【習作】日本帝国×日本国(マブラブ Muv-Luv) 作:門前緑一色アガり鯛
・この小説に登場する「自民党」とは「自由民主主義党」という架空の政党の略称であり実在する「自由民主党」とは一切関係ありません。
この小説に登場する「民主党」とは「民主主義党」という架空の政党の略称であり実在する「民主党」とは一切関係ありません。
この小説に登場する「社民党」とは「社会民主主義党」という架空の政党の略称であり実在する「社会民主党」とは一切関係ありません。
この小説に登場する「共産党」「日本共産党」とは「日本共産主義党」という架空の政党の略称であり実在する「日本共産党」とは一切関係ありません
2001年(平成13年)は21世紀最初の年であった。
そうつまりは、新世紀の幕開けであった。
しかし、時間の流れと早いもので、読者諸兄にとっては、もう10年以上前の事になる。
一時は全面核戦争勃発の恐れさえ孕んだ冷戦は20世紀末にマルタ会談をもって終結し、そしてそれから間もなく東側諸国の雄であるソビエト社会主義共和国連邦は内部から崩壊し、その69年間の歴史に幕を閉じた。
約半世紀に渡るイデオロギー戦争の終結を経て迎えることになった新世紀は、フランシス・フクヤマ氏著「歴史の終焉」が示すように人類にとって安定したモノになるかと思われた。
しかし、そうはならなかった。
9.11テロにより唯一の超大国としての威信を傷つけられたアメリカによる出口の見えない対テロ戦争の始まり・・・それ以上のものが・・・やってきたから。
新世紀21世紀はその幕開けから人類にとって前途多難なものとなった。
この物語はフィクションです。実在の人物、団体とは一切関係ありません。
歴史上の人物(WW2以前の故人)はだします。
2001年(平成13年)12月25日 日本標準時午後2時20分 日本国新潟県佐渡島
佐渡島は、人口約6万人の新潟県西部に位置する周囲262.7kmの島であり、その面積は本州などの日本列島の主要4島を除く日本の島の中で沖縄本島に次ぐ二番目の面積を持つ855.26km2である。
その佐渡ヶ島には10の市町村が点在しているが、その何れも近年過疎化が著しい日本全国どこにでも見られる地方の光景であった。
そして、その日も佐渡島は東京・大阪・名古屋などの世界有数の大都市と同じ国内に在りながら、その対極をなす風景を見せていた。
そもそもこの田舎の離島だけでなく、日本自体が戦後長らく平和の中にあった。安穏の中にあった。
強いて例外を挙げるならばベトナム反戦運動、学生運動、赤軍テロ、安保闘争ぐらいだろうが、しかしそれを含めても日本の対外的平和と国内の治安良さは諸外国と比べて目を見張るものがあった。
しかし、その平穏は唐突に終わりを告げることになる。
それは何の前触れも無く起きた。
午後2時20分、佐渡島の空に黒い光を放射する球が現れた。
突如として発生したそれは瞬く間に四方八方上下へと膨張していき佐渡島とその周辺海域更をも飲み込んだ。
発生から島全体を飲み込むまでの膨張はわずか一秒にも満たない時間だった。島民たちは自分に起きた事実をまともに観測することすら出来なかった。
膨張が限界に達すると轟音の後、黒い球体は一気に発散していき完全に消滅した。
そしてそこには何も残っていなかった。
2001年(平成13年)12月25日 日本標準時午後4時40分 東京 首相官邸
緊急閣議が開かれていた。
佐渡島消滅。
その知らせが首相大泉純一郎の元に届いたのは数刻前。
その知らせを聞いた時、大泉は意味がわからなかった。
佐渡島が、島が消えている?
そんな馬鹿な事が有るものか!
島だぞ、一体どれほど質量があると思っているのだ!
何かの間違いではないのか!?
