無双†転生   作:所長

2 / 36
0-0 序章

「脱げ」

「……は?」

 

 目の前の黒髪超絶美人がいきなり脱衣命令をして来た。クレオパトラと仮称する。

 っていうかここはドコd

 

「二度は言わぬ」

 

 そう宣言すると同時に俺は両脇を白いドレスのような服を着た金髪美女たちに捕まれて服を脱がされにかかる。

 え? この人たちどっから現れた?

 

「……はっ! いやいや待て待て待てーい!」

 

 なんとか金髪美女――アリスと仮称――を振り払って自らを抱き寄せることか弱き少女のごとし。

 

「誰が脱ぐか! っていうか何で脱がせるの! 意味わからん」

 

 アリス(仮)は困惑したようにクレオパトラ(仮)を見るが

 

「……やれ」

 

 Oh……

 

「ふぉおおおおおお! 必殺ダンゴムシ拳!」

 

 説明しよう! ダンゴムシ拳とは――

 ガシッ

 あ、やべ

 

「脱いでたまるかァ!」

 

 苦節6ヶ月! 家族にも友達にも内緒でいきなりマッチョになって動画サイトに裸体を晒そう計画も残すところあと1週間! 皆様いかがお過ごしでしょうかい避!

 

 ビリッ

 アッー!

 

「く、くそっ! どこの誰とも知れぬ輩に未完成俺のマッチョな上腕二頭筋を晒すことになるとはなんたる不覚! だが! それでも! 守りたい筋肉があるんだあああー!」

 

 ガシッ

 あ。やだアリス(仮)ったら積極てkそうじゃない!

 

「あと1週間! あと1週間、秘密筋肉を守り通せばその後は晒す! だから見逃してくれ!(あとメルアド交換してくれ!)」

 

 ビリビリー。やめて!

 

「ら、らめぇー!」

 

 アリス(仮)に無理矢理脱がされてクレオパトラ(仮)に裸体を晒す俺。

 

「しくしくしくしく……」

 

 未完成のマッチョを対価にしてもクレオパトラ(仮)たちのメルアドを知ることすら出来なかった。体脂肪率2%切ってるから目から溢れるオイルも1㎏しか流せまい。いっそのこと全部流してしまおうか。

 っていうか

 

「ここはドコだ」

「脱ぐ前に気付け」

「気付く前に脱がせるな」

 

 上も下も真っ青である。秋の空のように深い蒼。まるで空に浮いているかのようだ。足下も青しかないけど。あの世か! そしてアリス(仮)はまたどこかに消えてた。

 

 とりあえず練習していたポージングを決める。クレオパトラ(仮)には背筋の盛り上がる様子が見えているだろう。

 

「ヌシは死んだ」

「……ふぅ~、フッ! マジで」

 

 ゆっくり振り返ると、腕をまっすぐに伸ばし、前腕の筋肉を盛り上げる。クレオパトラ(仮)の視線は大胸筋から腕の先へと向かう。視線が握り拳まで向かったところで、拳で視線を掴んだまま腰の前で手首を交差させる。腕、腹、胸の筋肉がギュッと引き締まり、僧帽筋が大きく盛り上がった。

 

「う、うむ。マジだ」

 

 あー、やっぱ死んでたか。あんまり親孝行出来なかったなー。

 

「すぅ……ハァッ! ではここは死後の世界か?」

 

 身体をひねり、上腕から肩にかけての筋肉を見せつける。肩越しに窺えばクレオパトラ(仮)は少しばかり頬を染めているようだ。さすが俺の筋肉。

 

「そうだ……ハァハァ」

 

 死後の世界か。好きな色に囲まれているのは幸せなのかもしれないな。

 

「フウゥゥ……すぅ、フン! 俺の死因は何だ? 思い当たる節がない」

 

 腕を押し上げるほどに膨らんだ広背筋がクレオパトラ(仮)を誘う。

 頬を赤く染めたクレオパトラ(仮)の目が潤み――

 

「ごめんなさい」

「……言えないような死因か?」

 

 それも事情を知る他人が涙しちゃう程の。

 振り返った瞬間にその勢いで頸椎骨折してたとか。それは貧弱すぎて可哀想だ。

 

「ちっ、違うのだ! 死因は心臓麻痺なのだ! だが、その……」

「だが、何だ?」

 

 大胸筋を揺らしながら待つ。もしやこんなことしてるから心臓麻痺になるのか?

