テンプレ…まじで?(リメイクしてみた) ※現在このすば!編 作:onekou
活動報告でも言っていたのですが、リアル事情で投稿が遅くなって申し訳ないです。
さておき、どうぞ!
自衛隊アルヌス駐屯地、その一室にてモニターを険しい表情で見ている男が居た。
そこへ――――、
「狭間陸将!!」
部屋の主、狭間陸将の名を呼びながら慌ただしく自衛隊員が入ってきた。
エリートの名に相応しい出世を順調にしてきた柳田二等陸尉だ。
彼はエリート意識が強く、普段ならばこのような行いはしないが何時にない慌て様だった。
それを見咎めるように狭間はモニターから目を離して、飛び込んできた柳田へと目をやる。
「・・・・・・何用かね?」
本来であれば今の行いに苦言を呈するべきなのだが、普段の柳田からは考えられない行動に非常事態を感じ取り、狭間は流すことにした。
“モニターの中”に関連する事態が起こっていた場合、即座に動く必要があるからだ。
「日本時間
「これが目的か、くそったれめ」
そう吐き捨てながら狭間がチラリとモニターを見れば、そこには中国の国家主席たる董徳愁とコウジュの姿が映っている。
笑顔の董主席と、引き攣りながらも何とか笑顔にしているコウジュだ。
コウジュが笑顔で居るのは当然、テレビで生放送中だからである。
だが引き攣ったものであるのは、その映像の中で董主席がコウジュに対して、いや日本に対してすらも堂々と挑発行動を起こしているからだ。
それが狭間が目にしているモニターの中で行われている。
「柳田二尉、詳しい状況を」
何はともあれ、今必要なのはイタリカに関する情報だということで柳田へと聞く狭間。
狭間の立場は特地における自衛隊の総括。
その為、まず狭間がしなければいけないのは当然特地における事態の収拾だ。
日本側の事は日本の方でやってもらわなければならない。
そう割り切るしかないのだ。
「ハッ。現在、敵軍はイタリカを占拠しており、帝国へ攻め入る準備をしているとのこと。規模はおよそ5万。飛龍部隊、亜人部隊も確認されております」
「敵の正体は掴めておるのかね?」
狭間の言葉に、柳田は緊張した面持ちとなる。
「敵は、敵軍を構成するのは、連合諸王国軍を中心とした帝国兵であります」
「・・・・・・何?」
思わず間をあけて聞き返してしまう狭間。
しかしそれも仕方のない事だろう。
柳田が入ってきた際に“クーデター”と言っていたのだから、帝国内での対立だというのは狭間も分かっていた。
しかし、帝国内の分裂に連合諸王国軍も介入しているとなると話は大きく変わってくる。
連合諸王国軍とは、同盟国という名の属国により構成された軍だ。
かつての戦や時代の流れと共に各国は帝国の属国となり、帝国の危機には相互に援助し合うことが決まっている。
例えば、自衛隊が特地へと訪れた際には、橋頭保として自衛隊がアルヌス基地を生み出した後に連合諸王国軍と戦った。
そしてその連合諸王国軍は現在、帝国皇帝モルトの策略によって自衛隊とぶつかった結果大きくダメージを受けており、それぞれの国で軍の回復に努めている筈だった。
実際には、自衛隊に紛れて感染地雷等でコウジュが翻弄した結果、使い物にならない兵士が数多く出た所為で再建に余計な時間が掛かっているのだが、それにしてもこの段階での決起は予想を遥かに超えている。
元々、帝国が連合諸王国軍を自衛隊にぶつけたのは、帝国が東京を襲撃した際に返り討ちに遭い、それで弱っている所を連合諸王国軍に攻められては堪らないと諸王国軍の武力を削ぐために行ったことだ。
つまりは、クーデターそのものに対する動機は幾らでもある。
だが、このタイミングでのクーデターにメリットは少ない筈なのだ。
