テンプレ…まじで?(リメイクしてみた) ※現在このすば!編    作:onekou

58 / 162
どうもonekouでございます。

残念ながら未だヒロインの姿は見えず……。

ですが役立つあの子が今回登場します!


『stage5:門を越えるとそこは……』

 

 

 

「うっわ、無いわぁ……」

 

「だよなぁ。まったく、気分が重くなるよ」

 

 門を越えた先、少しの勾配があるだけで遠くまで見晴らせる大地を見て、俺達がまず口にしたのがそれだった。異世界へ来ての感慨の欠片も無い。

 しかしそれも仕方ないのだ。

 何せ目の前には軍勢、軍勢、そして軍勢だ。

 自陣…って俺が言うにはおかしいけど、こちら側から少し離れた場所には数万単位の軍勢が居る。

 銀座で見たモンスター共もうようよ居やがる。

 

 そんな軍勢を、俺は先輩に抱きかかえられながら見ている。

 何故抱きかかえられているかというと、こちらの世界で捕まえた動物という(てい)で俺は先輩に保護されているからだ。

 そして特地の安全確保がまだ出来ていない現状では研究班が来れない為、俺は先輩預かりとなっている。先輩にだけ懐いてるように演技もしたしな。

 御陰でもくろみ通りに先輩の近くで守ることが出来ている。

 先輩の方は生暖かい目で見られるから嫌らしいけど、別に良いじゃん。女性士官たちにモテモテだぜ? 俺も首を撫でられてウハウハですよ。

 

「それにしてもあの軍隊どうにかならんものか後輩よ」

 

「どうかなぁ、ほら俺ってバーサーカーじゃん? 殲滅して良いならやるけど」

 

「やっぱバーサーカー駄目だな」

 

「何でや! バーサーカーは悪くないやろ!」

 

「それだと悪いのはお前だけど」

 

「……」

 

「黙んなよ…」

 

 何も言わず目を反らす俺にジト目を向ける先輩。

 しかし確かに、あの軍隊はどうにかしたいものだ。

 改めて前を見る。

 進軍する為に準備をする兵士たちがここからでもなんとか見える。

 一人一人が自分の成すべきことをするために忙しそうだ。

 

「後輩、あまり見るなよ。辛くなるぞ」

 

「分かっちゃぁいるんだけどね」

 

 先輩の言葉に返事をしつつも、その光景から目を反らすことはできなかった。

 今からあの中の何人が死ぬことになるのだろうか。

 1万? 2万? いや、それどころじゃないだろう。

 こっちの世界にはマナが溢れ、魔術も存在するらしい。人間ではない種族も数多くいるようだ。

 だけど、それを補って余りある文明の力が地球側にはある。

 数で言えば圧倒的に自衛隊の方が少ない。10:1かそれ以上の差があるかもしれない。

 しかしその1がその指先で齎す銃弾の数は分間に何人の死を産みだすだろうか。

 今から起こるであろうものは戦争なんかじゃない。戦争は同格の者が争うことを言うとは誰の言葉だったか。

 今から起こるのは恐らくは蹂躙。その言葉が最も似合うことだろう。

 

「はぁ…どうしてどの世界も争ってばかりなのかねぇ」

 

 思わずそう零してしまう。

 イヤだイヤだ。気が滅入って仕方ない。

 ほんと俺はあの人たちをどうしたいのだろうか。

 救いたいとも思う。けど憎らしいとも思う。

 どちらも相反するものだが、抜けきらない一般人の感性はその両方を俺の中で産みだし続ける。

 門の向こうからいきなり現れて罪もない人々を何人も殺した奴らではある。

 しかし、あの人達だって命じられてやっている部分もある。

 だから許せるとは言わない。

 けど、死ねとも言えないだろう?

