1000001回生きた男   作:61886

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これは主人公になれなかった男の子の話になります。


堕ちた天使への鎮魂歌
1話


某k県のとある海岸が近いこの町に一人の男の子がいた、彼は誰にでも優しく友達も多いい様だ、男の子には母親が居なかったが彼は周りから愛されそして男の子も周りを愛していた、男の子の父親は海上自衛隊のヘリコプターの隊員である事を誇りに思う、心優しき豪快な父親である。

父はとにかく男の子を母親の分まで溺愛し、慈しみ育てた。

そんな男の子には幼馴染の一人の女の子がいる、

 

「ずっと一緒にいようね!きょーくん!」

 

「うん!あーちゃん!」

 

子供同士の約束ではあるが生涯を共に過ごすと誓うほど仲も良い様だ。

 

男の子はいつも幸せそうに笑っていた、僕は何て幸せ者なんだろ、神様ありがとう、僕は今幸せです!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし神様は男の子の事が嫌いな様であった。

 

これはそんな一人の天使の様な男の子が地に堕ちた話。

 

 

 

 

午後1時、男の子の自宅から歩いて五分もしない海が見える海岸沿いの広場、ここは男の子と女の子が偶然見つけた秘密の場所。子供2人で遊ぶには十分過ぎる程広く開けた場所で此処でままごと、かけっこ、かくれんぼを二人はよくしていた。前日女の子の母親が迎えに来るまで遊び、明日もまた此処で遊ぼうと約束し二人はこの場所に来ていた。

 

「ねえ、あーちゃん。今日は何して遊ぶ?」

 

天真爛漫な笑顔で女の子に男の子は尋ねた。

 

 

「ん〜、どうしようか、きょーくんは何したいの?」

 

 

黒の長い髪を靡かせ、女の子は男の子に返した、黒の長い髪は女の子の自慢だそうだ、特に男の子に褒められるのが大好きで、お母さんに頼んで切らないと言っている位まで。

 

「え〜、決めてよあーちゃん、いつも僕が決めて、あーちゃん何もしてないじゃん!」

 

ぶーと男の子は頬を膨らませた。

 

「うー、それじゃあ今日は缶蹴りしようよ!」

 

男の子はいいね!と言ったが一つ気が付き女の子に尋ねた。

 

「でも缶が無いよ」

 

女の子うーと唸ったが、何かを思い出したように微笑みポケットから今年の年号が書いてある新品同様にピカピカに光っている百円玉を出して男の子に自慢げに見せた。

 

「今日お母さんから百円貰ったからってこれでジュース買って半分こしよう!その缶でしようよ!」

 

「分かった!ジュースは何を買うの?」

 

「ん〜きょーくんリンゴジュースが好きだよね!リンゴジュースにしよ!」

 

女の子は百円玉を握りしめ、男の子と一緒に近くにある自販機に行こうとした時だった、ふと女の子は何か気がついた、いつもと違う空に。

 

 

「ん〜、ん!ねえあれなんだろう?」

 

女の子は空を指差し男の子に尋ねた

 

 

「えっなにあーちゃん?」

 

 

首を傾げ指を指された方へと向いたその瞬間、男の子と女の子に今まで体験した事の無い爆発音と衝撃が轟いた。

 

 

 

「えっ?」

 

 

訳が分からないまま、男の子は意識を失ってしまった様であった。

 

 

 

………………………………

 

 

眼が覚めるとそこには今まで女の子といた何時もの秘密の場所であった、しかし木々は薙ぎ倒され彼方此方地面が陥没し草木は燃えていた。

 

 

「あれ?どうして……!痛いよ…ウエェェン」

 

 

身体中激痛が走り余りの痛さで男の子は大粒の涙を流しながら泣き出してしまった。

 

 

「グス、痛いよ…あーちゃん?あーちゃんどこ?」

 

すぐ様女の子が近くにいない事に気が付き、泣きながら辺りを見渡すと直ぐに女の子の姿を確認する事が出来た

 

 

「ぐすん、あーちゃん?あーちゃんどうしたの?」

 

