だから彼女は空を飛ぶ   作:NoRAheart

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ヴィッラ嬢に、カノ飛ぶの宣伝をしていただきました。

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youtubeの方では動画バージョンの方もアップしております。
気になる方は活動報告欄よりぜひご覧ください。


挿絵、動画を提供してくださいました華山様には、心から感謝を。




第一章/プロローグ
だから彼女は今日を生きる 【挿絵有り】


運命というものは何とも奇怪で、そしてとても恐ろしいものだとふと思う。

 

唐突だが私は転生というなんとも世にも不思議な、荒唐無稽な出来事に遭遇してしまった。

しかもおそらく……おそらく二回もである。

 

転生者とは持論で定義すると、それは前世の記憶を持って異なる時代、異なる世界に生まれ変わってしまった者を指し示している。

転生前、一度目の世界においては転生ものの二次小説なるものにおいて、そのような事態に巻き込まれるとき大抵は神様が何かしらの能力を与え、その世界で俺tueeee(意味はよく分からないが、おそらくその世界で最強になることを指す事だと思う)なるものをするらしい。

しかし生憎私にはそういったことは起こらず、気づいたらそこに存在していた……そんな表現がきっとあっているのだろう。

私は目が覚めたら三歳ほどの幼子になっていた。

 

 

 

 

 

一度目の――久瀬優一としての人生はとある島国の“自衛隊”という組織の一戦闘機乗りだった。

幼少の頃、その時の彼の両親が乗っていた飛行機がテロによって墜落した事によって帰らぬ人となった事を受け、空を護る事を強く意識した事もあるが何より彼は空を飛ぶことを幼少より憧れていた節があった。

そうして高校卒業後、航空学校を経て空自に配属され、最初に飛んだ憧れの空は――酷く赤かった。

運が悪かったとしか言いようが無かったが、戦争が始まったのだ。

中国とロシアで同時に起こった軍によるクーデター。

裏にはそれらの動きを操り世界征服を本気で企んだ者がいたとかいなかったとかいう噂があったが、彼には一切合切関係のない話だった。

日本は憲法九条を、専守防衛を守り続けた。

それは自衛隊が反撃に乗り出せない事を指す。

攻め入る中国とロシアのクーデター軍、護ることしか出来ない彼ら。

昼であろうが夜であろうが、晴れであろうが風が吹こうが雨が降ろうが、敵は連日のように日本の領空に攻め入り爆弾を落としにかかる。

否が応でも連日飛び続ける中で、同じ窯で飯を食べた同期の仲間達は、面倒見の良かった先輩方は、兵員不足で招集させられた航空学生の後輩たちも、皆、みんな死んでしまった。

唯一の肉親だった妹も、運の悪い事に唯一爆撃を許した土地で爆撃を受けて死んでしまった。

気づけば十年、空を飛び続け、空を守り続け、漸く戦争が終わった頃には彼の周りには何も、誰もいなかった。

ただ彼にあるのは、胸に輝く“大量殺人者”としての勲章と、増えた横線と星の数だけ。

そんな彼の最期は、スクランブルした先に見た未知の黒い大型航空艦。

多くの犠牲を払いながらも何とか撃墜した艦の破片が彼の機体にぶつかり、その先の記憶は全くない。

恐らく彼はその時に死んだのだろうと納得した。

 

二度目の人生――ヴィルヘルミナ・F・ルドルファーとしての人生の記憶は何処か曖昧で、虫食いだらけのビデオを見せられたかのような何処か他人事のような記憶だが、覚えている限りでは彼女もまた空の人であった。

一度目の人生との違いは、世界が大きく違う、つまるところは異世界であるということか。

一つ、彼女の世界では魔法というものが――殆ど女性限定のようだが――当たり前のように存在している事(何処のメルヘン世界だろうか?)