 

「…争うのは嫌いか?」

 

 静かに、俺を抱える先輩がそう聞いてきた。

 俺は首を反るように上を向く。

 すると上から見下ろすようにしていた先輩と目が合う。

 

「嫌いじゃあないけどさ。それは命を賭けない範囲でかな。誰も好き好んで殺そうとはしねぇさ」

 

「だよなぁ。もっと生産的な争いをすれば良いのにな」

 

 俺の言葉に嘆息するように言う先輩。

 生産的な争いか、確かにそれはいいな。

 

「例えば?」

 

「魔法少女コンテスト」

 

「流石先輩、ぶれませんなぁ」

 

「…引きながら言うなよ。そう言う後輩は何が良いんだよ」

 

「そうだなぁ。たい焼きコンテスト?」

 

「……色気より食い気。さすが幼女」

 

「おいこら表でろや先輩」

 

 俺を抱えている手をタシタシと叩いて挑発するも、何故か先輩はそれを見て笑い出す。

 なんだよぅ、と拗ねるように言えば何でもないと返してくる。

 マジで何なのだろうか。不当な評価を受けている気がする。これは訴訟ものだな。

 そんな俺の無言の抗議を感じ取ったのか、先輩は誤魔化すように俺の頭を撫でだした。むぅ、無駄に手馴れてやがる。

 

「後輩ってさ、バーサーカーらしくないよな。狂戦士って感じじゃない」

 

「そうかい? イリヤにはバーサーカーらしいって言われたもんだがね」

 

「ああ、そういえばイリヤちゃんが元マスターなんだっけ」

 

「そうそう。超かわいいぜ?」

 

「あっちでは魔法少女やってないの?」

 

「プリヤのこと? させたことはあるけど、今じゃ美女だからなぁ」

 

「マジで?」

 

「まじで。写真あるよ」

 

 イリヤが戸籍上で20歳になった際に撮った写真を周りを確認した上でアイテムボックスから取り出し口で軽くくわえる。

 そして先輩の方へと向けて取ってもらう。

 写真を受け取り、それを見る先輩は一瞬見惚れて止まってしまう。

 だが仕方ない。誰が見てもそうなったもの。

 実年齢で言えば士郎よりも上だが、見た目に合わせて作られた戸籍の所為で遅れて出席することになったイリヤ。あの願いを叶えてから順調に成長した彼女に、折角だからと冬木市の成人式に出てもらって撮った記念写真が今見せている物だ。

 恥かしげに振袖を着てほほ笑むその姿は見るものを引き込む美しさと可愛さがある。

 もうあれですよ、妖精から精霊にワープ進化した感じ。

 

「ふふん、どうだ美人でしょ」

 

「そ、そうだな。見たことない位の美人さんだ」

 

「鼻の下伸びてますよー」

 

「……気のせいだ」

 

 顔を背けて言っても説得力皆無である。

 

「まったく、奥さんに言っちゃいますよー。旦那が浮気してるって」

 

「あー、それなんだがな……」

 

 俺の言葉に、何故か気まずげに返す先輩。

 はて、と首を捻ったところで先輩がまた口を開いた。

 

「実はな、この作戦に参加するにあたって別れたんだ。というか別れようって言われた」

 

「は?」

 

 思わず間抜けにも口を開いてそう返ししてしまう。

 え、マジで?

 そういえば会話が少ないとか言ってたけど、まじで…?

 

 先輩の奥さんの名前は梨紗(りさ)さん。

 彼女と先輩は中学が一緒だったのでその頃から付き合いがあり、数年前に紆余曲折のあとめでたく結婚に至った。

 んでもって大学も同じだったため彼女は俺の先輩でもあると言うわけだ。

 そんな理沙さんには俺もよくお世話になっており、趣味が合わない部分もあるがそれなりに長い付き合いだ。

 そんな彼女とは、よく先輩についての話をする。主に向こうからの相談だが。

 しかしその相談、実を言うとほぼ惚気だったりするのだ。

 そんな梨紗さんだからこそ、先輩と別れたというのが理解できない。

 アレだぜ、梨紗さんってば大学で先輩との交流ができた俺に敵対心持ってたこともあるんだぜ? 今ではむしろ仲が良いが、あの時はどうしようかと悩んだものだ。

 それくらい先輩のことが好きな彼女が分かれるってどういうことだ。

 結婚する当日まで何故か俺にごめんねってまだ微妙に勘ぐって言ってた位なのに、今更なんでまた…。

 

