テンプレ…まじで?(リメイクしてみた) ※現在このすば!編    作:onekou

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どうもonekouでございます。

漸く終点へと辿り着きました。
締めとしてはアレですが、このSSらしいなと思って頂ければと思っています。


『stage61:不明なユニットが接続されました―――』

 

 

 

 とある少女が、小さな寒村に居た。

 

 その少女はとても美しかった。

 

 貧しい村に在り、栄養も十分では無い為成長も存分には出来ない環境であっても、その美しさは際立っていた。

 

 確かに、指や肌は過酷な環境により擦り切れていた。毎日肌を洗うこともできない為に薄汚れていた。靴すら無いこの村では、足などボロボロでも仕方が無い。

 

 けれども、少女だけは神に愛されたかのように美しかった。

 

 そして少女は、誰からも愛されていた。

 

 両親は死んでもう居ない。

 

 彼女を生かすために身を粉の様にして働き続け、そしていつしか片方が死に、気付けばもう片方も死んでいた。

 

 しかし彼女はそれでも生き続ける。彼女は死ぬことなく、周りに生かされ続ける。

 

 日々の食料にも困るような寒村だ。本来なら餓死者も出れば身売りしなければならない者も出るはずだった。

 

 その少女も、売られてもおかしくなかった。食料不足に死んでもおかしくなかった。

 

 だが、そうはならなかった。

 

 愛されているからだ。村の者すべてから。

 

 村人は何よりも彼女を優先した。

 

 食料も少女の為に。

 

 暖を取る為の薪も彼女に。

 

 彼女の代りに自身の命すら村人は差し出す。

 

 事ここに来て、彼女は周囲の歪さに気付いた。

 

 気付けば村は彼女を中心に回っている。彼女を守るために村がある。人が居る。彼女の為に、人が死ぬ。

 

 幸いなのは、彼女が善なる性格をしていたことだろう。御人好しと言っても良い。

 

 村の在り方をおかしく感じた少女は、すぐに村人へと告げた。そんな事はしなくていいと。

 

 確かに少女は愛情を欲していた。両親を失ってからは特にそれが顕著だ。村人から優しくされてはいたが、やはり寂しさは生まれる。だからこそ“愛情”が欲しかった。

 

 しかし今の村人たちは隷属していると言っても良かった。

 

 当然、少女の願いは聞き届けられた。それが少女の願いだから、と。

 

 

 それからは、誰も少女の為に死のうとはしなくなった。

 

 だが、犠牲無くして生きられるほど、生易しい環境ではない。

 

 村人は考えた。どうすれば我々が死なずに少女を生かすことができるだろうか、と。

 

 作物はもう無い。山の恵みにも限りがある。少女からは死ぬなと言われた。

 

 村人は考える。考えて考えて、少女と村人達自身も生き残る術を考える。

 

 そして、答えは出た。

 

 そうか、周りから奪えば良い。ここに無いのならば、他から持ってくれば良い。

 

 彼らが行きついた答えが、それだった。

 

 

 少女は喜んだ。誰も死なず、誰も飢えない。村人が出稼ぎ(・・・)によって得てくる食料や物によって村はどんどんと活気を取り戻していく。

 

 だがそれは、仮初のものでしかない。少女の知らぬ裏では何人もの犠牲者が出ており、恨み辛みは積もりに積もる。

 

 終わりが来るのは、当然であった。

 

 村人が略奪を行う際は全てを奪い全てを殺した。だから噂が広がるのに時間が掛かった。しかしそれも、完全ではない。いつしか噂は広がり、少女の村は全てを敵に回した。

 

 最後はあっけないものであった。

 

 村人は狂人のごとく、恐れを知らずに“少女”の敵を屠る。だが所詮は村人だ。数の暴力には屈するしかない。

 

 気づけば、少女の眼下で村が燃えていた。あまりにも呆気なく死に絶え火に包まれた村に、涙すら忘れて呆然とするしかなかった。

 

 少女は考える。何故こんなことに。何がいけなかったのか。何がおかしかったのか。

 

 燃える村を見ながら、少女を逃がすために盾となった村人や、襲ってきた側の筈なのに少女を逃がそうとする人々を思い出しながら、恐怖に怯え言われるがままに逃げてしまった自分を悔いながら、少女は考えた。