今の帝国は転換期に来ている。
帝国は次代であるピニャへと移り変わろうとしており、ゲートより入り込む技術や物資によって帝国をはじめその周囲にも多大な恩恵が出ている。
内部構造が変わろうとしているために与しやすくはあるだろう。
しかしそれ以上に、ピニャは親日派(8割方腐った本目当てだが)のため日本の考えた方も取り入れようとしており、武力を用いた方法ではなく手を取り合う方向へと国の流れを変えようとしていた。
だから日本から流れてくる物の融通も、各国へ惜しみなく行っていた。
紙一枚をとっても特地側からすれば理解できない程の技術だ。
遥か昔から行われている外交の手段としての
互いの国に利益が出るようにし、更に帝国だけに利益が集中しないようにもしていた。
なのにこのタイミングでのクーデターだ。
軍部を再構築するのなら、現段階では出来る限りの利益を得て軍事費に回し、苦汁をなめる選択ではあるだろうが暫くは伏して待つのが賢い選択肢だろう。
それを蹴ってでも、今クーデターを起こさなければならない理由がある訳だ。
「クーデターであるならば、旗印は誰だね?」
「第二皇子ディアボです」
「ディアボ・・・・・・、ああ、元老院にも所属している第二皇子か」
柳田が述べた名前の人物に一瞬思い至らなかったが、何とかすぐに出てきた狭間。
それもそのはずで、帝国と日本との講和が進む前からそれほど名前が挙がらなかった人物なのだ。
ぶっちゃけて言えば影が薄かった。
ピニャ皇女殿下が即位するという話が出てもディアボ派の者が騒ぐ程度で、すぐに鎮火した。
本人も、日本との講和会議の一回目では出席していたが、それ以降の会談では影も形も無かった。
しかしここへ来て名前が挙がった。
「やはり、ディアボ皇子の要求は自身が皇帝になる事か」
「そうなります。拡声器を用いてそう自ら言っていた模様です」
「・・・・・・中国か」
「ディアボ皇子の傍に中国語を話す男も確認できているためその可能性は高いかと思われます」
中国はどうやってか特地から宝石剣を盗み出した。
つまりは特地との伝手があるという事だ。
いや、お為ごかしを無しにすれば、狭間は既に内通者の存在を確信している。調査も既に始めており、目星はほぼついていた。
そこへ来て、更に第二皇子であるディアボと繋がりがある事が今分かってしまった。
予想以上に自衛隊の守備を掻い潜られていた訳だ。
狭間は瞑目し、少しの逡巡の後、近くにある受話器を手に取った。
「緊急招集だ。空挺部隊並びに第4戦闘団は出撃待機。第1戦闘団は即座に帝国へ」
『了解。空挺部隊並びに第4戦闘団は出撃待機。第1戦闘団は即座に帝国へ出撃します』
受話器越しの命令を下し、受話器を置く。
するとすぐに、緊急の放送が流れ、基地内が一気に慌ただしくなる。
「陸将、何故待機でとどめておくのですか? ……まさか」
「ああ、向こうでも仕掛けてきている」
聞きながらも途中で自ら気づいた柳田に狭間は頷いた。
狭間がイタリカへ直接自衛隊を派遣しないのは、中国との繋がりが見えた以上は戦力差に
拡声器がディアボの元にあるのなら、中国から渡されているものがそれだけとは限らない。
相手が剣ならば振るわれるよりも早く無力化することはできるだろう。
だが相手もまた銃を構えるのならば、自衛隊側の被害も大きくなるのは確実だ。
加えて言えば――――、
「ここまであからさまにディアボ皇子と中国の関連性を訴えてきているという事は、どちらかが陽動か、もしくは他に本命があるか・・・・・・。兎も角、これは向こうからの“動くな”という遠回しな
「メッセージ・・・・・・ですか?」
狭間の言葉に、柳田が疑問を口にする。
それに狭間は頷く。
