テンプレ…まじで?(リメイクしてみた) ※現在このすば!編    作:onekou

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どうもonekouでございます!

ついにここまで来れました。
どうぞ!!


『stage60:何度も出てきて恥ずかしくないんですか?』

「何なのかしらねぇ、こいつら・・・・・・」

 

「まったくよもぅ! 弱いくせにぃ数だけは多いんだからぁ!!」

 

 アルヌス駐屯地に、斧閃と剣閃の雨が降る。

 剣に関しては、文字通りに雨の様に降っている(・・・・・)

 その相手は全て、蟲だ。

 

「それにしてもぉ、その魔法凄いのねぇ」

 

「うーんと、私の世界では魔法じゃなくて魔術なのだけど、まぁいっか。これは鋼糸を編んで剣にして、それを飛ばしてるだけの単純な物よ。髪の毛でもできるけど、使い過ぎると無くなっちゃうから大変だわ」

 

「あー、確かに大変そぉねぇ」

 

「お二人さん!? 何のんびり話してるっすか!!? 来てる来てるぅ!!!!」

 

 のんびりと話をしながらも蟲の処理を続けるのはアーチャー・・・・・・イリヤと、ロゥリィだ。

 そんな二人へ、自らも蟲の処理をしながらもツッコミを入れたのは、第三偵察隊の一人である倉田三等陸曹、主に高機の運転手を務める男だ。

 彼は、とある任務を帯びてゲートへと二人を先導する役目に在った。

 本来ならばイリヤとロゥリィの二人で突破するはずだったが、連絡係として偶々近くに居た彼に白羽の矢が立ったのだ。

 狭間達は他にも二人へ付けたがったが、当の本人達が嫌がったのだ。動きが遅くなると。

 そう言われてしまえばどうしようもなく、イリヤが選び出した倉田を伴いゲートへと向かっているのが現状であった。

 

「「うるさい」」

 

「うひぃ!?」

 

 しかし、そんな彼は二人に比べて戦力的に劣っているためについていくので必死だ。

 今も、彼のすぐ横を二つの影が飛んでいき、彼は思わず悲鳴を上げた。

 恐る恐る彼が後ろを振り向けば、そこには剣と斧に潰された蟲が2匹。

 二人に訴えかけている間に背後から這い寄られていたようだ。

 それが分かりガクブルと震えていると、斧を回収に来たロゥリィが倉田へと話しかけた。

 

「それにしてもぉ、本当に壊しちゃって良いのぉ?」

 

「どうなんでしょう。自分には陸将の判断理由は分からないっす。でも、やり手と言われる陸将ですからそれが現状の最善と判断したんじゃないっすかね?」

 

 そう、彼女たちの任務はゲートの破壊だ。

 どうにかしてゲートを破壊するために選ばれたのが彼女たちだったのだ。 

 正確には、彼女たちが志願したと言うべきか。

 それなりに強固なゲートを粉砕する為の火力を持ちゲートまで辿り着けるだけの力がある者・・・・・・という事で彼女たちが立候補した。

 そして、事態は急を要するために、すぐさま動き始めた。

 理由や説明を聞いている暇は無かったのだ。

 残る狭間達は、蟲獣の被害が駐屯地より外に行かない様に包囲を敷きつつ、蟲獣の殲滅を行う為や被害状況の把握の為に指揮にあたっている頃だろう。

 

 ちなみに、イリヤが倉田を選んだのにも理由がある。

 何人かいた候補の中で、一番琴線に触れたが故だったりする。

 当の倉田からすれば堪った者じゃないが・・・・・・。

 

「まぁ、あの子が居ればどうにでもできそうだけどぉ・・・・・・」

 

 そう倉田の言葉にロゥリィが答えながら思い浮かべるのは一人の少女だ。白と黒で彩色された、不思議な少女。

 それが分かった倉田も、うんうんと頷く。

 理由は簡単で、今までの経験からだ。 

 その少女が関われば、何だかんだで良い方に転がってきた。

 ならば今回も、そう二人は思ったのだ。

 

