ガールズ&パンツァー 鉄脚少女の戦車道   作:流水郎

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仁将と義将です!

 

 緊急回線を通じ、以呂波の声明は観客にも伝わった。ついでに高遠晴のギャグも伝わってしまった。

 だが一人の少女……一ノ瀬千鶴が拍手したのをきっかけに、観客席全体に拍手が広がった。それより少し早く、千種学園の整備所(ピット)ではサポートメンバーたちが歓声を上げていた。千種学園、そして前身四校の誇りはここに在り。以呂波はそれを示したのである。

 

 そんな中で、二人の女性が静かに試合を見守っていた。

 

「……勝利は手段であり、目的ではない……か」

 

 西住しほはふと、ため息を吐いた。黒く艶やかな長髪を雨が濡らす。隣に座る一ノ瀬星江は巨大モニターを見つめたまま、その静かなため息を聞いた。

 

「戦争でも武道でも、やるからには負けて良いという法はないわ。勝つために全力を尽くすのは当然のことよ」

 

 西住家の内情を知る者が聞けば、その言葉はしほを擁護しているように思えるだろう。星江は彼女と娘の間に何があったのか、詳しく知っているわけではない。ただ状況から察するのは容易だった。西住流と一弾流は敵対的だが、同じ立場の人間として心情を察することはできる。

 

「けれど『何のために勝つか』、そして勝利の先に何があるかの方が重要という人もいる。それは認めないとね」

「……ええ」

 

 静かな返事を聞き、星江はしほをちらりと省みた。らしくない、とでも言いたげな目で。しほもそれに気づいたのか、フンと鼻を鳴らした。

 

「他所の方針に口出しはしません。特に一弾流のような、邪道を自認している方々には何を言っても無駄でしょうから」

「あら。自衛隊も西住流からすれば邪道ではなくて?」

 

 西住流家元は言葉を詰まらせた。彼女は陸上自衛隊にも戦車道を指南している。自身でも矛盾は感じていたのだろう。

 不機嫌そうな視線を受け、星江はクスリと笑う。学生時代の口論を思い出したのだ。星江自身、長女が陸自に所属しているが、自衛隊が正道の軍隊になることを望んでいるわけではない。そもそも戦車道と政治思想を混同するのはタブーだと考えている。

 

「ごめんなさいね。最近素直になっちゃったみたいだから、ちょっと意地悪を言いたくなっただけよ」

「そういう貴女はどうなのです? 娘さんの事故以来、急に老け込んだと聞いていましたけど」

「否定はしないわ」

 

 大型モニターには三式中戦車チヌの救出を試みる、大洗の選手達が映っていた。後方警戒が不要となったため、III号突撃砲、ルノーB1bisも救助に当たっている。自車とチヌ車をワイヤーで繋ぎ、三両がかりで引っ張り上げるつもりのようだ。

 そして稜線を隔てた先で停車している、千種学園の車列も映し出された。ただ救助が終わるのを待つのではなく、車長たちが集まり、地図を見ながら作戦会議を行っている。以呂波は右脚の負担を減らすため、小さな折りたたみ式の椅子に腰掛けていた。雨は小降りになっているが、美佐子が傘を差してやっていた。

 

 良い顔をしている、と星江は思った。あの事故の後、娘があんなにも生き生きと戦車に乗る日が来るとは。否、自分に自信がなかっただけだ。脚を失った娘を、戦車乗りとして正しく導いてやれるという自信が。

 そして、守保が側にいれば頼もしかったのにという思いもあった。しかし自分で勘当した手前、連絡を入れることさえできなかった。つまらない意地を張ってしまったのだ。

 

「私は師としても、母親としても出来損ないだと実感した。でもまだまだ、これからは次の世代に道を譲って……なんて物分かりの良いことは言ってられないわね。お互いに」

「ええ。貴女はともかく、私はそこまでの歳ではありません」

「大して変わらないじゃない。貴女だって、後何年かしたら『おばあちゃん』って呼ばれることになるかもしれないでしょう?」

 

