テンプレ…まじで?(リメイクしてみた) ※現在このすば!編    作:onekou

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どうもonekouでございます。

今回は再び地球側ゲート前へ戻ってきました。
呼符で出てくるのが誰なのか気になる方が多いと思うのですが、少しお待ちください・・・・・・。

それではどうぞ!


『stage55:照魔鏡は出るけど別に魔王は出ません』

 

 

 

  

 コウジュと董主席がやりとりをするすぐ近くのビルにて、多くの人間が集う部屋があった。

 この場所は今回の式典を行うに辺り、現場の陣頭指揮をとる為に用意された場所だ。

 中央正面には巨大なモニターがあり、その周囲には幾つもの席が用意され、現場に居る人間と常に連絡が取れるようになっていた。

 今は中国の董主席とコウジュのやり取りに関しての隠蔽にせせこましく皆が動いていた。

 

 そんな中、その部屋で、いや日本の中でも地位の高い二人が口論を広げていた。 

 

「森田さん!! あんたどういうつもりだ!!」

 

「どういうつもりも何も、まだ動く時ではないというだけです」

 

 モニターを見ながら言い合う二人の名は嘉納と森田。

 それぞれ外務大臣と総理大臣を務める男たちだ。

 しかし今、その二人はモニターの中で行われている行為への対応で意見が割れていた。

 動くか、動かないか。

 嘉納は動くべきだと声を荒げて言う。

 対する森田はいつもの調子で動くべきではないという。

 

 そんな森田に、嘉納は苛立ちが増す。

 

「だがこの声が聞こえてねぇわけじゃねぇんだろ!? それに今はまだ映像を誤魔化せちゃいるが、それもいつまで続くか・・・・・・」

 

「別に流れても良いじゃありませんか」

 

「っ!? 何言って・・・・・・」

 

 しかし、その言葉に対して発せられたものに嘉納は一瞬呆気に取られてしまう。

 そんな嘉納の様子に気付いているのかいないのか、森田は続ける。

 

「これが流れても別に構わないじゃないですか。向こうさんが自爆してくれているのですから放って置けば良いのでは?」

 

「そういう問題じゃねぇ! 実質的にはそうかもしれねぇが、その結果起こる被害が問題だってんだよ!!」

 

 さも当たり前の様に改めて言う森田。

 嘉納は今度こそ、その言葉の意味を、その危うさを説いた。

 

「あの国に依存している部分全てが破綻するってことは、日本の経済も破綻してしまう。企業もどれだけ潰れるか分かったもんじゃねぇ。それにこれは日本だけの問題でもない。あの国に他国の施設がどれだけあると思ってやがる。これはれっきとしたテロ行為だ。自国ごと周りを巻き込んで吹っ飛ぶようなレベルのな。決して容易く流せるもんじゃねぇ」

 

 嘉納が言った物ですらまだ一部だ。

 例えば日本や他国の民意が対中国になってしまえば、それだけで国が割れる可能性がある。

 千人規模の暴動が起こるだけでも多大な被害が出るのに、それが全世界ともなれば考えるまでも無い。

 歴史的にも、ほんの少しの行き違いから死人が出るほどの暴動になったことは少なくない。

 それなのに、生中継で明らかな“火種”が出てくれば、各地で同時に暴動がおこるのは火を見るより明らかだ。

 そして警察を始めとする行政機関はこれを抑制するために動かなければならないが、そうすれば対立する形になる。

 かと言って放置すれば、数の暴力となった人民が司法機関へと乗り込んでしまう。

 

 そんなことも分からない者が総理に成れるはずがない。

 つまり、それを分かった上で森田は“放置”するのだと言っている訳だ。

 

「それが分からねぇわけじゃねぇよな? それでもあんたは放置するってのか?」

 

「ええ」

 

 いくら嘉納が訴えようとも動じずに答える森田。

 そんな森田を、嘉納は不審げな目で見る。

 

「・・・・・・何考えてやがる?」

 

「何って、日本の事ですよ。決まっているでしょう?」

 

「日本のことってんなら、今が動く時じゃねぇのか? 証拠はここにある。この状態で向こうを押さえればそれで終わりの筈だ。何でそうしない?」 

 

