すれちがい傷心旅行   作:変わり身

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『初音ミク Project mirai & 不思議の国の冒険酒場』の回 後編

――光を抜けたら、そこは深き森の中であった。

 

 

 

「……あうっ」

 

 

べったん、と。

 

しずくの生み出した水流に流されるまますれ違いダンジョンの種から吐き出されたボク達は、盛大にお尻を地面に打ち付けた。衣服越しに濡れた草の感触が伝わり、青い香りが鼻を突く。

いやもう衣服からリュックに至るまでびしょ濡れである。髪の先から滴が垂れ落ち、足元の水たまりに小さな波紋がゆらりと揺れた。

 

……ああもう、何が何やら。

 

 

「!」

 

 

そうだ、皆は無事だろうか。慌てて濡れる顔を拭い顔を上げれば、同じくびしょ濡れのチキンヘッドさんが目に付いた。

彼の背に担がれたミクは目を回していたが、外傷らしい外傷は見て取れない。どうやらチキンヘッドさんが守ってくれていたらしい、ホッと息を吐き、一安心。

 

ボクは未だ収まらぬ動揺を沈ませつつ、もう一人。

自分のした事の意味を多少なりとも理解しているのか、少し離れた場所で気まずげに正座している元凶――即ちしずくへと目を向ける。

 

 

「…………」

 

 

……まぁ、彼女のやりたかった事は分かる。ミクをあのまま放置したくなかったのだろう。

家中があんな惨状になってもプレイヤーは帰ってこなかったのだ。となれば彼女の進む未来は殆ど確定している訳で、仲良くなった友人として見過ごせなかった事も分かる。分かるけども。

 

 

――だがそれはそれ、これはこれ。ちょっとオイタが過ぎたって事で。

 

 

 

「~~! ~~!」

 

 

ぎぎぎぎぎぎ。

 

しずくを動けないよう拘束し、そのつむじに指をグリグリと押し付ける。

無論やり過ぎるとどえらい事になるので力は控えめに。地味ーに痛い感じで。そーれ身長縮んでしまえー。

 

 

 

* * *

 

 

 

どうやらボクは一つ目の世界と同じく何処とも知れぬ森の中に居るらしい。

色々と騒ぎ終え、一心地付いた後にようやっとそう把握した。

 

 

「…………」

 

 

鬱蒼と茂る葉っぱの群れに、そこかしこにそそり立つ木々の群れ。

獣道があるのを見る限りそれなりに人の通りはあるようだけど、余り治安は良くないようだ。視界の隅に捨て置かれたモンスターのような生物の死骸を見つつ、そう思う。

 

おそらく誰かが殺し、素材を剥ぎ取ったのだろう。ボクの世界にはタミタヤがあるとはいえこういう物を見る機会もちゃんとあったし、その意味する所はしっかり把握できている。

正直良い気分はしないが、この世界にはそういった文化があるのかもしれない。よそ者がアレコレ文句をつけるのも野暮だろう。

 

 

……まぁそんな事はさて置き、今回の被害者であるミクさんの話。

 

 

彼女が目を覚まし、周囲の状況を把握するとそれはもう驚いた様子だった。まぁボクの話を聞いていればそりゃ焦るだろう。

 

しかしまだすれ違いダンジョンの種が枯れずに残っており、何時でも戻れる事を知り安心したようだ。

しずくにもキツーイ説教こそしていたが特に怒りは抱いていないようで、彼女たちの友情は壊れなかったみたい。修羅場にならなくて良かった。

 

ではすぐに帰ろうか――そんな話になると思いきや、グズるしずくを顧みてギリギリまではこの世界でボク達と一緒に行動してくださるとの事。天使か。

 

制限時間としては、種が生えているのが畑では無い草原の為、日付が変わって作物が枯れる間際まで。となると余り遠出はできず行動範囲は狭くなる訳だけど、それは仕方のない事だろう。

ここは一緒に過ごせる時間が少しでも伸びた事を感謝するべき場面の筈だ。きっと。

 

 

「……♪」

 

 

しずくも渋々ながらそれに納得したようで、もうこんな事はしないと約束してくれた。

……ホントかなぁ? 不安には思ったが、ミクにもそう約束していたので嘘は吐かないと信じたい。

 

イザとなったら物体Xでも投げつけて大人しくさせてしまおう。そう考えつつ、とりあえず周辺の散策をする事に。

 