「先輩何かした?」

 

「……思いつかん。特に何かした覚えが無いんだけど」

 

 首を傾げる先輩を見て、俺は一人納得がいった。

 これたぶんあれだよ、何もしなかったから不安になったんだ。

 いやだってこの先輩草食系も良いとこだよ? いやまぁだからこそ近くに居ても友人関係を続けられるんだろうけどさ。

 でもそのことが不安になって理沙さんはつい言っちゃったんじゃなかろうか。

 思い出してみれば以前に一度理沙さんから、先輩から何かを求められたことが無くて不安だって言われたっけ。

 ってなんで女子側の評価を俺がしなきゃならんのか。いい加減にしろこのオタ夫婦。

 

「爆発しろ」

 

「何でだよ!?」

 

 まったくこれだから先輩は……。

 俺はやってらんねぇと言わんばかりにケッと悪態をついてから先輩の手から抜け出て、そのまま先輩の頭の上へと行く。

 そしてまた前を見る。目の奥へと焼き付けるように。

 先輩はそんな俺を一瞬捕まえようとするも諦めたのか上げかけた手を下ろした。

 そのまま暫く無言の時が流れる。

 相も変わらず何やら忙しそうに準備している敵陣を見ながら、俺も先輩も只々何も話さない。

 いや、先輩は俺が話さないのに合わせて黙ってくれているようだ。

 ほんと気の利く先輩だこと。普段からこんなならもっとモテるだろうに。

 苦笑しながらそんなことを考える。

 

「先輩、俺が絶対あんたを地球に連れて帰る」

 

「そうか…」

 

 これは誓いだ。

 イリヤの時にしたような、自分の根幹とするべき誓い。

 したいと思った、ただそれだけではあるが為さなければ自分を許せなくなる。

 こんな先輩をこんなところで死なせて堪るか。絶対に梨紗さんの元へと連れて帰る。

 この世界で一番お世話になっていると言っても良い人なんだ。そして今では俺のマスターでもある。

 絶対なんてものは無いなんて言葉があるが、思わなければ現実にはならない。特に俺は、思えば思うほどそれが力になる。

 だから、何が何でも先輩は生きて地球へ帰ってもらう。

 

 そんな俺の誓いに帰ってきた先輩の言葉は短いものだった。

 だけど、その言葉の中にはいろんな感情が含まれているように感じた。

 再びの静寂。

 しかし今回は割かし早くそれは終わった。

 静寂を破ったのは先輩だ。

 

「じゃあ俺もお前を連れて帰らないとな」

 

「へ?」

 

 何でも無い風にそう言う先輩。

 その声はいつもの様な言い方ではなくどこまでも真剣そのものだった。

 その言葉に一瞬固まってしまう。

 誰が誰を連れ帰るって? 先輩が俺を? 何で?

  

「だってお前を連れて帰らなかったら梨紗に何を言われるか分かったもんじゃないし」

 

 な、何だそう言うことか。びっくりするじゃないか。

 いつにも無く真剣な声に思わず焦った。

 いやあれですよ? どこかで頭打ったんじゃないかとかそういうあれですよ?

 だってこの先輩、基本的に趣味に生きる人だからまず真面目なことって言わないんだもの。上司に対してもそんなだってんだから逆に尊敬するレベル。

 その先輩が突然そんなことを言うもんだからつい、ね。

 

 固まっている俺を不審に思ったのか、先輩は頭の上から俺を下ろして顔の前に持ってくる。

 

「何だよ後輩その“頭打った?”と言わんばかりの表情は。俺狐がそんな表情豊かだって初めて知ったぞ」

 

「良く分かったね先輩。俺もそんな表情出来るって初めて知ったわ」

 

 そのまま二人して見つめ合うも、そんな互いが互いに面白くなって同時に吹き出してしまう。

 

「やっぱ俺らにシリアスは似合わないな先輩」

 

「全くその通りだ後輩」

 

 そのまま二人で笑い合う。

 しかしそこへ近寄ってくる人影があった。

 

「伊丹二尉、散歩の時間は終わりだ! 至急配置に戻れ!」

 

「ハッ!」

 

 どうやらこの怖いおっちゃんは上官だったらしく。おっちゃんを見た瞬間に敬礼をする先輩。なんと似合わない光景だろう。

 さておき、そういえば散歩って名目でここに居たんだっけか。ほぼ歩いてないけど。

 そっか。そろそろ戦いが始まってしまうのか。

 先輩は上官の言葉に左手で俺を抱えたまま再び右手で敬礼をして返答する。思わず真似して俺もシュッ!

