ガールズ&パンツァー 鉄脚少女の戦車道   作:流水郎

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今はもう無いです!

「みんな、大丈夫……?」

「なんとか~」

「また眼鏡割れちゃった~」

 

 横倒しになったM3中戦車の中で、梓たちはゆっくりと身を起こした。どうやら橋から落ちて横転した後、二式軽戦車に底面を撃ち抜かれたらしい。競技用戦車のカーボンコーティングは全周囲に及んでいるため、乗員室への被害は一切なかった。落下の衝撃に対しても皆辛うじて受け身を取っており、怪我人はない。操縦手の阪口佳利奈に至っては、隣に座る山郷あゆみの胸をクッションにして身を守っていた。

 

「先輩たち、橋を渡りきれたみたい~」

「よっし!」

 

 通信手・宇津木優季の言葉に、桂利奈が胸の谷間から身を起こしてガッツポーズを取る。あゆみもホッとした表情で肩の力を抜いた。ベストを尽くしたという自負から、メンバーの表情は明るい。ただ、孤立したあんこうチームのことだけが心配だった。

 

 そのとき、不意に車長用ハッチが外から開けられた。梓がハッと顔を上げた瞬間、車内に何かが放り込まれる。金属の乾いた音に、梓は一瞬肝が冷えた。参考にと見た戦争映画の、戦車内に手榴弾が投げ込まれるシーンを思い出したのだ。当然、戦車道でそんな手口は許されないし、投げ込まれたブリキ缶は危険物ではない。ただのドロップの缶だった。

 ハッチからは陽光が差し込み、そこから覗き込んでくる顔が逆光の中に見えた。亀子だ。

 

「食べな」

 

 短い言葉のみを残し、音を立ててハッチが閉める。次いで梓の耳に聞こえたのは、遠ざかっていくディーゼルエンジンと履帯の音だった。

 

 

 

 

 

 

 

 あんこうチームはI号C型を追いながら、敵の襲撃を警戒していた。辺りは建物が密集し、待ち伏せには丁度良い地形である。沙織はラリーのナビゲーターの如く、地図を手にしてみほのサポートを行う。麻子はエンジンとギアの回転音に耳を傾けながら、二本の操縦桿でIV号を走らせた。しかしこのワークホースとて、速度に特化したサラブレッドに追いつくことは容易ではない。車長は射撃のタイミングを見計らいながら、周囲の警戒も行わねばならない。

 

「……限界かも」

 

 みほはぽつりと呟いた。少々深追いしすぎた上に単騎となってしまった。一度退いて味方と合流すべきかもしれない。だが背後の橋を落とされた以上、回り道をしなくては戻れない。

 そのとき、I号C型が急加速した。それまで着かず離れずの距離を保っていたのが、IV号を引き離しにかかったのだ。大型の複列転輪が凄まじい速度で回転し、焦げた排気管から小さく火が見えた。あっという間に60km/hを超え、さらに70km/hを突破する。まるで飛ぶような加速だ。

 

「速い……!」

「おおっ! 本当に90km/h出しそうな勢いです!」

 

 照準器を覗きながら呟く華に対し、優花里はそれが敵戦車であることも忘れて興奮していた。一方みほは直感的に悟った。自分たちが敵のキルゾーンへ足を踏み入れたことを。

 

 十字路に差し買ったとき、迫り来るエンジン音に気付いて麻子の左肩を蹴る。彼女はさながら、みほとIV号をリンクする歯車だった。IV号戦車が左へ舵を切った途端、横道から飛び出してきた戦車が発砲した。

 五式中戦車チリ。その75mm砲はIV号戦車を撃破するのに十分な威力を持つ。辛うじてみほの読みが間に合い、徹甲弾はIV号の脇を掠めてビルに直撃した。窓ガラスの破片が宙を舞う。

 

「このまま旋回! 左の道へ入ってください!」

 

 臆することなく指揮を続けるみほ。小豆色の車体がカーブを描き、十字路を左折した。するとすぐに、新たな敵が正面に現れた。独ソ混血の重戦車・KW-1改である。キューポラから顔を出すトラビは真剣な、しかし楽しげな眼差しでみほを見つめていた。