「何故イタリカを占拠した? アルヌスから近いイタリカは、自衛隊を嫌厭する諸王国からすれば避けるべき場所の筈だ。そしてこの距離で数万もの軍を我々に気付かせずに隠密行動させるのならば、帝国に向かっても良い筈だ。寧ろ皇子である地位を考えれば自然に戦力を帝国に集められるだろう。ならば何故、見せつけるようにイタリカを占拠する必要がある?」
その狭間の問いにも似た言葉に、柳田はハッとした。
「・・・・・・なるほど、アルヌスは帝国含めて諸王国の中心にある。そして相手が数万の軍であるならばそれなりの規模の部隊を送らなければならない。イタリカも帝国も方面が違う以上、部隊を送り出せばここが手薄になってしまう。そしてその上でこちらに事を知らせてきたのは、この膠着状態こそが目的ということですか」
「そういうことだ。さすがに皇女殿下から要請された以上、帝国には送らなければならないがね。だからこれ以上は守備部隊を手薄にするのは危険だ。まったく、厭らしい所を突いてくるものだよ相手さんは」
皮肉気に笑みを浮かべる狭間。
そんな狭間を見ながら、柳田はある事に気付いた。
「しかしそれならば何故先程は第1戦闘団を帝国へ? 最も火力のある第1戦闘団をここに残すのならばともかく・・・・・・」
アルヌス防衛戦でも最も力を発揮したのは第1戦闘団だ。
それは単純に、戦車部隊を中心とした制圧力に長けた部隊であるからだ。
しかしその分、第1戦闘団は足が遅い。
なのにも拘らず、ほど近いイタリカへではなくそれなりに遠い帝国へその部隊を送るのは何故か。
そう思っての質問であったが、それに対して狭間はニヤリと笑みを浮かべた。
「動くなと言っているのかもしれんが、別に相手の思うように動かなければならない訳ではないだろう? それに、少々自衛隊を嘗めているようだ。ここらで一度お灸を据えてやらねばならんよ。その為に、最も機動力のある第四戦闘団を残している」
狭間の言葉に柳田は二の句を告げられなかった。
そういえば、と柳田は思い出す。
特地へ来てからも狭間は中々に行動派で、許されるギリギリの中で戦果を挙げてきた。
それはある意味私的運用にも思えるが、それら全てに結果が着いて来ている。
そう柳田が思っていると、狭間はしかしと続けた。
「一つ問題があってな」
言いながら狭間は目の前のモニターを柳田の方へと向けた。
「これは・・・・・・」
「アインツベルン君が董主席に何かを強要されている所だよ。何をするつもりかは分からんが、もし地球側からアルヌス駐屯地を食い破られたならばどうなるか分かったものではない。こちらは何とかできるが、日本側でどうなるやら・・・・・・」
顔を顰めながら柳田がモニターを見れば、笑顔の董主席と引き攣った笑顔のコウジュが写っている。
これだけを見れば、緊張しているコウジュと会話をする董主席の図である。
だが、モニターにはそれだけではなく、二人の会話が翻訳されて出てきていた。
その内容はひどいものだ。
罵詈雑言を用いて、更にはあからさまに人質を取っているぞと脅している。
その上でいくつかの要求をコウジュへと突き付けている所だった。
「これが向こうで流れているのならば、かなりの混乱が起こっているでしょうね」
実際には混乱どころではないだろうな、と柳田が思っていると狭間は静に首を振る。
「映像はともかく、会話は流れていないよ。映像もほとんどが遠目の物等に編集されている筈だ。この会話を
「それは、たしかにそうですが・・・・・・。しかし向こう側が用意した報道陣も居たはずです。そちらも同じなのですか?」
中国側が式典に関して出してきた条件の一つが、『受け渡し時は大々的に生放送下にて行うこと』だ。
