テンプレ…まじで?(リメイクしてみた) ※現在このすば!編    作:onekou

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どうもonekouでございます。

長らくお待たせしました。
どうぞ。


『stage25:ハッピーエンドを諦めない』

「とは言ったものの、こいつはきついって!」

 

「“星光収集”“並列生成”“発射”っ!!!」

 

「ぬおおおおおおおおおっ!!?」

 

 ひとつでもビル群を消し飛ばすような砲撃を、事も無げに連射してくるアンジュちゃん。

 今も桃色の砲撃がいくつも宙を走っている。

 幸いなのはアンジュちゃんはほぼ固定砲台と化していて、あまり動かないこと。

 お陰で逃げに徹すればなんとか逃げることが可能となっている。

 だから俺はアンジュちゃんを中心にその周りを翼を出して飛び回って逃げているのだが、これではじり貧でしかない。

 一応、この砲撃にも慣れては来た。

 直射だから、バカみたいにぶっとい砲撃であるとはいえ撃たれる瞬間に居た場所にそのまま居続けなければ避けることは可能だ。

 まぁ、可能(・・)とは言っても当然容易ではない。

 シューティングゲームのように避ける為の隙間が用意されているわけでもなければ、パターンがあるわけでもないのだ。

 ゲームではないのだから当たり前だが、無限の残機すら無くなった今では、かすることすら許されない。

 ああ畜生、今までバーサーカーのクラスどおりな戦いをして来たからか、精神が刻一刻とすり減っていく。

 

「上手く避けるじゃない。でもこれならどう? “風力圧縮”“炎熱操作”“合成”」

 

「まじかよっ!?」

 

 アンジュちゃんが頭上に掲げた両手の間に風と炎が絡まるようにして圧縮されていく。

 サイズで言えばバスケットボールほどだ。

 だが、そのサイズに見合ったものではない驚異が内包されていることは見るからに明らかだ。

 顔を顰めながらも行使する様子は、制御が難しいからなのだろうか。

 とてもつらそうな表情をしている。

 それがやけに気になった。

 だが、それを今気にしている暇はない。

 

 眩い光を放つまでになった光球が今―――、

 

 

 

「“解放”」

 

 

 

 ―――弾けた。

 

 アンジュちゃん自身を中心に広がる爆炎。

 それは瞬く間に俺へと迫る。

 視界すべてを飲み干すように来る炎の壁。

 さすがにこれは避けられそうもない。

 

 けど、これはある意味好都合だ。

  

 発動の瞬間にはアンジュちゃんは見えなくなっていた。 

 ただ、その炎の中に消える瞬間に口元が”しょうへき”と動くのが見えた。

 恐らく、この炎に対する防御を行ったのだと思う。

 流石にこの炎ではアンジュちゃん自身もただでは済まないのだろう。

 でもそれはつまり、やり方次第では防げるということ。

 そして、障壁を張るということは、炎の中に彼女は居るということ。

 

 なら、ここで前へ!!

 

「セイクリッドダスター!!!」

 

 両の手に現れるのは、蒼い光を纏った鋼の手甲。

 先端には獣のそれを思わせる爪が着いており、ナックル系武器でも一番のお気に入りだ。

 今も、吸い込まれるように手に馴染むのがわかる。

 

 炎はすでに目の前だ。

 それへ見ながら、俺は右手を肩の高さで大きく引く。

 

「っせぇぇのぉおおっ!!!!!」

 

 炎へと接触する瞬間、セイクリッドダスターへとありったけの力を込め、同時に宙を踏み染み、自分から前へと突き進む。

 そして、炎へと右の拳を叩きつける。

 

「っるあああああああ!!!!!」

 

 こいつの能力は凍結。

 触れたものではなく、攻撃したものに対して凍結効果を及ばせるというもの。

 殴った場所から炎が凍る(・・・・)という物理的におかしな現象が起こっていく。

  

「っぐううううううううう!!!」

 

 しかしそれも一瞬の均衡だ。

 後ろから後ろからと止めどなく迫り来る炎を一瞬は凍らせるが、後続の炎がそれもすぐに飲み込む。

 

「ううううううううううううううう!!!!!!!!」

 

 翼から魔力を放射し、推進力を得、会わせて拳に回す魔力も高めていく。

 

 肌が焼ける、翼が燃える。

 息などしてしまえば肺から焼けてしまうだろう。

 だけど受けに回った瞬間俺は諸ともに焼かれてしまうだろう。

 

 だが、だがだ。

 少しずつ、進んでいる!!