 

「…………」

 

 

にしても、改めて見るとこの森も結構変な部分がある。

 

先程のモンスターの死骸は良いとしても、道端に大量のメロンやポテトが生えていたり瓶の牛乳が落ちていたりするのだ。

まぁ多分そういう世界だって事だろうけど、一種異様な光景ではある。せっかくだし落ちているそれらを回収しとこうかな。放置するのも勿体無いし。

 

そうして森を進む最中、途中途中で鳥型のモンスターやバッファモーに似たモンスターが現れる事もあったものの、幸いにもそう強くなかった為撃退は容易だった。

一体、二体。基本的に集団で現れる彼らを倒す度、実にモンスターらしく某かのアイテムをドロップするのであるが。

 

 

「……肉、か……」

 

 

いや、うん。体の一部を落とすのは別にいいのだ、ボクも少しの血とか鱗とかよく貰っていたから。

だけど肉だよ肉。どこの部位かも知れない肉。生々しい肉。時折タンの部分も混じっている肉。

 

……これ、向こうでどうなってるんだろ。タミタヤの魔法で故郷に帰った彼らの安否を考えないよう努め、おっかなびっくりリュックに詰め込んだ。

 

そういえばボクって肉料理のレシピ知らないけど大丈夫かね。スパイスとフライパンだけあれば何とかなるかな。なったらいいなぁ。

つらつら調理方法を脳内に描きながら歩き続ける――――と。

 

 

「――! ――!」

 

「?」

 

 

……人の声と金属音。だろうか。ボク達の進む先、森の奥の方向から何やら騒がしい音が聞こえてくる事に気がついた。

 

微かに聞こえるそれらは明らかに自然音では無く、どうやら何者かが戦っているようにも聞こえる。

モンスターに襲われている人が居るのだろうか。ボクは素早くチキンヘッドさんに目配せをしてミクの事を頼み、回復要員としてしずくを伴い先行する。

 

優勢か、劣勢か。どちらにしても人として手助けはするべきだろう。ボクは意識を集中させ、ツインネッギを構えながら声のする場所へと勢い良く飛び込んだ――!

 

 

「――だからな、おっさん。アンタ何で普通に倒してんだよ、トドメは切り落とせって何時も言ってるだろ?」

 

「うるせぇな、別にそんな面倒な事せんでもロクスミートなら大量に持っとるだろうが」

 

「いやミートの方はともかくとして、タンの方が心許ないって言っといたじゃーん……」

 

 

――のだ、が。そこにあったのは危惧した緊迫場面ではなく、呑気に会話をする三つの人影だった。

 

金髪の少年、頬に傷跡のある壮年男性、そして眼鏡を掛けた少女。

何やら一仕事終えたような雰囲気を放つ彼らの足元には牛のモンスターが倒れこんでおり、直前まで響いていた戦闘音はそれを下した時のものだと伺える。

 

……どうやら手助けの必要もなく事態は収集していたらしい。ホッと安堵の息をつき、構えていたツインネッギを下ろす。

 

 

「! 誰……、っと。え、ネギ?」

 

「ナヨっちぃ坊主……いやお嬢ちゃんか? ちっこいウンディーネみたいのもいるな」

 

 

すると彼らもこちらに気付いたらしい。一瞬だけ警戒態勢を見せたものの、ボクの持つツインネッギを見て何とも微妙な表情を浮かべた。

さて、何やら物騒状況ではあるが、とりあえずは第一街人発見かな。雰囲気からして嫌な人達でも無さそうだし、これはこれで運が良かったかもしれない。

 

ボク達はなるべく柔らかい仕草を心がけ敵意が無い事を示しつつ、追い付いてきたチキンヘッドさん達と一緒に彼らに近づいたのだった。

 

 

 

 

 

 

「ほぅ、お前さんその年で旅人をやっとるのか。細っこい割に骨があるな」

 

「いや、でも相方がニワトリと妖精ってのはどうなんだ……?」

 

 

金髪の少年はフレット、壮年男性はアルター、そして眼鏡の少女はリーディアと名乗った。

 

約一名豪放な性格をしているオジサンは居るが、全員気のいい人達のようだ。互いに自己紹介している内にすぐに打ち解ける事が出来た。

そうして話を聞いてみると、彼らはこのヌスの森(と、言う場所らしい)よりそう離れていない街――首都マスハイムに住んでおり、料理の食材集めを目的としてここまでやって来ていたそうな。

