黒髪ユウシャと青目の少女   作:姫崎しう

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最終話~旅の終わり~

 その女性は、見た目ニルよりもいくらか年上と言ったところで、王座に座るには若すぎるようにも思える。

 

 ノースリーブのシャツにタイトなズボンを穿いている姿もその違和感を加速させ本当にこの人が王なのかと錯覚させてしまっているが、当の本人は我関せずと言った様子でやや面倒臭そうに座っていた。

 

「何ていうか、やっぱりってところだな」

 

 言葉を失っているルーリーノとは対照的にニルは冷静にそう口にした。

 

 それがまたルーリーノには驚きで今度は思わず「やっぱりってどういうことなんですか?」とニルを見て問いかける。

 

「本当は貴方にも隣の子みたいに驚いてほしかったんだけど、私が何者なのか貴方にはわかってたみたいね」

 

「千年前マオウを倒した三人のユウシャの一人なんだろ?」

 

 ルーリーノの問いかけを無視するような形で話が進んでいくが、新しい衝撃でルーリーノとしても先ほどの質問などどうでもよくなる。

 

 とは言えこのまま置いていかれても困るので「どういうことなんですか? 説明してください」と今度は強い口調で言った。

 

「かつてのユウシャがマオウを倒したところまでは覚えてるよな」

 

 ニルに言われてルーリーノは頷く。それを確認したニルは今度はルーリーノに問いかける。

 

「それじゃあ、その後三人のユウシャはどうなった?」

 

「一人は壁を作って亡くなったんですよね。もう一人が西に戻ってきて……」

 

 思い出しながらルーリーノが答えているうちに、ルーリーノの中で答えが出る。

 

「まさかそう言うことなんですか?」

 

「どういうわけか一人はこうしてマオウになっていたわけだろう」

 

 ユメがそんな二人のやり取りを見ながら少し嫌そうな顔をする。

 

「マオウと呼ばれるのは好きじゃないんだけど、まあいいかな。

 

 それよりもそれを隠そうと思ってスティノにまで頼んだのにどうして気がついたの?」

 

「言葉を理解するには、その言葉が表している物まで理解しないと駄目らしい」

 

 ユメの質問にニルがそう答えると、ユメは納得したような表情を見せた。

 

「確かにあいつの力を受け継いでいるならそうなるわね。

 

 それで街に行ったとなると気がつかない方が難しいか」

 

 そんな風にユメが呟いている前でルーリーノが「どういうことなんですか?」とニルに答えを求める。

 

「例えば今日見た『魔動車』なんて言うのはユウシャがいた世界にあったものが元になってるんだよ。元の乗り物の名前は『ジドウシャ』なんて言うらしいがな」

 

 そこまで聞いてルーリーノが理解できたと頷く。

 

 その時一人呟いていたユメが少し不機嫌そうな顔をして話し出した。

 

「と、言うことは私がどうしてマオウって呼ばれたくないか分かった上で言ってるんだね」

 

「まあ、そっちの方が言いなれてるからな」

 

 ニルの言葉を聞いてユメが肩を落とす。ルーリーノは二人が何を言っているのか上手く理解できなかったが、このままでは話が進まないと思い尋ねるのを我慢して、別のことを尋ねる。

 

「二つ聞きたいんですが」

 

「どうぞ」

 

「どうしてユウシャだと隠していたんですか? それとどうして王になっているんですか」

 

 ユメは大げさに首をひねって「そうねえ」と考えるそぶりを見せる。

 

「一つ目は単純そっちの方が面白いでしょ?」

 

 ユメの言葉にルーリーノが半ば呆れた表情で言葉を失った。

 

 そんなルーリーノの事などお構いなしと言う様子でユメは二つ目の質問答える。

 

「二つ目は、まあ、どうしてかと言われるとそうするしかなかったからってところね」

 

「そうするしかなかった……?」

 

 ルーリーノがユメの言葉を復唱するように首をかしげる。

 

 それを見てユメは「西で言うところの亜人と言う人たちについてまず話そうか」と話し始める。

 

「東の人つまり亜人と言うのは見てきたと思うけど、亜人と一纏めにするには多すぎるほどの種族がある。

 

