……箒は夢を見ていた、まだ自分が幼い頃、大体小学校に入ったすぐ位だろう。
自分は虐められていた。
「お〜いおとこおんな〜、おまえどっちなんだよ?」
「おとこなのか?それともおんな?」
「うるさい!わたしはおんなだ!」
当時から私は気が強くよく男女と馬鹿にされていた。…本当はただ強がっていただけだというのに。
「なあ?わかんないからぬがしてみようぜ!」
「おお!それならいっぱつでわかるな!」
「やろうぜ!」
「なっ!やめろ……おねがい、や…やめて」
涙目になりながらも必死に抵抗したが、何せ相手は3人だ…すぐさまいじめっ子である男子に囲まれ取り押さえられ、スカートに手を掛けられたときだった。
「おいおい…ガキの悪戯にしても度が過ぎてるぜ…」
目の前に、歳は私と同じくらいであったが、やたらと大人びた感じがする少年がいた。
「なんだおまえ!せいぎのみかたきどりか?なまいきだな!…おいやっちまおうぜ!」
「「おう!」」
「…はぁ」
その光景に圧倒された。明らかに年上の近所の悪ガキの小学生相手にまだ私と同じくらいの子供が3人相手にして鮮やかに片していってしまったのだから。
「ったく…これだからガキは嫌いなんだよ」
いやお前もガキだろ!…今思うとこいつは本当に同い年なのか?
「おい…大丈夫か?」
「う、うん…わたし ほうき、しのののほうき!…きみは?」
少年は一度鼻を掻きながら
「あっ?……織斑一夏だ」
不思議そうに私の事を見ながら名乗ってくれた。
これが私の初恋だ。
………………………………
「んっ………朝か……」
まだ日が昇りきっていない早朝に、ふと目が覚めてしまった。
「それにしても…懐かしい夢だったな」
今でも脳裏に焼きついている、あの日の事が。
そこから私はスタート出来たのだろう、本当の意味での。
「ふふ!」
それを考えるだけで笑みが溢れてくる。
「そういえば…一夏はどこだ?」
隣のベッドを見てみると既にそこの主である学園唯一の男子の姿は見当たらなかった。
……………………………
「シュッ!…ハッ!」
まだ少し寒気が残る4月の朝、誰一人として見当たらない学園の裏庭で一夏は一人、シャードーをしていた。
「一夏!…朝から性が出るな」
ジャージに着替えて探すがてら走っていた箒はすぐさま見つける事が出来た。
「相変わらず…たしかジークンドーだったな。早く切れもある拳、鞭のようにしなる蹴り…見事だ」
「…箒か。随分と早いな、こっちは上がりだ」
「そ、そうか…こっちももう上がろうとしていた所だ、一緒に戻らないか?」
「……全然汗かいてないのにか?」
「うるさい!いいだろ…」
「フッ、オーライ、帰ろう…そろそろ腹ペコだ」
一夏は横に置いてあった上着をすぐさま着て私と二人で元来た道を戻り始め、まだ寝ているだろう学生達がいない食堂で早めの朝食を摂ることにした。
…………………………………
一夏は昔からよく食べる奴だった。
体の燃費が悪いのか、運動以上のカロリーを摂取しては動く、この繰り返しであった。
昔何でそんなにも食べるのか?と聞いてみたが、「食べられるときに食べておかないといつ食べられるか分からないからな…」っと何故か遠い目をして答えてた。
ちなみに一夏が一番好きな食べ物は何故かは分からないが肉無しの青椒肉絲だそうだ…美味しいのか?
…………………………………
「安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」
「そうか…帰れ」
ある日の休み時間、突如一夏の席にやってきたセシリアは偉そうにして腰に手を当てながら言ってきた。
「なっ…ふ、ふん。そんな口を叩けるのも今のうちだけですわよ!
