十傑集が我が家にやってきた!   作:せるばんてす

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少年は休みを満喫する

 

 

 何の変哲もないアパートに続々と十傑が集結しつつあった。混世魔王樊瑞の突然の招集に疑問を抱きつつも幽鬼は民家の屋根を駆ける。その姿を見れば一般人が騒ぎそうなものだが、あまりにも素早く音も立てずに動いているので誰一人目を止める者はいない。

 

 

アパートには既にレッドを除く全員が集まっていた。樊瑞はこちらを見やると号令をかける。

 

「各々方よく集まってくれた! 急な招集で疑問に思っているだろうがまずはこれを見てほしい」

 

 樊瑞の手には十傑集が一人、命の鐘の十常侍の武器。命鈴鐘がそこにあった。ハンドベルのような見た目のそれとは違い、命その物への共振作用を増幅させる恐ろしい宝具だ。その命鈴鐘は樊瑞の手から宙に浮くと真昼だというのに部屋の中は薄暗くなっていく。それだけに留まらず古びた照明の下に

映像を投影し、やがてそれは人の姿へと変化していった。

 

「おおぅ、孔明」

 

からし色のスーツを着たBF団の策士は映像越しのこちらの様子を慮って軽く一礼した。

 

『十傑集の皆様はお集まりですか? ――そう、それは結構なことです。まずは突然の転移に大変驚きだったことでしょう。私の予想では生存が困難な宇宙空間や深海に突然飛ばされるといったことはないでしょうから、おそらく皆様方が無事だと信頼してこのようなメッセージを残させて頂きました』

 

「さすが策士孔明。まさに驚きだな」

 

 十傑集であろうとも肝心の計画の要を通達しないで作戦を進行させるのは実際かなりの不満だが、それすらも計画の内では? と思わせる辺り孔明の策謀への信頼は強い。事実彼の言葉を信じるなら十傑集が生きて同じ地にいるのを想定している節がある。

 

「十常侍殿のおかげでなんとかそちらと連絡が着きましたが、あまりにも遠方な為事実上この一度が最後の連絡だと思って頂きたい。よろしいかな?」

 

 皆自分たちの行動が孔明に届くはずは無いと理解しながらも首肯する。案の定孔明はこうした自分たちの行動を予期したのかよろしいと頷いた。

 

「さて。私が予想するに貴方達が転移した先には我らのよく知る御方がいらっしゃると推測します」

 

思わず唾を飲み込んだのは幽鬼だけでなく、部屋に集う十傑全員であろう。

 

「何故それを?」

 

 最年長である激動の爺様が小さくぼやく。その言葉さえも予期していたかのように孔明はしたり顔で笑った。

 

『十傑集の皆様の疑問も無理はない。しかし考えれば直ぐにわかることです。いやそれ以外考えられないというのが正しいですが、この際それはどうでもいいことでしょう。改めて、皆さん疑問に思われませんか? 今回の事件の犯人を』

 

――確かに

 

 幽鬼は思案顔で俯く。一番可能性としてはBF団の宿敵である国際警察機構の手の者による仕業が高い。しかしあの時十傑集がペンタゴン地下基地に集まっていたことを事前に知っているのは孔明のみ。BF団の警備を全てくぐり抜けてその情報を盗んだとは到底考えにくい。九大天王には全員マークをつけているし、そのようなことが出来る存在が無名であるはずもない。となるとBF団もおそらくは国際警察機構も知らない第三勢力の手による者か? しかもそれがBF団の誰一人知覚できないほど高い能力を持った実力者と、考えただけでも頭の痛くなりそうな発想に至った所で思考を停止させる。

 

 さすがにそこまでいくと非現実的な妄想だ。そのことを考慮するならばBF団全基地に隕石が落ちて壊滅することまで考慮しなくてはならない。

 

『どうやら思い悩まれているようですな。では私がその答えを教えてしんぜよう。犯人は――』

 

「犯人は――」

 

『我らがビッグ・ファイアその御方御自身です』

 

