インフィニット・ストラトス Homunculus《完結》   作:ひわたり

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学園のお祭り

学園祭当日。

授業で普段は静かな時間も、今は多くの賑わいを見せている。生徒達が呼び込みを行い、外から来た来客が興味深く学園を歩き回っていた。どこも人が歩き回り、この学園祭を楽しんでいる。中庭では生徒によるパフォーマンスが進行していて、廊下にいればその音響が耳に届いてくる。

白は一夏達のクラスに訪れ、ラウラの仕事が終わるまで中で待っていようとした。

「きゃー!一夏くん格好良い!」

「注文お願いします!」

「…………」

唯一の男子生徒である一夏の執事正装が人気で沢山の客が押し寄せていた。

「……喧しいな」

この状況ではのんびり出来ない。暇なのは別に良いが、無意味に騒がしいのはあまり好かない白である。

殆どが一夏狙いではあるが、その中でも多くの客を相手する為にラウラ達は動き回っている。忙しそうなので声をかけるわけにもいかない。

邪魔なら外で待っているかと悩んでいると、声を掛けられた。

「白さん、白さん」

振り返ると、クラスの一人、相川清香がそこに居た。

「宜しければ、白さんもお手伝いをお願い出来ませんか?」

別段やることもなかった白は了承の意を示す。

「……構わんが、服はあるのか?」

喫茶であるからには服が必要だろう。白は私服を着ているので、メイドでも執事でもない状態である。

メイドはラウラに止められたから出来ないが、執事なら良いだろうと、白はズレた思考で考えていた。

「一夏くんの服の予備があります。白さんの方が少し身長高いですけど、大丈夫だと思いますよ」

「なら、それを借りようか。仕事は会計だけでも良いよな?」

「はい勿論!是非!」

白は執事服を受け取ると、着替える為に一度更衣室まで歩いて行った。

清香は白が去って行ったのを見送ると、クラスの人間に親指を立ててサムズアップする。クラスの人間は良い笑顔をしながら同じジェスチャーで返した。一度裏へ引っ込み、事情を知らずに戻ってきたラウラは、客席を回りながら白はどこへ消えたのかと首を傾げた。

「……?」

……外で待つにしても、一言断ってから出て行きそうだが。

「?」

首を傾げるラウラを、クラスの皆は生暖かい目で見守っていた。

少しすると、廊下がイヤに騒つくのが教室まで聞こえる。外で何かあったかと思った時、教室のドアが開かれた。

執事服を身に纏った白が現れた。

白銀の髪とクールなルックスに、黒い執事服がより魅力を引き立てる。その魅力に、全員の視線が白に注がれた。

「……?」

白は注目を浴びて、何か変だろうかと内心で不思議に思っている。無表情だからかと、間違った解答を頭で導き出すと、人生初の作り笑顔でも試してみるかと思ったが、無理なのはすぐに悟った。