 皮肉に妙な返答をされ、しほは星江を横目で睨んだ。

 

「どういう意味ですか?」

「貴女が大分早婚だったから、もしかしたら娘さんたちはもっと早く……」

「それこそ、そちらも大して変わらないでしょう。しかも貴女はショットガンウェディングだったのでは?」

「正確には戦車砲ウェディングだったわね」

 

 学園艦上にいる娘たちは、母親らがそんな会話をしているなどとは思ってもみないだろう。そして母たち戦車道が、自分たち同様に道半ばであることにも、恐らく気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワイヤーを連結した三両は牽引準備にかかった。ルノーB1bisの車内では、エンジンルームのハッチからおかっぱ頭の少女が顔を出し、「エンジン良し!」と報告する。B1bis重戦車は機関室内に乗員が出入りできる構造になっているのだ。陸上軍艦の血を継いでいると言える。

 

 救出に向かった澤梓は三式中戦車チヌにワイヤーを繋いだ後、その通信手席へ滑り込んだ。卒業したぴよたんに代わる砲手と装填手は入隊していたが、通信手はまだ空席だったのだ。椅子は無いので機銃の弾薬箱に腰掛ける。雨の中で作業したため、短めの髪から水が滴っていた。

 

「……澤さん、本当にありがとう」

 

 砲塔から礼を言うねこにゃーの声には涙が滲んでいた。トレードマークの瓶底眼鏡を外しており、その眼差しには気品さえあった。しかし彼女の方を振り向いた梓もまた、目尻に涙が浮かんでいた。雨に濡れているせいで、他者からは分からない。しかし千種学園からの緊急通信を聞いてから、無性に涙が出ていた。

 

「少しは副隊長らしく、なれたでしょうか……?」

「もう副隊長だよ。以呂波さんも言ってたにゃ」

 

 『同じ指揮官として、最大級の敬意を』……以呂波の言葉が、梓の胸に深く染みていた。準決勝で親睦を深めた仲とはいえ、対戦相手からそのような賛辞を受けるとは思わなかったのだ。

 仲間たちから「準備完了」の無線が入る。ジャケットの袖で顔を拭い、大洗の副隊長は号令を下した。

 

「引き上げ、始めてください!」

 

 

 

 エンジンの音が轟々と響いたとき、雨はほぼ止んでいた。千種学園タシュ重戦車の乗員たちは後車し、徒歩で丘の稜線を越えようとしていた。以呂波は美佐子におぶさり、他の三人が側に付き添う。

 脳筋と名高い美佐子は同い年の少女を担ぎながらも、軽快な足取りで坂道を登る。その中で、彼女はふと口を開いた。

 

「イロハちゃん。『朝潮』っていう駆逐艦、知ってる?」

 

 突然の問いかけに、以呂波は「ええと」と口ごもった。戦車知識は豊富で、航空機のこともある程度知っているが、艦艇にはあまり詳しくない。美佐子がそのまま言葉を続けた。

 

「沈んだ味方の救助中に爆撃を受けて、沈んじゃった船。あたしのひいお祖父ちゃんも乗ってたんだって」

「……亡くなったの?」

「うん、お祖父ちゃんから聞いた」

 

 遠い目で空を見上げ、美佐子は寂しげに笑った。

 

「お父さんは消防隊員でさ。火の中に取り残された人を助けに行って、死んじゃった。お母さんもあたしを産んだ後すぐに死んじゃったけど、あたしの名前に補佐の『佐』って字を入れたの。誰かを助ける人になりなさい、って。お父さんもそう願ってるだろうから、って」

 

 淡々と語る親友に、以呂波は沈黙した。彼女の頑なな態度の理由が分かった。自分と家族の名誉と誇りを守るために、装填を拒んだのである。そして出会ったばかりのとき、廃人だった自分を気にかけ、少々強引に手助けしてくれた理由も。明るい笑顔と能天気な態度の裏に、美佐子もまた背負うものがあったのだ。

 

「あたし、さっき決めたよ! イロハちゃんが最高の隊長でいてくれる限り、いつでも助けになるって!」

 

