黒髪ユウシャと青目の少女   作:姫崎しう

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授業の終わり

 息を吐きながらその場にペタンと座り込むルーリーノを見て、ウィリは無意識のうちに全身に力を入れていた事に気がついて、ふっと力を抜く。

 

「やっぱり勝てませんでしたね」

 

 ルーリーノがそう言って手を伸ばすと、ニルはその手を掴み引っ張り上げる様にルーリーノを立たせてから口を開く。

 

「ユウシャの力使ったしな。とは言っても、いまいち使いこなせていなかったが」

 

「そうなんですか?」

 

 ルーリーノが不思議そうにそう尋ねると、ニルは頷いた。

 

「力はあっても、いざ実践となると一瞬考えるから隙ができるわけだ。

 

 とはいってもルリノレベルの相手じゃないとその一瞬も大した事ないんだけどな」

 

 そう言ったニルにルーリーノは「名前が違います」と少し拗ねたように返す。

 

 その時にウィリの姿が見え、何のための勝負だったのかを思い出した。

 

 それからルーリーノはニルに一言断ってからウィリの元へ向かう。

 

「どうでした?」

 

 ルーリーノがそう尋ねると、ウィリは驚いたようにルーリーノの顔を見る。それから戸惑ったように俯くと、ボソリと呟いた。

 

「すごかった……です」

 

「そうですか」

 

 言葉には出せないまでもウィリの中でいろいろと思うところがあるだろうと、ルーリーノはその表情から読み取り短い言葉で返す。

 

 それから真っ直ぐにウィリを見てから再度口を開いた。

 

「ともかく、これで私の授業はお終いです。後は自分の力で何とかなるでしょう」

 

 「それでは」とルーリーノが踵を返し、ニルの方へと向かい始めたところでウィリが顔をあげ、思い切って「あの」と呟く。

 

 しかし、その言葉はルーリーノに届かなかったのか足を止めることなくニルの元へと行ってしまった。

 

 それから、海沿いに歩きだした二人の背中が見えなくなるまで見送った後で、ウィリは小さく「ありがとうございました」と言って頭を下げた。

 

 

 

 

「よかったのか、何か言いたそうにしてたが」

 

 街道に戻り見えなくなってしまったが聞こえてくる波の音を聞きながらニルはルーリーノに言う。

 

 ルーリーノは始め困ったようにニルを見て、それから恥ずかしそうに進行方向へと視線を移すと、いつになく話し難そうに口を開く。

 

「ウィリ君が何か言いたそうにしていたのには気が付いていましたよ。何せ「あの」って言われましたし。ただですね、その先の言葉を聞いてしまうと少しだけ出発を躊躇ってしまいそうで……」

 

「なんか、ルリノらしくないな」

 

 ニルの言葉にルーリーノは照れ笑いを浮かべながら「そうですよね」と返す。しかし、ニルはそれ以上からかうことはせずに「まあ、それもいいんじゃないか」と言いながらペレグヌスの言葉思い出していた。

 

「確かに変わったのかもしれないな……」

 

「何か言いました?」

 

 ニルの呟きにルーリーノが聡くそう尋ねたが、ニルは首をふって「なんでもない」という。その時暗雲が立ち込み始めた。


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