 そんな俺達に一瞬だけ微笑ましい目を向けてくる上官さん。俺の動体視力を以てしてもほんと一瞬だった。

 やべぇ、今の一瞬でこの厳ついおっちゃんが凄く良い人に感じる。ごめんなさい内心怖いとか思っちゃって。

 

 去っていく上官さんを先輩と共に見送り、再び互いに見合う。

 

「ちょっと行って来るわ後輩」

 

 苦笑いしながらそう言う先輩。

 その表情は今から起こることを理解してか、どこか寂しげだ。

 

 この人は誰かを守るために誰かを攻撃できる人だ。割り切れる人だ。でも、何も感じないわけじゃない。

 確かにここで先輩一人が手を抜いたところで戦況に大きな影響はないだろう。そうすることで先輩の手も汚れない。

 けれど、先輩はそれをしないだろう。

 ここにある門、これを死守しなければ再びあの銀座事件のような惨劇が起こる。それだけは絶対に食い止めなければならない。

 それを防ぐために先輩たちはここに居る。その為に彼らは派遣されてきた。

 そんな彼らの後ろに隠れてるってのはどうにも性に合わんよな。

 今更ながら、ここも何かの作品の世界なのかもしれない。

 そんな中では何を以てハッピーエンドってものに辿り着けるかもわからない。そもそも終わりなんて無いのかもしれない。

 けど、何もしないままってのは俺じゃない。

 

 俺は先輩の手を抜け出し、地面へと降りる。

 

「そいじゃあ先輩。互いに頑張ろうか」

 

「ん? 良く分からんが分かった」

 

 そうさ、先輩が理解する前に出来るだけ終わらせとこう。きっとそれだけで何かが変わる。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 速く、速く、何よりも速く。全てを置き去りにするほどに速く。

 そう思いながら俺は障害物の間を潜り抜け、認識される前に作業を終わらせては前へと進む。

 時間は無い。

 人手なんてある訳もない。

 けど、これをしないと被害は大きくなる一方だ。

 少しでも、あの心優しい先輩が背負うものを少なくするために、失われる命を少なくするために、ご都合主義の一手を指す。

 

 俺が今居るのは防衛ラインの一歩手前。何やら自衛隊員が立てたと思われる看板よりもやや敵寄りの場所だ。

 そこにはもう敵が来ており、俺はそいつらの足元を狐状態のまま縦横無尽に走っている。

 そして、走っては作業、そして見つかる前に離脱、そして作業、そして離脱。その繰り返し。

 

『#’&%#$%&’&$$$$$$$$$$$っ!!?』

 

『&#%$%&!?』

 

『#$%! #$%&’!! $%&&$#$%&!!!?』

 

 うん、阿鼻叫喚ですね。何を言ってるか分からないけど。

 

『$%&!!!!』

 

 あ、どうやら見つかったっぽい。

 でもそう易々とは捕まってあげられません。

 引き続き、俺は作業をしながら軍勢の中を駆け抜ける。

 俺を見つけたらしい人が何か叫んでいるが、次の瞬間には俺が設置したものの餌食となってその口を開くことが出来なくなった。

 ふぅ、まだまだすることはたくさんあるからね。こんなところで立ち止まっている場合では無いのですよ。

 

 それからも作業をしばらく続けていると、軍勢が一度退却することになったらしく後退し始めた。

 何度かこれをやっているが、何とか思っていた状況に持ち込めたようだ。

 これで一段落かな。

 そうだと良いなと思いつつ、俺は自衛隊が陣を張っている所にそそくさと戻っていくのであった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「後輩、お前何をしたんだ?」

 