 後ろを振り返り、いつものように快活に笑う美佐子。背負われている以呂波は、その頭をそっと撫でた。

 

「ありがとう。凄く、頼もしい」

 

 

 五人が稜線を越えると、大洗の戦車がよく見えた。

 三両の戦車が息を合わせて前進し、ワイヤーがピンと張られる。雨でぬかるんだ地面に履帯がめり込まないか心配だったが、三両ともゆっくりと前へ進み、アリクイさんチームを徐々に引っ張り上げていた。

 戦車で戦車を牽引するのはよくあることだ。太平洋戦争では自力で斜面を登れない九七式中戦車を、鹵獲したM3軽戦車で引き上げた例もある。さらにセルモーターが故障した際などは、他車両に引っ張ってもらうことでエンジンを始動できる。しかし重量物を牽引するということは、戦車のデリケートな足回りやエンジンに負担を強いることになるのだ。見た目の力強さの割に、繊細な操縦が要求された。

 

 後から駆けつけたあんこうチームの面々がIV号戦車から降り、みほが三両を誘導していた。優花里らが崖下の三式中戦車を監視し、その状況を伝える。チーム全員で連携しながらの救助作業だった。

 

 以呂波は美佐子の背から降り、その様子を見守った。義足の人間はただ立っているときにも、両足への重量配分に気をつけねばならない。生身の方の足を痛めない配慮が必要なのだ。

 近くには先に進出して監視に当たっていた、河合のカヴェナンターが停車している。エンジンを切り、攻撃の意思がないことを示すため、砲塔を真横へ向けていた。そして乗員も降車して、冷えた空気の中で涼んでいた。ラジエーター配管に断熱材を巻いてあるとはいえ、走行中の車内は高温となっていたのだ。

 

「一ノ瀬隊長。貴女の決断に、生徒会長として感謝します。ありがとう」

 

 河合が以呂波に頭を下げた。生徒会長として、千種学園が冷血な集団と認知されるのは避けたい。黒森峰女学園のような、戦車道に特化した学校ならばまだ良い。戦車道での強さが学校の全てだと言ってしまえるのだから。だが千種学園はそうはいかない。航空学科や農業学科など、戦車以外の活動に勤しむ生徒たちまで評判が悪くなる。

 

 戦車道においては原則隊長の指示に従うと約束しているし、河合は民主主義というものに一定の価値があると信じていた。だが学園に危機が迫れば、昨年度の大洗生徒会長を見習わねばならないとも考えている。以呂波が攻撃を命じたなら、隊長の権限を剥奪するつもりでいた。

 しかし以呂波もまた、目先の勝利より母校の名誉を優先させる判断をした。『強権』は発動せずに済んだのである。

 

「いえ。結衣さんのおかげです」

 

 美佐子の肩に掴まって立ちながら、以呂波は学友をちらりと見た。戦車道を愛する身としては、この競技で自分のような目に遭う人間が増えるのは嫌だった。失ったことで得たものも多いし、義足を恥とも思わない。しかし右脚は二度と戻らないのだ。

 だが隊長として、情によってチャンスを逃して良いものだろうか。葛藤する以呂波に決断を促したのは結衣だった。後悔して欲しくなかったのだ。

 

「私は背中を押しただけよ。一ノ瀬さんなら手段より目的を大事にするって、分かっていたから」

「……撃たなくて、よかった」

 

 涼しい顔で答える結衣の隣で、澪が涙ぐんでいた。顔に安堵の笑みを浮かべながら。砲手の仕事に誇りを持つが故、そして強さを求めるが故、撃てと言われれば撃つと覚悟を決めていた。だがそれでも、本当はやりたくなかった。

 

「それでいいんだよ、澪どん。強くなるってのと、弱さを捨てるのとは別だ」

 

 そう言ったのは、いつもの調子に戻った晴だった。彼女は時々良いことを言う、と以呂波は思った。

 