「ねぇ、“あの子”ってコウジュのことよね?」

 

「うへぁっ!? ち、近いっす!!」

 

「あら、ごめんなさいね」

 

 話へ加わってきた女性の方、イリヤへと倉田が顔を向ける。

 するとそこにはズイッと顔を寄せてきた美女の顔が在った。

 ケモナーであり、最近ではとある場所でメイドをしているペルシア女史と親密になりつつあるため女性への免疫力が上がってきているとはいえ、10人中10人が美女と言うであろう女性が超至近距離にあったのだ。

 そのため、思わず倉田は後ろへと後退り、尻もちをつく。

 それにイリヤはクスクスと笑みを零しながら、倉田を引っ張り上げた。

 

 引っ張り上げられた倉田は、その握られた手を見ながらさすがはサーヴァントと感心する。

 倉田を引き上げる際、イリヤは片手であった。

 モデル体型であり、比較的高身長であるとはいえイリヤは女性だ。

 同じような身長の倉田を引き上げるにも、そう簡単には普通なら行かない筈である。

 しかしそれが苦でもないかのように、イリヤは簡単に倉田を飛ぱり上げた。

 

「イリ・・・・・・アインツベルンさんは、コウジュちゃんのマスターだったアインツベルンさんなんすよね?」

 

「ええ、そうよ。あ、家名ではなくイリヤで構わないわ」

 

「了解っすイリヤさん。そのイリヤさんがどうしてここに? 英霊として召喚されたってことは座に登録されてるんですか?」

 

「あなた魔術師だったの? あ、でも世界が違うし・・・・・・。まぁその辺りは後で良いかしらね。とりあえず答えだけ言うと違うわ。私はコウジュが持っていた“仮の私”を媒体に召喚された影みたいなものだもの」

 

「あれ、じゃぁサーヴァントじゃないんですか?」

 

「一応サーヴァントよ。私の主は私だけど」

 

 イリヤは言いながら、自身の腕を見せた。

 紅い外套・・・・・・赤原礼装を身に纏う姿は倉田が知る“アーチャー”に似た姿だ。

 当然ながら、倉田が知るアーチャーは原作通りの男のものである。

 しかし、いつしかコウジュから聞いたイリヤについての話を思い出し、まぁコウジュちゃんだしそういうのもありか、とその辺は流す倉田。

 ともかく、その外套から見えた腕には、薄らと浮かび上がる刺青の様な物が見えた。

 令呪だ。

 それは原作知識通りならば(マスター)に無ければならない物。

 マスター自身がサーヴァントとかこれもう訳分かんねぇな、なんて思う倉田。

 

「・・・・・・そんなのありっすか」

 

「有りよ。私が託したい相手は一人だけなんだから」

 

 倉田は思わず言葉を零したが、さも当然の様にそう返されては返す言葉も無い。

 

 そんなイリヤが言いながら思い浮かべたのは、当然と言うべきかコウジュの姿だった。

 

 イリヤは、コウジュとの別れを経て暫く経ったイリヤだ。

 コウジュが違う世界へと渡り、それからも世界中で誰かを助け続けたのが彼女だ。

 そして、知名度・実力共に英霊となるに相応しい素養を持つに至った。

 しかし、イリヤは座に登録されることはない。 

 なぜなら彼女には望むべき願いは無い。

 正確にはもう叶ってしまっている。

 あの時、聖杯を巡る戦いの末に“生きたい”という願いはコウジュが叶え終えてしまっているのだ。

 ただ、敢えて言うならば、最近のイリヤは生活に刺激が欲しかった。

 色々とドンパチから離れられずには居たが、自らの所属する組織の火力は大抵のモノを薙ぎ倒せてしまえる。

 そんな物よりもイリヤが欲しかったのは、嘗て傍に居た少女だ。

 その少女が居るだけで、色んなものが楽しかった。

 とはいえ、イリヤにはコウジュとの約束がある。

 またいつの日か会いに来るから、と、その約束を胸に、日々を過ごしてきた。

 だがそんな日が気づけば数年と経っていた。

 そして最近では、待ち遠しくて待ち遠しくて、思わず八つ当たり気味に紛争地域などを物理的に収めてしまったほどだ。

 