「何のことですかね。とんと見当も付きませんね」

 

 正面に持ち上げるも視線を反らす後輩に、はぁとまた溜息をもらす。

 先程からあることを何度も聞いているのだがこの調子なのだ。

 

 後輩と共に門のある場所、アルヌスの丘と現地で呼ばれている所から敵を見ていたのは既に1週間も前のことだ。

 戦端はついに開かれ、自衛隊側へと進軍してきた敵軍を撃退し、ついには撤退に追い込むところまで来た。

 しかし、その間の敵軍の動きがどうにもおかしかったのだ。

 観測班からの報告では確認できただけでも10万以上の軍勢だった。

 だが実際に突撃してきたのはその半分にも及ばない。

 なら残りは何処へ?

 その答えを知っているのが恐らく、この後輩だ。

 

「吐け! おら!!」

 

「や、やべて、ちがうの、はく、う、うえっ」

 

 動物好きには決して見せられないような顔の狐、もとい後輩の様子に慌てて手を止める。

 

 現在、敵側の軍は既に撤退しているため警戒体制ではあるが交代で休憩を取っている。同時に敵の動きがおかしかった原因を調べている最中だ。

 そして俺にもやっと回ってきた休憩時間を使って後輩を訊問しているのだ。

 しかし中々口を割らない後輩。

 監視を行っていた連中によれば、突然敵軍のど真ん中で爆発のようなものが起こるとそこに居た人間が黒い何かに包まれた後倒れていったとか何とか。

 その他にも似たような話を聞き、敵軍でなければ自衛隊でもないということでこの後輩しかそんなことできそうな奴は居ないわけで、このような状況となっている訳だ。

 

「あー、もうわかったよ。言います。言いますってば。これ以上されたら本当に変な物出ちゃうよ」

 

 かれこれ1時間ほどの問答にやっと終止符が打たれた。

 後輩はキョロキョロと周りを確認した後、俺の手の中から抜け出して地面に降り立った。

 

「一応、周りは大丈夫っぽいね」

 

 今俺達が居るのは仮隊舎における一室だが、所詮は急拵えのプレハブだ。壁も薄く、床も薄い。

 それを気にしてか、耳をピクピクとさせた後そう呟いた。

 そして確認が終わったのか、後輩は影から溢れた黒いものに包まれた後、大きく膨らんでいき、最後にはいつもの見慣れた後輩の姿になる。

 いや、微妙に違った。

 

「何だそのケモ耳、あと服」

 

「あ、いや、これが本来の格好なんだよ! コスプレちゃうから!」

 

「いやそこまで言ってないし」

 

 いつもの大きさに戻ったと思いきや、大きな帽子を被っていたり、変わった構造の服を着ていたり、仕舞いにはケモ耳が生えていた後輩。

 そんな姿に思わず突っ込んでしまったのだが、何故か顔を真っ赤にしながら声を荒げられた。あ、若干涙目に…。

 まぁ違和感も無いし構わないんだが、そんなに気になるなら着なければいいのに。そうツッコむのは藪蛇だろうか?

 

 とはいえこんな話をするためにここに居る訳じゃない。

 それを思い出したことに後輩も気づいたのか、何とも複雑そうな顔をしながら手を横へ掲げる。

 すると何も無い筈の空間から筒のようなものが零れ出るように後輩の手の上に現れた。

 いや待てって、それってあれでしょ? AUOの……。 

 

「それって王の財宝……?」

 

「しがないアイテムボックスです」

 

「あ、そう…」

 

 ちょっとワクワクしちゃったじゃないか。俺の年甲斐もない高揚感を返してほしい。

 

「何が不満だったのか分からんけど、俺が使ったのはこれなんだよ」

 

 つい不満を顔に出してしまっていたようなので、慌てて戻す。

 よくよく考えればアイテムボックスも十分すごいしな。異世界転移物で言えばチートの定番だし。 

 そう思い直し後輩が手に出したものを注視する。

 一言で言えば、筒だ。

 しかしよく見れば各所に切れ込みや機械的な突起が見受けられる。

 

「後輩、何なんだそれ」

 

「これはトラップだよ。簡単に言えば地雷」

 

 地雷? これが?