 

 考えて、考えて、村が燃え尽きるまで考えて――――、

 

 

 

 ―――ああ、おかしいのは自分なのだ。

 

 

 

 そう、行き着いた。全ては少女を中心に狂っていた。少女が居るから狂っていたのだ。

 

 それは、少女が無意識に考えないようにしてきたことだった。

 

 少女は愛情が欲しかった。両親が死んでからはそれが更に増した。だから、村人や両親がくれたものが、“愛情”以外の何かによって齎されたものだとは考えたくなかったのだ。

 

 だがもう気付いた。気づいてしまった。見ないふりをしてきたその能力を、認識した。

 

 それから少女は、当て所もなく歩いた。

 

 死のうとも考えた。しかし少女はそれが“逃げ”でしかないことにも気づいていた。

 

 だから少女が求めるのは“贖罪”だ。

 

 とはいえ、所詮は少女も特異な能力を持つだけの小娘でしかない。

 

 伝手も無い。道具も無い。考え付くだけの頭脳も無い。

 

 故に少女は、理由も無く歩く事しかできなかった。

 

 

 ボロボロでありながらも見目麗しい少女は、行く先々で歓待を受けた。

 

 少女が近づけば、皆が少女を宝物のように扱う。

 

 何も持たないボロボロな少女が、略奪村の噂が聞こえる今日において怪しくない筈がないのに、少女が少し近づいて話すだけで従順な信徒の様になってしまう。

 

 少女は、近づいた人々がそうなる度に逃げた。逃げるしかなかった。

 

 『おかしくならないでください』『言う事を聞く必要は無いです』『自分を優先してください』、そのどれもが“命令”となってしまう。一見元通りの様に見えるそれも、所詮はまやかしでしかない。

 

 そんな逃げ続ける少女の元へ、とある存在が現れた。

 

 ソレは人間では無かった。しかしソレは話をすることができた。

 

 ソレは自身を天狐と呼んだ。天狐たる自身には少女の力は及ばない。だから安心するが良いとその狐は告げた。

 

 少女は天狐なる存在を知らなかった。しかし実際に目の前に居る狐は唯の狐ではないのは明らかだ。

 

 人の言葉を話し、牛程の大きさを持ち、尾は9本もあった。何よりも、その美しい金糸の如く輝く金毛。それら全てが少女にその狐が天狐という存在であると印象付けた。 

 

 少女は思わず涙した。自身に近づき言葉を交わしても“オカシク”ならない存在が初めて現れたのだ。

 

 そんな少女に、その九尾狐は言う。

 

 『妾がお前を助けよう。だからお前も妾を助けておくれ』

 

 少女は、その言葉にすぐさま頷いた。

 

 ああ、これで罪滅ぼしが出来る。この忌まわしい力を誰かの為に使うことが出来る。

 

 少女はまたしても涙する。狐もまた、そんな少女を慰めた。

 

 しかしこれは、少女の絶望の始まりにしかすぎなかった。

 

 

 狐は少女に言う。国の上層部に潜り込み、少女の能力を使えば国から戦が無くなると。

 

 少女は悩んだ。そんなことをして良いのかと。今まで異能を使って幾つもの村をおかしくしてしまった。それをどうにかする為には少女が離れるしかなかった。なのに自ら人の集う場所に言って良いのかと、悩んだ。

 

 狐が言う。少女さえ我慢すれば皆は争わなくなり、手を取り合い、平和で理想的な世界が訪れると。

 

 少女はそれを信じた。だから、狐の導くままに自身の居る国の王に取り入り、養子となった。

 

 そして狐の言うままにすると、少女の周りから争いは消え国は栄えた。

 

 確かに少女の周りは依然と同じく少女の命令を聞くがままに動く人間ばかりになってしまった。しかしこれは贖罪だ。罪滅ぼしだ。少女自身の感情は関係ない。忌むべき能力ではあるが、それで皆が幸せになるのならばそれに越したことはない。

 

 それからも、狐の言うままに少女が動くと、笑みを浮かべる人間が増えた。

 