 

「あぁ……ああっ……! それは私が、その――ハァハァ――殺してしまって」

「うん? 心臓麻痺なのに殺されたとはどういうことだ」

「えっと、だから――ハァハァ――私が、心臓麻痺にして殺したのだ!」

 

 で、デスノ――ゲフン! 詳しく話を聞けば、面白い人間、つまり俺を見かけて観察していたが、一週間後に迫ったネタバレの日を前に殺せばどんな反応をするのか気になり実行したとのこと。

 あー、やっぱりこの女性(ひと)は神様か? いきなり脱がせたのは事情を知っていたからなんだな。納得した。

 

「ぉ、怒らないのか?」

「え? あー。んー。これを言うと自虐っぽく聞こえるかもしれないんだけどさ」

「ああ」

「俺って、俺の都合でアリを拾い上げたり潰したりしても、アリの気持ちなんて考えないと思うんだよね」

「神と人の関係が、それにあたる、と?」

「関係というか、考え方がね」

「……うむ。よくわかっている。人と神の距離はそんなに近くはないが、構図はまさしくその通りだ」

 

 やっぱり神か。雰囲気凄いもんな。オイルを流しきっていなかったら黄金の流動体で出来た紳士の魂を漏らしていたかもしれないね。友達や家族に自慢できないのは残念だ。

 

「それで、俺の死には(たのしんで)意味があった(もらえた)かい?」

「……それは……」

 

 聞けば、自らの死を理解しているにも関わらず薄暗い感情を持たず、目の前の観客を楽しませよう、あとどのくらい楽しませてあげられるのか、遺してきた友人家族への感謝と謝罪、滅私の感情を覗くに至って強い後悔の念にとらわれたとのこと。顔に出てた?

 あとついでに惚れたとのこと。

 

「……惚れた?」

「先っちょだけ」

「メルアド交換してくれ!」

「携帯電話を持ってない」

「そういえば俺も持ってないな」

 

 部屋に置きっぱなしである。諦めて話を聞く。

 これから俺は「どうしたいのか」を選ばなければならない。クレオパトラ(仮)が示した選択肢は三つ。

 

 一つ、生き返る。一度死んで生き返った人間として生きる。これはないな。ある日突然マッチョ(突マ)がかすむ程のインパクトになってしまう。っていうか生きづらいことこの上ない。みんなには悪いが、もう一緒に生きることは出来ないだろう。

 二つ、神になる。超新星爆発を起こす程度(また垣)の能力とか手に入るとか。オススメらしい。いやこのオススメは私情入ってるだろう。多分このクレオパトラ(仮)自身が神で、惚れたから一緒にいてくれって意味なんだろうが、これもあまり選びたくないな。

 三つ、記憶を持ったまま生まれ変わる。転生や半トリップを選べるらしいが、ある程度の年齢でもって誕生する半トリップ型であっても世界的には一から生み出されることになるらしく、過去を持たない人間となるらしい。

 

「言っちゃ悪いんだが、遺してきた友人家族に俺が返すはずだった分くらいの幸せを返しつつ俺自身は死ぬ、というような選択肢はないのか?」

「う……。幸せを返す、となるとな。ヌシが死んだ途端に今までよりも幸福になってしまうワケでな?」

「ん? あぁー。俺が疫病神だった、みたいに思われるかもしれないのか」

「うむ……」

 

 そんなこと言われても死んでるものは死んでるしなぁ。

 

「まあ、それでもいいや。なるべくいっぱい幸せにしてやって欲しい。出来るか?」

「……良いのか?」

「『二度は言わぬ』――だったか?」

 

 少しおどけてみせると、クレオパトラ(仮)も柔らかく笑う。

 

「わかった。任せよ」

「頼むよ」

 

 

 

 それから少しだけ会話し――やがて、覚悟が決まった。

 

「よし、じゃあ逝くか」

「え?」

「んー、名残惜しくはあるが、そろそろ死んでも良いかなと思ってね」

 

 これを聞いたクレオパトラ(仮)が慌て出す。

 

「待て! 待ってくれ!」

「ん?」

「ヌシは死にたいのか!?」

「いや?」

 

 何を言っているんだ?