 驚愕。そして納得の答えであった。考えてもみれば当然である。ビッグ・ファイア様と十傑集の間には精神防壁はしかれておらず、位置を特定することもできる。何より十傑集でさえ逃れられない強制同時転移なんて真似ができるのはビッグ・ファイア様その御方以外に誰がいよう。

 

「問題は――」

 

『問題は――どうしてそのようなことをされたのかとおっしゃりたいのでしょう? それもビッグ・ファイア様のお姿をそちらで見かけたということがあれば答えは簡単明瞭。皆様はこれから先もビッグ・ファイア様をお守りし、成長を見届けてくだされば結構です。いずれ帰る日が来るでしょう。その間はこちらのことは御心配めされるな』 

 

「孔明! 答えになってないぞ。いったい何故ビッグ・ファイア様はこのようなことをなさったのだ? そして我ら十傑集はビッグ・ファイア様お一人に忠誠を捧げた身。主君に二心を抱けというのか!?」

 

『おそらく樊瑞殿なら今そうおっしゃっているのでしょうね。二心にあらず、かの御方はまさに我らが知るビッグ・ファイア御自身に他ならない。そう、これも全て我らがビッグ・ファイアの意思である!』

 

 孔明の羽毛扇から轟々と炎が噴きあがった。その言葉に誰もが口を閉ざす。孔明はこちらの光景が見えているかのように納得した様子で口元を羽毛扇で隠した。

 

『それでは皆様の変わらぬ忠誠心に』

 

その一言を残して映像は消えた。部屋の中は徐々に明るさをとり戻すが、日は既に傾きかけていた。

 

 

 

 

 

 翌日。何だか昨日一日が人生で一番濃い一日だったせいかすっかり忘れてしまっていたが、今日からゴールデンウィークだ。休日だし学校に行かなくてすむから家でゴロゴロしようとそう考えていたのだけど……すごくうるさい。あきらかにドリルの音や大勢の人が何かを運ぶ音でうるさくて眠れない。仕方なしに寝ぼけ眼で外を見ると宅配便のトラックが三台も家の前に停まって荷物の運搬をしているではないか。きっと十傑集さんたちの荷物なんだろうけど築40年のボロアパートにあんな量を詰め込んだら床が抜けてしまわないか心配だ。

 

――というかお金持ってたんだね。何よりそのことに驚きました。

 

「そこの君。この部屋の窓ガラスを防弾ガラスに変えておいてくれ」

 

「何っ!? シズマドライブが使えないだと? 骨董品で生活しろというのか!?」

 

「手伝ってやろうか? ただし真っ二つだぞ」

 

何だか物騒なことが聞こえる。宅配のお兄さん御愁傷様です。え? 何とかしてくれって? 知りませんよ。むしろ僕が何とかしてもらいたいです。

 

 午後からはうるさい我が家から抜け出して散歩に出かけた。当然の如く幽鬼さんが着いてくる。今日は濃緑のシャツに紫色のジャケットのスーツ姿。それにしても十傑集の人たちって結構な割合でスーツを着ているよな。大人のたしなみってやつなのだろうか?

 

 河原の散歩道はGWのせいかどうかは分からないがいつもより人が少なかった。天気もいいしまさにレジャー日和。レジャーシートを持ってくればよかったかな。

 

「あっ」

 

 目の前から隣のクラスの女の子がやってくるのに気づいてしまった。普通なら何の挨拶もしないまま通り過ぎていただろうが、どうやら今回は相手が悪かったみたいだ。

 

「こんにちは山野君。奇遇だね」

 

 無垢な笑顔が眩しい。隣のクラスの委員長、学年どころか学校で教員を含め有名な羽川 翼さんがそこにいた。品行方正、公明正大。言葉はあれど彼女程それを体現した完璧な人間はいないだろう。眼鏡に三つ編み、巨乳と委員長の三種の神器を揃えて颯爽と歩く姿はモデルも真っ青。休みだというのに制服姿な所がまたよく似あっている。

 

