インフィニット・ストラトス Homunculus《完結》   作:ひわたり

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二人のプロローグ

澄み渡る空を見上げる。

大きな雲が風で流されている。太陽が時たま隠れ、雲が流れるとまた顔を出した。

学園の屋上でシートを広げて、ラウラと白は昼ご飯を食べていた。

「そういえばなんだが」

ラウラは食べ終えた弁当箱を片付けながら言った。彼女の眼には眼帯がなく、赤と金の両目を白へ晒していた。

「何だ?」

「私から白に物をあげたことってないよな」

ああ、と白が頷く。

「それは、俺がいらないって言ってたからだろ?」

「それじゃ、何が欲しい?」

「お前が欲しい」

「既に白のものだぞ。それとも、あっちの意味か?」

「あっちの意味ではないが、ラウラが居てくれたらそれだけで良いんだ。だが、これじゃ答えになってないな」

白がラウラの頭を撫でて、ラウラは白に寄り掛かった。サラサラと揺れるラウラの髪を、優しい手つきで梳く。

「嬉しい言葉ではあるが、確かに答えじゃないな。まあ、お前の事だ。無理して答えなくても良い」

その言葉に、白緩やかに首を振った。

「いや、実は考えてある」

「ほほう、何だ?」

柔らかい風が吹き抜ける。二人を包むように風は通り過ぎていった。

「服だ」

「服?」

意外な答えに、ラウラは目を瞬かせる。その反応に、白は頷いて答えた。

「ああ。もう、戦うこともないから、この服に拘ることもない。ついでに言えば靴もそうだな」

「なら、今度のデートで見繕うとしよう。あ、でも海にも行かなきゃな。季節逃したら入れなくなってしまう」

「夏休みに入るんだから時間はあるだろう?」

「そうだな。ゆっくりと過ごしていこうか」

少しの間、二人はそのまま空を見上げ続けていた。

「……ラウラ。戦わない証を、俺の覚悟を、お前に表明しよう」

「何をするつもりだ?」

白は黙ったまま自分の手から、双剣がしまわれた指輪を外す。

ラウラの左手を優しく握り、その薬指にそっと嵌めた。

白はラウラの顔を真っ直ぐ見て、言った。

「これは俺の武器であり、罪であり、俺自身だ。初めて、俺のいた世界と、この世界を繋いだ唯一の証だ。ラウラに持っていて欲しい。俺とずっと一緒に居てくれ」

「……ああ」

ラウラはキュッと左手を握り、笑顔で応えた。

「しっかりと、受け取った」

白は静かに微笑んだ。

「愛してる、ラウラ」

ラウラは柔らかく微笑んだ。

「愛してる、白」

澄み渡る空の下。

二人の影が重なった。

 

ラウラが太陽へ手を伸ばす。彼女の手に嵌められた指輪が光に当たり輝いた。

 

伸ばされた手を、白がそっと握り、ラウラは手を絡み返した。

 

その手に幸福を握り締めて。

 

どんな困難があろうとも、この手を離すことはない。

 

今、二人は歩き始めた。




FIN

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