 疑問に思いながら見る位置を変えようと回り込む。

 しかしそれより早く後輩は地雷と呼んだそれを虚空へと消した。

 

「もう直すのか」

 

「これって設置後数秒で勝手に爆発するし、今の俺が使ったらこの建物ごと先輩吹っ飛んじゃうかもしれないから」

 

「なんでそんな物騒なもん出した!?」

 

 既に眼の前にはあの筒は無い。だが後退りせずにはいられなかった。

 恐らくオリンピック選手でも驚くほどの瞬発力だったと思う。

 

「いやぁ、実際に見てもらった方が手っ取り早そうだったし」

 

 壁際まで逃げた俺に苦笑しながらそう言う後輩。

 彼女は手の中には何もないことをアピールするかのように手をブラブラとこちらへ見せつける。

 そこまでされて逃げたままというのも何か負けた気分になるので、俺は素直に後輩へと近寄った。

 

「んで、話を戻すとさっきのはトラップの中でもウィルストラップって代物なんだよ。効果は文字通りの感染状態にすること」

 

「バ、バイオハザード……?」

 

 ウィルス、感染と来て思いついたのがそれだった。

 再びそこから離れたくなったが後輩に手を掴まれてそれもできなくなった。

 

「あはは、そこまで物騒な代物じゃないですって。持久力の低下とか免疫力が下がるとかその程度ですから。あとはトラップ発動時の軽いダメージ位のものだから」

 

 安心してくれと言わんばかりに笑って言うがそれは安心できることなのだろうか。

 しかしそんな俺の不安を余所に後輩は続ける。

 

「これをですね、タタタッと子狐状態で敵陣にばら撒いてきたんですよ。戦意の低下に繋がるかなって。まぁそれどころか予想以上に免疫力の低下ってのが効果あったみたいで、腹痛やらで倒れた人が多かったんですよね。衛生的にアレだったんですかねぇ……」

 

 何恐ろしいことさらっと言っちゃってくれてんのこの子は。

 つまりあれか、日和見感染を起こしやすくするトラップだってのか。なんだその恐ろしい地雷。

 あれ、でもちょっと待てよ。さっきはこのプレハブごと吹っ飛ぶみたいなこと言ってなかったっけ?

 

「さっきはプレハブが吹っ飛ぶみたいなこと言ってたけど、今は軽いダメージって言ってたよな。何か違うのか?」

 

「おおぅ、すごいとこに気付きましたね。実はこのトラップ、使用者の、まぁ簡単に言えばステータスによってダメージが変わるんすよ。今の俺が使うとやばいダメージが叩き出されて、子狐状態ならダメージも低いって寸法っす」

 

 ステータスに左右される武器か。まるでゲームみたいな話だ。

 しかし、それが本当ならこいつはその弱いステータスのままで敵陣の真っただ中に居たというわけだ。

 そんなことをすれば下手すれば死んでいたかもしれない。

 それに気づいてしまい、思わず顔をしかめてしまう。

 

「ほんと先輩は優しいっすねぇ。どうせ弱い状態で敵陣に突っ込みやがってとか思ってるんでしょ?」

 

 ニヘラと零すように笑顔になる後輩。内心を見透かされて余計に顔をしかめてしまう。

 というか俺ってそんなに分かりやすかったか?

 無意識に顔を触りに行くが、そんな様子に更に嬉しそうにする後輩。

 なんか腹立ってきた。

 

「痛っ!? 何でチョップするんすか!」

 

「帽子あるんだから大丈夫だ」

 

「いやまぁつい言っちゃっただけですけど……、ってそうじゃねぇ!?」

 

 芸人か、とノリツッコミする後輩にツッコミ返ししたくなるがこれ以上はさらに話が進まないで我慢する。

 

「それじゃあネタばらしですけど、門を潜る前に俺を見てもらった時に畳背負ってたでしょ?」

 

「あ、そういえばそうだな」

 

 頭痛が痛くなる光景だったから忘れていた。

 

「あれの効果は端的に言えばステルスなんです。そして今回用いたのがコレ」

 