 

「見つけた!」

 

「っ!?」

 

 気の遠くなるほどの間炎に巻かれていた気もするが、それもようやく終わりを告げる。

 それも予想していた通りで、さっきのアンジュちゃんの言葉通りならば放出し続ける類いの攻撃ではなく、溜め込んだものを吹き散らしているだけならば終わりは当然来る。

 そしてその壁を今、抜けた。

 

「っるあ!」

 

 左の拳を振りかぶる。

 距離はまだ離れている。

 アンジュちゃんも迎撃する為にだろうか構えた。

 でも問題ない。

 

「なっ!?」

 

 アンジュちゃんから間の抜けた声が出る。

 さもありなん。

 俺が使ったのはボッガ・ロバッドというフォトンアーツ。その3段目。 

 ゲーム内であれば当然1段目2段目を越えて初めて使えるものだが、そこはやはり現実となった際故か、威力がかなり落ちることを除けば使えないことも無い。

 身体に馴染んでいる流れを無理やり崩そうと思うとどうしても力が乗り切らず威力が落ちてしまうが、今はそれを度外視して使う。

 技としては鋼拳の射出。

 つまり、分かりやすく言えばロケットパンチだ。

 

「くっ……、“部分龍化”!」

 

 上手く意表を突けたようで、アンジュちゃんは慌てて飛んできた甲拳を弾く。

 その手は龍のものへと変化しており、セイクリッドダスターの凍結効果が及ぶもレジストされているのか霜が手につく程度で容易く俺の甲拳は明後日の方向へと飛んでいった。

 だが、拳は二つある(・・・・・・)のだ。

 

「凍てつけ!」

 

「"炎熱加速”!」

 

 アンジュちゃんが飛んできた甲拳を弾く時には既に、俺は彼女の懐へと潜り込んでいた。

 

 彼女はそれにも反応してきて、反対の龍手で俺の右拳を掴んできた。

 炎に包まれたその手は凍結効果を相殺してなお俺の腕を焼いていく。

 

「諦めなさい!」

 

「嫌だね!」

 

 声を荒げながらもどこか諭すように言ってくるアンジュちゃんに、俺は勿論否と答える。

 言葉だけを聞けば言うことを聞かない子と母のようであろう。

 でもこればっかりは聞くことはできない。

 俺が呑まれないようにという彼女の優しさから来ていることは分かった。

 でもはいそうですかと、今を諦めたくはない。

 

 恐らく、ここで諦めたとしても彼女は俺がやろうとしていた特異点の恒常化をしてくれるだろう。

 そして俺が成したこととして、静かにまた中へと消えるのだろう。

 アンジュちゃんの言い方からすれば、この位は彼女にとってどうということもない改変なのかもしれない。

 でもそれはつまり、彼女がまた背負うということだろう?

 

 なら、このままじゃダメだ。

 彼女に任せるわけにはいかない。

 

 それは別に、彼女が頼りにならないという意味ではない。

 だが彼女は言った。破滅()を喰らい続けるだけは嫌なのだと。

 そんな彼女に、規模は違えど悪感情()を背負わせるのは酷であろう。

 俺の為にと言ってくれるのは嬉しいし、その為に頑張ろうとしてくれているのはいい事なのかもしれない。

 だけど、こんな子に背負わせるだけ背負わせておいてそれでハッピーエンドだとは言えるわけがない。

 

 彼女が優しい子だというのは分かった。

 少しばかり俺に贔屓目な気はするが、それでも彼女が“人”が好きなのは分かった。

 だってそうだろう?

 彼女はずっと破滅(バッドエンド)ばかりを見続けてきたという。

 なのに、それでもまだ救おうと彼女はしてくれている。

 そんな立場を投げ出さず、立ち止まりはしても誰かに押し付けようともせず、まだそこに座り続けてくれている。

 しかもどうしたらいいかわからないと苦悶の表情を浮かべていたというのに、それでも俺を助けるために出てきてくれるほどだ。

 ツンデレにも程があるだろう。

 いやまぁ、俺が知った時点では不思議なくらいデレ成分多めだけども。

 

「全く聞き訳が無いわね!!」

 

「そっちこそ! 俺がはいそうですかって諦めるって思った!?」

 

 右の手はアンジュちゃんに握られて動かせない。

 ギチギチと音を立てながら、凍結と炎熱の効果が食い合い蒸気を発している。

 馬鹿力には自信が有ったが、どうも上手く行かない。

 向こうが龍の腕になっているからだろうか?

