テンプレ…まじで?(リメイクしてみた) ※現在このすば!編    作:onekou

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どうもonekouでございます。

今回も随分遅くなってしまいました。
思った以上に10月忙しい。
でもまぁ1か月以内には次が出せました!(@3日)

さておきどうぞ!


『stage10:このスティールに祝福を!』

 

 

 

「ウェルカムようこそケモー」

 

 そう、コウジュは菩薩のような笑みで言った。

 それを見て、何故だか滝のような冷や汗が流れ始める。

 

「少々お待ちくださいますでしょうか」

 

「何だい何だい? 気分が良いから何でも聞くよ?」

 

「今なんでもって・・・・・・いやそうじゃなくて、今ケモーって言った?」

 

 間違いなく先程彼女はそう言ったのだ。

 そしてそれを否定してほしくて俺は聞いた。

 しかしコウジュは微笑んだまま言う。

 

「言ってない」

 

「いや言ったよね」

 

 すかさず返すもコウジュは何が嬉しいのかニコニコと笑むばかりだ。

 くそ、無駄に良い顔しやがって。

 改めて見ても整った容姿だから問い詰めにくい。

 これがアクアなら余裕でばかすかツッコんでやるというのに。

 あいつも容姿だけなら整っているから最初は戸惑ったからな。生まれてこのかた出会ったことの無いくらいに美人ではあるし。

 だけどあいつの場合それ以外が残念すぎてどうしようもない。

 

「はぁ、まあスキルだから使わなければ良いだけだし、別に良いんだけどさ」

 

 仕方ないから使わない方向で、そう諦める方向で口にするとコウジュが途端に悲しげな表情をし出した。

 

「・・・・・・使わないのか?」

 

「ぐぬ・・・・・・」

 

 俺は別に悪くないのに何だこの罪悪感。

 でもこの世界に来る前に聞いた説明からしてコウジュは何故かTSケモ娘にさせたがる悪癖の様なものが有るようだし、そう易々と『ナノブラスト』とかいうスキルを使うわけにはいかない。

 だから俺は鉄の意志でコウジュの涙目アタック(誇張表現)を遮りつつ顔に力を入れて反応しないように我慢する。

 

 少しの間コウジュと俺との間で目だけでバトルが行われていたが、暫くするとコウジュがハァと溜息を吐き、不貞腐れるように唇を尖らせた。

 

「別に良いじゃないか。ちょっとケモるだけだと思うし」

 

 何てことを続けて言うコウジュだが、その“ちょっと”という中にTS要素が入っているのを俺は知っている。

 まあ既に転生は済んでいる訳だし、流石にここからまた転生(TS)というスキルではないと思う。スキルとは・・・ってなるし。

 けどまあこのポンコツ女神(許せる方)はTS変身くらいのスキルなら仕込んできそうだ。

 ただ、今このケモ女神ってば“思うし”と宣った。

 つまり何か、スキルの大元っぽいのに内容を把握できてないってことか?

 それに思い至った俺はジトっとした目をコウジュへと向ける。

 するとコウジュは困ったように眉をへの字にした。

 

「適当に言ったのは悪かったよ。だからそんな目で見ないでくれ。でもさ、ほんとよく分からないんだ」

 

 コウジュは腕を組み、悩むように首を傾げた。

 

「『ナノブラスト』っていうスキルは確かに俺も持っているし、端的に言えば獣化のスキルだ。だけど、それは獣人(ビースト)種が潜在能力を発揮してより獣に近い力を発揮するって能力であって人間(ヒューマン)種が持てるスキルじゃ無い筈なんよ」

 

「じゃあなんで俺が取得できたんだよ。産まれてこの方、産まれ直しても人間だよ?」

 

「わかんな・・・・・・待て、落ち着くんだカズマ、そのワキワキしてる手を止めろ! 何する気だ!?」

 

 耳をモフるつもりなだけです。

 俺はじーっとコウジュを見ながら手をワキワキさせ続ける。

 コウジュは半分腰を浮かせ、いつでも逃げ出せる体勢になっていたが逡巡した後、再び席に着いた。

 

