鎮守府に変態が着任しました。   作:「旗戦士」

21 / 29
第弐〇集

<同刻・鎮守府医務室>

 

 

 中佐との会話を終えた遊佐少将は軍帽を被り直し、足早に鎮守府の医務室へと向かう。

無論の事、演習中に倒れた神通の見舞いへと向かうためであり、医務室の扉を開けた彼は瑞鶴を覗いた5人の艦娘から冷たい視線を浴びる事となった。

――当たり前か、と彼は内心で自嘲気味に笑うと意識が戻った神通の元へと歩み寄る。

 

 

「……提督、申し訳ありませんでした」

 

ベッドの上に座る神通は不本意ながらも前に立つ遊佐少将に頭を下げた。

隣で彼女を看ていたこの鎮守府の那珂は悔しそうな顔を俯かせ、彼の答えを待っている。

だが、もう今までの彼ではない。

中佐によって改心した彼が行う事はただ一つであった。

 

「何を言うか。こちらこそ、すまなかった」

 

彼は神通の前に両膝と両手を着き、彼女に頭を下げた。

長門や翔鶴、大井は驚愕な表情を見せ、神通は両手を口に当てる。

それもそうだろう、今までプライドが高く艦娘にきつく接していた遊佐少将の行動とは思えないものだったからだ。

 

「えっ? あの……提督……? 」

「私のミスによって君は意識を一度ではあるが失い、このような恥を君たちにかかせた。これは私の落ち度以上の何物でもない。長門、翔鶴、大井、北上、神通……今まで本当にすまなかった」

 

許してほしいとは言わない。

ただ、彼女たちに謝らなければ彼の気が済まなかった。

 

「私が頭を下げる事ぐらいでは気が済まないだろう。如何なる罰でも受ける。以前の指揮体制を上層部に報告し、軍法会議にかけたっていい」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ提督! いきなりの事で私達も整理がつかない! 」

 

「私が改心し、今までの無礼と冷遇を詫びた」

「そ、そうじゃありませんよ! ええと、その……どうしていきなりそのような事を? 」

 

大井の問いに遊佐は立ち上がり、軍帽を脱ぐ。

軍帽に覆われていた坊主頭と端正な顔が大井に向けられた。

 

「この鎮守府の中佐殿に窘められたんだ。"貴方は間違っている"、と。今までの行動を思い返してみれば確かに過酷な現場であっただろう。すまなかった」

「……どーして、今まであたし達にきつく接してきたの? 理由によっちゃ殴るよー」

 

「……その、君たちとどう接したらいいのか分からなくてな」

「あらまー、童貞真っ盛りな答え返ってきちゃったよ。んで、どうするのさ神通っち」

 

北上は普段と変わらずに神通へと視線を向ける。

 

「わ、私は……」

「神通ちゃん、遠慮しなくて良いんだよ? 」

 

那珂の言葉に、彼女は更に言葉を詰まらせた。

まるで小動物のような可愛さを見せる彼女に、この場にいた全員が内心変な顔になっている事だろう。

 

「その……私はそんなに気にしていません。むしろ今まで私達が轟沈しなかったのは提督の指揮のおかげですし。で、でも、もう少し私達と仲良くしてくれたらなぁと思う所はありました」

 

「神通ちゃんは甘いなぁ。那珂ちゃんのとこの提督はそんな事言ったらすぐに調子に乗ってお尻とか触って来るよ。"枕営業プレイしようよグフフ"とか言いながら」

「ちょっと待ってくれ、完全にうちの提督より中佐殿の方が問題ある気がするんだが」

 

「憲兵たちは何をやっているんだ……」

「憲兵さん達が捕まえても牢屋の壁突き破って逃げちゃうんだよね」

 

「それ本当に人間なの? 」

 

翔鶴の問いに那珂は首を傾げる。

彼の知らないところで評価が下がっているのはいつもの事でもあるのだが。

 

「ま、まぁ提督。私達は貴女が思っている程冷遇されていたとは思っていないさ。ただ、今日の指揮は無理がある。もしこれが実戦だったのなら、一人轟沈していてもおかしくはなかった」

「そうだな……。然るべき罰を受けよう」

 

「ならば神通の傍に居てやってほしい。そして今後、私達とのある程度のコミュニケーションはとる事。それでどうだ? 」

「てっ、提督がお傍にッ!? 長門さん、それは大丈夫です! 私には大きすぎるご褒美って……あっ」

 

瞬間那珂の顔がニヤつき、神通の頬は真っ赤に染まった。

いきなり褒められてしまったのか遊佐少将の顔も徐々に赤く染まっており、長門は苦笑いを浮かべる。

 

「そう言う事だ。私達はこれから中佐殿の主催する打ち上げに行ってくるよ。二人はほとぼりが冷めたら来るといい」

「じゃね、神通っち。…………今がチャンスだよ」

「きっ、ききき北上さんっ!! 」

 

そう言って長門は那珂を含めた4人を引き連れ、医務室を出て行った。

取り残された二人はその後、恥ずかしくてお互いの顔を見れなかったとか。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<同刻・鎮守府海岸>

 

 

 医務室へ向かった長門達とは別に、瑞鶴は加賀の元へと向かっていた。

また戦闘に関するお小言を言われるのか、と思うと彼女の心境は複雑な物へと変わる。

 

