テンプレ…まじで?(リメイクしてみた) ※現在このすば!編 作:onekou
今回は箱根旅館襲撃事件編。
ではではどうぞ!
「たいちょー、私たちこんなことしてていいんですかねー?」
「いいんじゃないかー? さいこーじゃないかー」
「コウジュちゃん様様ですね」
栗林の間延びした言葉に、伊丹もまたのんびりと答える。同意したのは黒川だ。
その黒川にしても、いつもの凛とした大和撫子を思わせる姿はそこになく、どことなく柔和な雰囲気を醸し出している。
黒川を知る者が今の姿を見れば大層驚くことだろう。
しかし今この場にそれをあえて口にする者は居ない。
ここに居る者の全員が程度の差こそあれ、皆が皆蕩けているからだ。
「おー、蕩けてるねぇ。来て良かったっしょ?」
「もう働きたくないでござるー」
「「「うんうん」」」
そこへ飲み物を盆に乗せながら歩いてきたコウジュが笑みを浮かべながら話しかける。
即座に伊丹が答えるが、普段なら叱責する栗林たちもそれへと頷くばかり。
この場には栗林や黒川以外にも富田が居るが皆揃って頷くものだから、コウジュはいつもと逆だなと苦笑いだ。
しかしそれも仕方ない。
なぜなら今居るのはとある常夏の無人島。誰の目も憚ることなく遊ぶことが出来る絶海の孤島なのだから。
そんな島の砂浜に、パラソルとビーチチェアを広げて寛ぐ面々。当然全員が水着だ。
耳に優しい波の音、適度に温かい気候、敵の心配をする必要が無い環境。
こんな状況で、蕩けるなという方が難しいだろう。
「えと、ミックスジュース誰だっけ?」
「あ、自分です」
「あいあい。えっと次は―――」
コウジュは持ってきたものの一つを富田へと渡し、そのまま持ってきたものを順番に配っていく。
そして配り終えたコウジュは、空いている一脚へと腰掛ける。
自分用に用意したオレンジジュースを一口煽り、身体を椅子へと沈める。
そんなコウジュへとすぐ隣で蕩けていた伊丹が目線を向けた。
その視線に気づいたコウジュは伊丹へと顔を向ける。
「結局ここってどこなんだ?」
「さぁー、適当に飛んで見つけた所だから」
「さぁってお前、不法占拠かよ」
「えー、誰も使って無いし良いじゃないっすか。物は全部自分で用意したし、そもそもそれを言いだすと俺自身が日本に不法入国してるようなものだし。ついでに言えば戸籍の偽造とか」
コウジュの戸籍はこの世界へ来た時点で何故か用意されていたもので、不自然な程に自然な戸籍だ。
どうやって用意されているのか、普通に考えれば矛盾だらけなのにシステム上で言えば何の問題も無いうえにちゃんと認可されている。
コウジュの事を知った際に国はその辺りの事も知ったが、あまりにも当然のようにある戸籍を改竄するのも後々問題が出る可能性を考えて未だに保留とされている。
むしろ、変に消したところでこれほど自然に溶け込む情報操作技術を持つのなら結局新しい物を造られるだけではないかと半分諦めている部分もある。
その辺りのことを幾らか知っている伊丹は、少し考えるもやはりどこか納得してはいけないような気がしてもやもやとしたものを抱える。
「確かにそうだけど、良いのかねぇー……」
「良いんじゃないっすか? 閣下が言ってたんでしょ? 箱根のあの旅館に行くようにって。ちゃんと
閣下、というのは伊丹がとある人物を呼ぶのに使うハンドルネームの様な物だ。
しかしただのHNではなく、実際にそれなりのというのもおかしい地位にある人物だ。
嘉納太郎。
防衛大臣、そしてこの度、特地問題対策大臣に任命された男だ。
ひょんなことから学生時代の伊丹と知り合っていた彼は、今問題となっている特地問題の中心に居る伊丹と時折情報交換をしていた。
ちなみにコウジュとも何度か会ったこともあるがその正体を伊丹より先に知って居る訳も無いので話の合う幼女と認識されていたりする。
さておき今回、その閣下が伊丹に直接出した指令の内容が箱根の旅館に行くようにというものだ。
勿論ただの旅館ではない。
その旅館には元伊丹の同僚たちとなる特殊作戦群を中心に部隊が展開されており、現状で言えば日本で最も安全な場所となっていることだろう。
敵が来ることが分かっている場所でもあるので現状はと付くが、余計なお客さんをそのまま返すようなことにはならない戦力が放り込まれている。
しかし、コウジュたちは今その旅館には居ない。山中にある旅館とは似ても似つかぬ海が綺麗な島を満喫している所だ。