「・・・・・・コホン、ご存知の通り俺は獣を司る神なわけだけど、眷属とかを産み出す場合基本的にその性質は引き継がれる。獣人に転生させようとしていた訳だし気付いていると思うけど、因子を渡すことが出来るわけだ。それがスキルとしてカズマに発現したのかなって予想を立てることは出来るよ」

 

「結局分からんってこと?」

 

「そうなるねぇ」

 

 わからないというのは本当のようで、困ったように苦笑するコウジュ。

 しかしそれも一瞬のことで、次には真面目な表情になっていた。

 

「まあなんだ、悪いようにはなら無い筈さ。そう思ってる(・・・・)

 

 俺の目をコウジュはまっすぐ見る。

 言葉としては曖昧なものの筈なのに、不思議とその言葉には重みがあった。

 続けてコウジュは、「ま、今の俺だと力としては発揮できてないけどさ」だなんて苦笑するが、唯の直感ではあるが使う価値はあると俺の勘が告げていた。

 それ以前に、使ってあげたいと思ってしまった。

 勝ち負けの問題じゃないが、心が絆されてしまった。

 

「ふむ・・・・・・」

 

 冒険者カードを目の前に掲げる。

 何の変哲もないカードだが、ここ数週間ほどで何度もお世話になった物だ。

 そこに書かれている『ナノブラスト』の文字。

 しばらくそれを眺めながら、男は度胸と覚悟を決める。

 

「『ナノブラスト』!!」

 

「あっ」

 

 コウジュから驚きの声が上がる。

 だがもう遅い。

 

 コウジュは先程、より獣に近い力を発揮するためのスキルだと言っていた。

 そして俺は人間なので、当然ながら獣因子を持っているわけはないがコウジュからの付与、もしくは借りる形でなのかはわからないが獣因子を使うことが出来るのだろうとも。

 コウジュ自身予測が付かないようだが、なら簡単だ。試してみれば良い。

 何故かと問われると、転生ではなくスキルであるならば効果が一時的なものだと考えたからだ。

 ここ数日色んなスキルを見てきたが、その全てが魔力を消費して効果を及ぼすというものだった。

 継続的に効果を及ぼすものもあったがそれにも限界があって、一定時間効果があるといったものや精々が数回分の為が出来るという程度。

 そしてこの“変身”に関しては時間制限付きのものだと思われる。

 云わばお試しだ。

 なればこそ、ことここに至っては使うのも手だ。 

 まあ転生の時に見たようなスペックとまでは流石にいかないだろうことはわかっている。

 だがあの堕女神にすら劣っているこの身体能力を少しでも補えるのなら多少のことは目をつぶろうと思うのだ。

 一生男に戻れないということなら当然使わないが、コウジュの言葉を信じることにした。

 それに、だ。

 どうにも使ってほしそうなコウジュを見ていると、元引きこもりな俺の精神は容易く是と心が参ってしまっていた。

 あとはまぁ、どんな男だって一度は夢想するだろう? 女になった自分ってやつを。

 

 しかし―――、

 

 

 

「―――あれ?」

 

「ああやっぱり」

 

 

 

 スキルを発動したはずなのに何も起きはしなかった。

 スキルを使用すると成功失敗に限らず魔力が消費され、自身から何かが抜ける感覚がすると聞いたがそれもない。

 つまりはそもそも発動していないということだろう。

 

 どうしてこうなったのか、その原因を知っていそうなコウジュへと向く。

 

「あー、そのな、そのスキルは獣化とはいったけどいつでも使える訳じゃないんだ」

 

 そう口にしたコウジュはそっと目線を横に逸らした。

 

 え、なに俺ってばコウジュの言葉を信じて行動で表すとでもいった体でスキルをかっこよく発動しようとしたのに失敗したの?

 そしてそのついでにファンタジーものの定番の一つでもあるTS体験なんてものをドキワクしながらやろうと思ったのにそれも当然ながら叶わず。

 くっっっそ恥ずかしいやんけ!!