 次に狐は言った。さらに上の人間へと取り入り、もっと人々を幸せにしよう。

 

 少女は当然頷いた。

 

 しかし、今度はそう上手くいかなかった。

 

 次に取り入ろうとしたのは強国の王であったのだが、中々に聡明で自身を守る事にも長けていた。

 

 どうしよう、と少女は考える。今までは狐の言う通りにしていれば全てが順調に行っていた。あと少しで終わると言うのに、ここへ来ての関門だ。

 

 しかし所詮は村娘でしかない。いくら考えても聡明な王へ取入る方法など思いつく訳も無かった。

 

 少女は狐に問うた。どうにか出来ないか、と。

 

 狐は言う。あまり勧められる方法ではないが、策はあると。

 

 その策とは、狐が少女の身体を借りることだった。

 

 少女は、狐の事を信じきっていた。だから、頷いた。

 

 斯くして王は落ちた。

 

 そしてそれからが、惨劇の始まりだった。

 

 

 少女は、王へ取入ってからも幾度となく狐へと身体を貸していた。

 

 学の無い少女よりも、恐るべき頭脳を持つ狐の方が能力を巧みに扱い、笑顔を浮かべる者が多かったからだ。

 

 そんな日が続いたある時、少女は身体の異変に気付いた。

 

 どうも体が思う様に動かない時があるのだ。

 

 初めは疲れからだと思った。ここ数年は自身の身体なぞ気にも留めず、働きづめだったからだ。後悔は無いが、罪滅ぼしがもう出来なくなるのかもしれないと考えると、言い表しようのない感覚が生まれた。

 

 しかし、それはすぐに違うのだと分かった。

 

 よくよく考えれば、少女はここ数年で年を取っていなかった。病気もせず、衰えもせず、食事も睡眠も二の次であったにも拘らず、少女の身体は健康で若々しいままだった。

 

 ならば何故? 少女は少し考えるも、どうせ分からないと諦めた。

 

 そして、狐へと問うた。

 

 狐は言う。時は満ちた。

 

 満ちた? 少女は疑問に思うも、狐を信じきっている少女は純粋に狐に再度問うた。

 

 『何が満ちたの?』そう口にする少女に、狐は嗤った。

 

 

 

 

 

 それから少女は人を殺した。自身の手で、命じた人間が、道具を使って、動物を操って、殺した。

 

 殺して殺して殺して、外で嗤いながら、中で泣き続けた。

 

 少女は、身体を狐に何時しか奪われていたのだ。

 

 しかし少女の魂はその身体の中にあり、狐が行う所業の全てをその目に焼き付けていく。

 

 狐は嗤う。少女も哂う。その周囲の人間も、笑いに満ちる。

 

 だが、それに比して殺される人間も多かった。

 

 聡明であった王も、少女(狐)の言うがままに人を殺していく。民を殺していく。他国を侵略する。

 

 理由は簡単だ。少女が喜ぶから。

 

 だが、その身体の本当の主は、中でいつまでも泣いていた。

 

 少女は狐に問う。どうしてこんなことをするんだ、と。

 

 狐は答える。面白いだろう? 醜いだろう? 笑えるだろう? 所詮人間はこんなものだ、と。

 

 少女は違うと言う。

 

 狐は違わないと言う。

 

 狐は言いながら、次々と人々を遊びながら殺していく。

 

 少女は慟哭した。動かすことの叶わない身体の中で、少女は嘆き続ける。

 

 どうしてこんなことに、何がいけなかったのか、そんな言葉が少女の中でぐるぐると蠢き続ける。

 

 そんな少女を見て、狐は嗤う。

 

 狐にとって、少女の苦しみも、人々の恨みも、欲望のままに哂う人々も糧でしかなかった。神性を持つ妖狐たる九尾狐にとって、負の感情を向けられることは悦びでしかなかった。所詮、餌でしかなかった。

 

 そして少女は、嘆き苦しみ、怨嗟の声を聞き続け、いつしか負の感情を吐き出すだけの存在になった。

 

 対して、負の感情を得続けた妖狐はどんどんとその力を増していった。少女に向けられる悪感情を利用し、力を付けては人々で遊び、殺し、利用し、さらに力を付けていった。

 

