黒髪ユウシャと青目の少女   作:姫崎しう

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人と半亜人

 マーテルの言葉でルーリーノは今の自分の状態に気がついた。それと同時に五月蠅いほどに心臓が脈打ち始める。

 

 それから、僅かな希望持ってルーリーノは口を開いた。

 

「見ての通り、私には亜人の血が混ざっています」

 

 「つまり、半亜人ですね」と言ってからルーリーノはジッとマーテルの反応を待つ。

 

 その間にルーリーノとマーテルのやり取りを見ていた村人がそのことを近くにいた人に話し、それが波紋のように広がり村全体がざわめき出す。

 

 その事実だけでルーリーノがもう駄目だろうなと思っていると、ずっと呆けていたマーテルの目つきが変わった。

 

「マーテルさ……」

 

「私達を騙してたんだねルーリーノ」

 

 何かを言おうとしたルーリーノに被せるように嫌悪感を滲ませながらマーテルはそう言うと、蔑むような目でルーリーノを見ながら逃げるように離れる。

 

 それと入れ替わるように村長がやって来ると、村の敵を見る目でルーリーノを見た。

 

「どういうことなんじゃ?」

 

 そんな村長の冷たい視線を受けたルーリーノは覚悟を決めると、村人全員に聞こえるような声で話しだす。

 

「そうです。私は皆さんを騙していました。何せ一人で人に復讐をするには色々な情報が必要でしたからね」

 

 ルーリーノが話し始めた時一瞬だけ静まり返った村人であるが、すぐにざわめきだす。

 中には「まさかルーリーノが……か?」と言った声も聞かれるが「ほら、御覧よあの赤い目を全くけがらわしい。わたしは昔からあの子は何かおかしいと思っていたんだよ」などと言った声がその力を増した。

 

 ルーリーノはその声を出来るだけ聞かないようにしながら、さらに言葉を続ける。

 

「折角ユウシャまで騙してあと一歩というところまで来たのに、こんなところでばれてしまうなんて……予想外でしたが、仕方ありません」

 

 ルーリーノは意識して感情を殺しながら言うと、村人に背を向ける。その時に誰かがぽつりと言った。

 

「さっきの亜獣を呼んだのもあいつなんじゃないか?」

 

 何の確証のない言葉だが、近くにいた誰かがそれに同意する。

 

 それからその言葉が村人の間で真実になるまでには大した時間を要することはなく、「俺の家族を返せよ」と言った嘆きへと変わっていく。

 

 それと同時に本当に親しいものを失った男の一人が我慢ならないと言った様子で背を向けているルーリーノに向かって走り出すと、自分の手を傷つけるのも厭わないかのように力を込めて拳を握りそれを振り上げた。

 

 あと数歩でルーリーノに届くと言ったところでルーリーノが振り返り、その赤い瞳で睨みつける。

 

 男はそれを見て一瞬背筋がぞくりとしたが、構わずにルーリーノに突っ込んだ。

 

 しかし、男はルーリーノが手を振り下ろしたのが見えたと思うと服に引っ張られるように一瞬で仰向けに倒されていた。

 

 村はこんなに騒然としているのにいつもと変わらない青い空を見ながら男は倒れた衝撃による痛みに耐えながら立ち上がろうとしたが、服が地面に縫い付けられたように動かないので替わりに大声をあげた。

 

「出て行け、この化け物」

 

 その様子を見ていた人も、ルーリーノにかなわないと分かるや否や、男に合わせて「出て行け」と合唱を始めすぐに怒号へと変わる。

 

 中には石を投げる者もいたが、それがルーリーノの所に届くことはなかった。

 

 ルーリーノはそんな中、後ろ髪を引かれるようにちらりとニルを見ると、心の中で別れの言葉を言って村の門へと向かう。

 

 門の近く、村人がいるはずの所からは大分離れているのに聞こえる村人の声にその怒りの大きさを感じながらルーリーノは二度と潜ることはないであろう故郷と呼んでいた村の門を潜った。

 

 

 

 一人取り残されたニルは村人の合唱が終わるまで黙ってそれを見ていた。

 

 それから、その合唱が終わったところでこの旅で見てきた色々なものを思い出しながら呟く。

 

「これが人か……」

 

「あんた何か言ったかい?」

 

 そのニルの呟きに、比較的近く似たマーテルがそう尋ねる。

 

 それにニルは無言で首を振ると、マーテルが悲しそうな顔でニルに語りかけた。

 

「あんたも大変だったね。あんな化け物に騙されてずっと旅をしてきたんだから」

 

 その声は自分たちと同じ騙されていた者にかけるようなニュアンスが含まれており、ニルは思わず顔をしかめてしまう。

 

「どうして、そうなるんだろうな?」

 

「どういう意味だいそれは?」

 

 ニルの言葉にマーテルが不思議そうな顔をする。

 

 ニルは首を振ってから「何でもない」と声を出してそのまま続けた。

 

「悪いがちょっと混乱しててな、一人にしてくれないか」

 

 そう言って歩き出したニルをマーテルは引き止めることはせず同情したかのような目で見送った。


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