 

 なら―――、

 

「・・・・・・嘘だ、できない」

 

 いつもの感覚で龍化しようとしても、何というか繋がる気配が無い。

 壁一枚隔てているような感じだ。

 息をするように出来ていたのに、それが今や何の反応も無い。 

 

 そんな俺を見て、アンジュちゃんが少し首を傾げた後に得心がいったという表情をした。

 

「ああ、自分も龍化しようと思ったの? でも残念。あなたの龍因子は先程私が接収したわ」

 

 その言葉に、今度は俺が首を捻る番であった。

 しかし、それもすぐに終わる。

 

「くそっ、あの時か」

 

 思い至ったのは最初の炎で同位体を焼かれた時。

 あの時にはただ再召喚が出来ないだけだと思っていたが、多分それだけではなかったのだろう。

 先程からアンジュちゃんは俺を殺しに来ている。

 しかしそれはどうやら俺を殺すことで一時的にこの身体のコントロールを得るための様であった。

 つまり、消し飛ばされた“俺”の分の権限は全てアンジュちゃんに移っている。 

 そういえば先程飛んだ時も、何となくではあったが龍翼ではなくホワイティルウィング(光翼)を使用してしまった。

 ということは、龍化どころか獣化も殆ど使えないってことか・・・・・・。

 残っているのは基礎として持っていた狼のものだけ。

 他の俺も俺とはいえ、だからこそその“俺”の権限を持って行かれてしまったわけか。

 バーサーカーとしてのアイデンティティが、なんて言っている場合じゃないけど、これはマズいなんてものじゃないな。

 俺の戦闘力は殆ど獣の因子に起因している部分が多い。

 そしてその上でのゾンビアタックにも等しい損傷を無視した攻撃が俺の基本スタイルだ。 

 

 それを、封じられた。

 

 

「ほら、こっちはどうする?」

 

「っ!!?」

 

 アンジュちゃんは開いていた左手を俺へと向けて走らせた。

 反射的に俺はそれを掴む。 

 だが左の手甲は飛ばしたばかりだ。

 素手で龍拳を掴むしかない。

 

「ううぐぅっ」

 

「捕まえたっ」

 

 嬉しそうにそう言うアンジュちゃん。

 何とか抜け出そうとするも、全く振りほどける様子は無い。

 押しても引いても、うんともすんともいかない。

 そして動かせば動かすほど、龍手の爪が食い込み、ナイフのようなそれは容易く俺の肌を突き破る。 

 

「駄目よ。私だってもうあなたを傷付けたくはないわ。だから、これで終わり」

 

 死刑宣告というには些か温かい気持ちによって成されているものではあるが、それに等しく俺はここでやりたかったことを強制的に終わらされてしまう。

 

 彼女にここで背負わせたら絶対後悔すると直感がそう告げているのに、もう打つ手は無いのか?

 いいやここで諦めたらそれこそ確実に終わってしまう。

 だが、何をすれば・・・・・・。

 不死性は封じられ、獣の因子もほとんどを奪われ、龍化は出来ず、両の手は塞がれ力は及ばず、このゼロ距離で回避も出来ないこの状況で、何を?

 

「何を考えているのか分からないけれど、そうはさせないわ。“桃香”―――、」

 

 その言葉一つで何をしようとしているのかが分かった。

 分かってしまった。

 恐らく彼女は、前の世界で妲己―――ウカノから覚えた宝具『桃源郷・酒池肉林』を使う気なのだろう。

 だとしたらマズい。

 マズすぎる。

 あれは距離が近く濃度が濃い程よく効いた。

 つまりこのゼロ距離だとどうしようもない。

 幾ら彼女の言葉から次の攻撃が予測できると言っても、これでは避けようも――――

 

 

 

 

 

 

 ―――待て、言葉(・・)

 

 

 

 

 俺はあることに気付く。

 先程から感じていた違和感もあり、それが答えのような気がして来た。

 むしろ、考え始めればそれ以外には在り得ない様にすら思えてきた。

 けどまさか、彼女が・・・・・・?

 いや、迷っている暇はない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――うりゃぁ!!」

 

「―――さいみっんぶぅ!?」

 

 俺は思いっきり頭突きをした。

 彼女の言葉を止めるため、思い切り。

 距離が上手く縮められず、意図せずして彼女の口にそのまま頭突きする形になって彼女が涙目になってしまっているが、これは致し方ない犠牲というやつだ。

 オデコにキスさせる形でぶつけてしまったからかなり痛そうだけど、コラテラルダメージだから!