 その嘉納の言葉を聞いて、森田は漸く笑みを浮かべた。

 

「証拠を持つのは向こうも同じです。こっちが流さなくても向こうが日本の報道へ横流しすればそれで終わり。その様な不安定な切り札は要りません。それよりも、そこまでして董主席がやろうとする事に興味はありませんか? それが成功すればきっと、日本は世界でも優位に立てる」

 

「あんた、まさか…・・・」

 

 森田の言葉に、嘉納は嫌な予感がした。

 

 “事なかれ主義”で有名な森田首相は流れに沿うことを良しとしてきた。

 各国の要求も出来る限り飲み、その上で利益を得る。出来る限り事を構えない方針なのだ。

 そういった方針で森田首相はやってきている。

 ただ、それで上手くやってこられたのは専ら周囲の補佐有りきでだ。

 森田首相がトップである以上、その命令を覆すわけにはいかない。

 だからこそ、その下に居る者達は必死にその命令の中で拾えるものを拾ってきた。

 上手くいっているのは結果論でしかないのだ。

 

 しかし、今の話し方では嘉納の知らない所で、一人で何かを決めている様子であった。

 そこに、嫌な予感がしたのだ。

 

「ああ、言っておきますが向こうの条件を飲んだわけでは無いですよ? 話を聞き、その上で拒否しました。しかし、行うことに関してはこちらにも利があります。なので、放置です。そもそも今動くべきでは無い。今動いても助けられるのは彼女唯一人です。もう起こってしまっている以上、最大の利益が出る場所で助けに入るべきでしょう? 大丈夫です。向こうも最後までやればとりあえず納得するでしょう。そうしてこっちの場を整えてから、改めて手札を切れば宜しい。そうすればお嬢さんに少し我慢してもらうだけで全てが纏まります」

 

「だが・・・・・・」

 

「ちなみにこれはここだけの話にしておいてくださいよ? あのお嬢さんにも手伝ってもらって始めて日本は優位に立てるのですから」

 

 その森田の言葉に、嘉納は少しの間考えた。

 黙考し、その上で決意した。

 

「分かった。あんたがその気なら俺はするべきことをするだけだ」

 

 それだけを言い残し、嘉納は指示を送るために作業を行う者達の元へと向かった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

『えー、どうやらここでサプライズイベントが入るようです。皆様中央へご注目下さい』

 

「ほら、こっちですよ」

 

「分かった」

 

 そう司会の人が言うのに合わせて、俺は董主席に促されるまま席前に別で用意された机の元へと移動する。

 貼り付けた笑みではなく、これから起こる事が嬉しくて仕方ないかのような笑顔で董主席は俺と並ぶ。

 

「思い通りに行って満足ってとこかな?」

 

「ええ、ええ。勿論ですよ。これで私は世界の王に成れる」

 

「・・・・・・は?」

 

 当然の事のようにそういう董主席に、俺は一瞬呆けてしまう。御陰で髪の黒化(怒気)も吹っ飛んだ。

 さておき大丈夫かこの人。と素で頭の心配をしてしまうが、する必要はない人物だったそういえばと思い直す。

 だが、表情を見ればその言葉を何の疑いも無く信じている様子だ。

 今から行うことの何がそうこいつを思い立たせる?

 

「ほら、来ましたよ」

 

「これか・・・・・・」

 

 黒いスーツに黒いサングラスのガタイの良い中国人二人が、大事そうにスーツケースを持って来て、そして中身を俺達の前にある台の上へと置いた。

 中身を取り出す際は白い手袋を付けて、とても丁寧な動作だった。

 そうして出てきたものは、古い年月を見ただけで思わせる程に年季の入った銅鏡であった。

 淵は既に錆付き、形も崩れている。

 だが鏡面だけは、今尚怪しい輝きを放っていた。

 そして、確かに感じるマナの気配。

 宝具には程遠い含有量だが、近しい気配だ。

 しかし宝具と考えるには、些か禍々しい。

 見ていると気持ち悪くなってくる。

 とはいえ、それは本物であるという証拠だ。

 

「本物・・・・・・?」

 