 では、その沢山の種族をまとめる王を決めるにはどうしたらいいのか。

 

 話し合いなんかじゃ意味がないことくらいはわかるよね」

 

 どの種族も自分たちの代表を王にしようとするので話し合いなど進むはずもない。

 

 簡単に想像することの出来たニルとルーリーノが頷くと、ユメは話を進める。

 

「と、言うわけで分かりやすく、最も強い人が王となる。亜人たちはそれに対して疑問を持っていない。だから千年たって私が王ですと言っても簡単に受け入れられたわけ」

 

 つまり亜人たちは人よりもより強さと言うものに重きを置いているらしい。

 

 スティノもそのような事を言っていた気がするとルーリーノが思っていると「それで、」とユメの話が続く。

 

「私たちが先代の王を倒した後、こっちの人たちは新たな王になるために戦い始めた。

 

 それを止めるにはいち早く王を決める必要があったんだけど、強さ志向の強い人たちの中ですぐにでも王になれるのは三人しかいなかったわけなのよ」

 

「それが、ユウシャの三人か」

 

「そう言うこと。でも、戦争を終わらせるためには一人は西に戻らないといけなかったし、一人は壁を作るとか言い出したから、私はここに残って王をすることにしたの。それが私の最大の過ち」

 

 ニルの言葉に頷いて、ユメが続けた言葉。ルーリーノはその最後の一言に疑問を覚えた。

 

「最大の過ちってどういうことですか」

 

 一歩前に出るかの勢いでルーリーノは言ったが、ユメは薄く笑うとそれに答えることはせずに語り出した。

 

「最初はこの東側を平和にするんだとか、私が元の世界に帰っても大丈夫にしないとなんて元居た世界を参考にしながらやってたわけよ。

 

 とはいえ、いつ元の世界に帰されるかわからないから初めにこうなったらいいなと言う計画と、そのために必要なものを考えうる限り書いてね。

 

 十数年前から意識は半分起きていたからある程度の様子はわかってたけど封印が解けて改めて街を見るとよくあんな素人が描いた計画でここまで来れたなと感心したね」

 

「十数年前と言うとニルが生まれた時ですか」

 

 ユメの話を聞いてルーリーノが呟く。その呟きがユメにも聞こえたのか真っ直ぐにルーリーノを見た。

 

「たぶんね。そもそもどうして私は封印されていたと思う?」

 

「強すぎたんですよね」

 

「そうそう、強すぎたの。この世界が用意できる人材じゃどうしようもないくらいにね。

 だから世界は私を封印して私を倒せる人が生まれてくるのを待った。

 

 別世界の人の責任だからその血を受け継ぐものに責任を取らせようと見るか、別世界の血に頼らざるを得なかったのかって言うのは、まあ、見方次第ってところだけどね」

 

 「世界とかルールとか言うのに気がついたのは封印される少し前くらいなんだけど」とユメはそこまで言って話を戻す。

 

「結局私は元の世界には帰れなかった。

 

 それどころか封印されていたんだけど、それ以外にも他の二人と決定的な違いが生まれててね」

 

「違いですか?」

 

 ルーリーノが首をかしげると、ユメは頷き「そ」と短く返す。

 

「あの二人と違って私は自ら死ぬ事が出来ない。

 

 そう言うルールみたいね。

 

 本来は西と東それぞれの王が自分の任から死という形で逃げ出さないためのものなんだろうけど」

 

「自らってことは、他の誰かからならいいのか?」

 

 ニルが殆ど感情の無い声で尋ねるとユメは「確かめてはないけどね」と言って思いっきり背伸びをした。

 

「確かめたくても誰も確かめられなかったし、千年たっても寿命なんて来なかったし」

 

「そんなことが可能なんですか?」

 

 それは所謂不老不死って奴じゃないのかとルーリーノが驚いて尋ねる。

 

 それを聞いてユメは「そうねえ」と何から説明するかを考えはじめた。それからニルを指さす。

 

「その子が使っているのは私達の世界で言うところの『コトダマ』ってのに近いのね。

 

 もう知ってると思うけど、口にした言葉がそのまま現実になるみたいな。

 

 私のはそれと似ているようで全然違って書いた文字が現実になるって力なのよ」

 