 そんな折、イリヤの元に届いたのは黄金で出来たカードだった。

 それは何処からともなく、気づけば目の前にあった。

 膨大なマナを含み、それなりに戦闘経験を積んだイリヤの警戒を抜けて届いたソレ。

 普通ならば近寄ろうとはしないだろう。

 しかしイリヤは近づいた。

 ソレからは懐かしい感覚がしたのだ。

 繋がりとも言うべきか。

 そう、コウジュとのものだ。

 だからイリヤは、思わずふらふらと近寄りソレを大事に抱え込んだ。

 そして、次の瞬間にはイタリカで召喚されていた。

 

 それが事の顛末だった。

 

「あの子は・・・・・・、コウジュは元気かしら?」

 

「元気も元気、今では世界中の注目の的っすよ! うちの国としては、助けられてばかりで申し訳ない限りっすけどね」

 

「そう・・・・・・」

 

 コウジュが相変わらずなのを聞き、慈母のように優しく微笑んでしまうイリヤ。

 そんな彼女の表情を見て、思わず倉田は顔を反らした。

 俺にはペルシアさんが俺にはペルシアさんがと呪詛の様に呟きながらだ。

 

 そんな倉田など気にも留めず、イリヤはどうやってコウジュに会おうかを考えていた。

 とりあえずは、コウジュと繋がりがありそうなイタリカでの救助&駆除活動に当たっている。

 それはコウジュが身近なものが傷つくのを嫌うから、というのもあるが、イリヤ自身が助けたいと思ったからだ。

 周りが周りだから随分と毒されたと彼女は自称するが、根底にある優しさを出せるに至っただけなのは周りの者皆が気付いている。

 さておき、そんなイリヤは早くこの場所を片づけてコウジュの元へ行きたかった。

 それは、イリヤが召喚される際に植え付けられた知識が元だ。

 

 当然と言えば当然だが、本来ならばあり得ない形でのサーヴァント召喚。

 イリヤが持つ情報から考えれば、コウジュ自体がサーヴァントを召喚できるのは理解できる。

 コウジュはイリヤも知っている通りに聖杯を取り込み、一時的には聖杯でもあった。

 ならばコウジュが聖杯の機能を使えない訳がなく、機能を使う為の魔力も実質的に無尽蔵であるのだからサーヴァント召喚機能だけを思う様に使うことは理論的には可能だった。

 ただ、問題は召喚に応じる英霊達は何かしらの望みを持ってそれに応じている。

 そして、コウジュがそれを叶える事が出来るだけの存在になっていたとしよう。

 なら、それを出来るだけの存在になったならば、だ。コウジュには英霊なんていう他者の力は本来必要ない筈なのだ。

 しかし実際に、イリヤは“アーチャー”として召喚されている。

 それも、“仮初のイリヤ”を媒体として“イリヤ”を映し出すような形での召喚だ。

 更に言えば、“そういう召喚である”という知識と、この世界の知識の幾つかを添えてだ。

 確かに、あの黄金のカードからはコウジュの存在を感じられた。

 だが、やり方があまりにも迂遠だ。

 カードにホイホイつられた自分が言うのも何だがとイリヤは苦笑するが、それでもこのやり方はらしくないと断じることが出来た。

 イリヤが知るコウジュなら、その手段を得ていたと仮定してだが、イリヤの手を借りたいのならば自分で目の前にそのまま召喚するだろう。

 つまり、そうなるだけの理由がどこかにある。

 それがイリヤは知りたかった。

 

「それよりもぉ、行かなくて良いのぉ?」

 

「そうでした!! こっちっす!!」

 