「おや、わかりますか。こちら側の人間では判断が付かないのですが、向こう側の人間ならある程度区別がつくようでね。数ある贋作の中からこれを見つけ出したのですよ」

 

 俺が思わず口にした言葉が聞こえたようで、それを聞き尚更喜ばしそうに口を歪める。

 

 どうやらこれは本当に本物という事らしい。

 しかしどうやって特地の人と渡りを付けたのか・・・・・・。

 いや、考えるまでも無い。

 どの国も特地に来る機会はたくさんあったじゃないか。

 帝国はともかく、アルヌスになら何度も招いていた。

 だけど、接触できたからってどうやって鏡が本物かどうかまでの調査を行っていたんだ?

 ゲートを潜る際には如何なる地位の人間でも不審物の持ち込みが無いかなど調べられている筈だ。

 それがどうして?

 

 ・・・・・・これを考えるのは後にしよう。

 よくよく考えなくても、ゲートの検査を素通りしている張本人たる俺だ。

 機械的・人員的な検査は幾らでも抜け道があるじゃないか。

 

「では、これにマナとやらを込めてください」

 

「だけど照魔鏡ってのは確か・・・・・・」

 

「由来も知っていますか。なら映らないようにで結構ですよ」

 

「・・・・・・わかったよ。でもそういう操作は慣れてないから時間が掛かるよ」

 

「まぁ、良いでしょう。この段階まで来れば目的はほぼ達せられたも同じです」

 

 よし、これで少しは時間が稼げそうだ。

 

 それにしても照魔鏡か。

 記憶が確かならば妖魔などの正体を暴くとされる鏡だったはずだ。

 それにマナを込めろというのだから、それに俺を映すことでどうにかするのだと思ったが、どうやら違うらしい。

 いや、完全にマナを込めてから使うのか?

 妖魔の正体を暴くというのならば、英霊にも効果を及ぼす可能性はあるだろう。

 だが、当然ながらそこに意味は無い。

 何せ映されたところで俺は痛くも痒くもない。

 俺の中身は大学生だからその姿にされると一般人Aが出てきて終了だが、外側のこの身体は紛れもなく本物だ。

 何かから化けてこの姿になった訳でもないし、真の姿があるような存在でもない。

 ひょっとして、董主席は何かと日本だけが握っている情報を知っていたし、獣化などについて知っているからそれを暴こうとしているのだろうか?

 ならばとんだ見当違いというものだ。

 

 そう内心でほくそ笑み、表情では不服そうにしながら(多分出来ている筈)マナを注ぎ込む。

 それと同時、俺は先輩へと念話を繋ぐ。

 

『先輩、聞こえるかい?』

 

『ああ、聞こえてるよ。さっきからの会話も全部な』

 

『そいつは重畳だ』

 

 こちらは念話なのに対し、聞こえてくるのは胸元でほんの幽かに音を出すだけのスピーカー。当然俺の耳にしか聞こえないように設定されているものだ。

 

『照魔鏡についてそっちでも調べていると思うけど、その効果は俺には意味がないはずだ。だからそっちはそっちで動いてくれ』

 

『心配するな。もう動いてる・・・・・・と言いたいんだけどな』

 

 言い淀む先輩に、内心で首を傾げる。

 

『なんか内心で首を傾げてるイメージが飛んできたけど、分からんでもない』

 

 マナを送りながら念話なんて器用なことは苦手な為か、どうやら思ったことをそのまま送ってしまったようだ。

 気を取り直し、先輩に聞いてみる。

 

『確かに一般の人や映像を人質に取られてるから動きにくいとは思いますけど、でもそれを想定して元々一般の人達の中にも警察関係の人が混ざってたはずですよね? あとはFate関係の人とかですけど、バレないように動く事も難しい状況だったりするんですか?』

 

 もしそうなら本当にまずい状況だ。

 カメラの前に居る状態の俺なら兎も角、目に入らない場所で動いても向こうにわかってしまうような状況にされているのなら詰みだ。

 照魔鏡に関するあれこれが無駄に終わるとしても、結局人質関係はそのままになってしまう。

 大丈夫かこの国の警備と思わなくもないが、どんな国であろうと完全な警備態勢ってのは夢物語のレベルなのだから仕方ないか。

 