その為、各局の報道陣が式典会場である銀座に押し寄せている。
そしてその中には中国側が用意した報道陣も居る。
“報道の自由”というものがある以上、怪しいからなんていう理由で参加拒否は出来なかったのだ。
だから、
しかしそうではないように狭間の言い方から柳田は感じていた。
そういったこともあり柳田は聞いたのだが、事実その通りだったようだ。
「ああ。つまりこの会話も人質ということだよ。この式典は全世界で見られている。もしこんなものが流れてしまえば、あの場所で暴動がおこるだろう」
狭間が言うように、もしもこの会話が全国中継されている番組内で流れてしまえば、批判やら何やらが国へと殺到し、現場である銀座にも国を思う勇士やコウジュのファンが詰めかけるだろう。
銀座の英雄の片割れは、その見た目もあって多くの者を魅了している。
小さな身体を厭わず日本を救ったその英雄を慕うものは少なくないのだ。
故にそうなってしまえば当然式典どころではなく、それどころか国際情勢も揺るがすだろう。
「問題はどうして中国がそのような捨て身に出て来たかという事だ。こんなことをしでかせば日本だけでなく全世界を敵に回す。攻撃する口実を与えるだけだ。今までの様に、知らぬ存ぜぬで通せるレベルではない」
「確かに
狭間の疑問に柳田も同意する。
今までにも、歴史に残るような日中間での接触は多々あった。
領土問題を始め、両国間の軋轢は少なくない。
しかしそれを良好なものにするために、少なくとも表面的には動いてきたはずだ。
だが、今回のこれは自殺志願者の特攻でしかない。
確かに日本国内は混乱するだろう。世界情勢にも影響が出るだろう。
しかしそれが過ぎれば、全世界を敵に回すことになる。
暫く室内は沈黙に包まれる。
そして黙考した後、狭間はゆっくりと口を開いた
「とはいえ、だ。我々はこちらを先ずどうにかしよう。情報が来るという事はイタリカに居る仲間は無事なのだろう?」
「ええ。向こうに熱検知などの機械があるようで思うように動けていないようですが、それほど多くは地球から持ち込めていない様で何とかなっているようです」
「ならば先ずは中の情報から探ろうか。食い破るのはその後で良い」
「ハッ。では自分は続報を聞いて参り―――」
――――prrrr
敬礼をし、柳田が退出しようとしたところで電話が鳴った。
柳田は敬礼を止め、そのまま静かに姿勢を正した。
狭間はそんな柳田を見ながら、受話器を持ち上げ耳に当てる。
そして少しの会話の後、狭間は受話器を基に戻した。
戻した後、眉間を揉んだ。
「・・・・・・ど、どうかされましたか?」
その様子に、つい柳田は聞いてしまう。
狭間は、暫くの間を開けて姿勢を戻し、そして柳田に告げた。
「定期の買い出しにイタリカへ行っていたテュカ、レレイ、ロゥリィの三名が捕まったそうだ」
◆◆◆
「痛っ! 乱暴しないで!!」
「大人しくこの部屋に入っていろ」
腕を力任せに引張り部屋へと押し込んだ男に少女は文句を言うが、聞く耳持たぬと言わんばかりに男は感情も出さずにそう告げた。
抵抗をするが片腕が塞がっているのでそれも出来ず、結局されるがままに部屋へと押し込まれ、無残にも目の前で扉は閉まってしまう。
少女・・・・・・テュカは、掴まれていた腕を擦りながら部屋の中へと目を向けた。
「テュカも捕まった?」
「レレイもロゥリィも、なのね・・・・・・」
目を向けてすぐにテュカへと声を掛けたのは、買い物をするために別行動をしていたレレイだった。
そのすぐ傍にはロゥリィも居り、部屋の中には他にも侍女服を着る者など、女性ばかりが集められているようだった。
当然ながら脱出方法を考えるが、部屋に入る際に見た何名かの男を思い出す。