 でもほんとごめん。

 

 でもお蔭で、その衝撃に怯んだ彼女の拘束が外れた。

 

「にがひゃ・・・・・・逃がさないんだから!!」

 

 しかしそれも一瞬で、すぐさま彼女はまた俺に掴み掛ろうとする。

 ただ、どうやら体勢を立て直しきっていないようで地面に伏せるように避けた俺を掴めず、そのまま宙を掻くアンジュちゃん。

 

 俺は、そのままアンジュちゃんの背後へと回り、彼女を後方から抱きしめるようにして動きを抑える。

 

「こ、こら、やめ、んぶ!?」

 

「ごめん、でもこれしか思いつかなくて」

 

 俺は片手で、彼女の口を塞いだ。

 これでおそらく、彼女を無力化出来た筈。

 力の差はあるが、体格は同じだ。

 そして彼女とて骨格が人と同じならば、背後からの羽交い絞めでは動きもそう易々とは取れない筈。

 

「んんっ!!!」

 

「う、ぐぅっ」

 

 当然彼女も暴れる。

 だが、ここで離すわけにはいかない。

 龍手の爪が俺を引きはがすために腕を切り裂いていくが、その程度の痛み、今更我慢できない訳も無い。

 痛くない訳がないけど、これで離してしまえばもう彼女は俺を近づけさせることなく仕留めに来るだろう。

 先程から罪悪感で胸いっぱいだが、引けないのだ。

 

 そうして暫くすると、彼女は暴れるのを止めて大人しくなった。

 俺に刺さっていた爪も抜き、ブランとさせる。

 俺の腕はR18G程度にはグロイことになり、彼女の一張羅は血で真っ赤だが、まぁ今更であろう。

 

 

「んっ」

 

「ふひゃぁっ!?」

 

 掌を舐められ思わず変な声が出た。

 ゾクゾクゾクと、背筋に電気が走ったように得も言われぬ感覚が産まれる。

 背筋を走った感覚につい手を離しそうになったがなんとか耐えることに成功し、それが最後の抵抗であったのか、今度こそ大人しくなった。

 

「・・・・・・まったく、アンジュちゃんも大概諦めが悪いよな」

 

「んん」

 

「いやいや、世界を救いたいって理由でそこまで出来るなら、諦めの悪さがすごいって」

 

 俺の言葉に首を横へ振ろうとしたので、苦笑交じりにそう言う。

 迷って迷って、その揚げ句に壁にぶつかって、これ以上殺さない様に引きこもって、でも気に掛かった俺の為にまた出てきてくれて、そんで、辛そうな顔をしながら、それでも俺を止めるために自分も傷付きながら傷つけて、ああ何とも共感できる頑固者(・・・)だ。

 勿論、そんな頑固者は嫌いじゃない。

 

 そんな彼女に俺は、つい先ほど気付いたことを伝えることにした。

 それは、何故アンジュちゃんを無力化する方法に気付けたか、だ。

 

 

「アンジュちゃんさ、ひょっとして『喰べる力』を使う事が怖いんじゃない?」

 

「っ!?」

 

 アンジュちゃんは身体をビクンと振るわせる。

 つまり、ビンゴってことだろう。

 そしてそれに、俺はやっぱりと嘆息する。

 

 先程俺は彼女のとあることに気づいてしまった。

 それは、何故わざわざ俺に気づかれるというデメリットがありながらも行う工程を言葉にし続けていたかということ。

 そのことに疑問を持ったとき、最初に思い浮かんだのが自身がチートを手にいれてすぐに編み出した方法だ。

 俺が持つ力は、想像したものを現実へと具現化する力だ。

 だがそれは、マイナス方向への思考も影響してしまう。

 失敗しそうだな、上手く当たらないかも、そんな思いを持ってしまえば、もしくはその思いが強くなってしまえばそうなってしまう。

 だから俺は明確なイメージを持てるように、某シューティングゲームで用いられていた『スペルカード』方式というものに着目した。

 それは事前に技を考えておき、宣言と共に発動するというもの。

 それに似せて力を使うことで、咄嗟の際にも確実に発動できる可能性を高めていた。

 つまり、技の使用に不安があるから他の方法で補おうとしたわけだ。

 

 それに、アンジュちゃんの"宣言”が似ているように感じたのだ。

 そして裏付けるように、思い返せば彼女は何かを発動させようとするたびに苦々しい表情をしていた。

 俺への攻撃に対してその表情を浮かべていたのだとは思うが、きっとそれだけではないのだろう。

 自身の使う力を過分に制御しながら彼女は行使しているのだろう。

 だって彼女は、俺以上に覚えた力を上手く行使できていた。

 だがそれなら、まずは1工程でも省けるように言葉での詠唱を無くすことが一番手っ取り早いはずだ。

 そもそもの威力は有り余るほどあるが、準備に時間がかかるからこそ実用性が無いとしてお蔵入りとなった技術も使われていた。

 まあ俺が創った時よりも格段に速度は上がっていたし、俺の様に自爆することもなく行使出来ていたのだから十分かもしれないが、彼女自身から聞いた“彼女の事”から考えればその程度の訳が無い。