なぜそうなったのか、というのはいつものごとく大体コウジュの所為というのがほぼほぼ正しいだろう。
梨紗の家へと赴いた際、コウジュは思い出したかのように空間移動をする能力を面々に教えた。
それを暴露した際は当然の如く伊丹から何故早く言わなかったと怒られてしまったわけだが、そもそもコウジュは伊丹と共に特地へと赴いてからは伊丹と行動を共にするようにしていたわけだし、コウジュの『どこでもドア』は知っている場所にしか移動することが出来ない。だから頭の中からどこかへと飛んで行ってしまっていても仕方ないのだ。
ともかくその能力の恩恵を得て、コウジュたちは南の島へと赴いている。
勿論、コウジュが言うように罠や偽装工作をしたうえでだが、閣下にメールを残して旅館から消えている。
問題があるとすれば、電波どころかガスも水道も無い南の島な為にメールをしたは良いが返信メールを伊丹が受け取れない事態に陥っているため、閣下はどうしたものかと頭を悩ませているくらいだろうか。
「それはそうだがなぁ。でもそれって俺が言えたことじゃないけど完全に屁理屈だよな」
「くっふっふー、これくらいなら俺が理屈として押し通せば屁理屈も理屈になるっすよ。それに、罠も張ってるし味方側は俺達の心配をする必要が無くなるって利点もあるよ。別に俺一人残っても良かったんだけどねぇ」
伊丹の言葉にニヤニヤとしながらそう言うコウジュに伊丹はジトっとした目を向ける。
「やめろ
「ひっどいなぁ。俺は別に命の奪い合いは好きじゃないですよ? 身体を動かすのが好きなだけです。それに無力化する練習になるしさ。そもそもただの銃弾なら痛いだけで済むようになってきたし」
手をグーパーグーパーと開いて閉じてを繰り返しながら言うコウジュの言っていることは正しい。
コウジュは以前に炎龍を捕食(偶然の結果だが)してしまった結果、耐久度が格段に上がっている。ヘリの機銃掃射を受けても痛いだけで済むのもその加減だ。
気を失ったのは痛さに転がった結果自らのチートスペックでもって頭をぶつけた所為だ。
ちなみにコウジュの耐久力というのは概念的なものに近く、攻撃に対して発揮されるだけでそれ以外のものにはわりかし適当だったりする。だからこそ某マスターのツッコミ等に対してはまるっきり効果を発揮しないわけだが、本人は知らない部分だ。
「銃弾の効かない幼女が真正面から来るってどんな悪夢だよ。やっぱバーサーカー怖いわ」
うへぇと言わんばかりの伊丹。
そんな伊丹を見て、コウジュが再びニヤニヤとした笑いを向ける。
「アベンジャーかっこわらいかっことじさんには言われたくないなぁ」
「貴様言ってはならんことを!!」
そこからはいつものじゃれ合いになってしまった。
マスターだからなのか無意識のうちにコウジュ自身が攻撃と思っていないからか、取っ組み合いを始めるコウジュと伊丹。
そこへ海に出ていたロゥリィ、テュカ、レレイの3人が丁度戻ってきて呆れた目を向ける。レレイに関してはほぼほぼ表情の動きはないが。
「またやってるのぉ? あきないわねぇ」
「ずるいわ」
「論点が違う気がする」
テュカがどちらに対して言っているのかはさておき、この特地三人娘も既に慣れたもので場の成り行きを見守っている。
なんだかんだとそれほど長くも無い日数の中で濃い付き合いをしてきたものだから放っておけばすぐに終わることを理解していた。
3人もまた、空いているビーチチェアに腰掛ける。
ご丁寧にも傍に置かれた机の上には飲み掛けではあるがそれぞれの飲み物が置かれている。
これらすべてはコウジュが持ってきたものだ。
扉さえあれば見知った場所へと繋げることが出来るコウジュの能力の賜物である。
今はすぐ近くに扉だけが設置されており、それをマイルームへとコウジュは繋げていた。
マイルームにはコウジュが心地よく生活を送るためのあれこれが置かれているし、キッチン、バスルーム、トイレとその中だけで生活できるものが充実している。
それを開けっ放しで置いてあるため、この無人島でもそれぞれが好きなように過ごすことが出来ている。
世の物理学者やらが聞けば嘆きそうな異次元移動法の無駄遣いではあるが、コウジュに言わせてみればチートなど使ってなんぼである。
マイルームにはドレッシングルームという設置されている倉庫(据え置き型のアイテムボックス)に服を入れておけば一瞬で着替えられる便利な部屋(何故かサイズも丁度になる)もあるため突然このビーチに連れて来られた面々も海を楽しむことが出来ている。
