学園艦の老朽化及び、維持費削減を目的とした統廃合により、目立った活動実績のない学校が多数廃校となった。生徒達は涙をのんで吸収先の学校へ向かい、そこで新たな日々を送ることとなる。
しかし既存の学校へ吸収合併するだけでは学園艦の収容力に限界があったため、廃校となった複数の学校を統合した、新造学園艦も生まれる。この物語の舞台となる千種学園もその一つだ。設備は真新しく規模も大きいが、所詮は「実績のない学校の寄せ集め」というレッテルを貼られ、校外から関心を持たれることは少なかった。
これはそんな学校から始まった、少女達の鉄臭い物語。
「みんな、準備はいい?」
エンジンの音が鳴り響く、狭苦しい戦車の中。少女は仲間たちに呼びかけた。
「……砲塔旋回、照準機確認……砲手、準備良し」
「エンジン出力、変速機共に正常。操縦手、準備良し」
「閉鎖機動作異常なし! 砲弾格納正常! 装填手準備良し!」
咽頭マイクを通じ、仲間たちの返事が返ってくる。これは声帯から直接声を拾うマイクで、エンジン音に邪魔されず会話ができ、二次大戦中から戦車乗りの必需品とされてきた。
車内の温度は四十度に達していた。ただでさえ戦車の中は密閉された空間だというのに、彼女たちが乗っている戦車は車内がやたらと暑くなる代物だった。何せ、ラジエーターの配管が車内を通っている凶悪な設計なのだから。
「準備はいいけど、私たちがこれに乗らなくてもよかったんじゃない? この暑さには慣れないわ」
操縦手が心底辛そうに言った。
「この戦車は履帯が細いから、デリケートな操縦ができる人の方がいいの。結衣さんの腕を買ってるってことで一つ」
「それはありがとう。自分で言うのも何だけど、要領がいいのも時には損ね……」
「予算が追加されたら真っ先にこいつを買い替えるから、それまでの辛抱だよ。お兄ちゃんにいい戦車ないか聞いてみる」
話をしつつ、少女は目に汗が入らないよう、額を袖で拭う。そして戦闘区域の地図を見つめ、作戦を反芻していた。
「じゃあいっそ、オープントップの奴にしない? 風通し良さそうだし!」
「……それ、死んじゃう……」
装填手と砲手のやり取りを聞きつつ、車長の少女はハッチを開け、立ち上がった。彼女の右脚は作り物だったが、それでもしっかりと体を支えて立つ。外は風があったため、少しではあるが涼しい外気が車内に入ってくれた。操縦手の少女も暑さに耐えかねてハッチを開け、顔を出して発進の用意をする。車長は何も言わなかった。元々実用に耐えない戦車なのだ。
目の前に広がる林と丘のフィールドを見つめ、少女はふと笑みを浮かべる。
「そのためにも、この勝負は勝たないとね」
……彼女たちがこのような状況に至ったきっかけは、三週間ほど前のことである。