男たちは、皆銃を手にしていた。
「私だけならぁ何ともないんだけどぉ・・・・・・」
「今はダメ」
「分かっているわよぉ。だからさっきも大人しく捕まったんじゃなぃ」
「ごめん・・・・・・」
「別にあなたが悪いんじゃないのだからぁ謝らなくてもいいわよぉ」
「ありがとう」
テュカが壁の向こうに居るであろう男たちに目をやったのに気付いたのかロゥリィがさらりと答えるが、当然そんなことになれば他の者が無事では済まない。
魔法が使えるレレイやテュカはともかく、見るからに戦闘慣れしていないような侍女も居るのだ。
一応ロゥリィもそれは理解しており、自身の行いの結果罪もない他者が巻き込まれるのは教義に反するので行動に移すまでは行っていない。
先程も、レレイが先に捕まり、気に入った娘を殺されては堪らないからと大人しくロゥリィも捕まったのだ。
ただ、今の状況に鬱憤が貯まって行っているのは確かだ。
そんなロゥリィ達に、テュカはある事に気付いた。
「二人とも、杖と戦斧が・・・・・・」
「うん、取り上げられた」
「私の斧は重すぎるからってぇ外に放置されたわぁ。ほんと失礼しちゃぅ。武器さえあればなんとでもなるのにぃっ」
表情を変えず言うレレイに対してぷりぷりと怒るロゥリィをまぁまぁと宥める。
確かにロゥリィの戦斧は、見た目以上に重たいため常人では運ぶことは叶わない。
あまりにもロゥリィが平然と軽く扱うのでそれほどの重量ではない様に思えるが、実際にはかなりの重さを誇っていた。
その話の途中、テュカはチラリと扉へと目線を向ける。
しかし特に反応した様子は無かった。
そんなテュカに気付いたロゥリィが口を開く。
「大丈夫よぉ。ただ話をしているだけじゃぁあいつらは何もしないわぁ」
「そうなんだ・・・・・・」
そのことに一安心するテュカ。
いや逆に言えば感情が出てこない分油断が出来ないか、といつの間にかたくましくなった思考をしていく。
そんなことを考えていると、レレイがジーッとテュカの手元を見ていることに気付いた。
「どうしたのレレイ」
「それ」
「これ?」
テュカが手に持つ物をレレイに見せながら聞くと、レレイはコクコクと頷いた。
「これ、コウジュに貰ったの。あの子の一部みたいなものなんだって。でも、中を開けても何もないの。だから取り上げられずに済んだわ」
「アルヌスからずっと抱えていると思ったけどぉ、それでだったんだぁ」
テュカが抱えている物、それは小さめの段ボール箱だ。
片手でも十分持てるサイズの為、テュカはそれを胸に抱くようにして持っていた。
そしてその段ボールには、やはりというか“一条祭”と書かれている。
「でもいつものと違う。何故中身が無い?」
「さぁ・・・・・・」
しかし、レレイの言う通りいつもの一条祭りとは少し違った。
中身が無いのだ。
いつもの一条祭りならば蓋を開ければ混沌とした黒い何かが詰まっているかそれ以外の何かが詰まっているのに、今回に限ってはそうでは無かった。
これでは、ただ段ボールに字を書いただけのものでしかない。
彼女がそんなものを持っているのは、伊丹と共に日本へと行く際にコウジュがお守りとしてテュカに渡した物なので何故か安心感が在る為なのだが、現状ではただの空箱を抱える少女でしかない。
「それにしても、ここには女の子ばかりなのね」
「男は別の部屋らしいわよぉ。しかも全員縄で縛られてるとかぁ。女もこれで全部じゃなくてぇバラバラみたい。今の所は
テュカがふと思ったことを告げると、ロゥリィがそう返してきた。
その言葉に、テュカは顔を顰める。
日本ではそんなことは無いが、特地では捕まった捕虜が女であった場合、嫌なことに凌辱されるのはよくある事であった。
こちらでは捕虜に人権は無い。