 傾斜装甲の砲塔がIV号へ指向する。みほはちらりと背後を振り返った。チリ車の75mm砲は装填中のようだが、車体左側の37mm副砲でこちらを狙っている。前後から挟み撃ちだ。

 

 タイミングを計り、みほは叫んだ。

 

「右へターン!」

 

 刹那、砲声。前から75mm、背後から37mmの徹甲弾が飛来する。互いに流れ弾が当たらぬよう、二両とも射線を少しずらしていた。それは回避をより一層困難なものとした。左右どちらへ避けようと、あんこうマークのIV号はどちらかの射線に捉われるのだ。

 しかし、麻子はみほの命令に応えた。ガリガリと耳障りな音を立てながら、履帯が路面を擦れる。摩擦熱で火花を散らしながら路面を滑走し、IV号が急回転する。その動きはKW-1の射線を交わし、背後のチリ車に正面を向けることになった。37mm弾が砲塔前面を叩く。しかし入射角度が浅く、乾いた音を立てて跳弾した。

 

「発進! 沙織さん、煙幕を!」

 

 麻子が戦車を急発進させるのと同時に、沙織は通信手席に取り付けられたスイッチを押した。車体後部から黒煙が立ち上り、IV号の後ろ姿を隠す。麻子は車体を左右に振って煙幕を広げながら、戦車を路地へと逃げ込ませた。

 トラビと千鶴はみほに安心する間を与えなかった。次の瞬間には爆発音が耳を打ち、右手側の建物の壁が吹き飛んだ。みほはさっと砲塔内に飛び込んでハッチを閉める。瓦礫がIV号の装甲板へ降り注いだ。

 

「加速して!」

 

 アクセルが踏み込まれ、IV号は間一髪でその場を脱した。背後には瓦礫が積み重なり、道は塞がれた。

 本当ならIV号の行く手を阻むつもりだったのだろう。みほがこの道へ逃げ込むと読み、予め建物の反対側に伏兵を置いていたのだ。破壊力からして恐らくは105mm砲、試製五式砲戦車ホリIIだとみほは判断した。

 

「砲塔三時へ。榴弾、遅延信管」

 

地形図を頭に思い浮かべながら、次の指示を下す。乗員は皆、時計の歯車のごとく動いた。華は砲塔を右へ回し、優花里は命令通り、予め信管を調節した榴弾を抱え上げる。いつものように素早く砲尾へはめ込み、握りこぶしで押し込んだ。無骨な金属音を立てて鎖栓が閉まる。

 

「装填完了!」

「撃て!」

 

 華がトリガーを引き、撃発。マズルブレーキからオレンジ色の発砲炎が広がり、放たれた榴弾が建物の壁を突き破る。遅れて信管が作動し、反対側の壁が轟音と共に吹き飛んだ。

 これで向こう側の道も瓦礫で塞がれたはずだ。ホリ車はそうすぐに追って来られないだろう。

 

 しかし市街戦に長けるみほでも、この局面で脱出は困難だと悟っていた。腕利きの猛者たち相手に、こちらは一両。しかも相手は見事に連携を取っている。例えこの場を逃れたとしても、もう敵フラッグには追いつけないだろう。

 手汗の滲んだ地図をちらりと見て、I号C型の行き先を予想する。恐らくは再び草原へ抜けるつもりだろう。開けた場所で高速を遺憾なく発揮し、一気に安全な場所まで遠ざかるはずだ。

 

 それを狙撃できれば勝機はある。みほは地図を見て敵フラッグの逃走経路と、それを攻撃できる狙撃地点を割り出した。半分は論理、もう半分は彼女の経験からくる勘で、だ。

 ただし、今から自分たちが狙撃地点へ向かうのはほぼ不可能である。あの高速戦車を遠距離から撃破できる砲手が、華以外にいるだろうか。

 

「……華さん。澪さんの腕なら、二千メートル先から敵フラッグを仕留められると思いますか?」

「やれます」

 

 華は即答した。短い間の合同訓練だったが、彼女と澪は同じ隊長車の砲手として交流の場を持てた。性格は全く異なる二人だが、互いに共感するものを持っていた。両者共に、力強さを求めて戦車に乗ったのである。

