鎮守府に変態が着任しました。   作:「旗戦士」

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提督「最近シリアス過ぎて身体が疲れたので高雄に癒しックスしてもらおうと思う」
高雄「馬鹿め、それは残像だ」


第十九集

<霧島・足柄視点>

 

 「マイクチェックの……時間だオラァッ!! 」

 

霧島の強烈な拳が長門に振り降ろされると同時に、彼女は防御の体勢をとる。

それでもなお、長門の身体は衝撃を殺しきれずに後退する羽目となった。

 

「足柄! 加賀の援護へ! 」

「任せなさい! さぁ、今日も艦首もぎ取るわよォッ!! 」

「行かせるか!! 全砲門、斉射! 撃てェーッ!!! 」

 

轟音と共に長門の41cm連装砲の砲口から5発の砲弾が足柄へと迫る。

彼女の耐久値を削らんとしていたその砲弾達は霧島の拳によって明後日の方向へ飛んでいき、水飛沫が上がった。

長門は足柄を逃してしまったという事実に悔しさを露わにし、吹っ切れたように霧島との距離を詰める。

 

「霧島ァッ!! 」

 

神速の如く振り降ろされるその拳を、霧島は左手で受け止めた。

反撃として長門を覆う艤装に向けて渾身の正拳突きを放ち、彼女の耐久値を減らす。

直後、よろめいた長門を襲うのは霧島の足刀蹴りであった。

 

「いつまでも……やらせる訳に……行くかァッ!! 」

 

本能的に構えた防御の両腕が霧島の蹴りを間一髪で防ぎ、長門は後方へ追いやられる。

その後霧島の電探が敵艦載機の余波を告げ、彼女は戦慄に駆られた。

 

「この艦載機……翔鶴か! 」

「負ける訳には……いきませんっ! 」

 

援護に入った翔鶴自身も大破寸前の耐久値に追い込まれていたが、霧島にとって彼女の援護は最悪のタイミングである。

素早く眼鏡に搭載された端末を起動すると味方艦娘の現状を彼女は目の当たりにした。

 

『霧島。残っているのは君と足柄、鳳翔だけだ。他のみんなは全て戦闘不能となった』

「……了解。鳳翔さんの耐久値は? 」

『安心してくれ。"小破"だ』

 

提督の言葉に、霧島はニヤリと笑う。

倒すべき相手はこの二人。

やってやろうじゃないか、格上の少将が何だ。

霧島の身体に、彼女の覚悟が宿る。

 

『霧島。存分に暴れろ』

「了解、司令。ご厚意に感謝します」

 

瞬間通信を切り霧島は海の上を駆け、翔鶴を肉薄した。

戦艦では有り得ない速さで追い付かれた事に驚いたのか、翔鶴の顔は呆気に取られている。

 

「46cm連装砲、斉射」

 

近距離で放った46cm連装砲の砲弾が翔鶴に殺到した。

戦艦並の火力と併用し素早く動く事が出来る――霧島の艤装が"高速戦艦"と言われる所以である。

直後翔鶴の耐久値も大破の目盛りを差し、彼女も戦闘不能に陥った。

 

「正規空母の翔鶴を、たった一撃で……! 」

「悪いんですけど、私。相当頭に来てるんです。私達の提督を"臆病者"呼ばわりする貴方達の提督に」

「……そうか。あれでも一応、私たちを指揮する提督なんだが。いいだろう、来い。お前の想い、私にぶつけろ。後で知らせてやるとするさ」

 

長門の方も腹を決めたのか、深呼吸をした後に拳を構える。

お互いの耐久値は大破目前。

どちらかが一撃を食らえば、負けは確定する。

 

「長門型の名は……伊達ではないッ!! 」

「霧島改二……抜錨ッ!! 」

 

海域に響いたのは、二人の拳がぶつかり合う音だった。

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<管制室>

 

 

 私の目に霧島と長門の激闘の様子が映る。

二人はお互いのパンチ一発で艤装の耐久値を戦闘不能にまで減少させ、それを合図に演習は終わりを告げた。

結果は私達の戦術的勝利。

理由はこちら側の旗艦である鳳翔さんの耐久値がまだ小破だった為である。

 

演習の勝敗基準は無論の事艦隊全員の耐久値を合計して数が多い方が勝利というシステムであり、遊佐少将の艦隊旗艦を務めた長門の耐久値が大破にまで追い込まれたというのも勝利した理由の一つだ。