 あまりの恥ずかしさに俺は固まり、全身が熱を持つ。口は強く閉じ、今にも叫びそうになるのを止めるのに必死だ。

 顔真っ赤状態。

 そんな俺をコウジュは不憫そうに見てボソリと言う。

 

「なんかごめん」

 

「やめてくれ悲しくなる」

 

 俺はコウジュの言葉にそう返すので精一杯だった。

 

 少しして落ち着いた俺は改めてコウジュから"ナノブラスト”について聞くことにした。

 

「ナノブラストっていうのはさっきも言った通り簡単に言えば“獣化”のことだ。そしてその本質は獣人の獣因子を活性化させて獣としての力を絞り出すこと。ここまでは良いな?」

 

「おう」

 

「おっけぃ。んで、お察しの通り活性化させるには条件がある。それが感情の昂りだ。それは怒りでも良いし高揚でも良い。瞬間的な昂りでも蓄積された感情でも良い。兎に角一定以上の昂りがあって初めて励起され、獣化に至るってわけさ」

 

 なるほど、それが条件ならば確かに俺は発動できないわけだ。

 先程の俺は多少の高揚感はあれど、昂ると言えるほどの激情ではなかった。

 

 しかしそうなると少しばかり予定が狂ってしまう。

 感情の高ぶりとは言うが、それほど曖昧な基準のものを当てにして戦闘を組み立てるのは難しいだろう。

 ぶっちゃけ、ファンタジーな世界にドギマギしてるしファンタジーなことを味わいたいけど、こと戦闘に至っては別の話だ。

 命が掛かっている状況でドギマギはしたくないし物語のように綱渡りな戦闘はごめん被る。

 むしろ戦闘に関してで言えば圧倒的な戦力で敵を押し潰して楽したい。ついでに言えば女の子にちやほやされたい。

 そんなわけで使用条件が限られてくるスキルというのは求めていたものとは違うのだ。

 

 

 ・・・・・・いつでも女子風呂に突入できる予定だったのにとか考えていませんでしたよ?

 

 

 さておき、こうなると違うスキルが欲しくなってくるわけだが、目の前のコウジュからは他に貰えそうなものは無い。

 いやスキル自体は有用そうなものが多いと思うのだ。

 ただし馬鹿みたいに要求スキルポイントが高いか、『ナノブラスト』のようにピーキーな性能なものだと考えられる。

 本人は嬉しそうに目の前で運ばれてきた飲み物を飲んでいるが、これでいて戦闘系の神様なようだから現状の俺に有用なものというのは難しいだろう。

 

 そう思ってついーっと視線を反らしていくと、めぐみんが視界に入った。

 無いな。

 すかさず俺はそう判断する。

 

 めぐみんはキャベツ狩りで得た報奨を元手に新しく杖を買い替えた。

 それを股の間に挟みながら頬ずりをして、恍惚とした表情でブツブツと何かを口にしている。

 やべーよ、あれ俺のパーティメンバーなんだぜ?

 そういう意味でもアレは無いわ・・・・・・。

 スキルとしても、あの爆裂娘の攻撃方法はそのまま爆裂魔法だ。

 アークウィザードという高位の才能を全振りしても一発が限度の魔法を習得?

 どうせそれも馬鹿みたいに要求スキルポイントが高いに決まっているし、習得出来たとしても使い場所が限定的すぎる。

 つまり要らない。

 

 俺は再び視線をずらしていく。

 すると受付前でごねているアクアへと行きついた。

 思わずため息が出る。

 

 実はアクアに関しては、事前にそれとなく『ヒール』のスキルについて探りを入れたのだが、その時点でアクアは俺がそのスキルが欲しい事に気付いたようで駄々を捏ねた。

 駄女神曰く、私の存在価値が薄まるとか何とか。

 うんまあ存在価値そのものと言いそうになったが、それこそスキルを貰えなくなってしまいそうだったので口をつぐんだ。

 結局スキルは貰えそうに無いまま今に至る訳だが、どうやら『ヒール』も冒険者からすれば必要SP(スキルポイント)が多そうだから現時点では優先度は下げた。

 あと『花鳥風月』とかいう宴会芸スキルをやたら推してくるのがめんどくさい。

 

