1000001回生きた男   作:61886

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遅くなりまして申し訳ありません

これからはペースを上げて投稿できそうなので、どうか見捨てないでください(泣)


3話

その後京介の異変に気が付いた看護師さんは何とかして宥め落ち着きを取り戻した京介はゆっくりと一言も話すことなくベッドの上へと横になった。

色々と考え過ぎた所為で京介は疲れで寝込でしまっていた。薬の匂いが鼻にツンと着き汚れ一つ無い白のベッドの上で、自らの過去の夢を見ていた、誰も京介に危害を加える者が居ない優しい世界であり、過去の産物…

 

 

…………………………………

 

……ここは

 

 

気が付くと見覚えのある一軒家の目の前に立っていた、赤い屋根に庭には三輪車や小さなスコップが綺麗に片付いて置いてあり潮の匂いが懐かしい……昔住んでいた家に間違いは無いだろう。

 

自然と家の玄関を開けてしまっていた。鍵は掛かっておらずすんなりと入ることが出来た。玄関を開けると昔と寸分違わずに置いてある靴箱、父さんの大きな靴、僕の小さな靴、母さんのサンダル……それとお客さんがいるのか?見覚えのない靴が三足揃えて置いてあった。

恐る恐る履いていた靴を揃えて家の中へと足を踏み入れると目線の先のドアから漏れている光が見えてきた。

…彼処は確かリビングの筈だ。

 

光に向かっていく虫の様に男の子も唯一の光へと導かれる様にして歩いた。

ドアの前に立つと楽しそうな声が男の子の耳に入ってくる、声に惹かれて男の子はドアを開けると、過去のその家の有るべき姿がそこに存在していた。

 

 

大きなテーブルを大人数で囲み鍋を突いている、慈しみ育ててくれる両親と優しい近所のおじさんとおばさん、そしていつも隣にいる幼馴染の女の子……一体これは何時の夢だったろうか。

 

何時かは分から無いがそこにあった筈の日常……毎日が楽しくて眩しかった。

 

これは夢……何故ならもう男の子は一人でしかない…そんな事は分かっていた。過去の幸せだった頃の幻想を何時しか白く濁ったしまった目で男の子は恨めしそうに過去を見つめていた。

 

鍋を取り分けるお母さん

 

ビールをおじさんに進めるお父さん

 

会釈をしてグラスをお父さんに向けるおじさん

 

野菜もちゃんと食べなさいと女の子を叱るおばさん

 

おばさんに無理やり入れられた野菜を僕にそっと『食べて』と言う女の子

 

『うん!わかった!』と小声で女の子に返す僕……あれ程当たり前だった筈の現実は今となってはもう手の届かない幻想と変わり果ててしまった…

 

…鍋から出てくる湯気と同じ様な白い霧が京介の目の前へと湧き出て、徐々に増加していきやがて辺りを白く包み込んでいき、次の場面へと変わっていった。

 

……いったい……これは。

 

 

 

いつの間にかテーブルの上にあった筈の鍋や具材は存在せずに、代わりに大きなケーキと人数分のフォークと取り皿が用意されていた。ケーキの上にある砂糖菓子にはこう書かれてある"きょうすけくんおたんじょうびおめでとう!"

 

今でも覚えている……そうだ…これは僕の4回目の誕生日だ…

 

何時しか白く濁った目には涙が流れていた。

懐かしさなのだろうか 恨めしさなのか 分から無い、とにかく泣きたくて仕方が無かった。眩しくて直視出来ないほどの世界、こんなにも温かい世界にいた筈なのに今の僕は…

 

『ハッピバースデ〜きょうすけくん〜』

 

ワーと歓声と拍手が上がり夢の中の自分は思いっきり息を吸い込みロウソクの火を消した。

 

「おめでとう!きょーくん!」

 

幼馴染の女の子は満面の笑みで男の子の4回目の誕生日を祝福してくれていた。

両親も優しい目をしながら男の子を微笑んでくれている。

 

……いつ以来だろう、自分へと向けて本当の意味での優しい眼差しや微笑みが無くなってしまったのは……

 

 

突如であった、目の前に霧の様な白い靄が湧き上がり徐々に集まり凝縮し始めていた

 

…この霧は一体……

 

目の前で誕生日を祝っている家族は未だに気がついていない、…自分の記憶の中でもこんな事は無かった。……一体。

 

 

凝縮した霧は徐々に形作りやがて一つの物を造り終えた。

 

 

!これは……IS!?

 

目の前には過去にニュースで見た事がある二翼の羽を持ち男の子の身長よりも遥かに大きな剣を装備しているISが目の前に現れた。

 

な、なんで……

 

未だに夢の中の家族や僕はその異形な存在に気が付かずに男の子にプレゼントを渡していた。

 

IS…白騎士は一度だけ僕の存在に気が付き目線を合わせると

 

…フッ

 

一度だけ口元を緩めにやけるようにして笑い、目線を目の前の家族に合わせた。

 

な、何をするんだ……!

 

夢の中の自分はこれから何が起こるかも全く見当も付かないような笑顔で微笑んでいるだけであった。

 

馬鹿野郎!!気が付け!目の前に存在し無い筈の物が!

 

男の子の思いも虚しく白騎士は大きく刃を家族達に向けて振り上げ

 

や、やめろ!?……やめてくれぇぇ!!??

 

男の子の叫び声が響き終わると真赤な鮮血が白騎士の純白の体を大切な家族の返り血で赤く染め上げていた。

 

呆然としている男の子に対して、白騎士はもう一度此方を振り向きニヤリと気味の悪い笑みを浮かべると、全てが蜃気楼の様に消えていき男の子は夢の世界から目醒めていた。

 

 

 

 

…………………………………

 

悪い夢から醒めてしまった時から…男の子から一切の感情が無くなってしまった。

 

現実で全てを失い存在を否定され、幻想の中でも男の子の全てを壊された……幼い精神を蝕むには十分過ぎていた。

既に心は壊れて黒だった髪も知らない間に老人の様な白髪へと変わり果ててしまっていた。

 

笑うことも 怒ることも 悲しむことも 喜ぶことも……全てを忘れてしまったかの様に顔からは生きると言う活力が消え去ってしまっていた。

 

もはや男の子には感情など必要は無い。

ただ自分の全てを奪い去った二人に対しての感情のみが残っているだけだ。

 

「……篠ノ之束………白騎士…………」

 

壊れたラジオの様に二人の名前をぶつぶつと喋り脳裏に焼き付けながら復讐心を燃やしていた。

 

幼馴染を殺した白騎士 全ての元凶で世界を壊した篠ノ之束…もしかしたらこれは逆恨みかもしれない。……だがこの感情を他の誰に向けたらいい…

 

恨み 妬み 嫉み……彼奴らは何事も無かったかの様に生活をしている筈……関係ない僕はこんな思いをしているにも関わらず……

 

「……殺してやる……たとえ何年掛かろうとも………篠ノ之束 白騎士」

 

噛み締めている唇から一線の血が純白のベッドのシーツを赤く染め上げていた。…それは余りにも小さいシミにも関わらず余りにも凝縮された男の子の怨念にも似ていた赤であった。

 

 

「抗ってやるよ……不条理な世界に……理不尽に……」

 

 


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