 「どっちも、規格外の力って意味だとまったく同じみたいなものだけど。ニル君にもできるでしょ、不老不死のまがい物みたいな事なら」とユメはそこまで言って一度口を閉じる。

 

 確かにニルも不死身のような力は使えたはず。

 

 でも、それは制限時間が……と思ったところでルーリーノはそもそもその制限時間自体ニルがワザと設けていたものではないかと気が付いた。

 

 それからユメはニルに向かって声をかける。

 

「私に向かって『モジヨアラワレロ』みたいなことを言ってくれない?」

 

 ニルは躊躇うことなくユメの言葉を復唱する。すると、何かが割れる音が響きユメの身体が黒く染まった。

 

 しかしよく見ると、黒に染まっているわけではなく何かが書かれていることが分かる。

 

 その姿にルーリーノは思わず一歩後ずさってしまったがユメは気にせずに説明を再開した。

 

「私の力はその性質上自分で無効化することが出来ない。つまり、私が自分に書いた文字が今私を縛っているってわけ」

 

 それだけ言うと、ユメはどこからかペンを取り出し僅かに見える地肌に何かを書き始める。

 

 それからすぐにユメに書かれていた文字が見えなくなった。

 

「と、言うわけで貴方の力で私を殺してくれない?」

 

 その一言を聞いた時、ルーリーノは三つ目の遺跡でニゲルテストゥードーが言っていたことを思い出した。

 

 『わしを殺すべきではなかった』とそう言った黒い亀の意図。

 

 それはこの場においてマオウであるユメが自分を殺すように言ってくること、そしてその時にニゲルテストゥードーを殺したニルならばそのマオウの望みを叶えるであろうこと。

 

 しかし、ここでユメを殺してはいけないのだろうかとルーリーノは考える。

 

 ユメが居なくなれば恐らく新しい王が生まれる。

 

 その王と話し合っても大して問題はなさそうに思える。

 

 そこまで考えてルーリーノは心の中で首を振った。ここでニルがユメを殺してしまった場合ニルの精神が持つのか、これに対してもルーリーノは首を振る。

 

 普段と変わらないようにも見えるが、旅に出るまで城の中で暮らしていたニルにとって溜まった精神的負担は限界に近いのではないだろうか。

 

 その証拠に昨日倒れたのだろうし。

 

「いいのか?」

 

 ニルの言葉を聞いて我に帰ったルーリーノがニルを止めようと声を出す寸前でユメの返答が入る。

 

「今すぐに……と言いたいところだけど、先に教えといてあげる。次の王が誰なのかと言うことと、どうして亜人と人が争うのかを」

 

「次の……王?」

 

「私には関係のない話ではあるんだけど、貴方達はそうじゃないでしょ? そう、これはある意味で善意。ある意味で悪意。最後の最後だし楽しませて貰うね」

 

 ユメの言葉にニルとルーリーノは頭を悩ませると同時に嫌な予感を覚えた。

 

 ユメは少し楽しそうに二人を見ると、その視線をルーリーノにとどめる。

 

 その視線にルーリーノが背中を震わせた時、ユメの口が開かれた。

 

「間違いなく次の王は貴女ね」

 

 そう言ってユメはルーリーノを指さす。

 

「どうして私が」

 

 ルーリーノが一歩前に出てそう声を出す。その間ニルはユメの言葉が理解できずに呆然としていた。

 

「さっき言ったでしょ? 強い者が王になる。

 

 私とニル君を除くと東にいる人の中でもっとも強いのが貴女なのよ」

 

「でも、私は半亜人で……」

 

「先王は半亜人だったよ。むしろ半亜人である必要があったと言うところね。

 

 半亜人が亜人よりも強いと言うわけじゃないけれど、王になるのは半亜人の方が都合がいいの」

 

 ルーリーノの抗議の声をそう言ってユメは避ける。

 

「でも、ルリノは西側の生まれだろ?」

 

 漸く自分の中で理解ができたニルがそう言って対抗するが、ユメは首を振った。

 

「その子が西側の生まれだから王になる資格もある。西側は亜人や半亜人が迫害を受けているんでしょ?」

 

「知ってたのか?」

 