 そんなことを考えながらアクアの居る受付の方をぼんやり見ていると、いつの間にやら涙目になっていたアクアと目が合ってしまった。

 すかさず目を逸らすが、アクアは擦り寄るのようにこちらへと近づいてきた。

 

「カズマさ~ん、いやー奇遇ねー。ね?」

 

 ね? じゃねぇよ。

 俺は取り合わず、目を逸らし続ける。

 パーティメンバーだけど関わりたくない。

 関わろうものならば先程まで受付さんと揉めていた事について巻き込まれるのは必至だ。

 しかしアクアは俺のその無言の圧力を知ってか知らずか、回り込んでまで話を続ける。

 

「そのー、あれよ、カズマさんってばそこはかとなく素敵よね!!」

 

 アクアはどうやら俺の懐柔作戦に突入したようだ。

 だけどいくら何でも残念過ぎる。

 小学生でももう少しましな褒め方が出来るだろう。

 褒める箇所が無いならそう言え! 

 どちらにしろイラッとしかしないけどさ!!

 

 俺はついついアクアの言動にそう反応しそうになるのを抑えつつ居ると、対面のコウジュが呆れるように声を掛けた。

 

「今度は何したんですかアクア先輩」

 

「わ、私がいつも何かやらかしているようなこと言わないで!? 誤解されるじゃない」

 

「「誤解もへったくれもねぇよ」」

 

 思わずツッコんでしまったが、それが見事にコウジュと被ってしまった。

 それに二人して見合っていると、うぅっとアクアが涙を目に貯め始める。

 

「わ、私だって、今度はイケルと思ったんだもの・・・・・・。なのに、なのに全部レタスだなんて誰が予想するってのよぉー!!!」

 

 わんわんと泣き出すアクアに、俺とコウジュはうわ面倒くせぇと顔を引きつらせる。

 周りの人達も何だ何だとこちらへと視線を向けてくる始末だ。

 どうしたものかと思っていたら、コウジュがやれやれとアクアに近寄ってハンカチで涙を拭ってあげながら声を掛ける。

 

「で、結局何やったんすか。何か壊した? それともお金が足りない?」

 

「借金」

 

 待てお前さっき高い酒を買い込んだとか言ってなかったか? 

 それのために借金までしたってことか?

 やっぱり駄女神だわ。

 いや駄目神だわ。

 

 だがコウジュは慣れたものなのか、口元を一瞬引くつかせるも努めて冷静にアクアへと対応した。

 

「どうせまた取らぬ狸の皮算用でもしたんでしょ。で、幾ら?」

 

「10万」

 

 その瞬間コウジュは一瞬固まった。

 しかしすぐに動き出し、アクアを持ち上げた。

 

 その腕は、俺の胴回りよりも太く、逞しいものになっていた。

 

 

「おかしいっすねぇ。確か先週俺から10万借りてなかったかな?」

 

「あの、コウジュさん? 何やら腕がすごーく毛むくじゃらになっているのですけれど・・・・・・」

 

「アクア先輩を持ち上げるためっすよ」

 

「コウジュさんコウジュさん、私のね、身体がね、ミシミシ言っているのですけれど・・・・・・」

 

「アクア先輩を投げるためっすよ」

 

「いた、痛い痛い! ってどこへ!!?」

 

「上」

 

 次の瞬間ドゴンと言う音ともに、ギルドが揺れた。

 ギルド内に居る皆が上を見ると、ぷらぷらと見るも無残な女神が天井へと突き刺さっていた。

 いや誰もアレを女神とは認識しないだろうけど。

 気づけばギルド内はいつもの騒がしくも温もりのある喧騒が再開されていた。

 勿論上ではぷらぷらとぶら下がったままである。

 

 そんな駄女神を見て俺はふと思った事を口にした。

 

 

「・・・・・・なるほどこれがナノブラストか」

 

 

 対駄女神には良いかもしれない。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 アクア先輩を打ち上げてから暫く、カズマと杖を一通り愛でためぐみんとで昼食を取り終えて一服している時だった。

 

「相変わらず、良いパーティだな」

 