 そう言いながら後輩が出したのは一本の小刀だ。

 いや、正確に言うならばそれは、クナイ。

 

「やっぱりお前アサシンじゃねーか」

 

「ち、違うし!」

 

 クナイを使うって言えば忍者だと思うんだが違うのだろうか。

 NINJAソウルを持つスレイヤーさんくらい行くとバーサーカーでも良いかもしれないけど…いややっぱアサシンだろそれ。

 目の前の後輩(自称バーサーカー)を訝しむように見ていると、慌てて説明を始めた。

 

「これは確かにクナイだけど俺はこれに付いてる効果を利用したんだよ! これを持ってると高い回避性能と命中力を上げれるの!」

 

 心配を掛けさせた意趣返しのつもりだったんだが、後輩は気づかずに続ける。

 

「ビーストって種族はどうにも命中率が悪いんだ。だから遠距離攻撃より近接攻撃が得意なんだけど、今回はただばら撒くだけじゃなくて効率的にトラップに掛かってもらう必要があったからこれを使ったんだよ…。これなら狐状態でもくわえるだけで良いし……」

 

 どんどん尻すぼみになっていく後輩。流石に自分でも悪いと思っていたのだろう。

 そんな後輩の頭を帽子越しではあるがポンポンと撫でる。

 こいつも悪気があってした訳じゃないことは分かっているのだ。ただ、一言欲しかった。

 家族の様なこいつがただ一人で戦場に行っていたという事実に何とも言えない気持ちになってしまったのだ。

 

「悪い、助かった」

 

「……俺が勝手にしただけだ」

 

 そっぽを向かれてしまった。だがその頬が幽かに赤くなっているのが見える。

 その姿に思わず笑みを浮かべてしまう。

 

「とりあえず、サーヴァントとかまだ良く分からないけどさ、気を使い過ぎだバカ後輩」

 

「……馬鹿言うなし」

 

 ついに帽子を深く被って顔を隠してしまった後輩。

 流石にこれ以上は俺が言うべきではないか。

 後輩の御陰で確かに被害は拡大したが、予想されていた戦死者の数は減っている。

 戦死者と言っても相手側ではあるが、やはり人の命を奪うために引き金を引くということは気持ちの良い物ではないのだ。

 

「次に何かする時は、必ず俺に言えよ?」

 

「それは…、命令かな?」

 

 俺の言葉に、帽子の陰から見上げる後輩。

 恐る恐るといった調子に聞き返す彼女はどうにもバーサーカーというクラスが当て嵌まる気がしない。

 しかしよく考えればその反応も仕方ないのかもしれない。

 後輩はサーヴァントだった。そして彼女と俺を結ぶ縁には令呪というものが増えた。

 その令呪というものが俺が知っている知識と同じものであるならば、俺は彼女に対する強制権を持つことになる。

 マスターがサーヴァントに使えるたった3度の絶対命令権。それは自害すらも命令することが出来る。

 絶対と言いながら幾つかの例外が在るには在るが、それでも令呪が持つ力は規格外に過ぎる。

 それを、俺は目の前の後輩に行使することが出来る立場にある。

 

 ……バカバカしい。

 

 俺がそんなものを行使すると思われているのならば、また一つこいつを怒る理由が増えてしまう。

 そんなものを行使する気は全くないし、そんなもの程度で俺たちの関係が変わる訳がない。

 

「これは、テンプレで言えば“お願い”ってやつだ」

 

 俺の言葉に一瞬ポカンと呆ける後輩。

 しかしすぐさま再起動し、堪え切れないといった風に笑みを零した。

 

「く、くく、確かに、定番だ」

 

 そして後輩は、けど、と続けた。

 

「願いだってなら、俺が破る訳には行かないな」

 

 そう言いながら、後輩は満面の笑みを浮かべた。

 

 

 




いかがだったでしょうか?

役立つあの子と言えば地雷さん。
ただし私は置くだけでしたけどね!
なので代わりにここで使ってもらいました。


ではでは、また次回お会いしましょう。
次回は週末にでも投稿できたらいいなと思います。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。