1000001回生きた男   作:61886

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もう直ぐクリスマスですね、どの様に皆さんはお過ごしですか?

僕は……………バイトを終わらしてDVDでもレンタルして一人で家で見ようかと思っています………悲しいね


3話

 

 

時計の針が5時を指した頃であろう、放課後人気の無い岬の先端に一夏は一人でタバコをふかしていた。

 

 

「…………ふう」

 

 

吐いた紫煙は徐々に茜色に染まる上空に吸い込まれていき、やがて消えていった。

下では穏やかな漣が打ち付けられる音が聞こえ、何処か幻想的な雰囲気を醸し出していた。

 

先端まで吸い終わったタバコの火を消すと同時に、誰かの足音が聞こえてきた。

 

「探したわよ一夏、そんなとこで黄昏ちゃって」

 

クスクスと声の主は笑い、一夏の真後ろで止まった。

 

「なんだ。鈴か」

 

 

目星ははっきりと分かっていて確認する必要は無いが、一応振り向くと案の定茶色の髪を靡かせ、手を額に当てていた鈴が背後に立っていた。

 

 

「いい場所ねここ、はいこれ…たしかブラックが好みだったわよね?」

 

 

 

一夏は座っていた席を詰め、隣に鈴は座り無糖コーヒーを一夏に差し出した。

 

 

「悪いな、鈴」

 

 

「どういたしまして」

 

 

プシュとプルタブを開けるとコーヒー独特の香りが鼻に付き、ごくごくと飲み、タバコで乾燥した喉を潤した。

 

 

「ありがたく飲みなさいね!探したのよ、女子校だからかブラック何て中々置いてなくて、職員室の近くの自販機でやっと見つけたのよこれ」

 

「そうか、そこにあったのか、道理でみつかんねぇわけだ、お前は変わらねえな、本当にな…」

 

 

一夏は渡されたコーヒーを横に置き、地平線の彼方を見渡した。

 

「あら、色々変わったわよ一夏、《男子3日会わざれば刮目して見よ》って昔から言うでしょ、だけど女って生き物は1日あれば成長するのよ、身体も心も」

 

 

フフと笑いながら鈴は立ち上がり一夏と共に地平線の彼方を見つめた。

 

「いや変わらねえよ、昔も今も。ただ背伸びしてるだけだろ?」

 

 

「んな!ちょっと、どういう意味よ!」

 

視線を一夏の方へと戻し、先程までの落ち着いた表情から一変し、年相応の表情へと変わっていった。

 

 

「フッ、そっちの方が似合ってるぜ。無理に背伸びしたところで空回りするだけだ、…それに変わらねえって事は良い事だ、俺も願わくばそうありたいね…」

 

 

横にあるコーヒーに手を付け、それを一気に飲み干した。

 

 

「…まあいいわ、それより何でこんな所でタバコ吸ってるの?部屋に換気扇あるじゃない」

 

「ん、なに…同居人が嫌がってな。外で吸う事になっちまったんだよ」

 

 

「………えっ?」

 

 

その場の時が止まった、…いや鈴の時が止まったが適切だろう、一夏から放たれた思いもよらぬ言葉に少しの時間、鈴の時間が狂ってしまったようであった。

 

 

「…つまりあんたは今…女の子と同棲してるって事?」

 

 

…そういやぁ言ってなかったな

 

 

「あぁ、箒と同じ部屋だ」

 

「そ、それってあの子と寝食を共にしてるってこと!?」

 

あ、…だんだんとメッキが剥がれてきて、元の鈴に戻って来たな

 

 

「…………」

 

あんぐりと開けられた口を鈴は元に戻す事が出来ずにいた。

 

「おい…どうした?」

 

「そう、分かったわ、よく分かったありがとう」

 

静かに顔を上げ勝手に納得し始めた鈴は頷いている。

 

「一夏、幼馴染は二人いるって事を覚えておきなさいよ!」

 

 

「はあ?」

 

 

「それじゃあね!」

 

 

立ち上がり鈴は岬を後にした。

 

 

「ったく…忙しい女だぜ」

 

笑ったり、叫んだり、怒ったり、なんか気取ってたり……情緒不安定なのか?