 イリヤが思考に没していると、ロゥリィに促されて本来の目的を倉田が思い出した。

 イリヤもそれに倣い、後ろをついていく。

 聞いていると、どうやら目標であるゲートはすぐそこのようだ。

 一先ずは目の前のコレを片づけて、改めてコウジュの事を聞こう。

 

 そうイリヤは決意し、投影した鋼糸を編みながら進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

  

 

 

 

 東京は銀座、その場でいま最も世界中の目が寄せられている場所。

 本来ならば、式典(セレモニー)が行われている場所だ。

 しかしそこは今、血生臭い舞台へとなっていた。

 なっていた、というのが正解だろうか。

 しかし、緊張を孕んだ空気がまだ漂っているのは事実であった。 

 

 

 

 

「面白い・・・」

 

 神化を経たコウジュを見て、妲己がポツリとそう零した。

 顔を下げて表情が見え辛くなっている妲己をコウジュは訝しんで見る。

 しかしすぐに妲己は顔を上げた。

 その顔に浮かぶのは笑み。

 満面の笑みだった。

 

「面白いではないか!! 良い、良いぞ!! 何じゃその理不尽な力は!! これならば更にいけるのぅ!!!」

 

 劇場で踊るように、扇をひらひらと動かしながら、くるくると回りながら喜びを表す妲己。

 今のコウジュを見ても、何ら変わらず彼女は自身の矜持(スタイル)を貫くようだ。

 そのことに、コウジュは少しの引っ掛かりを覚えた。

 自身の敵であり続けるその頑なさに対する苛立ちなどではなく、純粋に何かが引っかかった。

 よくよく考えれば、妲己の行動はおかしな点が目立つ。

 元々がおかしな性質だと言われてしまえばそれまでだが、所謂“勘”というものがコウジュに何かを訴えかけていた。

 

 とはいえ、それを考えるのは今ではない。

 コウジュはさっさと終わらせるために、その一歩を踏み出した。

 

「くふ、妾をどのように料理してくれるのかのぅ?」

 

 踊りを止め、近づくコウジュを見据える妲己。

 彼女は、小手調べとゲートから後続の小蟲獣達を呼び出した。

 それをコウジュへと向かわせる。

 全て小型の蟲獣だ。

 しかし、その数は先程以上に膨大となっている。

 蜘蛛型、蚊蜂型、他にも今までに出ていなかった多数の蟲獣が出揃った。

 

 蟲獣は空を、地を、それぞれ突き進み、コウジュへと殺到する。

 次から次へとゲートから這い出る為、それなりに広い場所であるのに周囲の人間からはコウジュの姿が隠れてしまうほどだ。

 

 

「悪いが俺は食べ専だ」

 

 そう言いながら、コウジュが両手の剣を強く握る。

 それだけで、周囲の蟲獣は全て消し飛んだ。

 

「この数でも無理とはのぅ。一体何をしているのやら・・・・・・」

 

「そんな難しい事はしてないさ―――」

 

 妲己の言葉に答えている途中でコウジュの姿が消える。

 それに妲己は目を見開き驚きを表す。

 

「な、何処へ・・・・・・」

 

「おーにさん」

 

 妲己がすぐさま周囲を確認しようと目線をずらすが、それよりも早く、コウジュの声がした。

 後ろだ。

 そちらへと妲己が振り向く。

 しかし、そこには既にコウジュは居ない。

 

「―――This way(こっちら)・・・・・・ってね」

 

「・・・・・・やってくれるのぅ」

 

「少しは返させてもらいたいからね」

 

 妲己が更に振り向けば、コウジュは元居た場所へと戻っていた。

 軽く両手に剣を握りながらコウジュは微笑む。

 

「ならば、次はこうじゃ!!!」

 

 妲己が大きく扇を振るった。

 殆どの力が無いとはいえ、穴埋めのために他世界から流出した九尾狐による力。それを使い、風を起こす。

 ちょっとした突風だ。

 人を害する力なぞ欠片も無い。

 しかし、それだけでも妲己には十二分だ。

 妲己の本質は『魅了』、それが風に乗ればいい。

 