それどころか、運が良ければ生き残れるが、そのまま甚振られて命を落とすことも多い。
そう考えていると、離れた所からヒィと涙声が聞こえた。
幼い声だ。
どうやら今の話が聞こえてしまったらしい。
テュカが目をやると、亜麻色の髪を胸の辺りまでの長さにした少女が頭を抱えて居た。
横には侍従服を着たヒト族のメイドが居り、少女を慰めている。
「ご、ごめんなさい・・・・・・。少し物騒な話をしすぎたわよね・・・・・・」
「い、いえ・・・・・・」
テュカが慌てて謝ると、少女は気丈にも顔を上げて涙目ながらも首を振るった。
そうすることで初めて顔を見ることが出来た面々は、漸くその少女の正体に気付いた。
「貴方はフォルマル家の・・・・・・」
「はい、ミュイ・フォルマルと申します。エルフ様」
そう名乗りながら涙をぬぐった後に笑顔を浮かべる儚げな少女。ミュイ・フォルマル。
つまり、彼女はこのイタリカを治める立場にある者だ。
ただ、年齢的なこともあり、お飾りである部分は拭えないが・・・・・・。
「私はテュカ・ルナ・マルソーよ。テュカと呼んで欲しいわ」
「ではテュカ様、私はミュイと・・・・・・」
「・・・・・・テュカで良いのに」
テュカにとって人間が用いる身分の違いというものは馴染みの無いものの為、ついいつも通りに話しかけてしまった。
しかしミュイにとってはそれが良かったのか、先程の怯えた表情は形を潜め、いつの間にか自然な笑顔となっている。
そのことにテュカも笑みを返すと、捕虜であるのにほんわかとした空気が漂い出す。
どうやら二人は本質的に似た性格のようだ。
メイドも、ミュイが立ち直ったのを見てミュイの後ろへと改めて侍ることにした。
そのことにミュイは少し寂しげにするも、すぐにテュカへと向き直り、話を続けた。
「皆さまはひょっとして、コウジュちゃんと共に来られていた方々ですか?」
「コウジュを知っているの?」
「はいっ! お友達です!!」
元気にそう告げるミュイに、部屋の者達は思わず表情を穏やかにする。
元気な子供の姿というのは、どの世界でも人を元気付ける素となるようだ。
「そうなんだ。じゃあ私もコウジュとお友達だからミュイともお友達だね」
「そうなんですか?」
「そうなんですよ?」
「そうなんですか!」
「そうなんですよー」
テュカの言葉に首を傾げるもテュカが笑顔でそう言うものだから信じるミュイ。
実はテュカも、コウジュがそんなことを言っていたから言っただけで、正確には『友達の友達は友達ってことでも良いと思うけど、ここはやっぱり名前を呼んだら友達って説を押したいぜぃ。魔王様が言うんだから間違いない』である。
だがそのお陰で二人は互いを友達認定したようで、フフフと笑い合っていた。
そんな感じにほんわかとした様子で話し合う二人を見て、レレイとロゥリィは温かくなった部屋の空気を壊さない様に、部屋の隅で作戦会議を始めた。
そして暫く、テュカとミュイの会話は続き、そういえばとミュイは懐からある物を出した。
「あの、テュカさん。これってなんて書いてあるかわかりますか?」
「それってコウジュのカード・・・・・・よね?」
「はい。身の危険が迫った時に読むと良いって仰ってくれていたのですが、私には読めなくて・・・・・・」
悲し気にそうミュイは言うが、読めないのは仕方のない事だったりする。
何せ書いてある文字は日本語なのだから。
コウジュが実験途中で出来たものを何となくで渡した物だったので、言語の事などすっかり頭から抜けていたのだ。
「あ、これ日本語だわ。確かにこれじゃあ読めないかも。漢字だし。えっと・・・・・・」
ミュイから受け取りテュカも読もうとするが、コウジュの厨二力が存分に発揮され、テュカがまだ習っていない漢字が最初から使われていた。