一つ、史実(彼女の前世)では第二次世界大戦開戦の十年程前に産まれた彼女なのだが、生前の日本と全く同じ形をした島国の名前は大日本帝国や日本国ではなく扶桑皇国となっており、史実(彼女の前世)より積極的に海外進出を行っていて、大規模な海洋貿易国家になって、他にもリベリオン合衆国(アメリカ)ブリタニア連邦(イギリス)帝政カールスラント(ドイツ)など国家の名前や在り方なども大なり小なり前世の歴史とは異なっている事。

一つ、1940年代の時点で人類同士の大戦争が起きていない事。

これについては前世の事もあって大変喜ばしい限りなのだが、それにはしっかり、ちゃっかり、一つ目の世界にはいなかった全人類共通の敵、「ネウロイ」の存在があるからである。

1939年、欧州に突如として侵攻を始めるネウロイ。

それを倒すには、表面装甲を削り、内部のどこかに存在している赤いコアを破壊する事以外の手段は彼女が生きている間では確認されてはいなかったが、その表面装甲を削るのは通常の携行火器では困難で、その難易度はネウロイの大きさに比例する。

大型のネウロイの装甲を効果的に削るには、それこそ戦艦クラスの主砲を持ってくるか、魔法による攻撃しかない。

嘆かわしい事にも戦いの主力は当然魔力を持つ女性が、しかも魔力のピークが来る前の十代の若者たちになってくる。

航空戦力に関しては、より魔力を必要とする「ストライカーユニット」なる兵器の存在によってそれが顕著だった。

彼女もまた、この兵器を履いて戦場の空を駆けた。

彼女にはお世辞にも空戦の才能があった訳では無かったが、彼女の固有魔法「降霊」によって戦線で死亡した兵士を降霊し、戦線の情報を知り取る事が出来たため、気味悪がれはしたが、後方においてはかなり重宝された……が、最後は前線で窮地に陥った仲間を救うために飛び出し、庇って死んだ。

それが二度目の人生の終わり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「解せぬ」

 

 

そうして迎える事になった三度目の人生。

私は目の前に映る光景の前に、盛大なデジャヴを覚えながら呟いた。

白みがかった銀糸の髪、三歳児というのに将来が期待できる整った顔。

欧州人特有の白色の肌と、空のように淡い、碧眼。

厳しそうな目つき――は、今回は私の意識がはっきりしているせいだろうが……

しかし間違いない。

 

三度目の人生も、何故か再びヴィルヘルミナ・F・ルドルファーとして生きる事になったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴィルヘルミナ・F・ルドルファーの人生の分岐点は十歳の頃にある。

彼女と彼女の両親は今現在カールスラントに住んでいるのだが、母方のガリアに住んでいる祖母が病気を患って、開業医である両親が医院をたたんで祖母の治療のためにガリアに引っ越すというものだ。

因みに父はカールスラント人、母はガリア人であり、詰り私はカールスラント人とガリア人のハーフということになる。

前世の私は学校の友人たちと離れるのが嫌で、父方の祖父母の家に残る事になるのだが、ネウロイの侵攻が始まってから、結局死ぬまでガリアに引っ越していった彼女の両親の消息は分からず仕舞いだった。

一度目の人生の時、両親に恩返しをすることなく両親が死んでしまった事もあるので此度の人生でもし同じことがあるとしたら両親についていく事にしようと心に決める。

 

 

「……」

 

 

とはいえその決断を迫られるまで恐らくまだ三年もある。

その間、私のするべきことは……正直言って思いつかない。

周りの同年代、七歳児のするべきことは外で遊んで、遊んで、兎に角遊ぶ事にある。

そうする事で未だ狭い己の見聞を広げる事が子供の仕事の筈なのだが、精神年齢が既に五十近くの私に今更そのような事、無理をしてやろうとしても、周りとの行動に差異が出てどうしても浮いてしまうのが分かる。

だから私の日常は、本の虫になって知識を増やすか、身体を鍛える事が専らになる。

……己が趣味の無さに呆れた。

生前の彼女なら、この年頃の時は花を摘んだり、友人と駆けまわったりしていたものだが、そんな乙女チックな事、今の私には難易度が高いと諦めた。

女になることはできても、乙女になることは正直柄ではないのだ。

しかし家に篭り続けて本ばかり読んでいると、両親に「友達はいないのか?」と心配され、幼少より過度な運動をするのも成長過程であるこの身体にとってもあまりよろしくない。