あれ程大切に握りしめていた新品同様迄に輝いていた百円玉は女の子の手から離れて放り出され所々にくすみ焦げ付き、そして硬貨同様に女の子も身体中焦付き、身体には無数の鋭い鉄屑が幼い女の子に無情にも刺さっていた。

 

「あーちゃん…痛くない?大丈夫?今抜いてあげるからね!」

 

男の子は激痛が走る手に鞭を打ち、女の子に刺さっている鉄屑を抜き始めた、ただひたすらまだ熱が残っている熱い鉄屑を抜いては放り投げる抜いて放り投げるの繰り返し。

不思議と恐怖や気持ち悪さは無かった、幼いからという事もあるだろうが、この子はずっと一緒に居ると約束した最愛の女の子なのだ、まだ幼く愛などという感情は難しく持ち合わせていなかったが、心で理解をしていた。

 

「グス、あーちゃん…痛いよね。僕も頑張るからそろそろ起きてよ…今助けてあげるからね……」

 

男の子は鉄屑により焼けただれた手で涙を拭いながらとにかく女の子に喋りかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女の子が二度と目を覚ます事が無いという事を理解しないまま…

 

………………………………

 

白騎士事件

 

それから数ヶ月、IS インフィニット・ストラトス が「現行兵器全てを凌駕する」事を世界に認めさせるためには十分な事件であった。

日本に向けて攻撃可能な各国の2341のミサイル弾が一斉に何者かにハッキングされ、制御不能に陥った。しかし、突如現れた御伽噺に出てくる騎士のような白銀のISを纏った一人の女性によって無力化された。その後も、各国が送り出した戦闘機207機、巡洋艦7隻、空母5隻、監視衛星8基を、一人の人命も奪うことなく破壊することによって、ISは「究極の機動兵器」として一夜にして世界中の人々が知るところになった。

しかしながら某K県の岬で近所の幼馴染と遊んでいた 浜村綾 享年5歳が巻き込まれ亡くなった。日本政府はこれを隠蔽し、被害者を0とする。

 

これが本来の真相…しかし政府はISの利用性に目が眩み女の子の死を無かった事にした。

 

 

………………………………

 

あの日、すぐ様黒服を着た政府の役人が男の子と女の子の亡骸を連れ去り、迎えに来た両親に圧力と多額の慰謝料を渡した。

当然女の子の両親は猛抗議したが、全て無駄だった。

 

「これからの時代はISの時代になる、娘さんの事は残念に思いますが国の事を考えて無かった事にして下さい」

 

業務的に冷たく、凍るような視線で女の子の両親を突き跳ねて頑なに聞く耳を持たなかった。

…女の子の両親は泣き寝入りするしか無く、ただ女の子の死を悲しんだ。

 

男の子は女の子の死がよく理解しておらず、父さんに唯「もう会えないんだ…」とだけ言われて唯寂しくて泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

数日後、女の子の葬式が慎まやかに行われていた、扱いは崖からの転落死。遺族の思いも虚しく隠蔽がバレるのは不都合だと政府は棺桶の蓋を開けないようにし、誰一人として最後に女の子の顔を見届けることなく火葬場へと送られ、男の子に見送られることなく女の子は煙と共に天へと登って行った。

 

納骨が済むと女の子の家族はその街を夜逃げの様にして去って行ってしまった。

男の子に何も告げないまま。

 

………………………………

 

数年後、政府の役人が進言していた通りISの時代へと突入していった。

 

日本でもISが採用され、自衛隊でも使用される事となった。華やかな女性自衛官が活躍し、軍事力でも世界有数となり、日本の自衛隊は世界でも有名となった。

…しかし、それで被害を被る被害者も居ることは事実だ。

軍事訓練のくの字も知らない様なIS操縦者により多くの海上自衛官 航空自衛官のパイロットはお払い箱となってしまっていた。ISにより戦闘機 ヘリコプターの必要性が無くなり予算、人件費を削られ、多くのパイロットが首を切られてしまっていた。