 

「ならば何故『死ぬ』などと口にするのだ!」

「何故って……幸せを返して俺自身は死ぬ、という選択をしたつもりだったんだが」

 

 認識の齟齬があるらしいな。

 

 

 

 どうやら先に幸せを返した件はクレオパトラ(仮)の謝罪のつもりだったようだ。言われもしないのにそんなのわかるか! と指摘しただけで彼女は涙目である。弱すぎる。

 彼女は「勝手な言い分ですまないが」と前置きし

 

「ヌシには生きて欲しいのだ」

「ホントに勝手だな!?」

「うぅ」

 

 またしても涙目である。

 あ。泣いた。あーあ、泣ーかしたー。

 

「あー。ほら泣くな」

 

 涙をぬぐってみる。

 

「勝手な言い分だとは思うさ。だが、怒ってもいなければ、恨んでもいない。もう返して貰ったしな(ちょっと呆れたけど)」

「――グスッ」

「わかった。生きることにするから泣くなって。ほらっ」

 

 そう言って手を差し出して腕の筋肉を見せつける。クレオパトラ(仮)の目は釘付けだ!

 勢いで決めちゃったけど、まあいいか。とりあえず情報収集から始めよう。

 

「で、転生っていうのはどういうトコに生まれるんだ?」

 

 出来たら日本がいいなぁ。それも近未来の東京。徒歩通学が出来る小中高大学と自転車通勤が出来る会社が揃ってる裕福な家庭がいい。ついでにお金持ちで性格の良い美少女の幼なじみが2-3人いて

 

「贅沢すぎるわ!」

 

 突っ込まれた。やべ、具体的な条件が顔に出てた?

 

「やだなぁ、冗談じゃないか。さすがに東京は諦めるよ」

「そこじゃない!」

 

 違ったらしい。妥協してサイタマでも良かったんだが……。

 

「そもそも同時代、あるいは未来には生まれられぬ」

「何ィ!? ……まあいいか」

 

 とりあえず平和な時代で美少女幼なじみが居ればいいや。

 

「それどころか同じ世界には生まれられぬ」

「何ィ!? ……まあい――いや良くない! 青い肌の両生類系女子(あるいはメス)と幼なじみとかは断固拒否する! じゃあ昆虫系はどうかって? いやだよ!」

「落ち着け」

 

 落ち着いた。よく考えたらネコミミならいいじゃん。

 話を聞いてみると、どうやら行ける『世界』というのはおおよそ決まっているらしい。

 ちゃんとした人間もいるが、俺たちの住んでいた世界とは別の歴史、あるいは似たような歴史を刻む別世界ってヤツだそうだ。

 そんなものがあったんだな。ちょっと驚いた。

 

「そういうコトは先に言えよー」

「先に言わせろよ?」

「ごめんなさい」

「ではどのような世界に送るのか、あるいは私付きの神になるのかを決めようと思う」

「後半なんかダダ漏れですよ」

「いくつかの質問に答えて貰う!」

 

 好きな女性のタイプは? 賢い黒髪の人と答えたらもの凄くアピールしてきた。やめてよね。頭悪く見えるでしょ。

 好きな三国志武将は? 張遼。戦国武将だと――え? 戦国武将いらない?

 好きな三国志の国は? 魏。なんで三国志?

 好きな三国志ゲームは? 無双。三国志強調しすぎだろ。

 好きな三国志武将の出身地は?

 

「ねぇよそんなもん! 三国志の世界か! もしくは三国志に似た状態の世界か!」

「hai」

「さすがにそれは死ぬでしょう?」

 

 死亡フラグ満載過ぎて過積載である。

 だが普通の人間がいそうで良かった。2千年前の人間って骨格から違いそうだけど。

 

「私付きの神になってもらってもいいんじゃよ?(チラッ」

「あ、何か嫌いになってきたかもしれない」

「(ビクン)」

 

 じと目で見つめることしばし

 

「そ、そうだ! 転生に当たって能力の特典をつけよう! (テン)プレゼントだ!」

「うん? 何か不穏な言葉が」

「キノセイデース」

「わかりました」

 

 わかるー。大人の事情だよねー。それにしても能力か。

 

「じゃあ王の財宝――王の財宝ってなんだ?」

「えっ」

「えっ」

 

 違うんです。口が勝手に動いたんです! ほんとうです!

 

「……」「……」

 

「やり直していいですか?」

「構わぬ」

 

「じゃあ近未来東京を再現できる能力を」

「遠回しに神になりたいと言っているんだな?」

「おとこわりします」

 

 ダメか。町田を南蛮ってことにして浦安は東京に含めてもいいと思うんだが。奥多摩は五胡で千葉は高句麗だな。

 うーん。どうやって近代社会を再現するか……。上下水に摩天楼、道路……そうだ!