 僕のような人間の名前を覚えていたとは驚きだが、彼女なら全校生徒の名前を把握していてもおかしくない。まじパナイこの人。

 

「後ろのかたはお兄さん? には見えないね」

 

僕から何も反応が返ってこないことに焦れたのか? あるいはただ同級生の後ろを歩く不審な人物が気になったのか? 何にしろ矛先がずれたことに僕は安堵した。

 

「……私は幽鬼だ。山野様の護衛のようなものをしている」

 

 あきらかに普通の人ならそれは何? と聞き返しそうな幽鬼さんの返答も羽川さんはそうなんだと頷く。純粋だとか疑ってないとかそんな単純なことではなく、予め知っていたかのような反応に少し歪んだものを感じた。そんな下心を感じたのか羽川さんはこちらに向き直る。ヒィッ、ごめんなさい!

 

「山野君」

 

「な、何ですか?」

 

「私は山野君のことほとんど知らないけど、それでも挨拶が人とのコミュニケーションにおいて潤滑油になるってことは知ってるよ」

 

「……こ、ここんにちは。羽川さん」

 

「よろしい」

 

 したりげな微笑みを浮かべる羽川さんに不覚にも萌えてしまった。やばい、可愛い。

その後5分程どうでもいい話をした後別れた。僕みたいな口下手にそこまで付き合ってくれるなんてきっと暇してたんだろうな。それにしても久しぶりに人と話したのでのどがイガイガする。

 

「ご機嫌ですな」

 

あんな美人と話せて気分が悪くならない人間がいるはずがあるだろうか、いやいない(反語)

人と話すことは苦手だけど羽川さんの巧みなトークにのせられてしまっていつのまにか話していた。喋りたくないのに喋ってしまう、ビクンビクン。

 

「だがあの女只者ではないぞ」

 

なんだろう。自分の影から忍者が出てきてもあまり驚かなくなった自分が怖い。

 

「やはりレッドもそう思うか」

 

 確かに十傑集の皆さんの言うことも分かる。とてもあれが同級生のスタイルとは思えないよね。あれと比べたら学年のマドンナである遠坂凛さんでさえ霞んでしまう。

 

「ビッグ・ファイア様の影に潜んでいたにも関わらず、あの女こちらを察していた。さすがに正体には気づいていないとは思うが、何かいることは気付いていただろう」

 

「まさか十傑集が一人マスク・ザ・レッドの隠遁術を見破るとは。げに恐るべき女よ」

 

 うん。僕としては本人の知らないうちに影に潜みこんでいるこの人のプライバシー侵害ぶりが一番恐ろしいよ。ていうか羽川さんすごいのは天才的な頭脳とスタイルだけではなかったのか……

 

「早いうちに消したほうがよろしいかと。BF様、許可を」

 

怖い。発想が恐い。

 普段は優しい人たちなんだけど、ふとした瞬間悪の秘密結社の顔を見せる。そしてそれがいつ自分へと牙をむけるかと思うと…………考えても何も対処できないことに気付く。結局僕はいつも通り過ごすしかないのだ。と、その前に

 

「そ、それは止めて欲しいかな~……な、なんて思っちゃったりして」

 

 悪の芽を排除しなければ(必死)

 

「「それがビッグ・ファイア様の御意志ならば」」

 

地面に直接土下座とか勘弁してください。

 

 

アパートに帰るとドアの色が十色に変わっていた。それ以外は特に外見上変わった所はない。それが何より嬉しいです。

 

「おお! 我らがビッグ・ファイアがお帰りだぞ」

 

「それは盛大に出迎えなければ、この素晴らしきヒ――」

 

「ええい、うるさい! 貴様は座っていろ!」

 

「若かりし頃のビッグ・ファイア。実にいいぞ!」

 

「爺様の手作り肉じゃがはまさに絶品だな」

 

(コクッ)

 

「正に一味同心。響く鐘の音、激動大人上位に立つ者なきなり」

 

 この時、僕の永い長いGWが波乱に満ち溢れたものになるなんて――薄々気づいていた。

 

 


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