コウジュの甘言に乗せられて一緒に着いてきた3人娘もまた、そんなチートを駆使されたこのビーチを堪能していた。
森を生活拠点としていたテュカは勿論の事、レレイも海は知識で知る程度だしロゥリィもまた純粋に海で遊ぶのはほぼほぼ無かったのだ。
ちなみにこのビーチには他にも梨紗やピニャ、ボーゼスもきているが3人は事前に買っていたお宝、もといBLTサンドトマト抜き的な本を見るために揃って木陰にある簡易の小屋の中だったりする。
「それにしても、便利よね」
「コウジュが言うには私やテュカの方が多様性に優れていると言っていた」
「確かにぃあの子の能力って何というか尖ってるものねぇ」
テュカの言葉に補足するレレイとロゥリィ。
彼女たちはそれぞれがそれぞれ違う思惑でコウジュと話をしたことがあった。
地球の人々に比べて特地で出会った3人娘は比較的ファンタジーな住人な為、コウジュも貯まった何かを吐き出すべく話をすることが何度もあったのだ。
その中で、それぞれが全てではないが自身の能力に関しての話をしたことがあった。
結果分かったことは極めて単純で、コウジュの能力はピーキーだという事。ぶっちゃけて言えば振り回されている部分も多いようだが、ロゥリィの言うように尖った能力が多いのだ。
何でもできるように見えて、出来ないことが多いコウジュの能力。
例えばこの島についてすぐ伊丹が認識阻害の結界を張っていたりするのかなんて聞いたことがあったが、そんな便利なものがあったら家を襲撃されてないなんて言葉が返ったこともあったくらいだ。
その割に炎龍を一太刀で叩き切るというか粉砕することもできるコウジュを何とも言えない目で見てしまう3人娘の心情は何とも表現し辛いものだ。
「そういえばぁ、あと5時間ほどで向こうに戻らないといけないんだっけぇ」
「ええ、あの子が確かそう言っていたわ。あそこにあるトキィの針が6と12の所に来る頃に戻るんだって」
「トキィではなく時計」
「日本語って難しいわ」
「でもおもしろい」
むむむと口を尖らせながら言うテュカにレレイが珍しく目を輝かせながら言う。
その表情にこっちも相変わらずかと微笑むロゥリィはまた一つ思い出したことがあった。
「ここに来るのにあの子の能力を使ったけどぉ、アルヌスへ直接飛ぶことは出来ないのかしらぁ?」
「あ、そういえば」
「すでに聞いたけどそれはできないらしい。なんでも、同じ世界の中を渡るのとは違う技術が必要とのこと。詳しくは教えてもらえなかった」
「ふぅーん、やっぱり変な所で偏っているのねぇ」
「でも何だかあの子らしい。それに何でもできちゃうより親しみやすくて良いわ」
そのテュカの言葉にロゥリィは、何でもできちゃうと捕まえても逃げられちゃうものねと心の中で呟いた。
そんな中、レレイはというと少し不満気な表情をしていた。
というのも、コウジュは伊丹が居ない時は代わりに様々なことを教えてくれるのだが、たまにまったく教えてくれない分野があるのだ。
その一つが空間移動についての話だ。
世界を渡る技術というのは端的に言えば神域の話だ。
しかし、コウジュは技術としてそれを行使している。
魔法を学ぶ者であるレレイとしては、空間を移動する技術と世界を移動する技術の違いはどこにあるのか、又、異次元の相より魔法という力を導き出す魔導士としては異相へと直接繋げる技術がどんなものであるのかが気になって仕方がない。
だがコウジュはいくつかの話題に関しては苦笑いしながら誤魔化すばかりだ。
実際にはコウジュにも分からない(感覚でやってるから)ので仕方ないのだが、当たり前のように目の前で行使されるとレレイとしては気になって仕方がない。
「まぁ仕方ないわねぇ。とりあえずもう少し遊んでいきましょうかぁ」
「賛成! あっちも終わったみたいだし、さっき聞いたスイカ割りをしてみたいわ!」
「同意」
◆◆◆
所変わってとある箱根の旅館、その周囲に広がる森の中。
そこには悪夢が広がっていた。
パスパスと、短く破裂音が続いたと思えば続いて何かが倒れ伏す音が何度もこの場では起こる。
倒れていくのはどれもが招かれざる客だ。
故に、お客を出迎える側に躊躇っている暇などありはしない。
今、日本外の組織から派遣された
しかし、この場には事前に特殊作戦群を中心に部隊が展開されている。
特戦群はホームで招かれざる客を順々に沈めていく。