 

 

「私達さ、街にあるシュペック亭って酒場をお手伝いしてるのよね。で、食材集めもその一環……っていうかメインの仕事かな」

 

 

興味津々にしずくとミクを弄り回しつつ、リーディアは言う。

 

何でも少しでも酒場を盛り上げるために料理に一番力を入れているそうで、良い食材となる物があるのなら何処へでも。

それこそ山の頂上から沖の孤島まで、シーラという少女を中心に世界中を幅広く回って冒険しているらしい。まぁ当の彼女は最近新作レシピの開発に熱を上げており、厨房に篭っているそうであるが。

 

……料理は良いとしても、食材を集める為に冒険? いや確かに色々落ちてたし食材は集まるんだろうけど、そういうお店って買い付けが普通なのでは。

少し疑問には思ったが、何やらのっぴきならない事情が絡んでいるようなので深くは聞かない。

 

お金がないってって辛いよね。一人頷き、彼らとの雑談に花を咲かせていると――――「あ、そうだ」モンスターの素材を整理していたフレットが思い出したかのように手を叩き、ボクのリュックへと目を向けた。

彼の目には先程までと違って強い光が宿り、仕事人と言った雰囲気を放っている。話では商人をしているとの事なので、多分それだろう。

 

 

「あんた何か珍しい食材とか道具持ってないか? もし良ければ、色々買い取ったりトレードするが」

 

 

フレットはにこやかにそう告げると、荷物を開き様々な道具をボク達の前へとひけらかす。

 

HP・MP回復ボトルの様な物に、様々なクスリやロープ・釣り餌等の雑事道具。そして武器防具類に数多くの料理素材達。

流石商人というべきか、広げられたアイテムの種類はかなりの物だ。というか一体何処にそんなに持ってたんだ、ボクのリュックにもそんなに入んないぞ。

 

思わず圧倒されながら道具の数々を見ていると、酒を呷っていたアルターが呆れたように溜息を漏らした。

 

 

「おいおい、何もこんな所で商談せんでも良いだろうに。せっかくだから酒場に連れ込んで金を落とさせてからでも良いと思うぜ、ワシは」

 

「いや、人聞きの悪い事言ってんなよな」

 

 

アルターのその言葉にフレットは半眼を向けるが、彼はニヤニヤと笑ったまま意にも介さない。どうやら酒が回っているらしい。

しかし一理あると思ったのか、溜息を吐くと広げた道具を仕舞い始めた。だから何処に詰め込んでるんだ、それ。

 

 

「まぁおっさんの言う事じゃないが、これから酒場に来るか? それで客になってくれるんならその分サービスするしな、シーラにツケて」

 

「うわぁ、また騒がしくなりそう……」

 

 

フレットはそう言って笑うが――まことに残念ながら、それは出来ない相談だ。理由は単純、ミクの事である。

 

首都マスハイムは近場にあるとの事であるが、それが往復となればそれなりの時間がかかるだろう。

そろそろ陽も傾いてきたし、万が一作物が枯れるまでにすれちがいダンジョンの種まで帰ってこれなかった場合、ちょっとまずい事になる。

 

ボクとしては彼女を泣かす事になるのは遠慮したいし、したくもない。安全策を取るならば、少なくとも今日一日はこの森で過ごすべきなのだ。

 

まぁ最も明日になればその心配は解消されるので、後ほど行くと言っておけばそれで済む話だろう。ボクとしても道具屋を探す手間を省けてありがたいので、断る必要もなし。

ボクはフレットに取引の話を明日に引き伸ばして貰おうと持ちかけたのだが――――。

 

 

『――やれやれ、しょうがないのう』

 

「ッ!?」

 

 

突然何処かで聞いた事のある声が脳裏に響き、背負うリュックの中からオレンジ色の光が飛び出した。

 

驚くボク達を他所にその光は縦横無尽に宙を舞い、一際大きく発光したかと思うと森の奥へと飛び去って行く。

誰も反応できず、追いかけられもしない。正しく瞬く間の出来事であった。

 

 

「……なぁ、何だ今の?」

 

 

咄嗟に斧へと手をかけていたアルターが不審そうに聞いてくるが、いやボクにもわかりません。

そうして何を答えるでもなく首を傾げ続けていると――光の飛び去った方角から何やらガサガサと音が聞こえてきた。

 