 そう思って内心で苦笑するが、先輩の回答は違った。

 

『違うんだよ後輩。今上が揉めてる。人質の安全が優先だとかなんとかで』

 

『・・・・・・マジですか』

 

『ああ、どうにも総理が頷かないらしい』

 

 確かに日本的には考えられなくもない。

 日本は当然ながら不戦を是とする国だ。

 そして国民の安全を何よりも優先し、守る国でもある。

 だから、リスクのある行動は行えない。

 それにもし被害が出れば、あまり生まれた国の事を悪く言いたくはないが、連日報道に乗り国の上層部は叩かれるに叩かれるだろう。

 そのことを考えれば、動き辛いに違いない。

 

『分かったっすよ。なら、とりあえずは俺が我慢すれば良いですかね。その間に上が纏まってくれれば良いんですが。最悪、ここに居る人達だけなら纏めて気を失わせることにはなりますけどどうにか出来るので、遠隔地で人質に取られてそうな人をリサーチしてくださいっす』

 

『すまん。何とかできないか閣下にも聞いてみるが・・・・・・ちょっと待った。電話が来た』

 

『了解っす。また念話入れます』

 

『おう』

 

 俺が動けないのはこの場所に居ない人が人質に取られている可能性を考えてだ。

 だからそれさえどうにかなればと思っての言葉だったのだが、タイミング悪く先輩の方に電話がかかってきたようだ。

 仕方なく一度念話を切る。

 

 意識を半分裂いていた俺は、改めて董主席をチラリと見る。

 

 このたくらみが失敗するとも知らず、何やら嬉しそうだ。

 その笑みは、年齢相応のものとは違い、少年が新しいおもちゃを渡されると知り喜ぶ表情を思わせる。

 何がそこまで彼を思わせるのだろうか。

 

 先程考えたように、照魔鏡とは妖魔の正体を暴くとされる伝説の鑑だ。

 来歴は、殷の最後の王である帝辛を手玉に取り悪逆非道贅沢三昧を尽くし次第には国を傾ける程であったが、妲己の正体を九尾狐と知った太公望が照魔鏡を用いて看破したという流れであったはず。

 実際に妲己が九尾狐であったか等は兎も角、照魔鏡といえばそれが言い伝えであったはずだ。

 何故そんなことを知っているかと言えば、とある麻雀漫画で主人公の姉が使った特殊能力が照魔鏡を基にするのではないかという噂があったからだ。

 麻雀なのに何で特殊能力と疑問に思う人も居るかもしれないがそういう漫画なのだからツッコミを入れるのも野暮だ。

 

 さておき、そんな事を考えている内に照魔鏡にマナ(正確には魔力っぽい何かだけど)を貯め終わりつつある。

 感覚で言えば、浮き輪に空気を入れていく感じだ。

 現状は、まだ入りそうだけど入れ始めに比べて抵抗感がある感覚と言えば良いだろうか。

 そしてそれに合わせて、やけに俺の勘が警報を鳴らしていた。

 このまま鏡が割れるまで魔力を注ぎ続けた方がいいような、そんな気がしてくるほどだ。

 

 しかし、そう思うも実行に移す前に横から中断させられた。

 

「ふむ、俺でも分かるほどになったな。そろそろじゃないのか?」

 

「いや、まだ入れないと・・・・・・」

 

「嘘は良くないな。お前次第でそこらに居る人間がどうなるか分かったもんじゃない」

 

「・・・・・・そうだよくそったれ。もう入れ終わる」

 

 誤魔化そうと思ったが、勘づかれてしまったようだ。

 そのことに思わず悪態を付くが、そんなことも気にならない程に今の状況が好ましいのか董主席は狂笑と言えるほどの笑みを浮かべていた。

 

 そんな笑みに、流石に遠目とはいえ観衆がざわつき出す。

 何かがおかしいと気づき始めたのだ。

 

「ひ、ひひ、今の俺は気分が良いから許すぞ。許せる。許せるとも」

 

「あんた、一体・・・・・・」

 