 話が見えてこない中でニルがそう言うと、ユメは「何となくはね」と答える。

 

「しかもユウシャの力で亜人は力を抑えられている。それなのにどうしてその子が生まれるのか分かる?」

 

 そう問われニルは首を振った。

 

「それは貴方が生まれたからね。ユウシャの力が受け継がれた時に何か誤差が生じたと思う。

 

 それで世界は力を持った亜人を生ませることができるようになった。

 

 どうして貴女は半亜人でありながら今もこうやって生きていられるの?」

 

 ユメの問いがルーリーノへと移る。今までの話で半ば放心状態だったルーリーノはハッとしたように顔を上げると口を開いた。

 

「それは、母が私を……」

 

 と言い掛けたところで、ルーリーノが何かに気がついたように黙り込んでしまう。

 

 それから「まさか、そんな……」と自分の考えを否定しはじめた。

 

「そのまさかだと思うよ。少なからず貴女は世界の……まあ、神の力によって生きながらえたと考えれば納得がいかない?」

 

 考えていたことをユメに言われて、ようやくルーリーノは納得する。

 

 自分の母親が聞いたという声、それが神の声であったと言う事を。

 

 しかしだからと言って疑問が残らないわけではない。

 

「世界はどうしてそんな面倒な事をするんですか、強い人を生みだしたかったら東側でやった方が……」

 

「確かに楽なんだけど、そう言うわけにもいかなかった。

 

 むしろそれで終わっちゃったら、私が殺されて貴女が王になって、おそらくそれで貴方達の目的は達成したようなものじゃないの?」

 

 「たぶん、王である私と話がしたくてここまで来たんでしょ?」そんなユメの言葉にルーリーノは納得してしまう。

 

 ニルの心さえ持てば、自分が王になりニルの望む世界はより簡単に作ることができるのではないか、と。

 

「これは、私も王になるまで知らなかったんだけど、王になると本来持っている西の人に対する憎悪が増幅させられるのよ。

 

 これが、亜人と人が争う訳。

 

 どちらかと言うと争い続ける訳だね。

 

 私はユウシャの力でどうにでもなったけど。

 

 問題は今のこちら側の状況だとそんなに人を憎む亜人がいないこと。

 

 だから西側で人を殺したいほどに憎む亜人を生みだす必要があったってところかな」

 

 「半亜人なのはその方がより人を憎んで育っていく可能性が高かったからだろうね」とユメが締めくくったが、ニルもルーリーノも何も言う事が出来ない。

 

 ユメが居なくなればルーリーノが王となり、かつての人への憎しみが増幅されルーリーノの先導で人と亜人の戦争が始まる。

 

 簡単に言えばそう言う事で、それがこの世界の正しい在りようとも言えた。

 

 では、ユメを殺さなければいいのではないかともニルは考えるが、ユメに対する同情もぬぐい去る事が出来ない。

 

 いつの間にか握っていた拳には大量の汗をかいていて、心臓の鼓動が速くなる。

 

 そんなニルにユメがさらに爆弾を投下する。

 

「迷うのは良いけど、もし私を殺さないと言うのなら、私は亜人を率いて西側に攻め込むからね。今の混乱している西側を攻め落とすのは簡単だろうし」

 

 冗談ともとれる口調でユメはそう言ったが、その目は本気であると語っているようである。

 

 どちらを取っても救いのない選択肢からくるプレッシャーにニルが押しつぶされそうになっている中ユメは一人語り続ける。

 

「まあ、私を殺しても何の見返りもないのは確かだよね。

 

 特にニル君なんか生まれた瞬間から人並みの幸せを願うことすらできないわけだし」

 

「それってどういうことですか?」

 

 ユメが暇つぶし程度に言っていた言葉にルーリーノが噛みついた。

 

 それが少し予想外で同時に少し面白く感じたユメが口を開く。

 

「この世界、つまりこの世界をつくった存在がってことなんだけど、今もっとも排除したいのは何かわかる?」

 

「ユウシャの力……ですか?」

 

「三角ってところね。正しくはユウシャの血とユウシャ自身。

 

 つまりニル君の家族と私ね。そうなると、世界としてはニル君には子孫を残して欲しくないわけよ。

 