 そうして、『妲己』は出来上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから、少女・・・・・・『蘇妲己』は、恨み続ける。自身を乗っ取った九尾狐を。それに騙され、何万もの人を殺めてしまった自分を。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・なるほどな、やっぱりあんたが復讐したかったのは『妲己』そのものだったわけだ」

 

 妲己を喰らったコウジュは、そう呟いた。

 

 妲己の正体は、九尾狐に乗っ取られる前の村娘だったのだ。

 それにコウジュは寸前で気づいた。

 

 考えてみればおかしなことばかりなのだ。

 まず、“復讐者(アヴェンジャー)”であるというのに、あまりにも人を殺さなさ過ぎた。

 徹頭徹尾、妲己は他者を弄ぶに留めていた。

 伝承に残る妲己は人を弄び殺すことにすら快楽得ていたというのにだ。

 とはいえ伝承とは伝わる途中で変わる物も多いうえに、読解者による主観も入るために全てがそのまま正しいとは限らない。何年もしてから間違いであったと分かることもあれば違う考察が上げられるのも少なくは無い。

 しかし、召喚された時から負の感情を集める様な行動ばかりであったのに、人の命に関わることはほとんど無かった。

 ただ、一度だけ死者が出た。

 それは、蟲獣が死んだ際に噴き出た体液に人が毒され死んだ時。

 妲己はこれを知らなかったのだ。

 故に死者を出してしまった。

 実際、それ以降はコウジュが体液の被害者が出ないように出来る程度でしか蟲獣を操っていなかったし、死者も出ていない。

 更に言えば、この世界の妲己を主軸にしてFate世界の妲己が肉付けされた彼女は、コウジュと話している間に四尾にまでなっていた。

 それなのに妲己は妖術を使わなかった。

 この世界に存在しないわけではないのは既に分かっている。術の元であるマナが希薄なのだから、燃料の無い機械と一緒で動かないのは自明の理だ。

 しかし妲己は、燃料(マナ)を得たというのに使うそぶりが無かった。

 最後の方では使っていたのに、あくまでも『魅了』のみに拘っていた。

 それは何故か?

 答えは簡単で、術式を汲むだけの能力を元々持っていないから。コウジュと敵対していたあの妲己の主軸となっていたのは、異能を持っていただけの村娘でしかなかったからなのだ。

 一応、妲己は九尾狐と居るうちにマナをある程度は扱えるようになっていた。

 しかし術式を組む知識は九尾狐の中にしかなかった。

 だから、そもそも術式が組み込まれている鏡は使えても、術式を組むことが出来ない。

 最後に起こした風も、力任せの物でしかなかったのだ。

 『魅了』に関しては元々妲己が持つ異能だった。

 だからこそそこにすべての力を注ぐしかなかった。

 

 そんな彼女が復讐者(アヴェンジャー)として憎む相手、それは『妲己』そのものに他ならない。

 だから、彼女はそもそも人を憎んではいなかった。

 端から人を殺し尽くす気など無かったのだ。

 そして、彼女が行っていた復讐は、『妲己』という存在を憎しみの象徴とすること。

 当然ながら、一番彼女が復讐したい相手である九尾狐は死している。

 その代わりとして彼女が望んだのが、『妲己』そのものを貶めることだったのだ。

 現代においては美貌の象徴や被害者説の様な見解も出てきているが、それも妲己は許せなかった。

 他者がそれを聞けば、無意味だ無駄だと言うものも居るかもしれない。

 しかし彼女は復讐者(アヴェンジャー)

 そうするだけの理由があった。

 

 照魔鏡に封じ込められていた九尾狐の抜け殻である妲己、彼女は皮肉にも九尾狐が憑いていた影響で人外の力をその身に宿し続けていた所為でその身体に不死にも近い生命力を得てしまった。

 だから照魔鏡の中で何千年と存在し続けることが出来てしまった。

 とは言えその精神性は村娘のそれだ。

 如何に身体が不死身に近い存在となってしまったといっても、その精神が耐え続けられる筈もない。

 そんな彼女を支え続けたのが、妲己への復讐心。

 それだけが彼女の支えであり、ついにはそれだけが残ってしまった。

 その節々には元の彼女の片鱗は見えていた。

 しかし、結局は復讐者でしか在れなかった彼女の唯一の望みは、『妲己』への復讐でしかないのだ。

 これは彼女なりの自虐でもあり贖罪でもあり嘆きでもあったのだろう。

 だからこそ余計に止められなかった。

 