 

「やったぁ司令官! 私たちの勝ちですよ! 」

「そうだな。あぁ、緊張して死ぬかと思ったぁ……」

 

思わず膝から崩れ落ちて椅子に座る光景を見て、吹雪は不思議そうな表情を見せる。

 

「どうしたの吹雪君? 」

「い、いえ! ただ演習の時だと全然雰囲気が違ったなぁ、と思って」

 

「あっはっは、私のギャップに惚れちゃった感じ? いいのよ、もっと好きになって今夜ベッドに行っても」

「わたしの台詞取るんじゃないわよアドミラール。でも吹雪、今日は一緒に具合わせしない? なんだかムラムラしてきたの」

 

「マックスさん」

「えぇ」

 

直後、龍田君の薙刀を持ったマックスが私のケツにそれを突き刺しつつ、ビスマルクの頭を鷲掴みにした。

正直言って駆逐艦の子が戦艦蹂躙するとかいう訳の分からない光景である。

 

「管制室から血の臭いがするんですけど……。提督、起きてください。霧島さんたちを迎えに行かなくていいんですか? 」

 

「はっ、そうだった! 今すぐ迎えに行かなきゃ私が死んでしまう! 」

「急ぎましょアドミラール! そしてすぐにセクハラよ! 」

「おう! スカート捲りに胸揉んでやらぁっ! 」

 

「憲兵さん」

「りょーかぁーい」

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<鎮守府埠頭・特設会場>

 

 

 「おーい! みんなーっ! 」

「あら、提督に憲兵さん。それにビスマルクさんも。迎えに来てくれたんですか? 」

 

「当たり前だ! 疲れてる君たちにセクハラしに来た! 」

「憲兵さん、このクソ提督処刑してくれませんか? 」

 

「考えとくね」

 

せっかく迎えに来たのに最初から罵倒とか納得がいかない。

私に巻かれている縄を解きつつ、鳳翔さんはため息を吐く。

そんな中、私とビスマルク、憲兵さんを含めた9人にとある人物が声を掛けた。

 

「ヘーイ、皆さーん! さっきはアメイジングな試合でしたネ! 思わず私も戦いたくなっちゃったヨ! 」

「お疲れ様でした。見事な采配でしたね、中佐殿」

「お褒めに預かり光栄です、大和殿、金剛殿」

 

元帥殿の第一艦隊旗艦を務める大和とその補佐である金剛、それに元帥殿が笑顔を私達に向ける。

くそうじいちゃんめ、こんな可愛い女子と一緒に仕事してるとか許されねぇぞオイ。

 

「ノンノン、そんな堅苦しいのはナッシングネ! テートクと私の仲じゃないノー」

「マジ? どうにも堅いのは苦手でさ、そう言ってくれると有難いよ。あ、今私の股間はこの雰囲気に反してガチガチだよ。触ってみる? 」

 

「相変わらずの猛アタックネー! ウンウン、それでこそテートクだヨ! 」

「だろ? それはともかく早く腋でこの愚息を収めてくれると有難(ry」

 

直後、霧島の手が私の頭を鷲掴みにする。

振り向くと鬼の形相で私を睨みつけており、思わず愚息も縮こまった。

 

「……コホン。それはともかく、皆さんお疲れ様でした。私も今後の作戦の参考にしようと思います」

「ありがとうございます、大和さん。私、貴女が見てると知ってちょっと頑張っちゃったんですよ」

 

「すいません元帥殿、このまま鳳翔さんお持ち帰りしていいですか」

「鼻血出とるぞ大和」

 

鳳翔さんの可愛さに鼻血が出るのは納得である。

どうやら木曾や足柄も姉である妙高さんと球磨と会話している様で、加賀さんの方は赤城さんと何やら話し込んでいた。

 

「みんな積もる話もあるだろうし、私は遊佐少将の所へ行って参ります。失礼します、元帥殿」

「うむ。わしらはもう少しここにおるぞい」

 

そんな彼女たちを差し置いて、私は少将殿のいた特設管制場へ向かう。

疲れ切った顔をした遊佐少将の艦娘たちは、私の顔を見るなり敬礼を見せる。

 

「演習、有難うございました。中佐殿」

「いいよいいよ、そんなに畏まらなくて。それよりも長門、うちの霧島とタイマン張るなんてすごいな」

「えぇ、私も驚きました。貴方の方こそ、見事な指揮でした」

 