 チラリと上でぶら下がってる先輩を見てからそう言ったのはダクネスだった。

 その後ろにはクリスさんが居て、引き攣った表情で天井を見ていた。

 

 というかアクア先輩を見た上で良いパーティだと言えるこの騎士様は中々に良い性格をしているな。

 いやむしろ何で期待をするような瞳でこちらを見るんだ。

 でどっちがやったのと言わんばかりに俺とカズマを見ているけど、それを聞いてどうするつもりなんだ・・・・・・。

 

 触れぬが吉かと、違う話を振ることにした。

 

「そういえばダクネスは昼前に来るって話だったけど何かあった? クリスさんも居るし」

 

 ダクネスの後ろから恐る恐るといった様子で手を上げるクリスさんに上げ返して挨拶をする。 

 何故かよそよそしい態度を取るのは変わらないが、俺としては何処かであったような気がするくらいには親近感の湧く人なので笑みで返す。

 実際どこかで嗅いだような匂いなのだが、今日は香水でも着けているのか結局よく分からない。

 俺は獣として嗅覚が発達しているから香水をつけることってほぼほぼ無いので女子だなぁと心の隅で思いつつ、やはり気になるのはこの場にダクネスと一緒に来たことだ。

 

 何でもダクネスによると、クリスさんはダクネスと友達ではあるが固定のパーティというわけでは無いそうなのだ。

 ダクネスとしては組みたかったそうなのだが、とある理由であまりこの地を離れられないらしいダクネスと、とある目的で各地を回ったりする必要があるクリスさんでは固定パーティを組むのは難しかったのだとか。

 その分クリスさんがこの地に居る場合は一緒にクエストに行ったりと仲良くしているそうなのだが、そんなクリスさんをここに連れてきた理由は何だろうか?

 例えばクリスさんをこのパーティにってことなら大歓迎だし、むしろこちらからお願いしたいところだ。

 ダクネスが固定パーティを見つけられて一番に喜んでくれるくらいに良い人らしいし、ダクネス曰く盗賊職としての腕前も一級だとか。

 

 だからそんなクリスさんの登場に首を傾げていると、ダクネスが訳を話してくれた。

 

「すまない、実はクリスを探すのに手間取ってしまってな。反故にして申し訳ない」

 

「まあまあ気にしないでダクネス。堅苦しいのは無しさ。どちらにしろ今日は休みにしようって話だったじゃん」

 

「そうだぞ。固いのは防御力だけで良いぞ」

 

「っ・・・・・・。そ、そうか」

 

 俺の言葉にうんうんと頷きながら言うカズマの言葉に、頬を染めながら嬉しそうにするダクネス。

 え、今頬を染める要素あった?

 まあよく分からんが嬉しいならそれでいいか。

 それにしてもクリスさんを探していた理由とはなんだろうか。

 そう思っていると、ダクネスが続きを話す。

 

「実は、クリスを探していたのはカズマが習得するスキルを悩んでいると聞いたからなんだ」

 

「俺? まあ確かに探しているけど」

 

 キョトンとした表情のカズマ。

 

「コウジュには軽く話したのだがクリスはかなり優秀な盗賊職でな、保有するスキルも数が多いし使い方もうまい。今のカズマには良き師となると思ったのだ」

 

「あはは・・・・・・、ちょっと照れちゃうんだけど、そんなわけで連れて来られちゃいました」

 

 ダクネスがムフンと鼻息も荒くそう説明するので、照れながら言うクリスさん。

 しかし、それは確かに心強い。

 今まさにスキルについてどうしようか悩んでいる所だ。

 それにカズマと盗賊職のスキルは相性が良いように思う。

 人柄とかそういう意味でなく、カズマはどうもトリッキーな戦闘スタイルが合うようだから、色々と有用だと思うのだ。

 

「けど、良いのか? 俺としては嬉しいんだけど」

 

 そんなクリスさんに恐る恐る尋ねるカズマ。

 だけどクリスさんは快活に笑いながら返す。

 

「勿論さ! 友達からの頼みというのもあるけど、これも何かの縁だしね」

 