 その様子は、尋常では無かった。

 流涎があるのも気付いていないのか、狂ったように笑う董主席。

 目は充血し、瞬きも忘れる程に見開いている。

 

「何があんたをそこまで・・・・・・」

 

 思わずそう口にする。 

 すると、董主席はそんな笑みのまま話始める。

 

「ここまで来れば俺の願いは叶ったも同然だ。ひひひ。だから教えてやろうっ! 私はな。世界の王に成りたいんだ。その為に不老不死となるぅっ!!」

 

 実際に見たことはないが、麻薬中毒による幻覚でも見ているのではないかと思わせる異常な状態だ。

 それに不老不死? 

 確かに不老不死は存在する。

 俺がそうだし、ロゥリィだってそうだ。

 特地なら他にも居るし、神すら存在する。

 だけど、それがこのことに何故つながる?

 何故ここまで狂信できる?

 まさしく“狂信”、疑いも無く、狂ったようにただそれだけを信じている。思い込んでいる。

 何がそこまで・・・・・・。

 

『後輩。閣下から許可が下りた。こっちは何とかするだそうだ。だから後輩は自分の思うタイミングで取り押さえてほしいだとよ。その状態の主席相手なら誰も何も言わないだろうってよ』

 

『了解、マスター』

 

 丁度良い所に、先輩(マスター)から好きにしろとの言葉が来た。

 それに笑みを浮かべるが、それにも気づかない様で董主席は続ける。

 

「最初はお前を捕えようと思った。だが無理だった。色々と手を回したが、予想以上にガードは硬かった。それを抜けてもお前自身が逃げてしまえばもう無理だった。だから次に考えるのはお前を誘き出す方法だった。だがそれも失敗した。しかし、しかしだ。お前自身が語った“英霊”という存在。それが最初の切っ掛けだ。初めは馬鹿らしいと、それらしいでっち上げだと考えた。だが、その後にも念のためと調べさせていた結果ある事を知った。“魔力”という存在。それが二つ目の切っ掛けだ」

 

 董主席は狂ったように話す。

 ご丁寧にも通訳の人も同じような表情をして俺に言葉の意味を教える。

 狂ってやがる。

 だが、自ら全てをぶちまけてくれるのなら好都合だ。

 そして最後に鏡をぶち壊してやろうじゃないか。

 主席が何かをするよりも早く鏡を壊す程度は造作もない。

 これだけの事をしたんだ。

 俺も結構いらついてる。

 失意のままに独房で余生を過ごせ。

 

「試しに自分の国だけの英霊を召喚しようとした。だが失敗した。地球にはそもそも魔力が少ないらしい。そうだな?」

 

「ああ」

 

「俺の国だけじゃない。他の国も当然英霊の召喚を試した。だができない。人体実験を当然の様に行った国もあるそうだ。人間から魔力を吸い出せるという解説もあったからな。だがそれも失敗した。このゲートが原因かとも考えた。密かにこのゲート周辺で儀式を行った者も居た。それもダメだった」

 

 当然だ。アレは魔術師がれっきとしたルールに基づいて行われる“技術(・・)”だ。

 魔力があるだけでは行えるわけもない。

 偶然(・・)で行える代物ではないのだ。

 儀式と、触媒と、聖杯(ルール)が無ければ、それは成らない。

 

 それも知らず、声高に董主席は自供し続ける。

 

「しかし、そこで最後に得た情報で全てが繋がった。何か分かるか? お前がお前のマスターと契約を結んだ時の状況だよ」

 

「それが、どうしたってのさ」

 

 そう言葉を返しつつ、思い返すのは自分が契約した時の事だ。

 よくよく考えれば、何故あれは成功したのだろうか?