だから、私は外に出て只々ぼ~と、野原に寝ころんで空を眺める事しかやる事が無かった。

 

空は何処までも青く、雲はゆっくりと西から東へ。

二度の人生において、二度も空で死んだにもかかわらず、私は未だに空に焦がれる。

地を這って生きるのはどうにも性に合わない。

其処が私の帰るべき場所だと、天に届けと手を空に翳し、伸ばし――

 

 

「今日は何してるの、アッツ?」

 

 

空を遮られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エーリカ・ハルトマンにとってヴィルヘルミナ・F・ルドルファーという女の子は不思議な存在だった。

彼女と知り合ったのは何時頃だったか。

気づいた時には知り合っていたという言い方が正しいのかもしれない。

親の仕事の繋がりで彼女とは知り合いになったのだが、その頃から幼いながらも彼女は他の女の子とは何処か違っていた。

彼女は常に静かだった。

他の子とは違い、落ち着きがあって、余計な事は語らない。

彼女は何でもできた。

かけっこも、水泳も、木登りも、運動に自信のある私よりも上手だ。

彼女は物知りだった。

勉強は常に一番で、私たちの知らない事を何でも知っていた。

 

そんな彼女は学校で常に浮いた存在だった。

誰も彼女に関わらず。

彼女も誰とも関わらない。

子どもの中に場違いな大人が混じっているようで、彼女と関わっていると自分が子どもだっていう事を否が応でも意識させられる――というのは我が愛しの妹の話。

 

 

「今日は何してるの、アッツ?」

 

 

野原でただ一人、空に手を伸ばす彼女を見かけた私は駆け寄って声を掛けた。

彼女が何でも知っている事からいつの間にか付いたあだ名、「博士(Arzt)」。

呼ばれた彼女は視線をゆっくりと私に移し、細めた碧眼が私を捉える。

 

 

「さぁ、何も……」

 

 

視界を遮った私に不機嫌そうに、視線で、口調で、訴えるように返すアッツ。

私はまるでお母さんに叱られたような感覚を覚えるが、あそこで彼女を遮らないと、どこか遠くに一人で行ってしまう、そんな気がしてしまったから、私は彼女の視界を遮ったのだ。

ここで引いてしまっては意味がない。

 

 

「それで?」

「え?」

 

 

突然彼女が普段通りの声で話しかけてきたものだから、戸惑い、返答に困る私に彼女は「なにか用じゃないのか?」と問いかけてくる。

 

 

「え、えっと……きょ、今日も、その……何か知らない遊びを教えてくれないかな……なんて、思って……」

 

 

彼女の揺れない真っ直ぐな視線に晒され、ついつい、いけない事なのに言葉がたどたどしくなってしまう。

暫く沈黙する彼女だが、すぐに立ち上がり、埃を払って「分かった」と答え、私に背を向けた。

 

 

「教える。道具を家から取ってくるから待っててくれ」

「……ううん」

「ハルトマン?……あっ」

 

 

私は彼女が答えてくれたことが嬉しくて、つい私は彼女の手を取って駆けだした。

戸惑う彼女に、私は緩んだ頬のままで誘う。

 

 

「一緒に行こうよ!!」

 

 

彼女はいつも独りだった。

でも独りは寂しい。

誰も彼女に近づこうとしないなら、せめて私くらい彼女の友達でありたいと願う。

だって彼女を知らない人からしたら、彼女は確かに怖いかもしれない。

けれども本当の彼女は優しい事を、私は、私だけは知っているから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界に転生して一番不思議に思うのは、女性が皆が皆、パンツ姿で居ることだ。

疑問に思ったことは幾星霜。

しかし皆、明らかにパンツであるこれを「ズボン」だと言い張るものだから、固定観念というものは恐ろしいものだとつくづく思う。

とてもスースーする、ズボンという名のパンツもどき。

男だった私が男物のズボンが恋しいと思う事は当然だと訴えたい。

 