 晴としては賭けに勝った。もしここで撃つようなら、大会の終了後、黙ってチームを去るつもりでいた。だが同時に、以呂波は撃たないという確信もあった。目先の勝利より、仲間と学校の名誉を大事にする……以呂波はそんな隊長だと信じていたのだ。

 

「確かに。特にあの人たちの強さは、弱さを大事にできるという強さかもしれませんね」

 

 結衣も晴に同意する。三両の戦車は力を合わせ、ついに三式中戦車を救出しつつあった。日本戦車のシーソー式サスペンションが稜線を踏み越え、用水路の斜面から脱出を図る。優花里が三式の足回りを確認しながら、みほの号令で三両がワイヤーを曳く。

 頭でっかちな三式が斜面を踏み越え、ついに車体が水平になる。そのまま数メートル牽引したところで、戦車たちは一旦停止した。

 

「これで一ノ瀬さんの言う通り、『尋常の勝負』ができそうね。具体的なプランは?」

「西住さんを合流させちゃった以上、多少強引な手を使ってでも手早くダメージを与える。数ではこっちの方がまだ多いけど、継戦能力は心もとないからね」

 

 千種学園の残存戦力で、回転砲塔を有する戦車はタシュとトゥラーンIII重戦車、そしてカヴェナンターのみだ。トゥラーンIIIの砲弾搭載量は合計三十二発しかなく、長砲身型のIV号戦車が八十発以上搭載できるのに比べ、あまりに少ない。元々40mm砲を搭載していた戦車を75mm砲に強化したため、車内容積が足りないのである。大坪らは榴弾を減らし、戦車道で重要度の高い徹甲弾を増やしているが、先ほどの戦いでの消費は激しかった。カヴェナンターの継戦能力の低さは言うまでもない。

 

 以呂波は後ろを振り向いた。部隊を待機させたおかげで、後から着いてきたT-35が合流できていた。五つの砲塔を持つ巨体がトゥラーンIIIの隣へ停まり、北森たちは降車している。

 ついで、再び操縦手の方を見た。悪戯っぽい笑みを浮かべて。

 

「結衣さん。タシュの車長、やってみたくない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 引き上げた三式中戦車の損傷具合を確認し、大洗のメンバーは牽引ワイヤーを片付けた。幸い、試合続行に支障はなさそうだった。

 

「我が方の隊長殿と副隊長が『仁将』なら、ハンニバルは『義将』か」

 

 器具を戦車の外部に括り付け、エルヴィンはそう評した。彼女たちは千種学園のメンバーにもソウルネームを進呈しており、以呂波にはカルタゴの名将・ハンニバルの名を贈られた。ローマ史好きなカエサルの発案であり、決勝戦で強敵となることを確信しての命名だ。なお、姉の千鶴にはスパルタカスの名を贈っている。

 

「互いに敬意を払えるライバルか。それこそスキピオとハンニバルのような」

「島津と井伊直政」

「むしろここは敢えて、山岡鉄舟と清水次郎長ぜよ」

「それだ!」

 

 お馴染みの掛け合いを始める歴女集団を他所に、梓は自車へと戻っていた。砲塔から顔を出して出迎えた大野あやとハイタッチを交わし、丸山紗希も微笑を向けて労う。極端に無口な紗希だが、友人たちとは意思疎通ができている。梓も彼女の笑顔から、「お疲れ様」という言葉を読み取った。

 そんな彼女の眼下、M3中戦車の足元に、隊長が歩み寄る。梓ははっと姿勢を正した。

 

「澤さん、お疲れ様。それと、ありがとう」

 

 柔和な笑顔で告げられた、シンプルな労いの言葉。それが梓の胸には深く染みた。

 

「西住隊長。私、ちょっとだけ分かった気がします。私の……戦車道」

 

 副官の言葉に、みほは満足げに頷いた。何が正道で何が邪道か、そんなことは人によって変わる。各々が自分の信じられる道を、一歩ずつ求めるしかないのだ。

 そして同じように道を求める少女たちが、小高い丘の上からこちらを見ていた。視力良好なみほには、遠くからでも義足のシルエットが分かった。以呂波だけではない。大坪、北森、三木、川岸、去石、河合。千種の隊員たちが続々と稜線に並ぶ。