…形上勇退として。

このご時世公務員でさえ男であるなら首を切られるのも珍しくは無かった。

女尊男卑、今や女性がどの国も実権を持ち、費用を全てISに注ぎ込まれ残された男達は無用とされ無理矢理のリストラが相次いでいた。自衛隊でも同じだ、IS操縦者がもっと費用が欲しいと言えば他から見繕い今まで働いてきた男達は必要無いと言われてリストラ。勿論裁判なども数多くあったが全て判決は今や実権を握っている女性の圧勝、男達は泣き寝入りするしか無かった。

 

それは男の子の父親も同じであった。

 

草薙 敦 三尉 以下の者を勇退とする。

 

この日からだろ、父が変わってしまったのは。

 

………………………………

 

それから数年後、小学生になった男の子が小学校から帰って来ると、いつもの様に酒を煽っていた父がテレビを見ていた。

 

「…なんだ、帰ってきたのか京介…」

 

見るも無残にやさぐれ、昼間から酒を煽る父に男の子は目を向けられなかった。

最初の頃はハローワークに通い真剣に職を探していたが、職を探す人でハローワークですら溢れていた。このご時世、父と同じ様な境遇の人で溢れていた。

だんだんとやさぐれていき今や外には酒かタバコを買いに行く位で、外出すらしなくなってしまった。

 

あの大きな手は…ヘリコプターを操縦し男の子を撫でていた手は今や酒のボトルを掴むかタバコを持つしか使われていなかった。

 

「うん……ただいま」

 

男の子はいつも通りランドセルを置き、自分の部屋に行こうとしようとした時だった。

 

「なあ…京介」

 

父が立ち上がって男の子の目の前まで歩いてきた。

 

「なに?お父さん…」

 

死んだ魚の様な白く濁った目で見つめて、身体中酒の匂いが漂う父に男の子は目を合わせる事が出来なかった。

 

父親は一呼吸置き、男の子に話しかけた。

 

 

「なあ………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一緒に楽にならないか?」

 

 

「え?」

 

言っている意味が分からずにいた、どういう事か分からないまま立ち尽くして居ると突然。

 

 

「カッ!く…苦しいよ……」

 

父親は男の子の首を自分の手で絞め、自分のの顔の高さまで持ち上げた。

 

「俺もう疲れちまったよ…仕事は無くすし女尊男卑のこの世界によ……お前も一緒に楽になってくれ…後から行くからよ…だから俺と一緒に楽になろうぜ…」

 

白く濁らせた目は唯男の子を虚無的に見つめていた。

 

「がっ!…あっぁ」

 

男の子は最後の力を振り絞り、首を絞めている父親の指を逆の方向に曲げた。

 

 

「ああっ!いってぇぇぇ!」

 

その瞬間力が緩み男の子は手から離されて畳の上に落下した。そして

 

 

「うわぁぁぁ!」

 

靴を履かずにすぐ様家を飛び出していった。

 

残された父親は追おうとせずに唯一人虚無的に呟いた。

 

「お笑いだな…あいつを撫でていた手が今や首を絞める物になっちまったとはな……はは…」

 

 

ただ虚しく笑い終え、電気も消さず、鍵も掛けずに父親は家を後にした。

 

………………………………

 

数時間後、空は太陽が沈み始め、街全体に区役所から5時の鐘が鳴り渡っていた。

男の子は落ち着いただろうと思い家に帰ると父親の姿は見当たらなかった。

 

「どうしたのかな…お父さん」

 

未だに先程の光景が脳裏に焼きついている、しかし、それでもあれは自分の父親だ、豪快で優しい唯一の自分の家族だ。さっきだって何かイライラしてたからそうなった訳でまたいつか元のお父さんに戻ってくれると思い願い再び戻ってきた。

 

しかし見渡しても父親の姿は見当たらなかった、開けっ放しの鍵、付けっ放しの電気とテレビ…もしかしたらお酒でも買いに行ったのかな?

無理矢理自分を納得させて男の子はいつもの通り冷凍食品を貪り就寝した。

…だがいつまで経っても父親は帰って来なかった。

 

 

 

数日後、男の子に一つの連絡が警察から入ってきた。

 

お父さんが遺体で見つかったと。

 

…よくは覚えていなかったが多分自殺だったと思う。

 

 

 

こうして男の子は最後の家族すら失ってしまった。





全く今までと世界観が違ってきてしまっていますが、ご了承下さい

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