 それまでにも俺の傍で詠唱する人間は多く居た。

 だが当然それは成功もしなければ何の影響も出なかった。

 そうでなければ俺は色んな人に命令権を握られてしまっている。

 しかし、開門のあの瞬間だけが成功した。

 あの時は魔力が溢れた瞬間だったからなんて考察したが、それなら生贄がある状態で召喚できない理由にはならない。

 そもそも英霊の召喚というのは、“聖杯”があって初めて成し得るもので――――、

 

 待て、まさか・・・・・・。

 

「そう、気づいたようだな。どういうことかは分からないが、最後の鍵はお前だよ。閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)――――」

 

 董主席が口にし始めたのは詠唱、召喚の為のものだ。

 だが、召喚陣も無く何故・・・・・・。

 そう思うもすぐに理由は分かった。

 通訳の人の背中が服の下から輝き、滲んだ血が服の表面まで浮き出して召喚陣を描き出していた。

 そして輝いているという事は、条件が揃っているっ。

 

 やはりそうか、聖杯は俺だ(・・)っ。

 俺の能力上、それを今考えてしまっているということ自体を現実にしている可能性は確かにある。そもそもが俺は聖杯の様に願いを現実にするという能力を持つのも要因かもしれない。

 だが、それだけじゃない。

 俺は聖杯を持っている。

 いや、取り込んでいるじゃないか。

 イリヤの代わりにした、()()()()()()()()()()

 

 俺はそれを理解すると同時に腕を照魔鏡へと向ける。

 そしてコインを弾く動作。

 するとバシュンと軽い音ながらも、電撃を伴ったコインが射出され、鏡を叩き割った。

 

「告げる。汝の身は我が下に。我が命運は汝の剣に。聖杯の寄る辺に従い、この意この理に従うならば応えよ――――」

 

 しかし、董主席は詠唱を止めない。

 むしろ笑みを深めていた。

 

 割れた鏡から大量の魔力が噴き出る。

 それは先程まで俺が込めた物だろう。

 だが、それにしてはやけに禍々しいものへと姿を変えていた。

 それに疑問を持つ間にも、主席は最後の節へと差し掛かっていた。

 

 

 

「―――汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よぉぉ!!!!! 来い、太公望!!!!!!!!」

 

 

 

 董主席が言い切った瞬間、通訳の人が弾けた。

 そして同時に、辺りを禍々しい魔力と光が埋めつくす。

 辺りに弾け飛ぶ血飛沫。

 それを見て、周囲の観衆や報道陣が悲鳴を上げて離れる。

 俺の嫌いな鉄の匂いが辺りを包む。

 そこでふと気づく。

 その魔力の中に甘い匂いと見知った臭いが混ざっていた。

 一つは桃の香りだ。

 そしてもう一つは自分の物にも似た―――、

 

 しかし、それに疑問を持つ間も無く魔力は収束し、形作り始めた。

 

「おお、おおおおおっ!! これで私の願いが叶う!! 世界は私のものだ!!!」

 

 喜びの声を上げる董主席。

 主席の手を見れば、確かにある令呪であろう文様。

 

 成功、してしまった・・・・・・。

 

 しかし何故、董主席はそこまで狂信できたのだろうか?

 確かに状況証拠で言えば俺が最後の(ピース)だったのかもしれない。

 実際、Fate世界の聖杯(ルール)を俺は持ち込んでしまった。

 そして成功した。

 だがそれは結果論だ。

 世界を自分の物にすると言い放つ男が、自分が治める国を生贄にするような状況を作ってまで何故?

 

 

 

 そんな現実逃避にも似た、状況を理解するための思考を行っている間にも、召喚は終了した。

 

 

 

 そこに居たのは狂おしいまでに美しい美女だ。

 黒を基調に蒼を取り入れた漢服を着崩しながら纏う、桃色の髪をした女性。

 女性とは言うが、成熟しきった容姿ではなく、その手前を思わせる。

 だがその笑みには見た目とは反した妖艶さが秘められ、肌蹴られた漢服の隙間から見えるその体躯には肉感を感じさせる。

 外であるのに感じる桃の香りに混ざって、くらくらとするほどの妖しい香りが混ざている。

 だがやはりそこには、どこか感じ慣れた臭いも隠される様に混ざっている。

 

 この人が、太公望・・・・・・?