だがそれなりに数が居るため休む暇もありはしなかった。
それもその筈で、この場所には米・露・中の各国から部隊が派遣されている。
たとえホームとはいえ、静かにその全てを排除するのは容易ではない。
容易ではないが、それが与えられた命令だと特戦群の面々はそれぞれ自らの任務をこなしていく。
問題は、木陰に時折隠れながら進む彼らは偶然にも未だ他国の組織とは鉢合っていないが、その内に出会ってしまう事。
偶々各国は違う方面から旅館を目指していた為このような事態となっているが、目的地は同じためいつかは出会うのが道理。
そうなれば、利益を求めてここへ送り込まれている部隊員たちが自国の為に引き金を引き合うのもまた当然の事だ。
そこへ、特地問題対策大臣として作戦を統括している部屋へと来ていた嘉納に連絡が届いた。
「作戦中止!? どういうことですかい総理っ!!」
『仕方ないんです。ここまでこちらのスキャンダルを握られていてはどうしようもない。私だって悔しいんだ……』
電話越しに震えている声が届き、本位(総理)にどう続ければいいか悩んでしまう嘉納。
それなりに長い付き合いなのもあり知っているが、本位は向いていないながらも特地問題が発生し内閣総入れ替えが起こった後の日本を何とか繋ぎとめてきた。
だが、ここへきて今までのツケが回ってきた。
本井本人がどうという事ではないが、選んだ人間に有った事実は消えない。
幾つかはハニートラップなどの罠でもあったのだろうが、今となっては後の祭りだ。
「それで、どうする気なんだ?」
『何とか来賓を引き渡す約束は回避できました。あとは政権を投げ捨てれば握られた秘密も無価値になる』
「そんなことをしたらあんたは……」
続きを嘉納は口にすることが出来なかった。
責任を放り投げ総理を辞めるという事は当然のことながら二度と総理になることは出来ないだけでなく、政治家としての一生を放り投げるという事だ。
何故そんな事態になったかを国民が知る由もない以上、そうなるのは当然の帰結。
それが分かっていて、本位は行うという。
『分かっています。これで終わりでしょう。けど、そこに意味があるのならやってみせます』
声が震えながらも、本位の声には決断した意志が含まれていた。
『国を頼みます。心残りがあるとすれば、大人としてあの少女たちに運命を任せてしまう事でしょうか。話を聞けば私よりも何倍も年上の子がいるそうですが』
精一杯の冗談だろう。
だが、旅館のガードを解いてしまうざるを得なくなった自身の無力感に溢れていた。
そんな本位に、嘉納は一つ助け舟を出すことが出来ることを思い出した。
「それに関しては何とかなるかもしれねぇ」
『ああ確かに、あの銀髪の少女は隠れることが得意なのでしたか』
そういえばと本位は思い出し、幾分か声に余裕が戻る。
とは言え特地からの来賓自身に結果の如何を任せてしまう状況は変わらないので空元気も良い所だろう。
そんな本位に、嘉納は苦い笑いを零してしまう。
「いいや、そもそも彼女たちはあの旅館には居ねぇんだよ。どこだか知らねぇが日本の外だそうだ」
『は?』
間の抜けた声が本位から出る。
「俺もよく分かってないんだがな、あの嬢ちゃんの力なんだそうだが旅館に居るのはダミーなんだとよ。詳しいことを聞こうにも伊丹からの返事が無いから分からんが、最悪旅館にはトラップも仕掛けてあるからお客さんが来ても大丈夫だそうだ」
『は、ははは、それは嬉しい誤算ですね』
「だからお前さんさえ上手くやれば―――、」
上手くやれば多少は穏便に降りることできる、そう続けようとする嘉納。
それは事態を後回しにするだけだというのは分かっている。
だが内閣の解散というのは持ち札として持っていて良い切り札とはならない。
だからこそそう言おうとした。
しかし、言い切る前に本位は告げた。
『いえ、これで決心がつきました。今後この国を守るためには一度清算が必要だ。それも早い段階での。これで後顧の憂いはなくなりました』
「あ、おい!」
嘉納が言葉を返す前に電話は切られてしまう。
最後の本位の言葉は吹っ切れた物だった。
覚悟を、決断をした男の言葉だった。
「あの馬鹿……」
つい零してしまう。
確かに早い段階で清算することの意味はあるだろう。
日本一つで国が回っていない現状、爆弾でもあり宝の山でもある特地の対策を行う上でお伺いを立てなければならないというのは重しにしかならない。