一応勝負は見えていますけど、さすがにフェアでは……って、チョット聞いてますの!?」
関わるのも面倒臭く、教室を出ようとしたのだが、肩を掴まれ呼び止められた。
「っんだよ、ったく…何で俺にそう突っかかってくるんだ?」
「ぐっ………気に入りませんの!貴方みたいな野蛮人がISに乗れるなど…潰して差し上げますわ!」
「ああ?…気に入らないから潰すだと?」
一夏は大きくため息をつきながら、哀れむような顔つきで
「まるでガキだな…」
それだけ言い残しその場を後にした。
後ろから挑発されたと思い憤怒し、ギャーギャーセシリアが喚いていたが、一夏の耳には届いていなかった。
…………………………………
一週間はあっという間に過ぎていった。
決闘迄の間、教本を読み少しでも基本的な知識を増やすどころか一夏はISを一切触る事すらもしてない。
正にぶっつけ本番である。
「一夏…お前この一週間何もしてないじゃないか!」
「まぁ、なるようになるさ…」
いつもこれだった。更に一夏の専用機であるISもまだ届いていない…積んだのでは無いのか?
戦わない箒が不安がっている一方、一夏は落ち着きながら到着を待っていた。
まるでプレゼントを待つかの様な少年の様な目をしながら。
「織斑君!織斑君、やっと到着しました!」
山田先生と千冬姉が第三アリーナの片方のピットに駆け足でやって来た。
「織斑君専用のISが此方になります!」
「織斑、すぐに準備をしろ。アリーナを使用できる時間も限られているからな。ぶっつけ本番でものにしろ!」
「あいよ、千冬姉さんよ〜」
「織斑先生だ馬鹿者…」
そして重圧な鉄の扉は徐々に開いていき、やがて自分の専用機が目の前に現れてきた。
「久しぶり…ではないか、初めてか」
他に聞こえないよう、機体に近寄りながら声を掛けた。
「これが織斑。お前の専用機…ソードフィッシュだ!」
……………………………
ソードフィッシュ…一夏いや、スパイクが昔乗っていた、レース用に開発された機体を改造した高速戦闘機《ソードフィッシュ》……とはまた別ものだが、何処と無くそんな雰囲気がそこに存在していた。
千冬はもう一つ袋に入っているISスーツかと思われる服を渡してきた。
「あとこれがお前のISスーツになる…全く、何処がISスーツだと言うのか分からんが…一応、強度は一般的なISスーツと変わらないらしい」
渡されたスーツを見てみると、ISスーツとは一般的にタンクトップとスパッツを合わせたようなシンプルなものであり体にフィットしている様なものではあるのだが、…一夏に渡されたスーツは、そのままの意味のスーツであった。
青いダブルに近い背広 黄色のカッターシャツ そして黒のネクタイ。
…100人いたら99人が言うだろう、これはISに乗るには適さないと。
「ったく…束も粋なことするじゃねえか…」
ニヒルに微笑みながらも渡されたスーツを受け取り、別室に移動した。
数分後
別室から出てきたスーツ姿の一夏を見てみると、何処となく哀愁漂う感じながらも、ビシッと決めこなしていた。
その姿を見て、箒は勿論の事…山田先生と千冬姉までもが少し見惚れていた。
……………………………
ソードフィッシュを装備すると、身体の一部のように馴染み、繋がった。
すぐさま各種のセンサーが働き、目の前に様々なデータが動き出した。
「それじゃぁ行ってくる千冬姉」
「…そうか」
何処となくではあるものの心配しているだろう姉に、手を振った。
「箒」
「な、なんだ?」
「行ってくる」
「あ…ああ。勝ってこい」
「…オーキードーキー」
言葉を交わし、ソードフィッシュは浮かび上がり、アリーナへと進み大空へと羽ばたいた。
作中にちょいちょい束さんの名前が書かれていますが、まとめて書きますのでお待ち下さい。
予定は鈴のあとにでも書きたいかなと思っています。