツのメンバーの登場に若干焦りを見せる。

そう、ラブラビッツのメンバーは全身黒タイツ。某名探偵の犯人のように性別が区別できない。FFF団は馬鹿とはいえ、女子に手を上げればモテなくなるという理解はあるため、攻撃をすることをためらっていた。

 

「ふん。慌てるな。いや、むしろここは強力な味方が表れたと思え。あいつらは恋愛支援団体のラブラビットだぞ」

 

「味方?…そうかラブラビッツは基本ハッピーエンド主義だっ」

 

坂本少年が言うようにラブラビッツ恋愛支援団体。

モテない不衛生なデブ男がモテるためにはどうすればいいか?それは相手をデブ専に思考誘導したり洗脳することはない。

持てる男にするためにダイエットやエクササイズ。身の回りのお手入れの方法を伝授し、共に汗水流してモテ男にする。女も同様である。

相手を変えるのではなく自分の価値を上げ、相手に受け入れてもらう。

無理やりとか脅迫などもってのほか。そんなことをすれば裏切り行為となり厳しい制裁が下される。とりあえずその土地にはいられなくなるような制裁が下されるのは間違いない。

彼等は変態だが、紳士であり、誇りを持っていた。

 

「聞いてくれ!ラブラビッツの諸君。そいつは少女漫画界のYUDAだ!」

 

「「「っ?!」」」

 

吉井少年の言葉を聞いてその場で踊っていたラブラビッツのメンバーの動きが止まる。

彼等も知っているのだ。邪神が複数の女性から好意を持たれていることを。だがラブラビッツはFFF団のように粛清はしない。むしろ逆。祝いの場だと胴上げをするくらい好意的だ。だが、それも内容によっては違ってくる。

 

「そいつはどうやらとある女性とやらかして責任逃れをしようとしているらしいぞ」

 

「ち、ちが」

 

違わない。

確かに邪神は言い逃れを、逃げ道を模索していた。

恋愛支援団体の長が、やらかした上に責任逃れとはどう言いつくろってもごまかせない。

 

「「「………」」」

 

全身黒づくめのタイツのため、表情すらも見て取れないが、そこから放たれる圧から『どういうことだ?』という電波が目に見えるようだ。

 

「いや、それは、その…」

 

ラブラビッツを呼べばこの状況を打破できると思った。

馬鹿めっ!それはお前の包囲網を更に強化するためのものだ!

 

「脱出!!」

 

「「「させるかぁああああああっ!!」」」

 

邪神が近くにあった窓に手をかけて外へ逃げる為に身を投げ出そうそして、それを吉井少年と坂本少年。そしてFFF団が防ごうと邪神に手を伸ばす。

ちなみにここは三階(約十五メートル)である。

 

吉井少年や坂本少年が邪神の上着をつかみはしたものの邪神は体をひねって無理やりシャツを引きちぎり、上半身インナー姿のまま三階の窓から飛び出した。

そこから五点着地という高所から飛び降りた時に行う着地技を披露して、そのまま校外へと逃亡を図る。

FFF団だけではなくラブラビッツまで敵回ってしまってはどう考えても勝ち目がない。このまま逃げ切って、あとから根回しをする。

そう考え、校門まで走っていた邪神の前に複数の女子生徒が立ちふさがる。

 

「田神っ!やらかしたってどういうこと!」

 

「田神君!女の子の事を何だと思っているんですか!」

 

「…裕。やったのなら責任は取るべき」

 

Fクラスで、帰国子女でもあるポニーテールで勝ち気そうな少女。島田少女。

同じくFクラスで病弱でありながら体育以外はAクラスに匹敵する頭脳を持つ姫路少女。

そして、邪神と同じAクラスであり、坂本少年に想いを寄せる二年生の中で最高の学力を収める才女。霧島少女もまた今回の騒動を耳にして最後の防波堤になるために校門を見張っていたのだろう。

 

地雷。かなぁ・・・。

 

本音を言えればどれだけ楽になれただろうか。

そんなことも言えるはずもなく邪神は走ってきた勢いを殺してしまい立ち往生する。

さすがに邪神と言えど目の前の少女たちを力で押しのけて逃げようとは思わないが、後ろから多数の気配を感じているもうFFF団とラブラビッツが迫ってきているのだ。

何としても逃げ出さねばと模索していると、そこに一陣の風が吹いた。

それは爽やかさでも、嫉妬に狂う熱でもない。

 

「…会長。瑞希。美波。…足止めありがとう」

 

「ち、ちーちゃん。と、鉄人?!」

 

その風上にいたのは大和撫子のお淑やかさとモデルのようなメリハリの付いた妖艶な肉体を持った少女、森下千冬。元イエーガーズのメンバーで邪神の幼馴染でラブラビッツの参謀的なポジション。そして邪神に想いを寄せていることを公言しており、邪神が今最も会いたくない少女である。

 

そして、鉄人と言われたのは西村教諭。

坂本少年の二回りも三周りも大きい筋肉質な男性教諭。見た目通りの屈強さと頑固な性格。そして戦闘能力と学力を有している。

 

ま、まさか、ここで文月学園だけで行われている争い。『試験召喚』を行うつもりか?!

 

確かに鉄人は生活指導のほかにも総合科目と言う教科に携わっている。

ここでそれを持ち出されてしまえば確実に負ける。

なぜなら今、ここにいる人間はみんな敵。しかもAクラス級の学力を持つ生徒が3人もいる。いくら邪神でもそうなれば勝てない。こうなってしまえば試験召喚をされる前に逃げるしかない。

 

「西村先生。学園の風紀を乱す人間が目の前にいます」

 

「風紀を乱す奴は指導ぉっ!」

 

が、

それ邪神の抱えている物は以前の問題だった。

 

「ごぶぅっ!」

 

鉄人から繰り出されるステップインボディを受けた邪神は、その一撃を持って意識を刈り取られ、生活指導室へと連行されていった。

 

その後、生活指導室にてどうにか話をごまかして退学処分とまではいかなかったものの、これからどうクラスメートや友人たち。そして組織の人間を言いくるめればいいのか、邪神は必死に模索することになった。

 

 

 

同時刻。

新人執務官であるフェイトも友人たちの前でポロっとこぼした発言から妊娠の事が発覚。

幼馴染達に引き連れられて邪神のお家にお邪魔するまで残り七日に迫っていた。

 




幼馴染達。「「「「「へーい、そこの邪神様。私達とフェイトちゃんみたいにお話ししない。…お酒も交えながら、ね」」」」」

邪神様に拒否権はなかった。



備考。
邪神様の試験召喚獣は黒い袴に、黒い鞭を持った男版プレシアをマスコットにしたかのようなフォルム。
得意科目は保健体育の体育の実技。

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