 そう笑みを浮かべながら言う彼女はまるで女神の様だった。

 いや今は俺か。

 兎も角、それでもただ貰うだけでは悪いと言った表情のカズマに、クリスさんは続けて話す。

 

「うーん、ならコウジュさんの料理をアタシに食べさせてほしいっていうのはどうかな? 美味しいって聞いたんだ」

 

 カズマがこちらを見るので俺はすかさず手でオッケーサインを作る。

 それ位ならお安い御用さ。

 流石にエミヤん達ほどとはいかないが、教えてもらったこともあるからそれなりのもんだと自負している。

 投影する方は流石に出せないが、この世界には無い美味しい料理を振る舞おうじゃないか!

 ただ、この世界に来てから振る舞ったことはほぼ無かった筈なんだけど、はて?

 

 そう思っているとクリスさんが話してくれた。

 

「あ、あれだよ、前にアクアさんに聞いたんだ」

 

 何故か慌てながらそう言うクリスさん。

 まあアクア先輩は何度も食べているから不思議ではないか。アチャ飯も食われてるし。

 そう思って納得していると肩をなでおろすクリスさん。

 何故にそんなに俺との会話で慌てるか。

 もっと気安く接してくれていいのに。

 

「うーん、まだるっこしい。クリスって呼んでいい? 俺のことはコウジュで良いからさ」

 

「ひえ」

 

 何でだよ。

 思わずそう言いそうになったが、実際何でだよ。 

 とある魔王さまも言っていたけど、仲良くなるにはまず名前を呼び合う所からだって話だった。

 そう思っての発言だったのだが、実はクリスってばそこそこ人見知りとか?

 

「いや、あの、良いのかな?」

 

 何故か恐る恐るといった感じのクリスにうんうんと頷く

 すると、嬉しそうに笑うクリスさん、もといクリス。

 

「嬉しいな。改めてよろしくねコウジュ!」

 

「こちらこそだクリス」

 

 俺も人のことが言えないけど、きっと彼女も中々に人付き合いが苦手な方だったんだな。

 ひょっとしたら、そんな同類にも似た匂い(・・・・・・・・)が妙な親近感を感じさせていたのかもしれないね。

 

 俺はクリスへと握手をするように手を出す。

 クリスはすかさず握ってくれて、二人で笑う。

 その後はカズマもクリスと握手して、時間が合えばクエストも一緒に行こうと約束した。

 めぐみんは、いつもの名乗りをいつしようかとうずうずずっと待っていたようで、さあ自分の番となったら盛大に決め顔で名乗り上げた。

 そんなめぐみんとも柔らかい笑みを浮かべながら握手するクリス。

 俺たちは記念にシュワシュワを5つ頼み、記念に乾杯をした。

 クリスにはすることがあるので固定パーティとはいかないが、それでもこの良き日にお祝いだ。

 

 俺たちは一通りこの出会いを祝い、そしてカズマのスキル習得の為にギルドを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アクア先輩がぶら下がっているのは結構後になってから思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「アタシがお勧めするのは『スティール』というスキルだよ」

 

 ギルドから少しばかり離れた路地、そこで相対しながらそう言うのはクリスだ。

 

 クリスは、首元の辺りでやや乱雑に切り落とした銀髪をしていて、盗賊職らしく動きやすそうな見た目をしている。二つの意味で。

 その性格はさばさばとしたもので、どこかこのファンタジーな世界に於いては其れっぽい先輩冒険者といった第一印象だった。

 しかしその第一印象とは少しばかり今の印象は変わっていて、その実とても優しい少女だということが分かった。

 どこかコウジュと似通ったところがありながらも、それでいて真反対なようにも感じる。

 

 そんなクリスが少し悩んだ末に提案してきたおススメスキルが先の『スティール』だ。

 彼女はよく見てて、と言いながら俺へと手を向ける。

 そしてニヤリと笑うと高らかに宣言する。

 

「『スティール』!!」

 

 クリスが言うと同時、彼女の前に出された手が眩い光を放つ。

 その光を握り込んだ彼女は、光が収まると再び手のひらを開いた。

 

「一丁上がりってね」

 