 そして、そんな彼女だからこそ、死ぬこと自体は怖くないし、首を斬られる程度は怖くもなんともない。

 故に妲己はコウジュの攻撃も蹂躙も怖くは無い。

 むしろ、コウジュが強ければ強い程、妲己は力を発揮でき、その上で叩き潰されれば『妲己』への不快感は強く象られる。

 故に妲己はコウジュを前にして笑った。

 しかも、自身を殺そうとしたコウジュは、妲己が否が応にも触れ続けていた九尾狐と似た存在だ。

 性質としては真逆な上に実質的には違ったのだが、それでも『神性を得た獣に意地悪が出来てその上で殺して貰えるなんて』と悦ぶしかなかった。

 

 それらが合わさり、コウジュからすれば歪で、純粋で、得も言われぬ恐れを感じてしまった。

 

 

「まったく、厄介なものを背負っちまったなぁ。後悔はしないけどさ」

 

 そうコウジュは得た情報を読み取った後に締め括った。

 

 コウジュが今していたのは、何時しか成長していた“獣の本能”の応用だ。

 喰らった者の本質さえも喰らうチート。

 そのルールを少しばかり弄って、喰らった妲己から少しばかり情報を抜き取ったのだ。

 元々喰らった全てを自身の糧とする能力の様ではあったが、コウジュはそれを使いきれてはいなかった。

 しかし今のコウジュは全てを100%どころか好きなように弄ることが(ルール変更)できる。 

 だから、知りたかったことを妲己から抜き取ったのだ。

 一応コウジュもプライバシーを覗く行為であるから全てを覗いたわけではないが、それでもこれだけ翻弄されたんだからこれくらい許してくれと開き直った。

 

 そんなことをしていたコウジュの元へ、誰かが駆け寄ってきた。

 色々と仕出かしたし姿もあれなので誰も今まで近寄ってこなかったのに一体誰が近づいてきたんだろう、そんなことをコウジュは一瞬思うも、拡大した力の所為もあってすぐに分かった。

 だから、笑みを浮かべながらその人を迎えた。

 

「やぁやぁ先輩、大丈夫だったかな? うん大丈夫そうだ」

 

「何だお前成長期でも来たのか」

 

「来て最初の一言がソレ!?」

 

 コウジュへと駆け寄ってきた伊丹の言葉に、ついいつも通りに返してしまうコウジュ。

 そんなコウジュを見て、伊丹はにっと笑った。

 コウジュはその伊丹の仕草から、気遣われたのだと気づいて苦笑する。

 

「大丈夫っすよ。こんな姿だけど、俺は俺です」

 

「そっか、なら良い」

 

 そう言ってコウジュの頭へとポンと手を置く伊丹。

 いつもと違って伊丹との身長差が少なくなったため、コウジュからすれば不思議な感覚だ。

 そんなことを思いながら撫でられていると、目線が下がったことである事に気付いた。

 

「先輩、余程急いできてくれたんですね」

 

「え、あ、いやそんなことないよ? 一応は自衛隊員だから色々と裏との連絡もしなきゃだったし・・・・・・」

 

「先輩のそこ、開いてますよ?」

 

「何処が・・・・・・って、げ」

 

 コウジュが笑いながら指さす先は伊丹の社会の窓。所謂ズボンのチャックだ。

 気づいた伊丹は慌ててそれを直す。 

 そんな伊丹に、コウジュはさらに笑ってしまう。

 

「うんうん、これぞ日常って感じっすねぇ。やっぱり俺は何の変哲も無い日常が良いや」

 

「いきなり何を境地に辿りついた人みたいなこと言ってんだ」

 

「いやいや、これでも今の俺はある意味境地に―――」

 

 コウジュと伊丹が話していると、周囲の喧騒が一気に大きくなった。

 異質な力に触れることの無かった人々が、今もまさにコウジュから放たれている圧力に及び腰となっていたが伊丹との掛け合いで緊張感が解けたのだ。

 