 

 だが、その見た目もそうだが、この溢れ出る禍々しい魔力からはそうは思えない。

 性別に関してはFateにはよくある事だから無視できる。

 しかしこの臭い。

 これは、そう、獣の臭いだ。

 (くさ)いというわけではない。

 だが、この独特の臭いを間違えるはずもない。

 俺自身が獣なのだから。

 

 しかしそんな風に俺が懐疑的な思考をしている間にも、マスターたる董主席は喜びを隠す気も無く召喚された相手の元へと走り寄る。

 

 

「太公望!! 太公望太公望太公望!!!! さぁ私の願いを叶えてくれ! まずは不老不死だ。いや若返るのが先か? どちらにしろ早く私の願いを―――、」

 

 

 

 

 

「ご苦労。ほれ、褒美の不老不死じゃ」

 

「へ?」

 

 

 

 蕩けるような甘い声で女性はそう告げる。

 それに、董主席は呆けた声を出した。

 しかし次の瞬間には、女性がいつの間にか手にしていた銅鏡が輝き出し、そして董主席の姿は消えた。

 一体どこへ、と思う間にも答えは分かった。

 銅鏡だ。

 銅鏡の中に驚愕の表情、消える寸前に浮かべていた表情が映し出されていた。

 

「くくくっ、お望みの不老不死じゃ。嬉しかろう」

 

 女性が妖しく笑う。

 くつくつと、だが、それはどこまでも狂ったような笑みでしかない。

 

「どー考えてもあんた、太公望じゃぁねぇよな・・・・・・?」

 

「妾をあのような者と一緒にするでないわ小娘」

 

 俺の言い方が気に入らなかったのか、蟲でも見るかのような目をこちらへと向けながらそういう女性。

 この人が太公望? 幾つもの伝承に語られ、仙人とも言われるあの太公望だと?

 そんな訳がない。

 彼女自身も否定している。

 じゃあ一体彼女は誰だ・・・・・・?

 

 その疑問には、もれなく彼女自身が語ってくれた。

 

 

 

 

 

「サーヴァント、アヴェンジャー。名は妲己。覚えておけ小娘」

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?

感想で、照魔鏡出しただけでほぼ答えな方が居てほんとびっくりしました。
さておき、私がしたかったこと、妲己の召喚です。
そして直接的には主席が狂った流れを書いてはいませんが、所々に一端を置かせていただきました。
感想返しの方では、今回と書かせて頂いていたのですが、キリが良いのでこんな感じに・・・。
そして他サーヴァントは召喚しませんよと言いながら、結局幾つもの感想をいただき、それを呼んでいるうちに心変わりして召喚の方に走らせて頂いてしまいました。

前言撤回してごめんなさい!!
欲望に負けてごめんなさい!!!
許してください何でもs・・・ゲフンゲフン・・・。


さておき、感想でもコウジュに対抗する存在を産みだす為だろうけどごちゃごちゃしすぎているという感想をいくつか頂いておりますが、申し訳ないですがもう少し寛大な御心でお付き合いいただけると嬉しいです。
思うままに書いているのと、有って無いようなプロットなのもあって、こういった捻じ込みもさせて頂いている訳ですが、最後のコウジュの躊躇いを無くす相手として、当初思っていたこの世界でのラスボスでは弱いと感じ始めたのも理由なんです。
その為、一先ずはこのまま続けさせて頂こうと思います。


それでは、設定ぶち込み過ぎてSSそのものが混沌として来ている当SSですが、次回よりバトルに入っていく予定です。
お楽しみいただければ幸いです。
ではでは!!


P.S.
風邪を引いて扁桃腺が大変なことになった結果、声がデスボイスな画伯みたいになって、なんか楽しくなった週末でした・・・。
いや、頭まで蕩けてなかったらほんとそんな声にしか聞こえない状況になったんですw
まぁ風邪引いている時の方が昔から邪念が消えるので作業には集中できるので良い場合もあるんですけどね・・・・・・。

皆様夏風邪にはお気を付けを!!


P.S.2
何でや!
酒呑童子SSそろそろ増えても良い頃やろ!!


P.S.3
次回更新なんですが、リアル事情で一周飛ばしになるかもです。明日から2週間ちょいと忙しくなる予定なんです・・・・・・。
更新できなかったらごめんなさい<(_ _)>
出来なかった場合は活動報告の方で書かせて頂くと思います。

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