 そう考えていくと、彼女は自身の『喰らう力』を行使する事への忌避感を持ってしまっているのだと考えた。

 つまりは、トラウマだ。

 何故自分の能力にトラウマを持ったかなどは、推して知るべしであろう。

 彼女は、自身の兄を、世界を喰らい続けた力を、憎くまで思っているかは分からないが忌避しているのだろうと思う。 

 だから、チートに振り回されない様にしていた俺みたいに口頭での指定なんてことをしながら行使していたのだろう。

 

 とはいえ、半分賭けではあったが正解だったようで助かった。

 お兄さんの方の力すら使わず、“俺”になってから覚えた(喰った)モノしか使わず、それすら制限して使うのだから余程の物だろう。

 だからこそ余計に彼女のトラウマに付け込むような形になって申し訳なくは思う。

 だけど、ここは何としてでも勝たないといけなかった。

 

「先ずはごめん。そしてありがとう。多分だけど、あまり使いたくはない力を行使してまで俺を止めようとしてくれてたんだよな?」

 

 アンジュちゃんは何も反応しない。

 誰が言ったか、沈黙は是であるとか。

 

「首を振りすらしないってことは、やっぱりそうなんだ・・・・・・」

 

 その言葉にも、彼女は反応を見せなかった。

 口を塞いでいるとはいえ、首を多少動かすこと位は出来る。

 しかしそれすら、彼女はしない。

 諦念か、それとも俺の話を最後まで聞いてくれるという意思表示か、どちらにせよ俺は続けよう。

 

「使い辛い理由は、さっきアンジュちゃん自身が教えてくれた事が理由だよな。だから引きこm・・・・・・身を隠した」

 

 引きこもったという表現はお気に召さないようで噛まれてしまった。

 

「けどそれなら、何で出て来たのさ。いやまぁ助けられていた身としては嬉しいけど、アンジュちゃんさっき言ってたよな? その能力は“アンジュちゃんそのもの”だってさ。ならそんなに否定していた力を使ってまで、効率を捨ててまで工程を増やして使ってくれたのは何でなんだ?

 さっきは俺の姿に救われたって言ってくれたけど、やっぱりそれだけじゃない気がするんだ」

 

 ビクリと、彼女は再び震えた。 

 

 ・・・・・・やっぱりか。

 今までの旅の中で、俺は沢山の人や種族に出会って来た。

 年齢も性別も考え方も、皆が違っていた。

 そんな触れ合いの中で、俺もそれなりに成長することができた。

 人を見る目はそれなりに肥えた。

 といっても、未だに直感的なものでしかない。

 獣としての因子も関係するのだろうが、特に戦闘時には神経が過敏になっているのもあってよく当たる。

 そんな俺の直感が、先程のアンジュちゃんの理由に違和感を覚えたのだ。

 ただ、嘘ではないのは分かった。

 まだ何かある、そう感じたのだ。

 

 暫くの沈黙。

 俺も何も話さず、彼女も反応を示さない。

 

 それから幾ばくか経った後、アンジュちゃんは俺の手を軽くタップした。

 

 一瞬手を離すか悩む。

 しかし不思議と大丈夫な気がしたので俺は結局口に当てていた手を除けた。

 とはいえ彼女を抱きしめた形なのだけは変えずだ。

 これも何となくだ。

 ここで離してしまえば、もう会えないような気がしたから。

 そんな悲哀を含んだロマンチズムにも似た感覚を覚えたから。

 

「・・・・・・あなたがゲームをする姿に、私に似た姿で私と同じ名前のキャラクターを使って世界を救う姿に救われたというのは本当よ。でもあなたの言う通りそれだけじゃない。あなたが(・・・・)そのキャラクター(Kouju)を使っていたことに意味があるのよ」

 

 そう切り出したアンジュちゃん。

 今度は逆に俺が聞く番だ。

 やはり言い辛い事なのか、再び間が開く。

 だけど信じて、俺は待った。

 

「さっき、言ったわよね? 破滅を迎えた世界をどうにかしたくて、削っては加えてを繰り返したって」

 

 確かにそう聞いた。

 削っては足して、削っては足して、そして繰り返すうちに最後には違うものになったと。

 

「そう、最後には違うものになった。その一つが、あなたよ」

 

「それ、は・・・・・・?」

 

 言葉を出さずに聞くつもりであったが、つい言葉にしてしまった。

 俺が、違うもの?