 コウジュ(と伊丹)へと殺到する数千もの人々。

 近寄る理由は様々だが、流石にコウジュも疲れているので今は勘弁してほしかった。

 その為、コウジュは伊丹を抱えて上へと軽く飛ぶ。

 そしてそのまま、空中へと降り立った。

 

「うぉぉ!? 俺今空中に立ってるよ!!?」

 

「はいはい子どもじゃないんだから騒がないでくださいっすよ。ただマナを固めて足場にしてるだけじゃないですか」

 

「感性がおかしいからな!? いや慣性もおかしいけど!!」

 

 真下に集る人々を苦笑と共にコウジュは見ながら軽く伊丹へと返す。

 そんなコウジュへと伊丹はツッコミを入れるが、コウジュは何をそんなに驚くのかと首を傾げるばかりだった。

 

「さておき、まだ事後処理が残っているので離れて欲しいんですけどどうしたもんかねぇ。どっかに皆飛ばそうかな」

 

「何を物騒なこと言ってるのお前!? って待て、事後処理・・・・・・?」

 

 周囲の喧騒をさておき、コウジュが突然そんなことを言いだした。

 その為伊丹は思わずギョッとするが、それよりも後者が引っかかった。

 

 伊丹は、先程コウジュが言い当てたように意識が戻るなり全裸の自分に驚き、そしてすぐに傍に在った服を慌てて着て、そのままコウジュの元へと走ってきた。

 一応道中にアレコレ確認はしたが、それは唯一残っていた無線相手である上層部にのみである。

 何せ、一番気になったコウジュに安否を確認しようにも繋がらないのだ。

 それも当然で、コウジュが神化した時に服と一緒に無線も上書きされたために消え去っていた。

 その為、伊丹と同じく妲己の魅了範囲に居たために現状把握が出来ていなかった上層部(運営)に幾つか確認しつつ、むしろ確認されつつコウジュの元へ向かってきたところだった。

 だから、一応はその場の無事を確認し終えていた伊丹ではあるが、何が在ったかまでは知らないのだ。

 というか、終わったと思ったからそのまま近づいてきたのだ。

 なのに、事後処理が残っているという。

 その言葉に、伊丹は嫌な予感が走った。

 

「アレっすよアレ」

 

 コウジュがそう言いながら指さす方向。

 そこにはボロボロになったドームの下にあるゲートが見える。

 そこへと伊丹が目をやると、そこにはウゾウゾと何かが動くのが見えた。

 少しばかり遠い位置である為、目を凝らして見る伊丹。

 そしてすぐに、後悔した。

 

「うっわきっも!? なにアレ!?」

 

「前にゲート開ける実験で出てきた触手、覚えてます?」

 

「お、おう・・・・・・」

 

「アレの親戚みたいなものです。人喰うし毒持ってるみたいっすよ」

 

「何でそんなに落ち着いてんの!?」

 

 何でもない様に言うコウジュに伊丹が詰め寄る。

 もう既に伊丹の頭の中からは自身が空中に立っていることなんてのは消え去っていた。

 そんな事よりも目の前の脅威だ。

 ゲートや周囲の建物からすれば小さく、距離も遠いためにわさわさと何かが蠢きながら近寄ってくるようにしか見えないが、よく見れば大型犬ほどもある虫の様な何かが大群で近づいてきているのはすぐに見て取れた。

 しかも、コウジュが言うには人を喰い毒を持つという。

 焦るなという方が無理だろう。

 なにせ、 伊丹が見る限り今は飛行タイプのものはいないが地を這う蟲獣の数は数えるのも馬鹿らしいほどだ。

 そしてその目的地は伊丹が居る方向で、そしてその下には絶賛民間人が大勢押し寄せている。

 マズいなんてものじゃなかった。

 

 そして、何故今更蟲獣が再び侵攻を開始したかというと、今までは妲己が予想以上の世界に繋がっちゃったために何とか能力を駆使してその被害を調整していたのだが、その妲己が居なくなったために食欲に従って蟲共が餌のある方へとやってきたのだ。

 

「安心してくださいっす。俺が居ますから」

 