 だが―――、

 

「何故じゃ。何故支配下に・・・・・・」

 

「さっきまで痛い目を見せられてきたのに、そのままにしておくわけないだろう?」

 

「故に妾は再び匂いで満たしたのじゃ。一度解除されようとも、その度に場を埋めてしまえば―――」

 

 そう妲己が言っている途中で、コウジュがニヤリと笑った。

 そんなコウジュに気付き、思わず言葉を止めた妲己。

 そんな彼女に、コウジュが何でも無いかのように告げる。

 

「じゃぁさ、受け付けない身体になってもらえば良いと思わない?」

 

 その言葉に、妲己は何故自身の能力が効かなくなったのかに気付いた。

 神ならば、神族であるならば当然持っているであろう力。

 

「―――加護、というわけか」

 

「That's right」

 

 加護、特定の宗教に関わったことが無くても、意味を知る者は多い言葉。

 それは、神仏から齎される守りの力だ。

 人々は神々を崇め、神々を人を守る。

 どちらが先かは時代とともに変わるだろうし、等価の交換では無いと訴える物も居るであろうソレ。

 ソレをコウジュは行使したのだ。

 

「元々俺は不死者であると同時に転生者でもある。だから人体を作り変える感覚ってのも識ってる筈なんだ。だからそう(・・)した」

 

「容易く言ってくれるのぅ・・・・・・。それに、先には無い程の傲慢さじゃ」

 

「ああ、遠慮はしない。ハッピーの押し売りさ。それに、あんたの魅了が通じない身体になっただけなんだから害も無いさ」

 

 そう言い切ったコウジュに、妲己は何故か朗らかに笑った。

 今までの、純粋な笑みとはまた違って、明らかに嬉しいという感情が込められた笑みだ。

 妲己から感じられた、本当の彼女を感じる笑みだった。

 そこでまた違和感だ。

 先程はそんな場合ではないと断じた。

 しかし、段々とその違和感が強くなってきている。

 

「ふむ、つまり妾が人々に魅了を掛けることはもうできぬという訳か。なら、これならばどうじゃ?」

 

 コウジュがその違和感の正体を探ろうとするも、妲己はそれを待たずに再び行動し始めた。

 これでもまだ折れないのか、とコウジュは改めて妲己にある意味で感心した。

 英霊であろうとも、反英霊であろうとも、元は生きた人物や其れを基にした存在である以上は感情がある。

 それは当然、この世界の妲己に肉付けされて目の前に居る彼女もそうである筈だ。

 

 そんな彼女が次にしてきたのは、追加で出してきた蟲獣を空中で態と共食いさせ、その際に生じた体液を降らせるという行為。

 だがもう、それはコウジュにとっては嫌がらせ程度のものでしかない。

 漸く事態に気付いた観衆も警備員たちの誘導の下に避難し始めていたが、蟲達の体液はバケツを引っ繰り返したかのように降り注ごうとしている。

 例えそれでも、コウジュには関係ない。

 

 そうならない様に“願う”だけなのだから。

 

「これも、無駄か。ならば――――」

 

無駄だ(ファンブル)!!」

 

 何度目かになる妲己の行動。

 しかしコウジュは、これ以上何もさせないためにある事を願った。

 

「ぬほぁっ!?」

 

 妲己はコウジュから積み将棋の如く手段を封じられた妲己は、それでも悪あがきをしようと手段を講じた。

 だが、その為の一歩を踏み出した瞬間に、妲己は顔面から地面へとダイブした。

 ステータスが他サーヴァントより劣るとはいえ、他世界から取り込んだ“妲己である九尾狐”から得た神性の欠片によってその程度では多少傷がつく程度だ。

 だが、ガツンと小気味良い音をさせて地面とキスをすることになった妲己はいっそ哀れであった。

 