 だから華は自分の後輩にするのと同じように、教えられることを澪に惜しみなく教えた。例え他校の選手で、いずれ敵同士として相見えることになろうとも。一次大戦期の飛行兵が敵にも敬意を払ったように、同じ道を歩む者としての共感があったのだ。

 

 そして何よりも、華は新たなライバルを作りたかった。

 

「澪さんなら、やり遂げます」

 

 

 

 

 

 

 あんこうチームの動きに、千鶴は舌を巻いた。あの合わせ技を回避したのは車長の腕だけではない。乗員全員が高い技量を持ち、尚且つ阿吽の呼吸で動いている証拠だ。亀子の潜入報告の通りである。

 だがその点に関しては決号もドナウも負けているとは思わない。

 

「柳川隊を合流させた方がよくないですか?」

 

 75mm弾を抱えたまま、装填手が尋ねた。現在IV号と直接戦っているのはチリ車と、トラビのKW-1改、そして清水のホリ車の三両だけである。二式・三式砲戦車は二両ずつに分かれ、遠巻きに配置されていた。これも千鶴の計略だった。

 

「狭い道へ逃げ込まれたら、数が多くても無駄だ。味方同士で射線を邪魔しちまう」

 

 不向きな地形に戦車を投入しないのが、戦車運用の鉄則だ。しかし歩兵のいない戦車道では必要に迫られて、隘路や軟弱地盤の場所を通ることもある。昨年の決勝戦で、西住みほはそれを上手く利用した。黒森峰の猛獣戦車たちは市街地へ引きずり込まれた後、その火力と数の利を活かせない状況に追いやられたのだ。

 今までの大洗女子学園の試合記録を調べた結果、千鶴は少数の戦車であんこうチームを仕留める気でいた。砲戦車隊は敵の合流・逃走を妨害するための戦力として使う。

 

「アネさん、副隊長車が到着しました!」

「よし、役者は揃った。尋常の勝負と行くか」

 

 通信手の報告に、千鶴は笑みを浮かべた。尋常の勝負と言いつつも一両の相手を四両で叩くことを、千鶴は卑怯とは考えていない。味方が有利な状況を作ることは指揮官の腕であり、義務なのだ。大洗もそうやって奇跡を起こしてきた。

 

「トラビ、あたしらの連携に着いてこいよ!」

《任しとき。ちゃんと合わせたるで》

 

 四頭の狼が、みほに襲いかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、大洗・千種連合の陽動部隊は砲撃戦を続けていたが、もはやその戦いに意味はなくなった。しかし矢車マリの指揮するドナウ高校の部隊は、以呂波たちをこの場に釘付けにしておくため粘り続ける。

 みほの命令は通信手である沙織、晴を経由して以呂波に伝えられた。あんこうチームが千鶴たちを引きつけているうちに、草原へ逃走する敵フラッグ車を狙撃せよ、と。

 

「どうする、以呂波ちゃん?」

「了解、と伝えてください」

 

 以呂波は逡巡しなかった。みほとのジャンケンと同じである。右手の石で相手の注意を引き、左手のハサミで敵を断つ。敵の逃走経路についてはみほの勘を信じるしかない。

 問題は相手が小柄な軽戦車で、しかも並外れた高速を誇るということだ。それを二千メートル先から狙撃するなど、並大抵の砲手にできることではない。

 

「澪どん、五十鈴さんから伝言だよ」

 

 晴が通信手席から砲手席を見上げ、告げた。いつも通りの笑みを浮かべて。

 

「計算だけが全てじゃない。自分の感覚と、誇りを信じなさい、とさ」

「……感覚……誇り……二千メートル……」

 

 照準器を覗いたままの姿勢で、メッセージを反芻する澪。その表情に恐れや不安といった色はなかった。それどころか、口元に微笑さえ浮かべている。当然ながら、容易な射撃ではないということを彼女も理解していた。しかしその任務を与えられたとき、澪は思ったのだ。命中したら気持ちいいだろうな、と。

 

 澪が動揺を見せないので、以呂波は敢えて可能かどうかを尋ねなかった。義足のソケットに嵌めた太腿が、若干の痛みと疲れを訴える。それでも隻脚の戦車長はしっかりと体を支えながら、キューポラから顔を出して号令をかけた。