 そんな伊丹に、コウジュは慈母の様な優しい笑みを向ける。

 見る者を落ち着かせる温かい笑みだ。

 

「せやな」

 

「おいこら何で関西弁になってるんさ」

 

 とはいえ、伊丹からすればコウジュがそういう笑みを浮かべる時は大体何かをやらかす時だったので思わず言語圏を間違えてしまった。

 いや、確かに伊丹が知る限り何だかんだとコウジュは良い方向へと持っていく。

 しかしそれは、いつも結果的にというだけだったのだ。

 

「まぁ良いっすよ。存分に見るが良いっす」

 

 そい言いながら、コウジュは伊丹よりも前へと踏み出した。

 そこは変わらず空中だ。

 しかし、その一歩はしっかりと、空を踏みしめていた。

 

 そんな風にコウジュの雰囲気が変わったことに、今更ながら下に居る観衆も気付いた。

 そして、コウジュが歩む方向から、(おぞ)ましい集団が近づいているのに漸く気付いた。

 今まではコウジュに向いていた意識が、一気に現実へと戻ってくる。

 

 一人、また一人と逃げ出した。

 その中には、コウジュによって生き返る事が出来た者も居る。

 死した瞬間を覚えているのだ。

 その原因となった蟲獣から、一目散に逃げだすのは当然だ。

 

 それを見てコウジュは丁度良いと思った。

 今から行うことに場所が欲しかったところだ。

 空中でも良かったが、ストレス発散も兼ねて景気良く行きたかったところなのだ。

 

「サモン、ヤオロズ様!!」

 

 適当なタイミングで消しておいた双剣を再び呼び出し、そして聖剣の方を上へと掲げながらそう口にする。

 すると、コウジュの足元、その地面からいつもの泥が溢れ出るように飛び出し、そして立体を作っていく。

 作りだされたのは一匹の神獣、星霊ヤオロズだ。

 社を背負い、仮面を被り、炎をそのまま帯にしたような衣を漂わせ、荘厳な雰囲気を纏った巨大な神獣。

 それがヤオロズだ。

 幾度か生み出したことがあるコウジュだったが、今のコウジュの力は常のそれとは規格が違う。

 ただのガワだけでしかなかったヤオロズに、今のコウジュにも似た神性さが確かに漂っていた。

 

 そんなヤオロズは、その四肢がゆっくりと地面を踏みしめるように軽く開いて着いた。

 そして、漂っていた帯を地面へと突きさし、その口腔を蟲獣の方へと開いた。

 

「待て後輩。ちょっと待て。お前さん、一体何をする気なんだ?」

 

「ほらあれっすよ。やっぱ砲撃ぶちかますなら砲台が無いと締まらないじゃないですか?」

 

「待て待て待て、お前さんは何を言ってるんだ?」

 

「だからぶちかますんですよ、あいつらに」

 

「何を?」

 

「砲撃を」

 

 伊丹はその言葉を聞き、漸く先程の予感が正しかったのだと気づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「咎人達に、滅びの光を」

 

 ドクンと、空間が脈動したように伊丹は肌で感じた。

 それと同時、その巨大な咢を開いていた巨獣の前に、同じく巨大な魔法陣の様な物が現れた。

 

「おいおいおい、これマジでやばい気がするんだが」

 

 伊丹が見る前で、コウジュの下に居る巨獣が広げる口の前に光が集まる。

 それは桜色をしており、一見美しくすらあった。

 しかし、肌で感じるその圧迫感が、それを打ち消していた。

 

 集う光は球形となり、そこへ更に光が集まるために光球はどんどん大きくなっていく。

 

「星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ」

 

 コウジュが言葉を続ける。

 光球は気づけば、爆縮しているかのように、大きさは変わらないがその光や圧迫感だけを増していく。

 

 ふと伊丹が蟲獣の方へと目をやった。

 アニメでもないのに、やけに蟲獣の進行が遅い事に気付いたのだ。

 

 蟲獣は逃走していた。

 

「貫け、閃光」

 

 しかしコウジュの詠唱は続いていた。

 

「後輩! 蟲はもう逃げてるから! もう大丈夫だから!! それぶっぱしたら絶対やばいから!!!!」

 