 残すとしてもそれを管理したい。と、なるとニル君は誰も愛しちゃいけない。

 

 もしも誰かを愛して子孫なんて残したときには例えこの場をうまく乗り切れたところでまた別の形で世界が抵抗してくるだろうし、そうなったら貴方達が今までやってきたことすべてが無駄になる。

 

 この場がうまく行かなければそれこそ、そう言うこと言っている場合じゃなくなる。そう思わない?」

 

「え……」

 

 そんな少し考えれば分かるようなユメの言葉を聞いてルーリーノは自分が動揺していることに驚いた。

 

 そして、ルーリーノは自分の気持ちに気が付き理解した上で、これ以上ニルに負担をかけずにこの場を切り抜ける方法を思いついた。

 

「ニル、ユメさんの望みをかなえてあげてください」

 

「それじゃあ、ルリノが……」

 

 優しい声でルーリーノが言ったのに対して、ニルは驚いたように悲痛とも思える声を出した。

 

 ルーリーノはそんなニルを直視することができず、敢えて視線を逸らして口を開く。

 

「大丈夫ですよ。昔だって人を全滅させるんだとか思いながらも耐えてこられたんですから。

 

 憎しみを抑えることなんて私にしてみたら簡単なものです」

 

 わざとらしい明るい声でルーリーノは言うと、「ただ」とユメの方を見て続ける。

 

「あと何年か待っていてください。

 

 いきなり王になれと言われても、私は東側の生活について何も分かっていない状態ですし、王としてどのようにすればいいのかも分かりません」

 

「つまり、貴女が王としてやっていけるようになるまで私に指導しろってこと?」

 

 呆れたように言うユメにルーリーノは「そうです」と笑顔で返す。

 

 それからルーリーノはニルの方を見ると「これでよかったですか?」と尋ねた。

 

「ルリノは、それでいいのか?」

 

「いいのか? と訊かれたらあまり良くないですが、他の選択肢に比べれば幾分かマシってところです。最悪私が憎しみにとらわれても、ニルなら私を止められるでしょうし」

 

 それを聞いてニルは呆れたように溜息をつく。それを肯定と捉えた。

 

「東の王になるってことはいつか西の王に狙われるってことだけどいいの?」

 

「その時はニルが守ってくれますよ」

 

 ユメの言葉にルーリーノがそう言ってニルを見る。

 

 そんな勝手な事を言うルーリーノにニルは仕方がないと諦めたように首を振った。

 

 二人のやり取りを見ていたユメは「あーあ」と言いながら天を仰いだ。

 

「せっかく、面倒な政治とか経済とか考えなくていいと思ったのに」

 

 誰に言うでもなくユメは言うと「さあて」と今度は気合を入れるかのように言って立ち上がる。

 

 それから、ニルとルーリーノを見ると口を開いた。

 

「ひとまず、西との和解。少なくとも相互不干渉くらいにはしないとね。誰か西側の情勢に詳しい人知らない?」

 

 二人はそれを聞いて少し考えると、同時に同じ人物を思い浮かべた。

 

「エル様とかはどうでしょう?」

 

「エル様?」

 

 その人物を口にしたルーリーノの方にユメは尋ねる。

 

「この間まで西で最大の国の姫であり、神に仕える巫女であった人物だな」

 

「それで、ニルの妹ですね」

 

 ニルの言葉にルーリーノが付け加えるように言うと、ニルが余計な事を言うなとルーリーノを非難する目を向ける。

 

「なるほどね。じゃあ、ニル君はその子連れてきて。ルーリーノちゃんはスティノ探してきてね」

 

 二人のやり取りを全く無視するかのような形で、急にユメがそう指示を出すので二人とも驚いて身体を硬直させる。

 

 その様子がなんとも愉快だなと思いながらも「はいはい、すぐに働いてね」とユメは二人を急かし部屋から追い出した。

 

 一人残ったユメは深呼吸をするように大きなため息をつくと「何ていうか『オトメチック』な、ううん、どちらかと言うと『ヒロイック』な最後に巻き込まれちゃったね」と呟き、二人のことを思い出しながら、終わりも見えているしそれもいいか、と大きく背伸びをした。


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