 

「皆さん、ここから離脱します! しばらく着いてきてください!」

《レオポン、了解!》

《ヒラメ、了解ッス!》

《カモチームも了解です!》

 

 他車長から声が返ってくる。そんな中、結衣はタシュの操縦席で頭上に疑問符を浮かべていた。彼女としては他の車両に援護射撃をさせ、その隙にタシュ一両のみ脱出した方が良いと思ったのだ。そうすれば残った車両で敵を足止めできるし、エルヴィン、丸瀬たちが来れば挟撃することもできる。全車両で撤退しては、この場の敵があんこうチームの方へ向かうのではないか。

 

 しかし以呂波の考えは違った。姉のやり方をよく知っているからだ。市街地へ多数の戦車を集中させれば身動きが取りにくくなるし、射撃にも不自由する。つまり、矢車隊があんこうチームへの攻撃に参加することはない。

 ならば全車両で適当に反撃しながら逃げ、こちらがあんこうチームの援護に向かうと見せかける。その上でエルヴィンらに援護させて敵の混乱を誘い、それに乗じてタシュを離脱させれば、こちらの目的を気取らずに済む。

 

「擱座したチト車を躍進射撃で仕留めて、その後すぐ右に転回。まずは全力で逃げるよ」

 

 船橋がIV突を仕留めた後、以呂波たちは敵を撃破していない。だがトゥラーンと接触したチト車はシュルツェンの破片を履帯に巻き込み、動けなくなっていたのだ。

 

 結衣が操縦レバーを倒し、タシュはビルの陰から飛び出した。それと同時に澪が砲を指向する。チト車は路上で立ち往生しているが、車長は砲塔から顔を出して勇敢に号令をかけていた。さすが姉の部下だと以呂波は思った。

 タシュ重戦車の主砲はV号戦車パンターと同じ物で、千種学園の車両は照準器もドイツ製を使っていた。五つの三角形でシュトリヒを測り、目標との距離を割り出す。相手が動かないこともあり、澪は急停止した車内で迅速に照準した。

 

「徹甲弾!」

「よいしょっと!」

 

 美佐子はいつも通り、元気よく装填作業をこなす。チト車は砲塔を回して反撃を試みたが、タシュの閉鎖器が閉まる方が早かった。

 

「撃て!」

 

 号令と共に放たれた、75mm砲。砲が駐退し、マズルブレーキから火と煙が広がる。しかし、予想外のことが起きた。

 相手は動かない的、距離は近く、照準も完璧。そして澪もこの砲の癖を熟知していた。にも関わらず、放たれた徹甲弾は標的の装甲を掠めることもなく、脇へ逸れたのだ。

 

 発砲とほぼ同時に、結衣は以呂波の指示通りに右へ回頭していた。相手に背を向け、逃げる姿勢だ。

 今度はチト車が撃った。日本戦車としては強力なその主砲は、タシュの背部など簡単に貫通できる。だが以呂波の卓越した見切りによって、結衣は寸前に回避操作を取ることができた。

 

「何? 外れたの!?」

 

 肩に当たる義足の感触に従い、結衣は操縦桿を操る。澪の砲撃ミスに驚きながらも、操縦を続ける手足の動きに淀みはない。

 

「澪さん……?」

 

 以呂波は砲手席を見下ろした。結成時に火力不足だった千種学園は躍進射撃を重視しており、澪も度重なる訓練でその腕を磨いてきた。結衣もその腕を信じていたからこそ、撃った瞬間に戦車を発進させたのだ。

 

 澪は照準器から目を離し、以呂波を見上げた。その顔にはしばらく見ていなかった、不安の色が浮かんでいる。

 

「……照準器、ズレてる……」

 

 その言葉に、以呂波はハッとした。大坪が突撃する前、チト車の撃った砲弾がタシュの砲塔防盾に当たった。弾くことはできたが当たりどころが悪く、照準器に狂いが出ていたのだ。それ以降は大雑把に榴弾を撃ったのみだったので、今まで気づかなかったのである。

 

 これから長距離狙撃をしなくてはならないのに。

 

「とにかく、離脱を! 狙撃地点へ着いたら……」

 