だから、お伺いを立てなければならない理由が一つでも早いうちに無くなるのは理に適っている。
だが、その結果が一人の政治仲間を失うことと同義であるならば納得し辛いのは当然だ。
とはいえ、もう本位は決断した。
なら、男の引き際を侮辱するのは同じ男としてできはしない。
任されたのだ、日本を。
そう無理矢理納得し、嘉納は口を開いた。
「作戦中止だ。上から通達が来た」
その言葉に、一瞬各部隊員は一瞬止まってしまう。
だがそれが命令ならば、そう行動しなければならないのが彼らだ。
次の瞬間には命令に準じた行動を取った。
勿論内心では不満が募っているだろう。
だから、嘉納は続けて告げる。
「来賓の心配はしなくていい。旅館には銀髪の少女がトラップを仕掛けてあるそうだ。それに彼女たちは隠れちまった後らしい」
伊丹からのメールをそのままいう訳にもいかないので少しばかり端折った説明だが、その言葉にあからさまにほっとした空気が流れた。
だが、現地に居る特戦群が離れた頃、再びそこには地獄が再臨した。
各国の部隊員が遂に出会ったというのもある、予想通りにそれぞれが潰しあいを始め、形振り構わず銃を連射し始めた。
だが、その中に隙を見て旅館内部へと突入した男たちが居た。
その男たちが地獄を見ているのだ。
「あれがトラップだってか、あの嬢ちゃん中々えげつないな」
嘉納が零した言葉に、その場に居た面々は静かに頷く。
旅館内に設置されていたマイクから聞こえるのは、幾つもの悲鳴だった。
そして、中を映す画面には恐るべきものが映っていた。
「箱が……食ってる……」
そう呟いたのは伊丹に毒された内の一人だ。
馴染み深くなってしまったどこぞのアニメ内で言われたセリフを思わず出してしまったが、その言葉はまさしく正鵠を得ている。
目の前の画面では、段ボールから出た何かが次々に人を取り込んでいた。
名状しがたいその何かは、敢えて言うならば触手だろうか。
暗闇の中にありながらなお黒く、それでありながら存在感を持つその触手は、先程まで本人と寸分違わない来賓たちの姿を取っていた。
動きはないが、生きているようにしか見えない人形だ。
違和感があるとすれば足元に転がっている段ボール位の物だろう。
しかしそれが招かれざる客を目の前にした時、水に濡れた泥の様に
ともすれば発狂してしまいそうな光景だが、幸いにもそんな人間は出ていない。
その理由はやけにコミカルな光景だからだ。
ひょいぱくひょいぱく、一般男性より身長は高く体つきもゴツイ男たちが体積を無視して段ボールに放り込まれていく。
放り込まれる男たちの表情は恐慌の一言だが、段ボール自体はトコトコと動き、まるで回収回収と言わんばかりに男たちを食べていく。
血が一滴も流れていないのもまた、コミカルな一因だろう。
そして何よりも、何故かどの箱も汚い字で“一条祭”と書きなぐられており、触手の一本が何を思ってか『おきゃくさまはおかえりくだちい』と書かれた看板を持っていた。
恐怖のあまり銃を乱射する男も多く居たが、それすら漂う触手に飲み込まれていく。
何とも見ている側からすればシュールな光景だ。
暫くして、招かれざる客たちは全て段ボールの中へと消えて行った。
来賓たちに化けていたもの以外にも数はあったらしく、気づけばあっという間に跡形もなく男たちの姿は消えていた。
「あー、状況終了。後片付けだ」
嘉納が、ついつい気の抜けた言葉を発してしまう。
だがそれを誰が責められようか。
さっきまでの必死さは何だったのだろうか。
誰もがそう思ってしまう状況だった。
「俺達、居なくても良かったんじゃ……」
誰かが言ったその言葉に、嘉納はついぞ答えることが出来なかった。
いかがだったでしょうか?
最初に一言、申し訳ありません!
こんなのありかよ…と御思いな方も多いと思います。主人公が主人公してないし、今まで以上に悪ふざけが過ぎているとは思いますが、一度コウジュならやりそうと私の中でイメージが確定してしまってからは気づけばこんなものを書いていました。
段ボールがあらぶり過ぎているのは次回に軽く捕捉を入れようと思いますが、一先ずはこの形でお許しください。
お、温泉回の代わりに水着回入れたしいいよね…詳しい描写入れてないけど……(目反らし
ともかく、今回はこんなところで終わりとさせていただきます。
ではでは!(逃走
P.S.
練習も兼ねて三人称のみにチャレンジしてみました。
読みにくかった場合はお教えいただけると嬉しいです。