私は長門と握手を交わし、肩を張る瑞鶴に微笑みかけた。

 

「瑞鶴君、加賀と激戦を繰り広げてたね。彼女が呼んでいたから、会ってくるといい」

「えっ、加賀さんが? な、なんだろう……またお小言かな……」

「……さぁ、どうだろうね。でも、加賀は君の事を高く評価してたよ。まあ、会ってからのお楽しみかな」

 

瑞鶴は姉の翔鶴に心配そうな表情を見せるものの、翔鶴に背中を押されたせいか彼女は一目散に駆けて行く。

そんな彼女を見送りながら5人は神通の元へ行くようで、私に別れを告げた。

 

「あっ、そうだ。君たちの提督はどこにいるかな? 」

「作戦が終わった瞬間にどこかへ行ったから分かりません。では、失礼します」

 

質問を終えた大井は丁寧に私にお辞儀を見せ、北上の元へ帰っていく。

5人を見送った後、私は一人遊佐少将の所へ向かう事にした。

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<鎮守府埠頭・海岸付近>

 

 

 少将殿を探して約五分後、夕日が差し掛かっている地平線を見ながら私は砂浜を歩いている。

周囲を見回していると煙草を咥えながら景色を仰いでいる彼を見つけ、私の足は自然と彼の元へたどり着いた。

 

「演習、お疲れ様でした。遊佐少将」

「……あぁ、ご苦労だった」

 

敬礼を彼に見せ、私は隣に座り込む。

 

「……私を、笑いに来たのか? 」

「とんでもない。私は上官に、挨拶へ来たまでです」

 

そうか、と遊佐少将は煙草の煙を吸って吐き出す。

まだ年齢が私よりも若い彼の表情は、別段と老けて見えた。

 

「"臆病者が策略を持つと軍師になる"……。貴方の言葉は、私の胸に強く響いた。さすが、"白狼"と言ったところですな。中佐殿」

「……過去の実績は過去のものに過ぎません。それに、今は貴方の方が上官です。私に敬語を使うなどお辞めください」

 

人が変わったように遊佐少将は顔を俯かせる。

 

「中佐殿。こんなことを貴方に尋ねるのは間違いだとは分かっている。だが……」

「今後どう自分の艦娘と接すればいいのか分からない、でしょうか? 」

 

彼は寂しげに笑う。

 

「最初はこんな恐怖政治のようなものでは無かった。しかし、戦いを重ねていく内に私の神経は擦り切れていってしまった。もう……今までのように彼女たちと笑い合う事は不可能だろう」

 

「不可能ではありませんよ。確かに貴方は信頼を失ってしまったかもしれない。ですが貴方は彼女たちの提督であり、彼女たちを導けるのは貴方しかいない。信頼を失う事が出来るのなら、取り戻す事だって出来る。そうでしょう? 」

 

「やはり……貴方には敵わないな」

 

遊佐少将は煙草の吸い殻を携帯灰皿に捨て、立ち上がった。

彼の目は今までのものとは違い、その覚悟が目に宿っている。

 

「神通の元へ行ってきます。今彼女は……寝ているでしょうが」

「えぇ。それが貴方に出来る最善の事だ。戦いを終えた艦娘を労り、言葉を掛けて勇気を与える。それは提督である私達の義務だ」

 

「……やっと、分かったような気がします。自分が間違っていた事。中佐殿、いえ。"大将殿"。この度の演習、ありがとうございました」

「こちらこそ、ですよ。少将殿。今日は幾つか部屋を空けています。じっくりと腹を割って話してください」

 

そう告げると、遊佐少将はその場を走り去っていく。

"大将殿"、ね。

そう呼ばれたのは何時ぶりだろうか。

一人思い出に耽っていると、鳳翔さんが私の元へとやって来た。

 

「提督。皆さん待ちわびていますよ。今日は打ち上げですから、主役である貴方が来てくれないと始まりません」

「あぁ、そうだったね。じゃあ行こうか」

「はい」

 

鳳翔さんに微笑みかけ、私は彼女の隣に立って鎮守府へと引き返し始める。

大将殿、と呼ばれた事が私の胸に深く突き刺さっていた。





演習編お終いです。
もう下ネタぶち込まないと調子出ません。

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