 

取り残された一夏は空になったタバコの空き箱を握りつぶし懐に入れて岬を後にした。

 

………………………………

 

「というわけだから、部屋代わって箒」

 

「…すまないが、動詞だけでは理解できん、浅学な私にも理解出来るよう喋ってくれ」

 

夕食が終わり、一夏が部屋で晩酌し箒が読書をしている時だった、いきなり部屋に鈴がやって来たが…言葉が少なすぎて箒は理解する事が出来ずにいた

一夏としては何方でも構わないが、どうせそれを言えば両方不機嫌になるのが目に見えている、故に黙っておくのが一番だろう。

その渦の中心であるにも関わらずであるが……

 

 

「箒も男と同室は嫌でしょ?のんびりしているようだけど……あたしも平気だから代わってあげようかと思ってさ」

 

「そう言う事か…いや、別に大丈夫だ」

 

「大丈夫、あたしも幼馴染だから」

 

「…頼むから話を噛み合わせてくれないか」

 

まさに言葉のドッチボールだろうか唯一の救いが箒が冷静に対処している所だ、マイペースに会話を進める鈴に対して、進展しない箒は頭を悩ませていた。

 

「とにかく、今日からあたしもここで暮らすから」

 

「…いったいなんの冗談だこれは、一夏?」

 

 

「…知らねえよ」

 

助け船を一夏に差し出した所で一夏は聞く耳を持たず一人空いたグラスにバーボンを注いでいた。それを見て箒は深くため息を吐き鈴に告げた。

 

「…分かったこうするか、来月のクラス対抗戦で一夏に勝ったら…もしくは一夏が鈴に当る前に敗退したら私から千冬さんに伝えておいてやる、それで文句ないだろ?だから今日は引き取ってくれないか」

 

 

「はあ!?」

 

思いもよらない箒の一言により、一夏は手元が狂い注いでいたボトルを離してしまいそうにしていた。

 

「…そうね、まあいいわ…それなら納得するわ。それじゃあね一夏、箒、今日は帰るけど負けないからね!」

 

 

勝手に決められて唖然としている一夏をほっぽらかし二人で納得し、鈴は部屋を後にした。

 

 

「……箒、また面倒臭そうな事をよ」

 

「因果応報だろ?自分の尻は自分で拭け、お前は次々とトラブルを持ち込んで、私まで巻き込むな……とは言えお前と同室は中々楽しいからな、勝てよ一夏」

 

 

「了解、ったく最近碌な事がねえな」

 

一夏はグラスの酒を一気に飲み干し、ぶつくさ言いながらベッドの上に横になった。

 

………………………………

 

翌日、生徒玄関前にクラス対抗戦の日程表の紙が大きく貼られていた、

 

第二アリーナ第一試合

一組 織斑一夏 対 二組 凰鈴音

 

……出来すぎだぜ

 

………………………………

 

試合当日

アリーナは興奮の坩堝と化していた、席は勿論の事、通路まで立ち見する生徒で埋め尽くされ、入れなかった生徒はモニターを悔しそうに眺めていた。

 

以前渡された青のスーツに袖を通した一夏は鈴と対峙し試合開始のアナウンスを待っている。

 

「一夏、悪いけど勝たせて貰うわよ!」

 

「…あー、まあ頑張れ」

 

「ふーん、随分余裕じゃない」

 

『それでは両者、規定の位置まで移動して下さい』

 

アナウンスの指示通り二人は空中で向かい合い試合開始のブザーを待っていた。

 

「ねえ一夏、賭けをしない?」

 

「賭け?」

 

「勝った方の言う事を一つ聞く、悪い話じゃないでしょ?箒との賭けは私と箒だけだけどこうすればあんたもモチベーション少しは上がるでしょ?」

 

一夏は少し考え返事を返した

 

「まあいいぜ」

 

「クス、成立ね、あと一応言っておくけど本気で行くから、ISの絶対防御も完璧じゃ無いのよ。シールドエネルギーを突破する攻撃が出来れば、操縦者にダメージを与える事だって可能なのよ」

 

「そっちの方が俺好みだな、安全過ぎる戦いなんざ楽しくねえからな」

 

「…本当あんたは変わらないわね」

 

 

『それでは両者、試合を開始して下さい』

 

 


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