 そんな妲己が、立ち上がろうと地へと手を付き体を起こす。

 

 だが―――、

 

失敗しろっ(ファンブル)!!」

 

「へぶっ!??」

 

 再び地へと顔を沈めることになった妲己。

 逃げ出そうとしていた観衆も、妲己の様子がおかしい事に気付き動きを止めてざわつく。

 そんな風に多くの目に晒されながらも、妲己は何とか地面に肘を立てて顔を上げた。

 

いっひゃぃ(いったい)、何をしひゃ(した)・・・・・・」

 

 鼻血を流して涙目にもなっている彼女の顔は、その美麗さが台無しになっていた。

 そんな彼女を見て、ちょっとやりすぎたかなと罪悪感が芽生えるコウジュだが、今までの彼女の所業を思い直し、心を鬼にして妲己へと厳しい目を向けた。

 

「簡単なことだ。ある程度は見せしめが必要だと思ってあんたの行動に対処してきた。だけど、これ以上は意味がないと思ったから、あんたの行動に対してファンブル(絶対失敗)するようにしただけだ。どうも性格的に細かい力の使い方は苦手でな。俺が考えた一番早い対処法だよ」

 

「ああ成程、もう何をしても無駄か」

 

「そういう事だ。何をしようが、あんたの負けは決定事項だ。全てが失敗(ファンブル)する。これで良い加減諦めも付いただろう。“詰み”だよ」

 

 そう、コウジュが断じる。

 そしてコウジュは妲己へと近づく。

 目の前には、力を思う様に使えず手を震わせながら何とか顔を上げることが出来ている妲己。

 コウジュが軽く剣を振るうだけで、いや、願うだけで彼女の2度目の命は散る。 

 

 本来ならば、コウジュが妲己の死を願えばそれで終わった。終わらせることは出来た。

 それをしなかったのは、コウジュなりのアピールだ。

 汚名返上と言ってもいいだろう。

 そして何よりも、力を曝した以上はそれ以上の抑止力で以て自分を利用されないようにする必要がある。

 もう自分はサーヴァントでは在れないのだ。

 ならば、利用しようと考えられなくなるまでの力を示そうと考えた。

 それゆえのデモンストレーション。

 だけどそれももう終わりだ。

 十分だ。

 自身の意志で以て、これで終わらせる。

 

 そんなコウジュを前にして、妲己は身体をゴロンと転がして仰向けに寝転がった。

 

「ふふ、失敗か。妾の最後の一手が足を滑らせて転んで失敗か。何たる醜態か。くふふ・・・・・・」

 

 詰みの状態で、妲己はまた朗らかに笑う。

 心底嬉しそうに、喜びのままに妲己は笑う。

 

 そこで初めて、コウジュは違和感の正体に気付いた。

 

「あんた、まさか・・・・・・」

 

「何に気付いたかは知らんが、今更じゃよ。妾は『妲己』じゃ。それ以上でも以下でもない」

 

 笑みを浮かべながら、そんなことを言う妲己。

 至近距離だから、誰にも聞こえないだろう。

 だからコウジュは確認の為に聞こうとしたが、妲己が遮った。

 だが、その言葉でコウジュは答えを得た。

 

「やっぱり、そうなんだな・・・・・・」

 

「くふふ、今更罪悪感なぞ得る必要は無かろうて。妾はそれが分かっていて行動を起こした。ここにあるのは怨みの残滓に過ぎんよ。だから――――」

 

 

 

 

 

 

『早く殺せよ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 妲己とコウジュが話している途中で、そんな言葉が上がった。

 コウジュがそちらを見ると、年若い男が転がる妲己を前にして何もしないコウジュにそう言ったようだ。

 そしてその言葉は次々に波及し、その場に居る殆どが口々に『妲己を殺せ』と言い始めた。

 それは一種の願いでもあった。

 人々に安全が訪れた今、彼ら彼女らを傷つけようとしていた原因が早く消えてしまうことを次に願ったのだ。

 当然、その“想い”はコウジュにも届く。

 そのことに、コウジュは顔を顰める。

 