 削った後に足されたものが俺?

 いや、意味は分かる。

 だけど、理解が追い付かない。

 

「あの時既に、私の心は疲弊していた。喰らえば喰らうほど、その世界は私の糧になる。その中には当然感情なんてものもあった。良いものも、悪いものも、そしてただ生きたいという純粋な願いも。でも其れを叶えるのは不可能だった。私はただ最後の掃除をするだけだもの。私が触れた時点でそれはどんなものであれ終わらなければならない。だから、かしら。私は何を思ったのか、喰うべき一人に会うことにしたの。

 優しい言葉を掛けてほしかったのかもしれない。罵られて罪悪感に塗れたかったのかもしれない。今となってはどういう理由だったのか自分でもわからないわ。ただ、その子に会って私は救われた。そして絶望した」

 

「まさか、それが?」

 

「ええ、あなたの前のあなた。名前も経歴も、何もかもあなたと同じで、けれど決定的に違う“あなた”」

 

 は、ははは、何だ、それ。

 俺じゃない俺?

 俺の前の俺って何だ?

 いや、そうか。

 だから(・・・)、か。

 

「あなたの前のあなたは言ったわ。『転生でもさせてもらえるのかと思いきや。まさか世界の毒になるから死んでくださいとは俺も変わったものになったもんだ』って。そして続けて言った。『まあ、世界を壊すかもしれないから消されるだなんて厨二的にはありかな。喜んで』って。馬鹿みたい。それが声を震わせながら言う言葉? 文句も言わず、泣きそうになりながらも笑顔を浮かべて、そう言うのよ? 本当に馬鹿みたい」

 

 ああ、馬鹿だな。 

 でもきっと、“俺”は言う。

 

「しかもよ、最後には『ごめんね』って、私に、そう言うの。押し付けてごめんねって・・・・・・」

 

 俺の手の中で、アンジュちゃんは身体を震わせていた。

 声も震え、彼女を抑える俺の手にはポタポタと何かが降ってくる。

 

「だから、足してもらった。同じように、削った分だけ、貴方がまた同じ場所に戻れるように」

 

 でも、何かが違ったんだな。

 

「あなたはその力を得てから不思議に思ったことはなかった? あまりにも死ぬことに躊躇いが無いって」

 

「それは・・・・・・」

 

 正直に言えばあった。

 俺は最初から、幾ら生き返るとはいえ死ぬことに対して忌避感が無かった。

 そりゃまぁ怖くはあった。痛いのは嫌だ。

 でも、どうせ生き返る(・・・・・・・)

 そんな不思議な確信があった。

 いや正確に言えば、死ぬ事よりも(・・・・・・)何もできずに(・・・・・・)終わること(・・・・・)が怖かった。

 腕の一本や二本飛ぼうが、内臓が抉れようが、頭が吹っ飛ぼうが、その程度で(・・・・・)何かができるのなら儲けものだと、そう何処かで思っていた。

 

 そして、だから(・・・)自分と同じ違う自分にも違和感が無かったんだ。

 

 ドッペルゲンガーという現象がある。 

 それは全く自分と同じ人間で、もし見てしまえば死ぬなんて言われていた都市伝説の様なものだ。

 オカルトブームの時には、よくTV番組でも出ていたっけ。

 そしてその中には、何故見たら死ぬのかという部分を解明しようとするものが有った。

 理由は簡単だ。。

 気持ち悪いから(・・・・・・・)

 それは同族嫌悪の究極らしい。

 全く同じ自分、それを人間は許容できないらしい。

 

 なら、許容出来た俺はなんだ?

 気持ち悪いなんて感情はついぞ出てこなかった。

 元々のその推測が違ったのかとも当時は思った。

 だけど違ったんだ。

 俺からしてみれば、今更だったんだ。

 

「システムから逸脱していない私達からすれば、前のあなたも今のあなたも同じものにしか見えなかった。けれど、一度触れた私は何かが違うと確信できた。枠は同じよ。けれど、何かが違った。そこで気づいてしまったの。私達にその機能は無いんだって」

 

「そうして俺になったってことか」

 

「そう、なるわ。どうして今のあなたになったのかは分からない。私たちはただ機能の全てを使って確かに修復した。けれどあなたは、その影響か“死ぬ”ということそのものに恐怖を抱く事は無くなった。それが私達が変えてしまったあなたの本質よ」

 