どうやら何かが近づいてきているらしい。その場に居た全員が警戒を強め、音のする方角を見つめた。のであるが。

 

 

「うわッ、モンスター――じゃねぇ! 野菜か!?」

 

 

そう、飛び出してきたのはモンスター等では無く、緑色の光に包まれた作物。

根を下ろしている土ごとそのまま宙に浮き、呆気に取られるボクの傍へとスライドしてくるすれちがいダンジョンの種であった。どういうこっちゃ。

 

 

『スマッシュアピール収録合間の暇つぶしじゃ。これからもたまーに思い出した時覗いてやるゆえ、わらわへの感謝を忘れるでないぞよ』

 

 

またもや誰か――と言ってももう察しは付いてるんだけど――の声がして、同時にまたもやオレンジ色の光が走る。

見れば作物の天辺に以前貰ったオレンジ色のプレート……軽量化と書かれたそれが引っ付いており、ピカピカと点滅していた。

 

……これは、あれかな。軽くなって土ごと動かせますとか、そういう感じ?

試しに押したり引いたりしてみると、重さなんて殆ど感じずスィースィーと動かせる。これが神の奇跡ってやつか、応用効き過ぎじゃないすかね。

 

というか何の慮りもなく移動できるようになったのは嬉しいんだけど、これってミクの世界との繋がり切れてないのかな。

一瞬間そんな不安が脳裏をよぎったが、植物の事に関してあの神様がヘマなんてする筈無いかと思い直した。人間以外の事には真剣っぽかったしね。

 

 

「で、どういう事なんだ。一体」

 

 

アルターがそんな質問をしてきたのだが、果たしてどう答えるべきか。

神様の加護? 奇跡が起きた? まぁ割かし合ってはいるが、説明内容としては胡散臭い。ボクは腕を組んでウンウン悩み――。

 

 

「…………」

 

 

とりあえず、自然軍の特典だと言ってみた。

当然のごとくその場の誰一人として理解は示してくれなかったものの、何かしっくり来たので押し通させて頂いた。のじゃのじゃ。

 

 

 

* * *

 

 

 

首都マスハイム。そこは何処か懐かしい雰囲気を持つ街だった。

 

幾つもの料理店や魔法学校、そして一般住宅が立ち並ぶある種混沌とも言える大通りに、その中心部に燦然と聳え立つ王城。

規模や印象の強さとしてはミカド国に及ばないものの、それでも十分に広く、大きい。少なくとも一日で全てを見て回る事は出来ないだろう。いつもの事だけどね。

 

 

「あ、いらっしゃ――って何それ!? 野菜!?」

 

「あらあら、凄いわねぇ」

 

 

そんなこんなでよっこらよっこら種を運びつつ、やって来ましたシュペック亭。

その扉を押し開いた瞬間、店内の清掃をしていたらしき少女は、運び入れた種の大きさに驚きの声を上げた。

 

彼女こそ先程のフレット達の話の中に出てきたシーラなのだろう。決して目立つタイプではないが、整った容姿をした少女だ。

奥にはシーラの姉らしい美しい女性が立っており、おっとりと驚いていた。我ながら矛盾した表現である。

 

 

「…………」

 

「え、何?」

 

 

いや、別に。酒場だから可愛い制服とか着てるのかな、とか期待なんて全然してないです。ほんと。

 

ともあれ何やかんやで自己紹介が済み、ボクはフレットとの取引に。そしてミクやしずく、チキンヘッドさん達は女性陣と戯れる事となった。

まぁ三人とも外見はファンシーであるし、違和感なく画になっている。

 

 

「へー、こんなに人懐っこいフェアリーって始めて見た。かわいいなぁ」

 

「♪」

 

「すまない、君の覚えている水魔法とはどんなものなのかな。良ければ後学のために教えてくれると嬉しいのだが……」

 

「♪ ♪」

 

 

キャッキャウフフ、キャッキャウフフ。何か男が混じってる気もするが、イケメンなのでまぁいいや。

その華やかな光景につい何時もの癖でLとRを押し込んだが、この世界には撮影機能が無いらしくちょっとガッカリ。

 

 

「ポテト、人参……こっちの種はいいが、剣と盾の種? まさか本物が生えてくるのか? 本当かよ……」

 

 

ボクの差し出した荷物をフレットが鑑定している間ただ待っているのも暇なので、時折飛んでくる質問に答えながら酒場の中を見て回る。

 