その為、カードを見ながら難しい表情をするテュカ。
むむむ、と悩むも習っていない物はどれだけ考えても分からず、ついにはギブアップしてしまう。
なので返そうとミュイにカードを差し出そうとすれば、そのカードを、ひょいと取られてしまった。
「え?」
誰が取ったのかと目線を向けると、テュカは思わずそんな声を出してしまった。
カードを取ったのは、テュカが持っていた段ボール箱だったのだ。
ミュイと話をする為に一旦箱を横に置いたのだが、そこから伸びる黒い触手の様な物がカードを器用に絡めとりプラプラと把持していた。
そしてそれを―――、
「ああ!!!」
ミュイが声を上げて驚く。
カードが食べられてしまったのだ。
対する段ボール箱も、まるで咀嚼するかのようにカタカタと揺れる。
「あ、あれ!? 待ってミュイちゃん! 泣かないで!!」
コウジュから貰ったお守りが意味の分からない物体に食べられてしまいまたしても涙目になるミュイ嬢。
それにテュカは慌てて慰めようとするも、しかし消化され切る前に何とか取り戻した方がいいのか、いやそもそもさっきまでただの箱だったのに何で!? と混乱してそれどころでは無かった。
だが、ミュイが本格的に泣き出すよりも早く、段ボール箱はやることをやり終えたようだ。
「うぅ、あ、あれ、戻ってきた・・・・・・?」
「でも、色が違うわよね?」
カタカタと揺れるのを止めた段ボール箱は、ペッと何かを吐き出した。
それは先程と同じカードで、ただし色が変わっていた。
カードの色は――――、黄金だった。
「あれ、さっきまでのものと違って今度の文字は何故か読めますよ?」
「ホントだわ。漢字なのに簡単に理解できる。えっと・・・・・・」
二人してカードを持ち、書かれている文字へと目をやった。
「「呼符?」」
言うと同時、二人の前に目を開けていられない程の光が発生した。
いかがだったでしょうか?
前話では中々に厳しいご意見を頂きましたが、皆様から頂いた感想を見ているとどうしてもしたくなったことが出来てしまい、それを無理やりに盛り込んだのもあって違和感が強くなったのだと思います。
そしてやりたいこと第一弾が今話の最後のアレです。
みんな大好き、チケットです。
カードを渡す下り自体はゲート編stage13で盛り込んであったのですが、色々やっていたり、頂いた感想を見ていたりすると、つい盛り込みたくなってしまい今回の様になりました。申し訳ないです。
まぁつまり、感想の返信では呼ばないと言っていたのに、呼ばせて頂くことにした訳です。
そして、何をどうやっても各国は呼べなかったのに呼べる理由、それは次話辺りで入れようと思います。これも他の部分で使うつもりだった仕込みなのですが、少々無理矢理ですが使うことにしました。
あ、あと、今回中国の行動に関して少し盛り込みましたが、次回なんであの様な無茶な行動を取ったかの根本的な理由を入れるつもりです。
さすがにナチュラルにあんな行動を取った訳ではないので、それについて納得していただけると・・・良いなぁ・・・(遠い目
さてさて、それでは最後の部分で誰が来るのか等気になるとは思いますが、また次話でお会いしましょう!!
ではでは!!
P.S.
頼光さんが牛すぎて困る(意味深
とりあえず酒呑童子ちゃん茨木童子ちゃん頼光さんと型月さん頑張りすぎだと思います!!(もっとやれ
あ、金時ライダーはほんと笑いましたwww
確かにライダーだけどw ライダーだけどwwww
P.S.2
PSO2に関してですが、幸子さんも飛ぶってよ(大和に続き
アークスに関わったら何でもかんでも自由になっちゃうのはどうして!?