 そして一斉に、みほたちへ向けて敬礼を送ってきたのだ。

 

 その整然とした姿に息を飲み、はっと我に帰る。

 

「全員、敬礼!」

 

 号令に従い、大洗のメンバーも敬礼を返した。車内にいる者はハッチから顔を出し、丘の稜線を仰ぎ見て。秋山優花里の敬礼はさすがに様になっていた。敬礼の起源はヨーロッパの騎士とされ、兜のバイザーを開ける際の仕草が元になっているという。大洗女子学園と千種学園はお互いに、戦車の騎士道を体現したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「以呂波と澤梓のやったことを『宋襄の仁』だとかぬかす奴がいたら、手加減無しでぶちのめしてやる」

 

 拍手の鳴り止まぬ観客席で、千鶴が笑いながら呟いた。隊長として他校の情報収集は欠かさず行っている。黒森峰の事情に明るいトラビからも話を聞き、西住みほが黒森峰を離れた経緯もよく知っていた。千種学園で同じことが起こるとは思えないが、自分の妹がそんな目に遭えば放ってはおけない。

 

「そのときは私も手を貸すわ」

「こんな手で良ければ、ボクのも」

 

 巨大モニターから目を離さず同調するカリンカと、義手を掲げて笑うベジマイト。そんな女子高生たちの様子を眺めつつ、守保も心の中で呟いていた。以呂波、それで良いんだ……と。

 緊急回線で告げた言葉はしっかりと理論武装されており、仮に難癖はつけられても批判されることはあるまい。客席を包んだ万雷の拍手が証拠だ。目先の勝利より学校の大義を守る選択は、常に会社の名誉を背負う社長として、大いに共感できるものだった。

 

「まあそれはそれとして」

 

 トラビが愉快そうに話題を変えた。タンブラーで持参したコーヒーを飲みながら、試合の流れを大いに楽しんでいる。

 

「大洗はこの後、T-35を狙うんとちゃう?」

「アリだな」

 

 彼女の読みは正しいと千鶴は思った。M3、ポルシェティーガー、八九式がT-35と遭遇した際、三両がかりで追撃をしかけていた。あの欠陥戦車が、千種学園にとっては極めて大事な戦力だと知っているからだ。乗員数の多さを活かし、歩哨によって敵の動きを把握するという戦法は、大洗側からすればかなり厄介なものである。

 このまま戦場が艦首側へ移動すれば、市街地での戦いとなるだろう。西住みほとしては歩哨を配置される前にT-35を撃破し、その上で十八番の市街戦に持ち込みたいはずだ。トルディIIa軽戦車を狙ったのも、千種学園の偵察力からそぎたいということだろう。

 

「以呂波はギリギリでの戦いに慣れすぎた感じがある。勘が冴えて用心深くて、油断が無いところを逆手に取られて、トルディを失った。司馬懿とか武田家の武将とか、頭の良い指揮官ほど『空城計』にはかかりやすい……」

 

 ふと言葉を切り、千鶴は巨大モニターに映るT-35を凝視した。異変、という表現は不適切かもしれないが、少し変わったことが起きていた。

 その巨大な多砲塔戦車に、以呂波が乗り込もうとしていたのである。梯子状の取っ手が付いているとはいえ、さすがに義足の身で巨体に乗り込むのは大変そうだった。乗員たちが下から押し上げ、車上から引っ張り、どうにか円錐型の主砲塔まで登る。

 

 隊長自ら、T-35へ移乗した。その意味するところは一つである。

 

「……面白くなりそうだ。な、兄貴」

「ああ」

 

 妹の言葉に一つ頷き、守保もまた笑みを浮かべた。

 

 

 





お読みいただきありがとうございます。
マジで時間が取れないですが、ようやく更新できました。
仕事の繁忙期はまだ続くので、更新ペースを取り戻せるのはいつになるか分かりませんが、見守っていただけると幸いです。
終わりまでのストーリーはできています。


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