「あ、俺の財布!!」

 

 気づけば懐に在ったはずの財布が、クリスの掌の上に乗っていた。

 これが『スティール』。

 文字通り俺の財布はクリスに奪われた(・・・・)わけだ。

 

「ほえ、これはまた見事なものですね。確かスティールは幸運値が高くなければ思うように効果を発揮しなかった筈ですが、普通に財布をゲットしちゃいましたね。レベル差もあるでしょうけど、相手の幸運値によって阻害もされる筈なのでそう簡単に決まらないと聞いたのですがね」

 

「そうなん? ってことは幸運値が高いカズマには打ってつけだな。そんでレベルを上げればいいトリックプレイヤーになりそうだ」

 

 それは何とも嬉しい情報だ。

 流石にレベル差があるのはどうしようもないが、それは後からどうとでもなる。

 しかし元々低いステータスをどうするかと悩んでいた訳なので、唯一高い幸運値依存のスキルは渡りの船というものだ。

 

 俺は迷うことなく冒険者カードを操作し、事前に教えてもらっていた方法で『スティール』のスキル取得を選択した。

 

「お、おお!!」

 

 選択したと同時に、身体へと何かが浸み込むように溶けだす。

 それは身体の奥も奥。細胞を越え、魂までにも届き、『スティール』の使い方を俺に伝えてくれる。

 冒険者カードとは本当に便利なものだ。

 先程までは『スティール』のスの字も理解できなかったというのに、今では出来て当たり前というかのようにスキルが馴染んだのが分かった。

 実際の使用感というのはそれこそ使わないと分からないだろうが、練習次第ではかなり化けるスキルな気がする。 

 

「こりゃ良いな! ありがとうクリス!!」

 

 俺はそう言いながら新たなスキル習得に胸を躍らせつつクリスの元への近付いた。

 そしてクリスがデモンストレーショとして俺から『スティール』した財布を受け取ろうと手を伸ばす。

 

 だがクリスは―――、

 

「えーっと、クリス?」

 

「―――ね、アタシと勝負しない?」

 

 彼女は俺が受け取ろうとした財布を持ち上げてしまい、俺の手は宙を切る形になった。

 そして、笑みを浮かべながらそう告げた。

 

「おいクリス!」

 

「まあまあダクネス、これも授業の一環ってことでさ。それでどう?」

 

 クリスが何をしようとしているのか分かったのかダクネスが声を上げるが、クリスは軽く窘めつつ続けた。

 イマイチ俺は要領を得なかったのだが、コウジュなんかは面白いといった風に笑みを浮かべた。

 

「カズマ、クリスは今覚えた『スティール』で財布を奪い返してみろって言ってるのさ」

 

「そう言うことだね!」

 

 コウジュの言葉を肯定するようにクリスはビッと親指を立てた。

 それを見て俺は、ついワクワクとしてしまった。

 まさしくこれは、ファンタジー異世界転生定番のちょっといじわるな先輩冒険者からの授業というものだろう。

 恐らくコウジュが面白そうに見ているのも、内心俺と同じ気持ちだからだろう。

 あの女神様ってば、当人が一番ファンタジーな塊みたいな存在なのに、俺と同じレベルで異世界に一喜一憂出来る感性を持ってるからね。

 

 まあそれはそれとして、どこかではスキルを使わなければいけないのは確かだ。

 なら自ら実験台になりたいと申し出てくれているクリスにはむしろ感謝してもいいかもしれない。

 なにせ、 実はあの財布の中身は銅貨が殆どでそれほど大きい額は入っていないのだ。

 残りは全てコウジュのアイテムボックスの中に在る。

 コウジュ曰く、こういう世界では知らない間に掏られてもおかしくないし、俺のレベルが上がるまでは預かると申し出てくれたのだ。

 ・・・・・・あれ、俺ってばもしかして幼女に財布を握られてる?