 今のコウジュには、そんな“願い”があろうと実質的には関係ない。

 コウジュが全てを握ることが出来ている今、それを叶えるも叶えないもコウジュ次第だ。

 とはいえ、その感情が流れ込んでくる理由は分かっている。理解できる。

 そしてコウジュもまた、それをしようとしていた。

 

 だが、最後の最後のこの場で踏ん切りが付かなかった。

 

 そんなコウジュへ、妲己が慈愛すら感じさせる笑みで告げる。

 

「何を躊躇っておるんじゃ。殺せ。神であるならば願いを叶えよ」

 

「だがあんたは本来なら・・・・・・」

 

「いや、お主が気付いているように、これは妾自身の望みでもある。それに、分かっていて妾は人を殺めた。お主のお蔭で生き返ったとしてもそれは罪じゃ。だから、存分に殺しつくせ」

 

「そう、か・・・・・・」

 

 

 

 

 

『早く殺せよおら!!!!』

『殺せ! 殺せっ!!!』

『早くそんな奴殺してよ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っるさあああああああああああああい!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 キィィンと、耳鳴りがするほどの大音量で叫んだコウジュ。

 殺せと訴えかけていた人々も、思わず耳を塞いで口を閉じる。

 シンと、場に静寂が訪れた。

 そんなコウジュを、妲己はキョトンとした目で見る。

 そして対するコウジュは、フフンと笑みを浮かべた。

 

「了解したよ妲己。あんたの願いは、俺が叶える」

 

「ふむ、よくは分からぬが、良きに計らえ」

 

 コウジュは、そう妲己と最後に言葉を交わし、笑みを浮かべていた表情を消して、辺りに響き渡るように告げる。

 

「安心してくれ。今度は復活できない様に魂ごと俺が持っていくよ。これで復活は出来ない」

 

 言いながら、コウジュは少し妲己から離れて影を持ち上げる。

 そしてそれを形成していき、妲己の真上へ掲げた。

 出来たのは巨大な黒一色の龍の咢。

 それは混沌とした黒い何かを無理やり形作った様な姿だ。

 サイズで言えば人の2,3人は容易く一飲み出来るほどだ。

 

 それが口を開き、妲己へと喰いつかんと近寄っていく。

 

 

 

「じゃあな妲己。あんたの命は、俺が貰い受ける」

 

 

 

 

 

 そうして、龍の咢は『妲己』を喰らった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?

最後はちょっとモヤッとする訳の分からない展開を持ってきましたが、勘の良い方はすぐにお気づきになるかもしれませんね。
勘の良い読者様は・・・・・・なんて、どこぞの錬金術師漫画に出てきた話すキメラを造りだした人みたいに言わないとだめかもしれません。
まぁ、そういう予想を立てて下さるのは個人的には作者冥利に尽きますのでうれしいのですがw

さておき、不思議な最期を遂げた『妲己』さん。
最後にコウジュが躊躇った理由とは一体・・・。

とりあえず、その辺りは次話からの纏め話で入れようと思います。


それでは次回、『シリアス死す』
デュエルスタンバイ!!!



P.S.
FGOでプリヤコラボですってよ!!
貯金降ろさなきゃ!!(グルグル目

P.S.2
ちなみにですが、タイトルに深い意味は無いです。
適当に付けてることが多いですが、今回はFate関連のサイトを見ていて目に付いた言葉が、せっせと出てくる蟲さん達に合うかと思って付けてみただけですw


P.S.3
今までもそうですが、今話は特にシリアスとギャグが混ざりまくったような気がしますが大丈夫ですかね・・・・・・。
妲己に関しては次回で答え合わせ的なのを入れるつもりですが、ちょっと展開が無理矢理すぎたでしょうか。
とりあえず、もう少しでゲート編も一段落ですので、構成のし直しとかはそれから考えるつもりですが、ご意見を頂けたらと思います。

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