 そっか、いや、御蔭で謎が解けた。

 自分の記憶では確かにどうしようもないほど普通の学生だったはずなのに、力はともかく死ぬこと自体にやけに忌避感が無いなとは思っていた。

 分身ではなく、分体を扱っても、特に何とも思わなかったのも、そんな経験がどこかには積み重なっていたからなのだろう。

 

 そんな風に一人納得している俺に、アンジュちゃんが今度は少しばかりの嬉しさを含めた言葉で続けた。

 

「そしてあなたになった“あなた”は、また同じように始めた同じゲームで、違うキャラクターを作ったの。それがKouju」

 

 それは、どこかで覚えていたということなのだろうか。

 実際に俺がKoujuというキャラを作ったのは何となくであった。

 ただ、そうしたかった。

 理由付けは色々出来るが、結局のところ、Koujuというキャラクターに世界を救う英雄になってほしかったのだけは確かだ。

 

「嬉しかった。削るしか能の無い私が、気付けば英雄よ? 私ではないと分かっていても、あなたが操るKoujuがゲームの中とは言え世界を救う瞬間を見られたのはすごく嬉しかった」

 

 しかしそこまで言って、再び彼女は悲しげに続けた。

 

「そして、結局私は救えなかったのにあなたはまた救ってくれた。そんな自分が、どうしようも無い程に嫌になったのよ」

 

 だから彼女は、俺に救われて、俺に絶望したのか。

 

 ああでも、また一つ分かったことが有る。

 だから俺は“ハッピーエンド”をこそ望むのだ。

 元々は何となくでしかなかった。

 ただ、俺がしたいからだった。

 いや、今もそうしたい。

 だけれど、一番最初に救いたいと思ったのは、この子だったのかもしれない。

 イリヤの時も、馬鹿丸出しだろうが泥に塗れようがハッピーエンドにしようと頑張った。

 前の世界でも、めんどくさいことは山ほどあったけど、やっぱり俺は皆が救われるハッピーエンドを諦めきれなかった。

 今回もそうだ。

 神の権能は、下手をすれば『抑止力』によって消されてしまう。 

 それは分かっていた。

 だから権能を使える土台をつくり、その上で元の世界へと加えることにしたのだ。

 そうしてまでも、俺はイリヤにハッピーエンドを見せて上げたかった。

 その途中で知り得たアンジュちゃん。

 今もイリヤにハッピーエンドを見せたいという気持ちは変わらない。

 あの子の笑顔が俺は見たい。

 家族みんなで笑うあの子が見たい。

 

 だけど、ここでこの子(アンジュちゃん)を見なかったことにして、それで何がハッピーエンドだというのだろうか。

 

 

「確かに私は一度逃げた。ええ、確かに私は引きこもったわ。だけど、これ以上あなたにだけは背負わせたくなかった。だから――――」

 

 

 

 

「いいや。やっぱり俺がしないとだ」

 

「―――え?」

 

 彼女の言葉を遮るように、俺は言う。

 

 彼女を捕まえているのを止めて、彼女の身体をクルリと回し向かい合う。

 そうすれば、泣きはらした顔の彼女の眼を見ることができた。

 悲しくて泣いてる。

 それは声を聴いただけでも分かっていたが、やっぱりこんなのじゃあ駄目だ。

 

「やっぱり俺の願いは今も変わらずハッピーエンドだ。その為にも、アンジュちゃんにこんな顔をさせたままじゃ達成できない」

 

「でも私は・・・・・・」

 

 言い淀みながらもまだ、まるで自分に救われる価値は無いとでもいうような彼女に、俺はニヤッと笑って返す。

 

「俺はバーサーカーだ。そんなの知ったこっちゃないね」

 

「何よ、それ」

 

「バーサーカーは狂ってるもんだ。俺はハッピーエンドのためならなんだってするのさ」

 

「矛盾しているわ」

 

「うぃ。でも、矛盾は俺の専売特許らしいぜ?」

 

 俺の返しに一瞬キョトンとするアンジュちゃん。

 しかし、次の瞬間には涙を流しながらも笑みを浮かべてくれた。

 

「ふふ、何よそれ。救い狂う? どこぞの鉄の看護師じゃあるまいし、何なのよ、それは」

 

 可笑しくて可笑しくて、つい笑ってしまう。

 そんな自然な笑みだ。 

 なんだろうか、こんな彼女をずっと見たかった気がした。

 

 とはいえ、いつまでもこのままで居る訳にはいかない。

 この瞬間を笑わせることができても、ここだけで終わってはハッピーエンドじゃない。

 それに、皆で笑ってこそハッピーエンドってものだろう。

 