 

「じゃあ土木工事をスムーズに行える知識や能力と、保険として乱世の荒波を乗り越えられる丈夫な身体をいただきたい」

 

 器用な指先とか病気になりづらい身体とか柔軟な関節や筋肉とか!

 

「ふむ――(ニヤリ)――いいだろう。丈夫な身体と土木工事に向く力を与える!」

 

 あれ? 何か喜ばせる要素があった? まあいいか。

 

「あ、半トリップだっけ、大人の姿で頼むよ」

「わかっておる」

 

 おっけー、これで子供時代に死ぬコトは回避出来た! あれ? でも、もしかして世界的には生まれたばかりって事になるのか?

 見た目は大人、頭脳も大人、実年齢だけ子供! みたいな。……まあいいか。

 

「それじゃあ、お礼に――コレを」

 

 逆三角形の上半身をこれでもかと見せつけるとっておきのポーズで感謝を示す。

 

「ぉぉぉ……! ハァハァ――(ゴクリ)」

 

 フフフ、どうやらこちらの謝意を存分に受け取っているようだな。

 

 三国志時代。死亡フラグ過積載の時代である。身動きすら取れない乳児時代から死亡フラグに晒される生活は遠慮したい。幸いにも戸籍がはっきりしないだろう時代でもあるので、突然大人として出現したところで大きな問題にはなるまい。

 どこかの川の近くに送り出して貰えばいい。水は丈夫な身体で何とかなるだろうし、川から土木工事の能力でいくらか水を引いてヤナ場を作ってしまえば食べるのには困らないだろう。

 

 

「ところで三国志の登場人物名なんてあんまり覚えてないから、何て名乗ったら不自然でないのかわからないんだ。そこで、だ。転生後の俺に名前を付けてくれないか?」

 

 クレオパトラ(仮)は一瞬きょとんとした後、にっこりと笑って頷いた。

 

「名を空海。真名を天来(てんらい)と名乗るが良い」

「まな?」

 

 聞き覚えのない単語が出てきた。

 

「身内やかなり親しい間柄でのみ使用する名前だ。許しを得ずに呼ぶことは大変な失礼にあたると理解しておけ。空海も正確に言えば法名……まぁ『号』と言えば良いだろう」

「なるほど。そして一つ言わせて欲しいのだが、空海は日本人僧侶の名前だよね」

「価値観の違う現地人と同じ様に名乗って疑われない自信があるのか?」

「ないです(キッパリ)」

 

 確かに流行りの漢詩とか聞かれても答えようが――

 

「そういえば言葉が通じない!」

「それは心配せずとも良い。ちゃんと言葉の通じる場所(・・・・・・・・)だ」

「おお、助かった!」

 

 その他、いくつかの注意事項を聞く。一つ、知らない男の人にホイホイついて行かないこと。二つ、知らない女の人にホイホイ真名を許さないこと。三つ、利率3%を超える国債に手を出さないこと。あとは好きにやれ。

 何とか守れそうな項目ばかりだ。

 ちなみにこれだけ守っていればまず痛い目には遭わないとのこと。

 あれ? 三国志ってそんなヌルかったっけ?

 

 何はともあれそろそろ話も尽きたようだ。

 最後に出現場所の要望を伝え終えれば、あたりは静寂に包まれた。

 

「……ではな、空海。空の果てと、海の果てとを別ける者よ」

「そんな大げさな意味あったの!? あ、そういえば貴女の名を聞き忘れていたが」

「私の名は天照。日の本をあまねく照らす者だ」

「超大物じゃねぇか!」

 

 だが言われて見れば小雪っぽい日本人で通るような顔つきではある。

 天照はその端正な顔を笑みの形にして、告げた。

 

「では、また会おう(・・・・・)

 

 ん? また(・・)

 疑問を口にする前に、俺は『外』に立っていた。

 

 青い空、どこまでも広がる大地、見下ろす先にある大河――

 

 そして

 

 

「あー。あんにゃろ……やりやがった」

 

 力の使い方が脳裏に浮かぶ。

 その名称も。

 

 

 

 

 天地を開闢する(土木工事を行う)程度の能力

 種族:神

 

 

 

 

 どうするんだこれ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。