 しかしそのとき路地から飛び出した重戦車が、以呂波の背後で停止した。カモさんチームこと、大洗のルノーB1bisだ。ずんぐりとした車体を斜めに向け、弱点である左側面のラジエーターグリルを隠しつつ、『昼飯の構え』を取る。

 

《私が盾になるから、行って!》

 

 車体と不釣り合いな小型の砲塔は、すでに敵へと指向されていた。その中にいる“ゴモヨ”こと、後藤モヨ子の声がインカムに入る。

 

「後藤さん!?」

《少しは格好つけないと、そど子に何言われるか分からないから……!》

 

 擱座チト車が第二射を放つ。さらにもう一両のチト車が路地から飛び出し、発砲。だが砲声の直後に聞こえたのは、重く乾いた跳弾の音だった。車体を斜めに構えることで生み出された被弾経始が、徹甲弾を弾いたのである。

 路地からマレシャル、そしてポルシェティーガーが姿を現し、タシュに追従する。以呂波は決断を下すしかなかった。

 

「お願いします……!」

 

 

 

 ルノーB1bisの砲塔は一人乗りだ。つまり索敵・指揮・装填・砲撃を車長一人で行わねばならない。当時のフランス軍は複数の乗員が連携するより、こちらの方が合理的だと考えていたようだ。車体の75mm砲は固定式の上、榴弾砲なので対戦車火力は期待できない。

 

 ゴモヨは懸命に47mm砲弾を抱え、長めのおかっぱを揺らしながら装填した。そして照準器を覗き、狙いを定める。しかし動ける方のチト車は砲口から射線を見切り、のらりくらりと回避運動を取る。

 そうしている間に、ドナウ高校のIV号突撃砲三両が路地から姿を現した。同じ75mm砲でもチト車のそれより高威力。傾斜をつけていれば運良く弾けるかもしれないが、貫通される可能性も高い。ただし回転砲塔がないため、砲を目標に向けるのにやや時間がかかった。

 

「そど子ぉ……!」

 

 目標を擱座したチト車に変更しつつ、ゴモヨは先代のあだ名を呼んだ。冷泉麻子にそう呼ばれると怒っていたが、風紀委員同士ではいつもあだ名で呼び合っていた。時には無茶苦茶な風紀委員哲学に振り回されることもあったが、いつも自分たちの前には彼女の背中があった。

 

「ゴモヨ、頑張って」

 

 同じ気持ちの金春希美が、同胞を励ました。長さの違うおかっぱ頭は、大洗風紀委員の伝統だ。

 

 B1bisの47mm砲は開発時期を考えれば高火力である。しかしチト車は移動できないまでも、もう片方の履帯で信地旋回を行い、装甲厚75mmの正面をこちらへ向けていた。貫通するには弱点への正確な射撃が必要だ。それも、自分がやられる前に。

 

「そど子、お願い! 助けて!」

 

 叫びざまに撃った、47mm砲。細長い砲身が火を噴いた直後、B1bisの車体に徹甲弾が叩きつけられる。ゴモヨは砲塔の中で衝撃を受け、尻もちを着いた。

 

 IV突の75mm弾を三発、被弾したのだ。一発は履帯の前部及び誘導輪を破壊し、一発は入射角が浅く、装甲に凹みを作ったのみで弾かれた。そしてもう一発が、砲塔リングを撃ち抜いていた。

 同時にチト車の車体機銃部分にも、ゴモヨの放った一撃が食い込んでいた。銃身は折れ飛んでいるが、カーボンコーティングのおかげで通信手に怪我はない。しかし装甲は確かに貫通されていた。

 

 両車から上がった白旗が、そよ風に靡いた。

 




お読みいただきありがとうございます。
あまり話の流れが遅くても、と思いキリの良いところまで書いていたら、文字数が大分嵩んでしまいました。
とりあえず無事に風紀委員の活躍を書けてよかったです。
そど子がいなくなったら、風紀委員と麻子以外にも寂しがる生徒も結構いるだろうな〜、などと考えました。

作戦の転換を強いられた以呂波とみほ。
しかしタシュの照準器にズレが発生。

この後如何に相成りますか、また間が空くかもしれませんが、お楽しみにしていただけると幸いです。

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