 

 

 

 だから―――、

 

 

 

 

 

「―――アンジュちゃん、聖杯の泥の残りを渡してほしい」

 

「それは・・・・・・」

 

 俺の言葉に目を伏せるアンジュちゃん。 

 まだ踏ん切りは付かないらしい。

 とはいえそれで付くのならば、ここまでの事はしないだろう。

 でも俺も、ここで引き下がる訳にはいかない。

 

「心配やら何やら、俺に対してアンジュちゃんが持っているのは分かった。でもだからこそ、俺がしないとだ。じゃないと、俺の願いが叶えられないじゃないか」

 

「その言い方は、卑怯だわ」

 

「卑怯で結構。だってバーサーカーだもの」

 

「狂戦士のクラスは別に言い訳には使えないと思うのだけれど?」

 

「じゃあケモだからってことで」

 

 どうあっても俺が引かないと分かり、アンジュちゃんが嘆息する。

 それを見て、俺はつい笑ってしまう。

 

「あなたにとって悪意は誰よりも効いてしまうのよ?」

 

 思いを力に変えてしまう俺の力では確かにそうかもしれない。

 

「もしあなたが失敗すれば、この世界どころではない崩壊が起きるわ」

 

 それは大変だ。

 

「もしあなたが染まれば、人類悪になってしまうわ」

 

 それは勘弁してほしいな。

 

 でも、そうはさせない。

 俺は最初っから救うと決めていたんだから。

 

「・・・・・・はぁ、やっぱりあなたは頑固ね」

 

「だってバーサーカーだし」

 

「それはもう良いわよ。でも、本当に覚悟してよね。今のあなたでは本当に五分なんだから」

 

 フフっと優しく笑うアンジュちゃんに思わず見惚れる。

 その笑顔を見られただけでも、失敗する気なんて更々起きない。

 それに、覚悟を決めた俺の能力は、厄介極まりないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それに、私をその気にさせた責任も取ってもらうんだから」

 

 

 

 

 ・・・・・・え?

 

 何の事を言っているのだろうかと、そう考えた瞬間には目の前一杯にアンジュちゃんの顔があった。

 そして唇にはとても柔らかい感触。

 端的に言って、キス、だった。

 

 気づけば、口の中へと何かが流れ込んできた。

 

 それが何かということに考えが至った瞬間、俺の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どうか、妹をよろしくね』

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?

漸くこれで、Zero編も終幕と相成れそうです。
気付けばこんな時間か、明日がきついやw
でもまぁ、テンション任せについつい指が打つ物だから、結局ここまでやり切ってしまいました。誤字脱字は申し訳ありません。仕事から帰ってきたらまたやります<(_ _)>

さておき、これで第4次聖杯戦争は終わりました。
前回の話でお気に入りがポンポンと減ったりと、ちょっとばかしやっちゃったかなと今更ながら思ったりしたのですが、今話に繋げたくてついついやってしまった感じです。
今話分で埋め合わせが出来ていたら嬉しいな。
そしてコウジュの歪みについての説明、救いたがりな理由もこれで御理解頂けたでしょうか。
コウジュは色んなクラスに当てはまることができるけども、やはり一番該当してしまうのはバーサーカーなクラスというわけです。
自分の理想の為に突き進む。
このあたりはFGOをやっていて更に思った部分ですが、やはりコウジュにはバーサーカーのクラスしかないかなと思ったわけです。
ほんと、どこぞのクリミアの天使ではありませんが、救い狂うといった感じでしょうか。
ま、まぁ、あくまでもコウジュは当て嵌まるというだけで、常に狂化している訳ではないので限りなくアウトに近いセーフだとは思いますが・・・・・・。

というわけで、次がZero編のエピローグですね。
いやぁ、長らくお待たせしました。
そして最後もしばしお待たせしてしまうやも。
でも必ず終わらせます!
なのでもう少し、おつきあいください!!
ではでは!!




P.S.
FGOではまた新たに凄い鯖が現れましたね。
あの絵はマズいですよアップルさん!
ただ、性能がひどいとどうやら言われている様子。
まぁ私はそんなの関係なしに強化しますが!!
だって美人さんですよ!?
やるしかないじゃない(使命感
なので奇奇神酒をもっとください!!!


P.S.2
PSO2ではヒーローという上級クラスが追加されるとか!
いやぁスタイリッシュなアクションだし楽しみです。
早く使いたいですね!!!



P.S.3
遅れてしまっている感想の返信等は、改めてまた書かせて頂きます。
申し訳ありません<(_ _)>

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