さて、突然私の視界を遮ったエーリカ・ハルトマン。

どうやら彼女は私に遊びを教えてほしいとの事だが、その知的探求心には本当に脱帽する。

彼女は私の通う学校において、その明るい性格からクラスの人気者であることは私でも知っている事だ。

そんな彼女が態々私のような者の所に度々訪れるのは偏に新しい遊びを知りたいからであろう。

そうすれば彼女は友人たちと遊ぶ手段が増えるのだ。

そういった努力を怠らない、彼女は、人気者とは大変なものだとつくづく思った。

 

 

「教える。道具を家から取ってくるから待っててくれ」

 

 

ここから駆ければすぐ近くにある私の家。

道具なんてすぐに持ってくる事はたやすいのだが、彼女はそれを拒否して私の手を取った。

引っ張られ、私は力に従って前のめり。

 

 

「一緒に行こうよ!!」

 

 

振り返り、満面の笑みでそう語るハルトマン。

私はそんな彼女の顔があまりにも眩しかったから、私は思わず目を逸らしてしまった。

そうして手を繋いだまま刹那の距離を駆け抜け、私の家に着いたのはいいのだが偶々外で洗濯物を干していた母にハルトマンと手を繋いでいるところを見られ、からかわれ、二人して逃げるように二階にある私の部屋に。

私の部屋はハルトマン曰く「物が無さ過ぎる」らしい。

確かに私の部屋にはベッドとクローゼットと机とその上に数冊、書籍があるだけだ。

だからと言って特段欲しい物がある訳ではないのだが。

 

 

「アッツ、これは?」

 

 

ハルトマンが指を指したのは木彫りのF-35。

生前の私の、久瀬優一の搭乗機だったものである。

暇を持て余して彫ったものだが、正直に答える訳にもいかなかったので「秘密」とだけ答えた私に、ハルトマンは「上手だね」とだけ答えてベッドに大人しく座ってくれたのでほっとする。

 

私が彼女に今回教えたのは竹とんぼ。

木製だが竹とんぼ。

二人で木の枝を削ってできた物を、外に出て飛ばしてみれば、思いのほかよく飛ぶものだから楽しくなって何度も何度も子供のように――事実子どもなのだが――遊んだ。

 

 

「アハハ。楽しそうだね、アッツ」

「そうか?」

 

 

笑いながら指摘するハルトマンにとぼけてみせると彼女は更に笑う。

 

 

「私の作った物が空を駆け抜ける様を見るのはいいものだ、ハルトマン」

 

 

そう言って私は手に持った竹とんぼを飛ばしてみせた。

飛ばした竹とんぼは今までで一番の飛行を見せたが、やがて回転を失って少し遠くに落下していった。

それはまるで、私の今までの人生を代弁しているかのようで――

 

 

「ならなんでそんなに悲しそうな顔をしているの、ミーナ?」

 

 

いつものように私を「アッツ」ではなく「ミーナ」と呼んだ彼女に、そして彼女の指摘したその言葉に私は驚き、沈黙を経て、私は「一番飛んだ竹とんぼが、しかし落ちたからだ」と答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が静かに地平線を撫で、夜の帳を降ろす頃合いが近づいている。

日がかくれんぼを果たす前にエーリカ・ハルトマンは家に帰らないといけない。

しかし彼女は私を何度も振り返り、腕を振っている。

 

 

「ミーナ、また遊ぼうね~!!」

 

 

そう言って地平線に駆けていく彼女。

そんな彼女に応えるように腕を振る私の傍に、母が微笑みながら近づいてくる。

曰く「いい友達を持ったわね」と。

 

 

「私はハルト……エーリカの友達なのですか?」

 

 

名字で呼んでエーリカに何故か怒られたので、慣れる為に慌てて訂正しながら私は母にそんな事を聞いた。

母は私の質問に少し困った顔を見せて、しかしすぐに慈愛をもって私の髪を撫でて私の問いを肯定してくれた。

母の手櫛はとても心地よいものだった。


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