それ故に、笑顔を見せる為にラウラの方を向いて、執事らしく振舞って見せようと考えた。

いきなり執事服で現れた白に、思考が追いつかないラウラが目をぱちくりとさせている。そんなラウラの下まで歩み寄り、膝を着いて彼女の手の甲にキスを落とした。

「遅くなり申し訳御座いません、お嬢様」

普段の白から考えられない柔らかい笑顔。

ラウラだけがいつも見ているその笑顔。

無駄な感情が一切ない純粋な愛しい微笑みに、教室が阿鼻叫喚の嵐に包まれた。

「きゃー!!!」

「鼻血が……!」

「良いわ!良いわこれ!」

「破壊力パネェっすわ白さん」

「あぁ……白様……」

「白さんよく恥ずかしくないな本当に……」

「白さんだしなぁ……」

「あの方のあんな笑顔、初めて見ましたわ」

「ラブラブだね」

「爆発すれば良いのに」

皆が好き勝手騒ぐ中、ラウラは落ち着いて膝を折って白と視線を合わせた。

「どうしたその格好。似合ってるけど」

「手伝わないかと頼まれてな」

「白が余計に客寄せしそうな気がするけどなぁ……」

ラウラの予感はすぐに的中することになるが、それを実感するのは数分後の事である。

「それならそれで、クラスの売上に貢献できるだろ」

「一用務員が、一つのクラスに肩入れして良いのか?」

「俺が助けるのはラウラだけだ」

「メイドを助ける執事とか斬新だな」

「二人共、そろそろ仕事しよう」

このままだと延々とのんびりしていそうだったので、一夏が声を掛けた。これだけ甘い空間に割って入れるのは流石は一夏である。

「ああ」

白が頷き先に立ち上がると、ラウラに手を差し伸べる。ラウラはその手を取って、折っていた膝を伸ばした。自然な動作が様になっていた。

「流石、学園の夫婦ね」

いつの間にかメイド服を着た楯無がそこに居た。

悪巧みで動いてるかと思いきや、何をやってるんだこいつはと、白は頭の中で思った。

「お前、自分のクラスと生徒会のイベントはどうした」

「大丈夫!私には優秀な友人達が居るわ」

丸投げしてきたようだ。

「もう劇もこの二人で良いんじゃないか?」

「そう言って逃げようとしても駄目だからな、一夏」

「ですよね……」

一夏はこの学園に入ってから目立つ事には慣れはしたが、演技で舞台の上に立つのはまた別問題である。

取り敢えず、白が新しく会計に加わり、今まで通りに動く。実年齢は高い白だが、こうして学生の中に居ても少し歳上と感じるだけで微塵も違和感はなかった。

一夏の世界で唯一の男性操縦士者というネームバリューもあったが、一夏と白の執事姿を目的にIS学園の生徒が主に多く入ってきた。

「…………」

チラリと、ラウラがたまに白に振り返る。

会計の白の前で女生徒達が明るく話し掛けたりするのがよく見えた。だがしかし、白は無表情で、時たま少しだけ顔に表情を見せるだけだった。結局、作り笑顔は出来ないらしい。

ラウラは二重の意味で心配していたのだが、どうもその必要もないらしかった。

「…………ん」

ラウラが頻繁に白を見ているので、よく白と目が合った。

その時に、白は小さく微笑んで目立たないように手を挙げた。ラウラも口元を綻ばせてその反応に返した。

ちなみに、そのやり取りを全員が気付いていたのは言うまでもない。特に白の笑顔は貴重で、楯無を含めて驚く人間も多かった。

「良いネタだわ!」

突然やってきた薫子が写真を撮って、嵐のように去って行った。本当に数枚の写真を撮っただけだが、きっちりと一夏と白の写真は収めていたのは流石である。

「忙しないな」

「結局、イベント全部に回ることにしたらしいから、大忙しでしょ」

白の呟きに、近くに寄ってきた楯無が答える。

「その量、記事に出来るのか?」

「全部見て、そこから厳選するそうよ。どちらにしろ号外とか出すでしょうけど」

「成程」

ところで、と白は横目で聞く。

「企みは順調に進んでいるのか、更織」

「多分」

楯無にしては素直で、そしてアバウトな答えだった。

「多分?」

「規模が大きくて私だけの手に回らなかったから、多くの人に協力してもらったんだもの。正直、ちゃんと動いてるのかどうかは、私は信じるしかないわ」

何故か会社を経営する思考に思えた。

「ま、私は皆を信じてるし、成功したら一番のイベントになること間違い無しよ。期待してて」

「それなら、頭に入れておこう」

「あと、ちょいちょい私との会話の中でもラウラと自然にイチャつくのやめなさい」

「目が合うのだから仕方あるまい」

「つまりお互いがお互いを頻繁に見てるってことでしょ、全くもう」

ラウラに関しては、白は全く悪そびれず堂々としていて、楯無は呆れながらと少しだけ笑っていた。

「で、お前の当日の仕事は何だ?楯無」

「分かってて聞いてるでしょ。貴方の見張り役よ」

「だと思ったよ」

楯無はこの喫茶に来てから一夏にも絡んではいるが、常に白が居るかを確認していた。無論、常人なら気付かないだろうが、白は薄々と勘付いていた。

「学園祭だと言うのに、遊べずに残念だな。見張りくらい他の者にやらせれば良いのに」

「見張り、かつスイッチだもの。仕方ないわ。タイミングは私次第」

貴方達のイチャイチャを間近で見せ続けられるのは辛いけどね、という本音を、楯無は口には出さなかった。

「もうそろそろ交代しましょうか」

一夏達の劇の時間が迫っていたので交代となった。同時に白も上がる。

「白さん、ラウラも。劇見て行かれませんか?」

一夏の言葉に、白が首を傾げた。

「恥ずかしいんじゃないのか?」

「いやもう、ここまで来たら行くところまで行こうかと」

一夏は何処か投げやり気味に苦笑いした。

一夏達の着替えや最後の調整の時間もあるので、少しだけ時間に余裕がある。

出来れば喫茶の宣伝をして欲しいとの事をクラスに言われたので、ラウラはメイド服で、白は執事服のまま少し回ることにした。服を着て動き回る事で充分に宣伝効果を発揮する。

「中庭が騒がしいな」

ラウラが上から見下ろしてみれば、あちこちブルーシートで覆われている。

「アレが生徒会のイベントの一部よ」

教室から出て来た楯無が答える。

「喋っていいのか?」

「黙ってたってこと調べるでしょ?気にせず楽しんで」

白達もここまで来たら、探ろうとは思わなかった。白が別の事を首を傾げて聞く。

「ついてくるのか?」

まさか、と楯無が首を振った。

「そこまで野暮じゃないわよ。たまに遠くから見るだけだから、普段通り楽しみなさい」

その言葉に甘え、白とラウラは学園を回ることにした。




ラウラお嬢様と白執事

【挿絵表示】


変わった描き方に挑戦

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