初平二年春正月、『空海散歩 初平二年春の書』に記す。
かつて高祖劉邦は長安に悪竜を封じていた。この話は、およそ四百年後から始まる。
大陸に民の怨嗟の声が満ち、黄巾によって司隸にまで多くの血が流れた。
古に封じられた悪竜は怨嗟の声に共鳴してこれを破る。
悪竜は全長一万尺、体重一千万石。最終形態の戦闘力は五十三万ほどもあった。
悪竜は長安の地より天に昇ろうとするが、洛陽の現帝が人柱となってその身に封じる。
しかし、現帝はその身体を乗っ取られて悪事を働き始めた。
董卓と、かの者に仕えていた賈駆、呂布。
董卓は身体を取り戻すために長安へと向かおうとした悪竜に遭遇し、言葉巧みに洛陽へ導き反撃の機会を窺う。
悪竜は袁隗を操って先帝を殺害しようとするが、能弁な賈駆が袁隗に璽綬を解かせ、下殿させて臣と称させて逃がした。
悪竜が洛陽を乗っ取ると、指示に従うふりをしながら悪竜の目を誤魔化して董卓が善政を敷き、賈駆は劉協に宿った悪竜を討つべく諸侯に協力を求めた。
悪竜の目を欺くため反董卓連合という名で集まった諸侯。劉表、袁紹、袁術、公孫賛、曹操、空海の誇る将兵。
馬超、華雄の守る汜水関で一騎打ちを演じ、華雄を破った趙雲。
呂布、馬超の守る虎牢関で一騎打ちを演じ、引き分けた張遼、趙雲。
関を抜け、連合軍は洛陽に迫る。
賈駆は戦が大いに勝っているかのように装い、連日のように宴を開き、ある時ついに悪竜を酔わせることに成功する。
そして劉表によってもたらされた神仙の水を浴びた帝は目を覚まし、その体から悪竜を追い出した。
洛陽の東に暗雲と共に巨大な影がわき出る。
にわかに生温かい風が吹き、雹が降り注ぎ、雷鳴が轟いた。
悪竜は天へと昇ろうとする。しかし、空を覆うような矢の雨がその行く手を阻む。
袁紹が呼びかけ、劉表が導いた連合軍の攻撃。
後ろへ引いて逃げようする。しかし、悪竜の行く手を、またしても矢の雨が阻む。
陳宮が導き、華雄に率いられた董卓軍の攻撃。
悪竜は身をよじり暴れる。
その身に斬りかかるのは飛将軍、呂布。天下無双の武で鱗を裂き血が噴き出す。
劉の旗、袁の旗、曹の旗、公孫の旗、馬の旗、江陵の旗、董の旗、名だたる諸侯が悪竜を取り囲み、その囲いから一騎当千の将たちが竜の前へと躍り出る。
白馬に跨がる趙雲と張遼が竜を手玉に取り、鼻先を駆け回って髭を落とす。
馬超が槍で突き、夏侯惇が大剣で斬りつけ、夏候淵が弓で居抜き、顔良が鎚で砕き、文醜が、公孫賛が、関羽が、張飛が、孫策が、華雄が、それぞれの武器を手に悪竜を打つ。
一刻が過ぎ、雷鳴が減った。
二刻が過ぎ、雹が止んだ。
三刻が過ぎ、ついに悪竜が地に堕ちて暴れるだけになった。
趙雲がその頭に駆け上がり、槍で額を貫く。
竜の断末魔と共に大風が吹き雷が落ちた。趙雲は雷を弾きながら引いた。
呂布がその頭に駆け上がり、首を落とす。
雨のように血しぶきが上がり、呂布は返り血で真紅に染まった。
空が晴れ、呂布を照らし、趙雲を照らし、将たちを照らし、諸侯の兵士と旗を照らし、やがて洛陽一帯の雲が消え失せた。
洛陽に平穏が戻った。
董卓の活躍まさに蕭何のごとく。
賈駆の活躍まさに張良のごとく。
呂布の活躍まさに韓信のごとく。
帝は皆の活躍を大いに称え褒美を与える。
しかし、諸侯が領地へと戻ると、董卓とその部下たちは高祖劉邦の轍を踏まぬために、官を辞して旅に出ることを願い出た。
帝は大いに悲しみ引き留めるが、董卓らの決意固く、ついにはこれを認めた。
董卓たちはやがて大きな街へと辿り着き、そこで穏やかな日々を送ったそうな。
これは初平二年春正月に、洛陽で本当にあったお話。
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「これを来年の正月
(竜) < わたしの せんとうりょくは 53まん です
>全長一万尺、体重一千万石、戦闘力五十三万
長さ2.3㎞、体重26万7300トン、個体値5V。
>初平二年春正月辛丑。
史実では西暦191年。この日、献帝が大赦して(大いに罪を許して)います。
この小説では11年後くらい。日付のルールとか違ってたらごめんなさい。
明日、5章完結です。