連絡をよこした秘書官に何度も確認と説明を求め、段々と落ち着いていく表面上の態度とは裏腹の未だ混乱し続けている思考で大泉はそう思った。
とにかくやるべき事を、首相としてのすべき事を成さねば・・・・
執務室の椅子に腰を掛け、緊急閣議の招集をかけるべく受話器を取ったのだった。
閣議は原則として非公開であるが、閣議開始前に集まった閣僚たちが報道陣の撮影に応じることは多々ある。
しかしこの日は、早くも佐渡島の一件を嗅ぎつけ始めた各メディアを早々に閉め出して行われた。
そして、各所からの報告を全員で一先ず確認することから閣議は始まった。
確認された報告の要点は以下の通りだった。
・本日、日本標準時午後2時20分頃、佐渡島の妙見山(標高1042m)の山頂にある日本海空域を監視する自衛隊のレーダーサイトからの通信が途絶
・レーダーサイトが何らかの攻撃にさらされた可能性があるとして佐渡レーダーサイトの管轄である航空自衛隊中部航空方面隊小松基地から直ちに戦闘機のスクランブル発進が行われる。
・佐渡島上空へ向かった編隊から、佐渡島をレーダーでも肉眼でも観測できないとの通信が入る。
・2時20分以降新潟県沿岸部及び石川県能登半島の一部市町村からの「海で黒色の大爆発が見えた。」、「大きな爆発音がして衝撃でガラスが割れた」、「佐渡島が見えなくなった」等の110通報が相次ぐ。
「島が消えるとは俄には信じがたい話ですな、総理。」
最初に口を開いたのは、村田 仁(むらた じん)国家公安委員会委員長兼、防災担当大臣だった。
「私とて自分の耳を疑った。だが現にレーダーでも目視でも観測できなかったと報告が上がっている。」
「計器の故障ということも・・「それはあり得ません、村田さん。」」
あくまで何らかの間違いによることではないか?という可能性を探る村田。
そこに中山 元(なかやま げん)防衛庁長官が割って入った。
「スクランブル発進した戦闘機すべての計器が不具合を起こすなどありえないことです。
航空自衛隊の各航空方面隊は24時間いつでも5分以内にスクランブル発進可能なよう整備万全の体制を整えているのです、整備不良なぞ起こるはずがありません。」
現代の航空機の速度は速い。
そのため航空戦においては、戦闘における初動対応が局地的な戦闘の勝敗に留まらず戦争の帰趨まで決してしまう可能性がある。
だからこそスクランブル発進は何よりスピードが命、レーダで領空侵犯の可能性がある外国機を発見し次第速やかに発進しなければならないのだ。
いちいち指令を受けた後に、一から整備を行い発進していたのでは間に合うはずもない。
アラート任務に就いている戦闘機は、最短で発進できるよう随時滑走路手前の誘導路かアラートハンガーで整備済みの状態で待機しているのだ、その機体が一機ならまだしも複数機が同時に不具合を起こすなど有り得ない、有ってはならない事態なのだ。
「それに百歩譲って、計器の故障があったとしても肉眼で確認できなかったことは説明できません。冬至を迎えて数日とはいえ、スクランブル発進があった午後2時はまだ十分に明るい時間帯です。」
「それは・・・・・」
今年発足した大泉内閣で、史上最年少で防衛庁長官に抜擢された中山、しかも史上初の防衛大学校卒元自衛官の防衛庁長官ということで左派から反発を受けた、に反論され言葉に詰まる村田。
20以上も歳の離れた大先輩である村田に慇懃な口調といえども、このように食って掛かれるのは、中山の若さが為せる業か。
「私が思うに一番現実的な可能性は、地震による海底への沈降であると考えます。
佐渡島は日本海に走るユーラシアプレートと北米プレートの境界線上に位置している上、その境界線に並行する活断層も確認されています。
それでも目撃された黒色の爆発や大きな地震が観測されていないことなどは説明がつきませんが、島が消失したという観測が事実であると仮定すれば、コレが一番妥当な結論かと考えます。」
自分の意見を朗々と述べる中山を、参院の重鎮にして、前・森吾朗内閣の中央省庁再編を受けて発足したばかりの総務省のトップ総務大臣を務める片岡虎之助が制して述べる。
「そのあたりは専門家の領分だよ、中山君。
我々がここに集まって成すべきことはこの非常事態にどう対応するかを決定することだ。
そのために今必要なのは、極端に言えば事実か否かの判断とそれに対する対策だけであって、原因の究明では無いよ。
私としては、島が消失した事は事実であると判断するに妥当かと考えますが、如何ですかな総理?」
若さを御した片岡が総理に判断を仰ぐ。
閣僚の視線が大泉に集まる中、大泉は一呼吸おいてから話し始めた。
「自衛隊及び警察からの報告から判断して、佐渡島消失は紛れもない事実だ。
今からその対策を検討し、それと並行して専門家・有識者を召集し事態の原因究明に当たらせたいと思う。
異存のある者はいるか?」
・・・・
沈黙が室内を支配した。
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その後、以下のことが決定された。
現地調査として直ちに舞鶴の海上自衛隊艦艇を派遣。
準備が整い次第、海洋科学技術センターの海洋調査船も派遣し周辺海域の海底のデータ収集に当たらせる。
1月の通常国会開会を待たず、臨時国会を招集する。
新潟県沿岸部の市町村・石川県能登半島沿岸部の一部市町村に避難勧告を発令、委員会での検討如何では避難指示への引き上げも行う。
午後6時から総理が記者会見を開き公式発表を行う。
昨日までクリスマスイブで浮かれ騒いでいた、日本いや世界は、この日12月25日を境に新た世界との接触が引き起こす激流に飲み込まれていく事になる。