「瑞鶴、こっちよ」

 

呼ばれた声に視線を向けると、加賀と赤城が砂浜の上で隣りあわせに座っていた。

彼女は二人の元へ駆け、一応会釈をする。

 

「ど、どうも……お疲れ様でした」

「えぇ、お疲れ様。座って」

 

言われるがままに瑞鶴は加賀の隣に腰を落ち着けた。

何を言われるのかと不安になる彼女に、加賀の声が響く。

 

「あなたの癖、変わってないわね。無理に艦載機を射出するのと、危険を顧みずに突撃していくのは止めた方がいいわ」

「うっ……」

「まあまあ加賀さん。本当に言いたい事はそれじゃないでしょ? 」

 

笑顔の赤城に気圧されつつも、加賀は瑞鶴と向き合う。

疑問を抱きつつ瑞鶴はおそるおそる顔を上げた。

加賀の顔は、笑顔になっている。

 

「強くなったわね、瑞鶴。訓練生の時とは見違えた、まさか貴女に大破させられるとは思わなかったわ」

「私も見てました。加賀さんと喧嘩してた時が懐かしく思えるほど、頼もしく成長してましたね」

「えっ……お小言を言いに呼び出したんじゃ……ないの? 」

 

瑞鶴の言葉に加賀は笑う。

 

「お小言って……私は姑か何か? ……でも、訓練の時にきつく言ってしまってごめんなさいね。一航戦を引き継げるのはあなた達五航戦か蒼龍たち二航戦、雲龍型の子たちぐらいしかいないから焦ってしまったの」

「で、でも……私も反抗とかしちゃったし……ごめん、加賀さん」

 

俯く瑞鶴の頭を、赤城と加賀が撫でる。

思わず彼女の目から涙が流れ、瑞鶴は目を拭った。

 

「私、今すごく幸せよ、瑞鶴。あなた達瑞鶴と翔鶴がこんなに強くなって、私を打ち負かしてくれて。あなたに一航戦を任せても大丈夫って事が知れて、安心したわ」

「か、か、加賀さぁ~ん!! 」

 

思わず瑞鶴は加賀に抱き付く。

今まできつく接された反動があったのか、彼女は母親に泣きつく子供のように加賀の胸に顔を埋めた。

隣にいた赤城も瑞鶴の事を後ろから抱きしめ、より一層瑞鶴の涙は溢れる。

 

「ふふっ、貴女が小さい頃を思い出すわ。こんな風に甘えていたものね」

「ううっ……昔の事は言わないでよぉ~」

 

そんな中、海岸の周辺にある草の茂みから提督と鳳翔、ビスマルクが頭を出す。

どうやら3人の様子をずっと観察していたようで、提督の顔はニヤついていた。

 

「鳳翔さん、ビスマルク……最近私は百合の良さに気付いてきた。瑞鶴君と加賀さんの組み合わせって最高じゃない? 具合わせしてる最中に混ざりたい」

「同感よアドミラール。私は駆逐艦の子ともレズックスしたいわ。暁とか」

「あなた達本当に空気読めないですよね」

 

鳳翔の肩をビスマルクが叩く。

 

「大丈夫よ鳳翔。私は空気が読めなくてもそのまま襲うわ。泥みたいなセッ○スを所望する! 行くわよアドミラールっ! 」

「おうとも! 加賀さんっ!! 私もそのおっぱいに顔を埋めさせてくれーっ!! 」

 

「えっ!? 中佐殿にビスマルクさん!? なんでいるの!? 」

「瑞鶴、ちょっと待っててね」

 

瑞鶴を胸から引き離し、加賀は艤装を取り出した。

瞬間提督の頭とビスマルクの頭を射抜き、その場で沈黙させる。

 

「加賀さんっ!? 上官殺しですか!? さすがにまずいですよ! 」

「大丈夫です、ビスマルクさんは"ダンケっ"とか言いながら伏しましたから。それに提督はこんなんじゃ死にませんよ」

 

「その通りだとも赤城君! 私の下半身は射出できるぞ! 」

「なにそれこわい」

 

常識の範疇を越えた二人の身体能力に思わず赤城は素で慄いた。

隣の瑞鶴は困惑し、提督の頭から流れる血に少しだけ怯えた表情を見せる。

 

「ごめんなさい、3人とも。提督とビスマルクさんが百合CPが出来上がる様子を見たいって聞かなくて……」

「あっ、ずるいぞ鳳翔さん! あなただってハァハァ言いながらビデオ撮ってたじゃないか! 」

「それビスマルクさんでしょ! 変な罪擦り付けないでください! 」

 

「駄目だビスマルク! 罪も汁も擦り付け作戦が失敗した! 」

「アドミラール! 逃げるわよ! 」

 

次第に状況が把握出来てきたのか、瑞鶴の顔が真っ赤に染まっていく。

 

「もぉぉっ!! 中佐さんとビスマルクさんのバカァァァァァッ!! 」

「さすがに艦載機は再生が追い付かな――ぎゃぁぁぁぁぁっ!! 」

 

綺麗な夕日とは不釣り合いな絶叫が海岸にこだました。




遅れてしまい申し訳ありませんでした。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。