 いやいやいや、今はそうじゃない。

 とにかく、別に失敗したとしても大した痛手ではない。

 勿論やるからには勝ちたい所存だ。

 例えばクリスが腰に装備している短剣とか見るからに高そうだ。

 他にもクリスの財布なら、流石に今の俺より少ないということも無いだろう。

 そう思い俺はクリスへと右手を向け、スキルを使う準備をした。

 

「良いぜ受けて立つ! むしろ俺がクリスの良いものを奪ってやるまであるからな!」

 

「ふふ、良い意気込みだね」

 

 俺は気合を入れてクリスへと宣言するが、クリスは涼しい顔でそれを受け流し、俺へと両の手ひらを開いて見せた。

 

「あ、汚ねぇ!!」

 

「これも授業料ということだよ後輩君?」

 

 良い笑顔で言うクリスの手のひらには、そこらに落ちているような石ころが幾つも握られていた。

 つまりは俺が『スティール』に失敗すれば、俺の手元に来るのがあの石ころというわけだ。

 これまた思わず上手いと言いそうになる手合いだ。

 だけど、まだ勝負は決まった訳じゃない。

 だからそこの銀と黒の幼女は終わったなって顔をするんじゃない。

 ダクネスもそんな可哀そうな目でこっちを見るな!

 

 ああもう見てろよこんちくしょう!!

 

「やってやろうじゃねぇか!!!」

 

 この場において俺の敗北しか脳裏に浮かんでいない面々の鼻を明かしたくて、俺は右手に轟き叫べと力を籠める。

 

「『スティィィィィィルゥゥゥゥゥゥゥ』!!!!!!!」

 

 右手に溢れる光。

 それを俺は握り込み、確かに掌の中に生まれた質量に少なくとも石ではないことを確信する。

 

「よっし!!」

 

「っ!!?」

 

 残念なことに剣ではないようだが、質感からして布地。

 ひょっとして俺は希望の一つである財布を手に入れたのではと、つい笑みを浮かべる。

 クリスは俺が取った物に余程驚いたのか、自身のズボンのあたりを触り、口を呆然と開けて声も出ないでいた。

 

 ただそこでふと気づく。

 あれ、財布にしては小さくない?

 

 俺は掌に隠れるほどのその布地を、恐る恐る広げてみた。

 

「おう、当たりやんけ」

 

 

 それはそれは見事な・・・・・・、

 

 

 

 

 

 

 

 純白のパンツだったとさ。

 

 

 

 

 

 

「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!? 私のパンツ返してよおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!?」

 

 

 




いかがだったでしょうか?

やっとパンツまで行けました(感無量
もちろんこれは未だ序章。紳士淑女諸君なら続きは分かるはずですね?(満面の笑み
特に関係ありませんが、コウジュはカズマよりラック値は現状低いです。低いんです。

それにしても、ホント10月忙しくなっちゃってるので早く11月になってほしいです。
やったぜ休みだと思って続き書こうとPCの前に陣取る訳ですが気づけば休み終わってたりするし新手のスタンド攻撃を受けている気分です。
はやくあの話まで行きたいところです。

まあその前に、もう少しスティールで遊ばないとですけどね(ゲス顔


さてさて、そういえば前回言っていた絵についてですが、現在のコウジュの服装を思い浮かべる一助になればと拙いながらまた描いてみました。


【挿絵表示】


バランスやらちょこちょこ端折っているのやらはお目こぼしいただければと思いますが、こんな感じのコウジュをイメージして頂ければと思います。
ワシに任せろって方がいらっしゃいましたら是非ともファンアートよろしくお願い致します(乞食
ちなみに今は横からバージョンを描いているのですが、良い感じにむっちり描くのって難しいものですね。
お願いしますエロイ人!! 助けて!!

まあそんな感じで引き続き頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。
ではまた次回!! (*´ω`)ノシ



P.S.
気付けばチェイテピラミッド姫路城が終わっちゃいましたね。
今回は私そちらもほぼ出来ず仕舞いでして、もうすぐ来る酒呑ちゃんが始まる前からアップしてるイベの為に力を貯めております。
次は、走ります。
止まりませんよ。
だからみんなも、止まるんじゃねぇぞ∪・ω・∪


P.S.2
何か書きたいことがあったのに忘れてしまいました。
思い出したら活動報告で出すとします・・・(´;ω;`)

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