 慌てて伊丹がコウジュを止めようとする。

 明らかに目の前に出来ている光球を解放すればやばい事になるのは分かる。

 幾つものビル群を消し去りながらもその爆発を広げ続ける桜色の奔流を幻視する程だ。

 

 そんな伊丹に、コウジュは少しだけ振り向いて答える。

 

「大丈夫っすよ先輩」

 

「何が!?」

 

「今の俺は何でもできるんです。だから、前は出来なかったこれが出来る」

 

「だから何が!?」

 

「知らないんですか? だって―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――非殺傷設定だから(・・・・・・・・)PJ(ペタジュール)位の威力があるかもしれないですけど、なんか大丈夫なんですよ」

 

 

 そう言いながら、コウジュは良い笑みを浮かべて前へと向き直った。

 

 

 

 

 

「スタァァライトオオオオオオオオブレイカアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「ね、ねぇイリヤぁ、何だかゲートの向こうからもの凄い圧力を感じるのだけれどぉ」

 

「そういえばそうね。これ、なんだろ・・・・・・・・・って全員退避いぃぃ!!! これやばいやつだわ!! あの子のアレ(・・)じゃない!? というか早くゲート壊してぇ!!!!」

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?
 
感想でも頂いていたのですが、ゼロシフト擬きをしたのならばやはり浪漫砲もということで、空間圧縮破砕砲(ベクターキャノン)ではないですがブッパさせて頂きました。
一応、キャノンモードに移行して、エネルギーライン直結(?)して、本体固定して、エネルギーチャージして、ライフリングじゃないけど光球圧縮して、と全シークエンスこなしたからこれで大丈夫ですよね? 空間じゃなくて星破壊するらしいですけど、非殺傷設定って言うことにしてるから大丈夫ですよ。大丈夫大丈夫、誰も傷付かない(目反らし


さておき、最初の方に入れた妲己についてですが、結構な方がお気づきになられていたようで、伏線の張り方について改めて考えさせられましたw
そう、彼女は『妲己』の元となったただの少女だったのです。
本来の歴史からは捏造した部分も多いですが、ある程度は沿わせてみました。
そんな妲己ちゃんが本当に復讐したかった相手は『妲己』だったというわけです。
ちょっと流れが無茶でしたかね・・・・・・?
でも、ただの巨悪ではなく、歪な敵でありコウジュが自身を考え直す理由となる存在ってのを考えていくと、気づけばこんな感じになってました。
盛り過ぎでごめんなさい<(_ _)>

とりあえず、これで妲己編終了となります。
あ、でも希望が多かったら掲示板編も少しだけでも入れみましょうかね・・・?
せっかく色々全国中継されてたわけだし。
うーん、頂いた意見次第にしますw


さてさて、それでは皆様ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
これでゲート編も一段落です。
あとは残しておいた伏線を回収するだけですね。
あっち側とか・・・(目反らし

それでは皆様また次話で!!!


P.S.
そういえば、FGOでプリヤコラボしてますが皆さまいかがでしたか?
私は多大な犠牲を払って何とかイリヤ召喚に成功しました。
暫く質素に生活します。

さておき、クロのボイスは聞きましたか?
あれ、大丈夫なんですかね? 修正とかきませんよね?
完全に歩く18禁なんですが・・・・・・。


P.S.2
そういえば書くのを忘れていました。
最後の方でSLBに関してのセリフでコウジュが言っていた「7PJ(ペタジュール)位の威力」ってのですが、某動画サイトにSLBの威力をざっと換算してみるみたいな動画があるんですね。そこで出てきたのが、爆発半径は389.6mでエネルギーが約6.93PJなんです。
これだけだとイメージ付きにくいですが、関連サイトによると広島型原爆約100個分、現在の戦略核約5.5個分に匹敵、阪神淡路大震災(5.62PJ)ということらしいです。
動画を見た時も驚きましたが、改めて見ても驚きです。
これ、小学生同士の喧嘩で使った技なんですよ・・・・・・?

ま、まぁ、非殺傷設定だから大丈夫ですけどね・・・・・・(あまりの威力に蒸発するビル群を思い出しながら


やはり白い魔王は偉大(グルグル目


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