質素ながらもしっかりとした作りの椅子やテーブルに、使い慣らされ深みを増した色のランプ。

どれも華美や優美とは無縁であるが、その素朴な雰囲気は来る者に安心感を与えてくれる。酒場というよりは大衆食堂と言った方がしっくり来るが、個人的には凄く好みの店だ。

 

ほら、高級感とかいう言葉聞くと膝が痛くなるタイプなんで。一層ね。

 

 

「あら、気に入ってくれたの? このお店の事」

 

「♪」

 

 

するとボクのその様子に気付いたのか、ミクを抱いたシーラの姉――カメリナさんと言うらしい――が近づいてきた。

どうやらこちらが好感を持ったのを察知した様子で、何処か嬉しそうに見える。きっと彼女もこの店の事が好きなのだろう。

 

せっかくなのでそのまま話し込み、酒場の事について色々と聞いてみる事にする。

 

 

「元々シュペック亭は私達のお父さんとお母さんがやってたんだけど、今は私とシーラちゃんでやりくりしてて――」

 

 

彼女から聞いた話を要約すると、カメリナさんとシーラの姉妹は随分前に死んでしまった両親の後を継ぎ、このシュペック亭を切り盛りしているらしかった。

その若い身空で大変だなぁ……と思ったが、ボクも若い身空で一人畑を耕していたのでどうこう言えない事に気がついた。同情をシンパシーに変え、先程よりも心なし感情移入して耳を傾ける。

 

昔は私が料理していたが、何故かお客さんが来なかった事。最近は売上も順調になってきたが、その分ライバル店との競争が激化してきた事。私のシーラちゃんが可愛い事。

最後のはまぁともかくとして、中々に艱難辛苦の波を泳いでいるようだ。カメリナさんは頬に手を当て、物憂げな表情を浮かべる。

 

 

「シーラちゃんの料理の腕も上がってきてるんだけどね……最近どうも行き詰まっているらしくって」

 

「売上増やすために新メニュー開発するんだって言って、貴重なロクスタンを全部ダメにしちゃったのよねー」

 

「余計な事言うなっ」

 

 

ああ、そういえば森でフレット達がタンがどうこう言っていた気もするが、そういう事だったのか。

突然首を突っ込んできたリーディアがシーラに睨まれてるのを見つつ、一人納得。

 

「シーラちゃんだけに頼ってないで、私達も何か考えないとねぇ」カメリナさんはそう零し、ほうと溜息を吐いた。

成程、商売屋さんも色々と大変なんだなぁ。悩むカメリナさんにつられ、ボクも何となく考える。

 

酒場の売上を伸ばす方法。酒場といえばその名の通りお酒であるが、ボク自身飲んだ事が無いのでいい考えなど浮かぶ筈もなし。

料理に関しては今悩んでいる最中だというし、他に何か無いだろうか。酒場という場所に相応しい感じの人気の出る方法。

 

酒場、酒場、酒場…………。

 

 

「…………」

 

「……?」

 

 

ふと、ミクを見る。

 

そうだ、酒場といえば音楽。ジャズやらフュージョンとか流すといい感じになる気がする。そして音楽と言えば歌は外せないファクターであり、歌といえばミクはこれ以上にない適任者だ。

彼女も歌うのが大好きだし、協力を取り付けることが出来れば――ああいや、しかし。滞在時間の問題が。

 

 

「…………うん?」

 

 

考えつつ、未だ部屋の隅に浮いたままのすれちがいダンジョンの種を見た。

 

いやいや、いや。待てよ?

ひょっとしたらこれ、割といいアイデアなんじゃないか? 酒場だけではなくミクも含めた双方にとって大きな利があるのでは。

 

思わずチキンヘッドさんを見れば、彼は美人たちに撫でられご満悦のようだった。良かったね。

 

 

「…………」

 

 

……まぁ話すだけなら損はないし、兎にも角にも相談くらいはしてみよう。

 

どうかこの世界が結構都合よく出来ていますように。

そんな事を祈りつつ、ボクはカメリナさんとその腕の中にいるミクに向き直り、おずおずと一つの意見を提示したのであった――――

 




冒険酒場、かなりシンプルな作品なのに面白いよね。
農業要素は雀の涙だけど、どこかルーンファクトリーに似てる気がして超ハマっちゃった。
リーディアちゃんきゃわわ。

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